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セッション21 小鬼

 古堅藍兎。職業:盗賊。

 ステファ。職業:戦士・剣兵。

 阿漣イタチ。職業:戦士・弓兵。

 三護松武。職業:魔法使い。

 風魔理伏。職業:忍者。

 僕とステファと理伏が前衛職、イタチと三護が後衛職だ。ステファとイタチは同じ戦士で、戦士とは物理攻撃力に秀でている職業なのだが、メインウエポンが違うと役割も分かれてくる。戦士の種類には他に槍兵がいるが、今のうちのパーティーにはいない。





 ゴブリンが棍棒を振るう。情け容赦のない一撃は常人なら骨が折れる威力だ。しかし、冒険者にとっては多少痛いだけの攻撃だ。


「はっ――!」


 ましてや、堅い甲冑を纏ったステファにとってはダメージにすらならない。手甲で棍棒を防いだステファは剣を振り下ろし、ゴブリンの頭部を真っ二つにする。


「ステファさあ、盾とか使わねーの?」

「そうですね。重いので今まで使って来なかったのですが、こういう戦い方をしているのならその内装備しましょうか」


 甲冑でゴブリン共の攻撃を弾きながらステファが答える。甲冑は確かに強固だが、攻撃を身体でダイレクトに受けるその様には不安がない訳ではない。盾を装備すればその不安も解消されるだろう。

 ステファが中心となって僕と理伏がゴブリン共を引き付ける。前衛がヘイトを稼いだら次は後衛の役目だ。


「退け、貴様ら! 『伏龍一矢(フクリュウイチヤ)』――!」


 イタチがゴブリン共の足元に矢を射る。砲撃の如き矢はゴブリン共の足場を吹き飛ばし、土塊を撒き散らした。足場を失ってたたらを踏むゴブリン共に、


「『初級火炎魔術(ファイアボール)』!」


 三護の魔術が炸裂する。三護の掌に生まれた火の玉がゴブリンへと射出される。火の玉はゴブリンの頭部に直撃し、首から上を粉々の黒炭にした。


「『初級流水魔術(ウォータージェット)』、『初級大地魔術(ストーンエッジ)』、『初級疾風魔術(ウィンドカッター)』、『初級迅雷魔術エレクトリックショック』、『初級氷結魔術(アイシクルランス)』!」


 三護の周囲に顕現した水弾が、石斧が、風刃が電撃が氷槍がゴブリン共を襲う。五種の魔術がゴブリン共の命を一撃で刈り取って行く。

 職業:魔法使い。魔術師とは()()則――魔法に携わる者の呼び名だが、その中でも法則を実戦の最中でも操る者を魔法使いと呼ぶ。特に攻撃系魔術を得手とし、複数の敵を纏めて倒すのはお手の物だ。


「よっと」

「ギィッッッ!」


 三護が撃ち漏らしたゴブリンの首を僕が斬る。刎ねる所までは行けなかったが、首から血が噴出したゴブリンはばたりと倒れた。あの出血量なら瞬く間に死ぬだろう。


「何だ、こんなものか。ゴブリンって弱いんだな」

「ランクとしてはE~Dですから。ゴブリンの本当の恐ろしさは数であって、単体ではそれ程でも」


 僕が感想を口にすると、ステファがそう解説してくれた。

 成程、物量戦でこそ真価を発揮する連中という訳か。しかし、その頼みの数とやらも今や意味を成せそうにない。十数体いたゴブリン共はステファ達の猛攻で片手で数えられる程に減っていた。僕達の方が多いのでは数で押す戦いは選べない。


「――『着火』!」

「ギ、ィイイイァァァ――ッ!」


 目についたゴブリンの顔面を鷲掴みにする。続いて『着火』のスキルを発動。ウィッカーマンから獲得したスキルだ。ゴブリンの全身を炎が包む。炎は僕をも焼こうとするが、『火炎無効』のスキルがある為僕に炎は効かない。

