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第9話 ありがとう

 私は、不意に体をゆすられ目を覚ます。


 目を開けると、リーナがこちらを覗き見て、体を揺さぶっていた。


「ミコト、起きましたか! すぐに避難しますよ!」

「え? 避難って、なんで?」

「盗賊ですよ! 早く、荷物を持ってください!」



 荷物を持って駆け出すと、昼とは打って変わって赤色の世界が広がっていた。


 地面に飛び散っている血。

 家々を囲っていた植物を燃やしている炎。

 それは、夜だというのに昼の様な明るさだった。


「やっとお出ましかよ! おせぇぞリーナ!」


 私たちは宿の前で立ち尽くしていると、一人の男に声をかけられる。


「ジェノ……! これは、あなたの仕業ですか!?」

「あぁ? これは俺には関係ねぇよ。馬鹿どもに力添えしてやったら、その馬鹿どもが勝手にやりはじめただけだ」

「なら、止めてください! この街には、子供やお年寄りだっているんですよ!」

「だから知らねえよ。そんなに止めてえなら、お前がとめて来いよ」


 ジェノはふっと笑い、レイピアを抜き、こちらにその矛先を向けて大声で叫ぶ。


「ただし! 今回は俺も参加させてもらうぜ!」

「……わかりました。ミコト、あなたはみんなを避難させてください。それまでは時間を稼ぎます」

「……わかった」


 私はミコトの言いつけ通り走り出すと、すぐに数人の男が立ちふさがれる


 私は拳銃を引き抜き、目の前にいる男へ構える。


「……まだわからないけど、私は、私の望む形で『正しい事』を成す!」


 そう言って私は指に力を込めて、引き金を引く。

 その弾丸は、男の眉間を貫き、男はそれきり動かなくなる。


「てめぇええええええ!!」


 その事に逆上したのか、男たちはそろって叫び声をあげた。

 私は彼襲い掛かってくる彼らに次々と銃弾を当てて、走り出す。


 しばらくそうして走り出していると、私は一人の少女がうずくまって泣いているのを見つけた。


「キミ、どうしたの!? はやく避難しないと危ないよ!」

「足、ケガしたの……。もう走れないよ……」

「……わかった。じゃあ、お姉さんの背中に乗って」

「うん……」


 私は少女をおぶり、走り出す。

 そして、夢中で走っていると私は数人の男たちに囲まれてしまっていた。


「……そこをどいてください」

「へっへっへ……。そうだな、その背中の奴を置いていったら助かるかもしれねえぜ?」


 ……嘘だ。

 多分、私がもしこの子を置いた瞬間に、彼らは私と少女をすぐさま切り落とすだろう。


 少女が「お姉ちゃん……」と心細そうな声で私に話しかける。

 私はそんな少女を安心させるため、軽く少女を持ち上げた。


「大丈夫。大丈夫だから……」


 そうは言うが、私にはこの状況を打開できる策は持ち合わせてはいなかった。

 ここまでか……と諦めそうになったその時、不意に空から何者かが降ってきた。


「もう、大丈夫だからね」


 その人物は、そう私たちにつぶやくと、腰の刀を抜いてすさまじい速さで私たちを囲んでいた男たちを倒す。

 ……いや、本当は彼が刀を抜いたかすらも怪しい。そんな早さだった。


「リーナちゃんのお友達だよね? もう少し先にみんなが集まっている家があるから、そこまで走れるかい?」

「はい。その、ありがとうございました」

「いいんだよ。もう盗賊の人たちはいないと思うから、転ばないようにね?」


 そう言って彼は私がきた方向へ走っていく。


「……じゃあ、また走るからしっかり捕まっててね」

「うん!」



 しばらく走り続けていると、一回り大きい石造りの家に突き当たった。

 私がその家の扉を開けると、中に入っていた人たちが一斉にこちらを見る。


「違います! 私は彼らの仲間じゃありません!」

「……誰だあいつ」

「さあ? 多分、旅人か何かだろ」

「こんなタイミングに旅人? ちょっと、怪しいんじゃないの?」


 口々に私について話し始める街の人。

 ……また、私の『正しい事』は誰にも理解されないのか?


 私は心がくじけそうだった。

 やはり、私の今までの行いの方が正しかったのか?


