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04.(黙らないで欲しい)


  *


「じゃーん、けーん……ぽん!」

 グー、グー、グー、チョキ、パー。


「こんな方法で組み分けしていいんでしょうか……」ライトは自分の握った手を見つめた。


「ライト」パーのロジャーが云った。「もし魔物が想像図の通りなら、誰と一緒でも関係ない」


「俺は逃げるぞ」グーのゴール。

「拙者も逃げる」グーのヤマブキ。


 チョキのクリムは、ぼーっと沖合を見つめていた。


 釈然としない顔のライトに、「オーケー」ロジャーは云った。「ライトはこっちな。俺と船で沖に進む組」

「えっ」

「こっちな」

「ぼく、泳げませんよ!?」


「ロジャー」ヤマブキが助け船を出した。「ライトは拙者たちが、」


「そうか」ロジャーは頷き、「頼んだ」

「お任せあれ」


「俺と一緒の船に乗るか?」ロジャーは、沖合をぼーっと見つめるエルフに声をかけた。


 クリムはロジャーに向き直り、小さくこくりと頷いた。


 組み分けが終わった。


 小舟で沖へぎいこぎいこと漕ぎ出し、探索するのはロジャーとクリム。一方、浜辺から海に入り、じゃぶじゃぶと足で探索するのは、ゴール、ヤマブキ、そしてライト。


「ルーシィは行かないのか」ゴールが訊ねれば、不確定金属生命体は、「沈むもの」

「俺も沈む」


「わたしは具合悪いの。これ以上質問したら沖まで投げ飛ばすわ。ちょうど良い離岸流が見えるし」

「分かった分かった」


「上のお口、噤んでなさいよ?」

「むむむ」ゴールは両手で口を押さえて首を縦に振る。

 

 ルーシィは満足げに微笑み、次の玩具に興味を移した。


「ヘイ、ヤマブキ」

「なんでゴザろ?」

「あなたは大丈夫?」

「まぁ大丈夫でゴザろ」


「オー、ヤマブキ」感じ入ったようにルーシィは云った。「頼もしいわ」

「いやぁ、」えへへ。


「ところで、ヤマブキ?」

「何でゴザる?」うんー?


「お腹、冷えるわよ、おトイレは大丈夫?」

「心配には及ばぬでゴザルよ」むふー。


「まぁ、海の中で致しても分からないよね」

「ンなっ!?」


 おほっほほっとルーシィは笑った。「さてと。冗談の本気は置いといて。ロジャー?」

「なんだ」

「手を出しなさい」


 差し出された手のひらに、ルーシィは人差し指を向けた。その指先が蝋のように溶け、つうっと銀色の糸を引き──切れて落ちた。


 ロジャーの手の中に、小さな銀色の珠が乗る。「念のため、これを。いざとなったら握って。座標を、教えて」


「分かった」とロジャーはスク水の水抜きを引っ張り、銀の珠を股間に保管しようとし。

「やめなさい」ルーシィは取り上げた。


「俺が預かろうか?」ゴールが提案するが。

「嫌よ」言下に断った。


「ではぼくが……」とライトが進み出るが。

「少し考えさせて」


「ならば拙者が……」ヤマブキが開いた手を向けるが。

「……」


「黙らないで欲しいでゴザる」

「なんて云うか、ヤマブキって微妙よね」

「ンなっ!?」


 それからルーシィはクリムを見て、僅かに首を傾げ、「アナタには不要よね」

 エルフもまた小さくこくりと頷く。


 ルーシィは溜め息を吐き、「ヘイ、ライト・ボーイ」彼の腕をぐいと引っ張り、その手のひらに自分から分離した小さな銀の珠を預けた。


「あなたが上手くわたしを呼べる可能性は低い」

「はっきり云いますね」


「どうしてもって場合はゴールを頼りなさい。彼なら上手くできるでしょう」


「そうだろう、そうだろう」ゴールはしたり顔で頷いた。


「ライト・ボーイ」ルーシィが云った。「わたしの言葉は忘れなさい」

「え、でも、」


「忘れなさい」

「イエス・マム」


   *


「おお、やっと沖に出たか」

「やっとか」「やっとだな」

「メタルの嬢ちゃんは居残りか」

 男たちは、やれやれとばかりに椅子に深く座り込んだ。


「皆さぁん、これからお食事、ご用意しまぁす」かわいい女給が云った。「存分にお楽しみくださいませぇ」


「うおおお!」

 男たちは拳を突き上げる。

 待ちに待ったメインイベント、開催。


   *


「ぷはっ」

 海面を割って、若いマーマンの双子が顔を出した。


「間違いないな」

「そうだな」


 波に揺られながら、息を整え振り返り、そびえ立つ岩の柱を見た。


 この海辺で、蛮族たちが「きれいね」だとか「ロマンチックね」だとか、でへでへと喜ぶ代物だ。


「あれは危ないな」

「岩は鋭いからな」


 危うく装備を引っ掛け、破けそうになったし、露出している柔らかな肌も傷つけかけた。


 なにより、岩の所為で辺りの海流が複雑になっている。


「報告に戻ろう」

「そうしよう」


 更なる調査を行うには、自分たちだけでは危ない。仲間の力が必要だ。


 ふたりはひとまず海岸へ戻るために、泳ぎ出した。少なくとも、この海食柱が良い目印となっている。


 装備の中には、浮標もあったが、その特性故に目立つ。蛮族どもの興味を引くような事態を避けられるのならそれに越したことはないのだ。


 この日、海は穏やかであった。日差しは眩しく、海面は煌めく。少し、楽しい気分になった。


 不意に、ぬっと海面に女の顔が出た。


「ヒィッ」

 双子のマーマンは同時に声を上げ。

「クリム殿!?」

 見知った顔に驚いた。


 ちゃぷちゃぷと波に揺れる褐色の長耳エルフは、ジッとふたりを見つめた。いつもは背に流れるままにしている長い黒髪を頭の上でまとめており、大層可愛らしかった。


「こんな辺鄙なところで何と奇遇な」と、ふたりは声を揃え、「それで、いったい何を?」疑問を口にした。


 ちゃぷちゃぷと波に揺れる褐色の長耳エルフは、僅かに視線を動かした。


「はぁはぁ。賞金首と行楽ですか……。危なくはないですか? えっ、この近くに!? それで警告に……。わたしたち、ですか? 〝ゲート〟の調査です。あっちから来た者が溺れてはコトですから。はい、ありがとうございます。では、我々はひとまず報告をば」


 クリムは口元を水に浸けたまま、こくりと頷いた。


「クリム殿」マーマンは云い添えた。「お気を付けて。何かあれば、調査団一同、駆けつけます」


 再びクリムはこくりと頷いた。

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