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セッション25 邪神

 土煙が風にさらわれて薄れていく。

 視界が晴れたその先に現れたのは、地面に片膝を突いて息を荒げる理伏。そして、地面に倒れ伏したギリメカラの姿だった。

 ギリメカラは動かない。うつ伏せに倒れたまま痙攣すらしない。陥没した頭蓋骨は間違いなく致命傷だろう。つまり、


「勝った!」

「いぃぃよっしゃぁぁぁ――っ!」

「やった! やりましたよ!」


 ようやくの勝利に僕、三護、ステファが歓声を上げる。いい年して少々はしゃぎ過ぎなのは自覚しているが、嬉しさがこみ上げて仕方がない。あの象の怪物を倒したのだ。

 ていうか三護、お前そんな声出せたんだな。「いよっしゃ」って何だ「いよっしゃ」って。


「さあて、後は――」


 しかし、喜んでばかりもいられない。

 まだ敵対すべき相手は残っている。


「――貴様らを始末するだけだな」


 イタチが見据える先、ゴブリンの長共が俯いていた。

 環状列石には未だに結界(バリア)が張られている。だが、耐久性に限界のある結界だ。攻撃を叩き込み続ければいずれは破壊出来る。逆に、結界の内側に引きこもった長共は逃げ場がない。ギリメカラが倒れた以上、彼らを守る者はもういないのだ。ゴブリン共もギリメカラ召喚に相当消費してしまった。

 だというのに、


「くっ」「くっ」「くっ……」


 長共は不気味な笑い声を上げていた。


時間稼ぎ(ギリメカラ)を」「倒した」「程度で」「随分」「良い気に」「なって」「いるようだな」

「何だと?」


 イタチが眉を顰める。それに対し、長共は高々と宣言した。


「儀式は」「完了した」「と言ったのだ!」「見るが良い」「私の」「求めし」「神を!」


 長共が両手を天に掲げた直後、空が暗転した。

 日の光が消え去り、しかし夜程真っ暗闇ではない。薄暗がりの中、何事が起きたのか――あるいはこれから何事が起きるのかと周囲を見渡して警戒する。

 ぴしり、と何かが割れる音がしたのは、前後左右には変化がない事を確認した時だった。音はどこからしたのかと再度周囲を見渡そうとして、ふと頭上を見上げる。



 空に裂け目があった。



「は……?」


 奇天烈な光景に目が点になる。

 果たして空とは裂けるものだっただろうか。

 こちらが疑問を浮かべるのを他所に裂け目は更に広がっていく。裂け目の向こうより現れたのは巨大な球体だ。色は虹色。しかも、一つだけではない。十、百、千を超える球体が合体したり分裂したりしていた。直径は最低のものでも四〇メートルを超えるだろうか。中には一キロメートルはあろうかという球体もあった。

 それが、千個以上。空の殆どは球体のよって埋め尽くされていた。


「何……だよ、あれ……?」


 ――人智を超えている。

 脳が理解する事を拒んでいる。これはそのレベルの災害だ。


「これは……! おお、これは……! やはりか!」

「知っているのか、三護!」


 皆の視線が空から三護へと集まる。


「是なるはヨグ=ソトース。邪神クトゥルフの父にして祖父、『時空』を司る神よ!」

「ヨグ=ソトース……!」


 改めて空を仰ぐ。大小様々な球体がぎょろぎょろと蠢いている。まるで無数の眼球が犇めているかの様な悍ましさだ。

 否、実際にあれらは眼の役割も持っているのかもしれない。先程からあれらに見られている感覚がある。天に坐する神が魔眼をもってこちらを観察している。そんなイメージが頭に浮かんだ。


「この地――この談雨村にはヨグ=ソトース召喚の伝承があった。故にそこの環状列石はもしかしたらそれ所縁の物ではないかと思っていた。だが、まさか本当にそうだったとは……!」


 三護が両手で顔を覆い、伏せる。


「何と希少な! この目で神を拝められるとは……!」


 再び上げた顔は恍惚としていた。

 興奮を隠し切れていない――否、隠す気がない。魔術探索者、あるいは魔術依存者(ジャンキー)。その本性が大邪神の召喚魔術を目の当たりにして前面へと出ていた。


「何故だ! 村人達は解放したというのに、何故召喚出来た!?」


 恐らく村人達はこれを召喚する為の生贄として集められたのだろう。召喚魔術を回す為のガソリン、あるいは媒介として。だが、その村人達は理伏が逃がした。故に召喚魔術は使えない筈と思っていたのだが……まさか。


「まさかギリメカラと同じ様に……!?」

「そうだ」「ゴブリン共を生贄にした」「手駒を無闇に消費する」「のは危険だと思って」「使う予定ではなかったのだが」「事ここに及んでは」「仕方ないだろう」


 同族であるゴブリン共を生贄にしたのか、こいつ。

 山はいつの間にか随分静かになっていた。ゴブリン共が全員死んだからだ。村人達が逃げた今、山頂にいるのは僕達と長共の十二人だけだ。

 ゴブリン共の数は一万。生贄としての質は人類よりも劣るが、これだけの数があれば魔術をゴリ押しする事も可能か。


「貴方は、貴方は一体何ですか……? 同族すら見捨てて、こんなものを呼び出して何をするつもりなんですか!」


 ステファが長共に視線を移す。長共は嘲笑を浮かべていた。勝利を確信した者の笑みだ。


「私が」「何者」「かか……」「良い」「だろう」「答えて」「やろう」


 勝者の余裕故か、長共は堂々と返答する。


「私の」「名は」「安宿部明日音(あすかべあすね)」「――」「一〇〇〇年」「前の」「人間だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 序盤から副王は鬼畜(というか終盤でも鬼畜)
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