 ゴブリンが悲鳴を上げて暴れる。だが、僕が顔を押さえているので逃げる事は出来ない。適度に燃やして、その場から動けなくなる程度に体力を奪う。


「お前ら、こいつにとどめは刺すなよ! 尋問用だ!」

「うむ、御苦労!」

「ギィ、ギィ――!」


 残った三体のゴブリンが、不利を悟って一目散に逃げ出す。

 勝てない相手と戦うのを止めるのは賢明な判断だ。だが、


「許さない。貴様らは、貴様らだけは……!」


 復讐鬼と化した理伏を前にその判断は遅すぎた。


「『剣閃一断(ケンセンヒトタチ)』×『初級疾風魔術(ウィンドカッター)』――忍術『島風(シマカゼ)』!」


 理伏の姿が消える。刹那の直後、逃げ出したゴブリン共の先に立っていた。手には振り抜いた小太刀。そして、後方には三体揃って首を綺麗に刎ねられたゴブリン共がいた。

 魔力による斬撃強化と風刃の組み合わせ。風刃は噴出器にもなっており、使い手の身体速度をも上げるらしい。目にも止まらぬ速さとは正にこの事だった。





「……さて、まあ、しかしゴブリンねえ……」


 捕らえたゴブリンを見下ろして思う。

 一部のファンタジー作品ではゴブリンの肌は緑色とされているが、今ここにいるこいつらはそうでもない。両生類っぽさはあるが、肌は若干不健康そうな黄色人種だ。

 もしかしたら元は人類だったのかもしれない。それがニャルラトホテプに憑依されてモンスターになったか。あるいは人類と異種族との混血とか。


「他に生き残りはいねーか?」

「ああ、そいつだけだ」

「情報を持っているといいんじゃがのぅ」

「ギ、ギィ! ギィ!」


 焦げ臭いゴブリンの身を起こして座らせる。

 ……そういえば、僕はいつの間にこんなに簡単に殺しが出来る様になったのだろう。先程、ゴブリンの首を抵抗無く斬っていた自分がいた事に気付く。小さいとはいえ人型なのに。生き物を斬る事に慣れたのか、それとも倫理観が狂ったのか。

 この世界では魔術を覚える度に発狂する。それ以外に、異常事態に巻き込まれた時も正気は減る。死んだり生き返ったりするなど異常極まる体験だ。だとしたら、僕は……



 ――ま、いっか。冷酷なのは戦闘にはむしろ有利だし。



「さて、何から訊くよ?」

「まずはこいつらの目的からだろう」


 ゴブリンの真正面にイタチが立つ。イタチが尋問官を担当するようだ。左右にはステファや三護が立ち、ゴブリンを囲んで威圧感を与える。

 理伏はゴブリンの背後に立った。


「貴様らは何故談雨村を占領した。答えろ」

「ムラ、センリョウシタ、モクテキ。ギィ、ギィ、シラナイ! オサノ、メイレイ! モクテキ、シラナイ!」

「……カタコトで何言っているか分かり難いな」

「辛うじて解読出来ますが……蛮族ですし仕方ありませんね」


 むしろ、会話が成り立つだけでも目っけ物か。


「分かった、では目的は良い。目的は知らずとも他の村人達を連行した事は覚えているだろう? 何処へ連れて行った?」

「ヤマ。ヤマノウエ。サイダン、アル!」


 山の上に祭壇があるのか。

 祭壇といえば、供え物を捧げるなどして神仏に祈ったり儀式を行ったりするものだが、ゴブリン共も何か儀式をするつもりなのだろうか。

 村人達を使っての儀式。例えば――生贄を捧げるとか。


「他のゴブリン共はどこにいる? 全員山頂か?」

「ゼンインハ、イナイ! ソンナニ、ヒロクナイ。イルノ、オサトスコシダケ」


 ふむ、一万体のゴブリンが一ヶ所にいる事はさすがにないか。

 これは少し朗報かな。少なくとも(エネミー)数最高値は免れそうだ。


「貴様らは何故この村にいた?」

「ミマワリ、シテイタ。ソコノオンナ、ダッソウシタ。ボウケンシャ、ツレテクル、オサガイッテイタ!」


 成程、理伏が冒険者を連れて戻って来るのを警戒して巡回していたのか。カタコトなのでどうにもこいつは馬鹿そうに見えるが、ゴブリン全員がそうではないらしい。少なくとも長はそれなりに頭が回るようだ。


「他のゴブリン共も見回りか? 何人が見回りに行っている?」

「シラナイ! ミマワリ、イッテル。デモ、カゾエラレナイ!」

「そうか、数を数えられる程の知恵はなかったか……」


 ……本当、頭が回るのは長だけだった様だ。


「では、最後の質問だ。……あそこに吊るされている男女を的当てにしようと言い出したのは誰だ?」


 イタチは「何故殺した」とは問わなかった。見せしめに殺された事は明白だったからだ。「何故嬲り殺しにしたのか」とも問わなかった。愉悦以外の理由などないからだ。

 だから「誰が指示したのか」と問うた。最も責められるべきは誰なのか。誰が一番の敵なのか。それを教えろと言っているのだ。


「シラナイ、オンナ。オサト、イッショニイタ。ソイツガ、オシエテクレタ」


 知らない女……?

