06.(海獣)
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マーマンの双子が見つけたのは、〝ゲート〟であると確認された。
海食柱を間近にした海域に集まった魔族たちは、若いマーマンを褒め、そして若いマーマンは謙虚にも自分たちの力だけではないと、はにかみ、調査の成功を喜んだ。
「さあ、岸へ戻ろう」誰かが云った。「そうだそうだ」皆が賛同した。「ナイルが首を長くして待っているぞ」
そこにヒュドラの眷族である、ウミヘビ族のミーが、「私ほどではないだろうけれどもね」と笑いを誘った。
マーマンの双子は波に揺られながら、
「楽しい日だね」
「好い日だね」
達成感に満たされた。
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「ああ、食った食った」「いやいや、少し食い足りないな」「底なしじゃのう」
男たちは揃ってだらしなく椅子に坐り、ぷっくり膨れた自分の腹を撫でていた。
「デザートもありまぁす」
かわいい女給がにっこり微笑んだ。「最後までたぁんと食べて、たっぷりご満足してくださいましぃ」
……デザート!
男たちの脳裏に電気が走る。
誰もが同じ結論に達し、熱を帯びた眼差しになる。
「お客さん、困りますぅ」
かわいい女給は視線に気付き、手にしたトレーの蔭に、かわいく隠れた。
ぬはははっ、と男たちが笑った。
「お客さん、困ります」
黒服が云った。
男たちは椅子に行儀良く坐り直した──直後、海の向うが破裂した。
*
上空へと吹き上がった水柱は霧となって、大空に虹の橋を描いた。
水のカーテンの向うに、得体の知れない何かが姿を現した。
それは黒くて巨大で、太くて長くて、ぬらぬらとテカっており、頭とおぼしき部分は硬い甲羅のような物で被われ、何本もの触手をくねらせていた。
想像図通りであった。
海獣だ。誰かが呟いた。
魔物が、姿を現した。
*
呆気にとられるライトに、「ルーシィを呼べ!」ゴールが一喝した。
「えっ」目にしたモノを理解できないでいるライトのケツに、ヤマブキが廻し蹴りを見舞った。「さっさとするでゴザろ!」
「は、はい!」あたふたと銀の珠を取り出し、呼び出した。
「いやよ」銀の珠はけんもほろろだった。「お肉を焼いたばかりなの」
「だから何だ!」舟を用意しながらゴールが叫ぶ。「直ぐに来い!」
「だから後片づけ中。焦げ落しは後廻しにしない主義」
「あのメタルめ!」舌打ちした。しかし銀の珠は沈黙したままだった。
「おかしい」船に飛び乗ったヤマブキは、櫂を手にし、「ゴールに云い返さないとなると、焦げ落しはおそらく……本心ではない」断言した。
「たぶんな」やはり櫂を手にしたゴールは小さく溜め息を吐き、「こう簡単に引き下がるのは気味が悪い。おい、ライト」
「はい」
「俺たちだけでどうにかするぞ」
「……はい」
覇気の欠けたライトに、「心配ない」ヤマブキが云い切った。
「道具がなくても」とゴールも発破をかけた。「賞金稼ぎの矜持ってヤツをとっくり見せてやろうじゃないか」
「はい!」と返事するや否や、「待ちなさい」銀の珠が割り入った。
「……何でしょうか」
気勢を殺がれたライトに、銀の珠は続けた。「胸のアミュレットの術式、副次的に水の上の走れようになるわ」
「……はい?」
「片足が沈む前にもう片足を出す、ただそれだけ」
「そんな無茶な!?」
「止まったら沈むけど」
「危ないですね!?」
「心配ないわ」銀の珠は請け合った。「沈んでも手足をバタバタすれば、また海面に出て走れるようになるから」
そしてこう云い添えた──「簡単でしょう?」
「ははは」ライトは力なく笑い、歴戦の賞金稼ぎに同意を求めて顔を向けた。「ねぇ、どうかしてますよ」
「成程!」「確かに!」
ゴールとヤマブキは目を輝かせている。
「えっ」
ンフ、と銀の珠は笑った。「ま、素人さんには難しいと思うけれどもね?」
「ハッ!」ゴールが口元から白い歯をこぼし、「上等だ、腕が鳴るぜ!」
「オーケー」云うや、銀の珠は、にゅるんと体積を増やし、二つに分かれた。そして一丁の銃と、一振りの刀になった。
「ゴール。ヤマブキ。これを。使い捨てて構わないから」
「かたじけない」ヤマブキは刀を手にして、くんくんと匂いを嗅ぎ、「お肉の匂いがする!」
「特上だ! 腹が鳴るな!」
「あのう……ぼくの分は?」
「ライト。あなたは船に残って」
「何故です?」
「……回収のためよ」
「何を、」
「お願い」ルーシィが云った。「彼を、魔物退治を、手伝って」
「うぉっし」ゴールは銀の銃を構え、重さを確かめた。「浜辺の鉄板娘から直々に頼まれたとあっちゃぁ断れねぇ」
ぶんっ、と刀で空を切り裂き、ヤマブキが頷く。「いざ、参る!!」