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第4話 仲間

 私は、また平原の上で馬車に揺られていた。

 以前と違うところは、今回の馬車には窓がついているため、外の景色を見れるところだろうか?


 外の景色には、まるでどこまでも続くような平原が広がっていた。

 反対側には暗い森があり、明るい平原とは対照的なのが印象的だった。


 ここら一帯は国が統治していないためか、次の町まではかなりの距離がある。

 それに、以前の様な盗賊が出ないとは限らない。


 私は生きて『世界樹』にたどり着かなくてはいけないのだ。絶対に……。


 私はマフラーを軽く握ると、同席していた長いピンク髪の女性が笑顔で話しかけてくる。


「こんにちは。いいお天気ですね」

「はい。そうですね」

「一人旅ですか?」

「ええ、まあ。あなたもですか?」

「はい。家族を探して三千里、です」

「それは……大変ですね」

「ええ。大変です。とっても」


 ……家族を探しているにしてはどうも楽観的な印象を受ける。

 だが、見ず知らずの私が嘘を暴いても仕方ないだろう。


「申し遅れました。私は『リーナ』。あなたのお名前をお聞かせ願えませんか?」

「あ、すいません。ミコトです」

「ミコト、ですか……。ここらへんでは珍しい名前ですね」

「はは。よく言われます」


 なんでも、この名前は母親が昔助けてもらった旅人からつけてもらったらしい。

 勿論、私には面識はない。


「それで、ミコトさんは何故一人旅を?」

「『世界樹』。そう言ったらお分かりになりますか?」


 私がその言葉を言い終えると、不意に馬車が大きく揺れ、御者が大きな声で叫ぶ。


「敵襲だァー!!」


 私は拳銃を構え、小窓を覗く。そこには、二足歩行している機械が、こちらにむけて機銃を構えていた。


 御者はとうに逃げたのか姿は見えない。私はリーナの右手を引き逃げようとする。

 が、リーナはその手を引き離し、落ち着いた表情で諭すように話しかける。


「私がおとりになるので逃げてください。幸い、ここから走れば日没までには町に間に合います」

「でも、それじゃ……!」

「大丈夫。私は死にませんから」


 リーナはそう言ってとびきりの笑顔を見せた後、馬車から飛び出して機械の方へ走っていく。

 機械はそれに応戦するように機銃を撃つが、弾丸は彼女をかすめることすら出来ない。


 私はその姿を見届けた後、近くにあった森に身を隠す。

 このまま平地である街道を突っ走るよりも、身を隠すことが出来る森の方が安全だと判断したからだ。


 しばらく銃声が鳴り続けた後、爆発音が鳴り響く。そして、それを境目に銃声はぴたりと止まった。


「……ミコトさん。逃げろって言ったじゃないですか」

「逃げましたよ。森の中に」

「口答えしないでください。私は怒っているんです」


 冗談のような口調だが、怒っているのは本当らしい。

 頬を膨らませ腰に手を置きこちらをにらんでいる。

 ……だが、笑顔は崩れていない。


「ミコトさん、いいですか? 仲間が囮になると言っていたら、そこは迷わず逃げるべきなんですよ」

「……はい」

「まったく。私が死なないからいいものの……」


 ……私は、先ほどから『死なない』という単語が妙に引っかかる。

 それは自信の表れなのか、それとも……。

 いや、考えるのはよそう。不老不死なんてファンタジーが現実に存在するはずがない。



 結局数十分の間、私は説教され続けた。

 中東生まれで機械とのゲリラ戦に慣れているといっても聞き入れてはもらえなかった。


「……あ、見えてきましたよ!」

「本当ですね。それでは、ここらへんで……」

「待ってください! どうせなら、一緒の宿に泊まりませんか? 目的地も一緒なわけですし、宿代も出しますので!」


 そう言ってナイスアイデアとばかりに手をたたくリーナ。

 こちらとしても断る理由はないので、首を縦に振る。


 ……言っておくが、別に宿代が浮くとか考えたわけではない。ないのだ。



宿につくと、ベッドに飛び込むリーナ。

内装は白いレンガの壁に、上質な木張りの床。

はっきり言って以前私が泊まっていた宿とは大違いだ。


「うーん! やっぱりこの部屋はいいですねー!」

「来たことがあるんですか?」

「はい、小さいころに一泊だけですけど」

「そうですか。それと、リーナさん……」


 私が言葉をつづけようとすると、リーナがそれを指で口を押える。


「リーナ、で結構です。それに、敬語もいりません」

「……わかった、リーナ」

「はい。それで、なんですか?」

「……もしかして、この旅について来る気なの?」

「はい。えへへ、バレてましたか」


 ……やはりか。と思い胸の中でため息をこぼす。

 私の『正しい事』は誰にも理解されないのだ。『正しい事』を為すということは、この女性から隠れてということになる。


 ……いや、構わないか。

 たとえ理解されなくても、『正しい事』は絶対的な善なのだ。今まで通りふるまえばいい。


「わかった。それじゃあ改めてよろしくね」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 そう言ってリーナは私の手を強く握る。

 そして私の手を離さないまま笑顔でこちらに問いかける。


「……『世界樹』。一緒に目指しましょうね」

「……? はい、わかりました」


 私は彼女に若干の違和感を感じつつ、世界樹まで旅をすることを約束した。

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