 誰だ。ここに来て新たな登場人物か? ゴブリンの長と一緒にいた? 三護達はゴブリン共のリーダーが新しくなったのではないかと推察していたが、そいつがそうなのか? であれば何が目的だ。ゴブリン共に何をさせたくて近付いた? 何者だ、そいつは。


「そうか。――理伏。もう良いぞ」

「はっ!」

「チョ、マ……ッ!」


 ゴブリンが制止を求める。が、それよりも早く理伏の刀が線を描いた。刀はゴブリンの首を胴から斬り離し、首は血飛沫を上げて宙を舞った。残った胴も血を噴出しながら前に倒れる。

 ゴブリンの死体を一瞥し、用はないと言わんばかりの無関心さでイタチは僕達へと視線を移す。


「もう少し情報が欲しかったがな。まあ、ゴブリン風情ではこの程度か」

「これからどうする?」


 理伏の両親を救い出すという目的は既に失われた。両親が死んでしまった以上、どうあっても救えない。かといって、当初の依頼・ゴブリン共を討伐するというのも無理な話だ。一万の大軍は僕達では対処出来ない。


「……皆様は帰って頂いて結構。ここから先は拙者一人で行きまする」


 理伏が背を向けて立ち去ろうとする。

 その背には近付き難い気迫があった。


「おいおい、何をするつもりだよ?」

「無論、仇討ちを。両親の仇を殺しに行きまする」

「ゴブリンの本陣に行くというのか? 無謀じゃぞ」


 三護の言う事はもっともだ。『知らない女』とかいう正体不明の相手がいる上に、五桁のゴブリン共がいるのだ。死にに行く様なものじゃない。死ぬ事が確定している。彼女が選ぼうとしているのはそういう選択肢だ。


「それでも、拙者は仇を討たねばならないのです。でなければ、拙者は父と母の子を名乗れない。どうしても征かねばならないのです」


 振り返った理伏の表情は、まさに鬼気迫る物だった。目尻から涙が零れているのに双眸は吊り上がり、殺意を隠そうとしていない。食屍鬼の僕をして鬼と思う程、彼女は復讐の念に取り憑かれていた。


「御安心を。皆様を巻き込むつもりはありませぬ。依頼料はそのままお納め下さい」

「いやいやいやいや、見殺しにしろってか? 寝覚め悪ぃぜ」

「そうですよ! 私達、パーティーじゃないですか!」


 ステファと一緒になって理伏を止める。如何に僕が冷酷になったかもしれなくても仲間を見捨てられる程冷血ではない。理伏を放って置く事は出来ない。

 そこに、イタチも加わってきた。


「依頼料は受け取れん。俺様達が受けた依頼はあくまで『ゴブリン共から村人を逃がせ』というものだった。まだ一人も逃がしていない以上、依頼は達成したとは見做されん」

「しかし……」


 イタチは感情ではなく理屈をもって理伏を説得してきた。理屈を語られては理屈で返さない訳にはいかず、理伏の鬼気が淀む。


「それに、貴様を見捨てるつもりもない。冒険者なぞ所詮はならず者の集まりだ。故にこそ、信用が大事だ。依頼者を見殺しにしたとあっては冒険者の名折れ。信用を失っては仕事が入らなくなる」

「…………」


 理伏が押し黙る。しかし、まだ納得はしていないようで、イタチを見返す瞳にはどうにかして己が復讐を果たそうという意志が見えた。このままでは目を離した隙に理伏がゴブリン共の本陣へ向かう、という展開もあり得そうだ。

 故に、イタチは代案を挟んだ。


「俺様に良い考えがある。……とまではいかんが、敵の本陣に猪突猛進するよりはマシな策がある。いいか?」


 それは――――

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