 そう思って立ちすくんでいると、おぶっていた少女が大きく声を張り上げる。


「お母さん!」

「……え? リリア? リリアなのね!」

「うん! あのね、このお姉さんに助けてもらったの!」


 少女のその一言に、また周囲はざわつき始める。


「あいつ、わざわざ女の子を背負って……?」

「まさか、じゃあ本当にただの旅人なの?」

「信じられん……。あの人以外にこんな聖人がいたとは……」


 口々にそれぞれの思いをつぶやく人たち。


「ああ、ありがとうございます! なんてお礼をしたらよいか……!」

「いえ、いいんです。それじゃあ、私は少し用事があるので」


 私は踵を返しリーナの元へ向かおうとすると、不意に手を握られる。

 振り向くと、少女が笑顔でこちらを見ていた。


「ありがとう、優しいお姉ちゃん!」

「……どういたしまして!」



 私は少女と別れた後、リーナのところへ向かっていた。

 邪魔かもしれない。それでも、リーナを一人にはしたくない。


 その一心で走っていると、リーナの姿が見えてくる。


 地に伏せている、彼女の姿が。


「リーナ!?」

「……ミコト、なんで……戻ってきちゃったんですか?」

「なんだ、お前も来たのかよ? お前なんか、邪魔にしかならないのによ」


 不敵に笑うジェノ。

 リーナの体をよく見ると、わき腹をレイピアが貫いていた。


「しっかしリーナ、てめぇやっぱり弱いな? それでも『観測者』かよ?」

「……だま、れ!」

「それで俺たちの下位互換でしかない人間と『友達』だぁ? お前のせいで、『観測者』が下に見られたら困るんだけど?」

「……だまれぇ!」

「リーナ、叫ばないで!」


 私はリーナの肩を抑え、彼女の気をなだめようとするが、もう彼女の目には私は写っていなかった。

 ただただ憎悪をむき出しにした目で、彼女はジェノをにらんでいた。


「そういえば、あのじいさん……ティースって名前だったか? あいつはまだ雑魚に手こずってんのか?」

「……ここにいるよ」


 ティースと呼ばれた男は、私の後ろからゆっくりと歩いて現れる。

 その表情は仮面のせいでわからないが、怒っている。その雰囲気だけは伝わってきていた。


「……やあ、ジェノ。僕は本当は君の顔なんてみたくもなかったんだけどね」

「よ、ティース。俺はお前の面が拝みたいんだがな?」


 冗談めかしく話しかけるジェノ。

 だが、それとは裏腹にティースはただ静かに刀を握っていた。


「んだよ、無視かよ……。じゃあ、こちらから行かせてもらうぜ!」


 ジェノは自分のレイピアをリーナの体から抜き、ティースへ向かっていく。


「ガァッ……!」

「リーナ!」


 私は引き抜かれた際にリーナが暴れるのを押さえつけ、自分の服の袖を破き、包帯代わりとして止血する。

 しばらくすると、リーナは気を失ったのか、目を閉じて動かなくなった。


「じゃあな、正義のヒーローさんよ!」


 ジェノはそう叫ぶと、持っていたレイピアを思いきりティースに突き刺す。

 ……が、その刃先が彼に届くことはなかった。


 刃先が細切れになり、地に落ちたからだ。


「……失せてくれ。僕は、僕たち『観測者』を売った者とはいえ同胞を手に掛ける気はない」

「なんだよ、アンタ。その事を知ってたのかよ」

「当たり前だ。知らないのは、ずっと旅をしてきた彼女だけだろう」

「……チッ。興覚めだ。俺は帰らせてもらうぜ」


 ジェノはレイピアの柄を投げ捨て、町の入口へ歩きだす。

 しばらくすると、ティースはこちらに歩み寄り、腰を下ろす。


「ちょっと見せてもらうね」

「え? あ、はい」

「……うん。急所は外れてる。これなら、なんとかなりそうだ」

「本当ですか!?」

「うん。じゃあちょっと薬を塗ってくるから少し待っててね」


 彼はそう言ってリーナをおぶり、町へと戻っていった。


 私は、そんな彼の姿を見た後に、ひざから崩れ落ちて涙をこぼした。


「……やっと、認めてくれた」


 すでに明るくなり始めている空を仰ぎ見て、ただ泣き続ける。


「私は、やっと……本当に『正しい事』をしたんだ」


 ただ嬉しくて、泣き続けた。

「ありがとう」。この一言が、私の心に光を当ててくれた。


 やっと……私は、母が言っていたことを守ることが出来た。

 私は、また一つ『正しい事』を成すことが出来たのだ。

インフルエンザを患ってしまったため4日間休載させていただきます。

申し訳ありません。

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