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魔法災厄

作者: 瓜

えらく冗長になってしまいました。

お暇な時にでも。


※偶に、加筆・修正します。

「やはり、君だったんですね」


"先生"は残念そうに呟いた。

言葉の端には、失望と同じ位に、確信が滲んでいる。


「はい」


今更誤魔化す気などなく、私は真っ直ぐに答える。


「先生には、とっくに解っていたんじゃ?」


ある程度自分に対する嘲りを込めて、目を細める。

悪びれる風もない私の笑みに、先生は眉尻を下げ、悲しげに目を瞑る。


永い時の中で蓄積した叡智の墓場に、私達は対峙している。

ピリリと走る緊張感と、緩やかに流れる紙やインクの匂い。それから、朱い光の中で舞う埃。

逢魔が時の傾いた太陽が、私達の足下に、暗く長い影を落とす。



「極稀に、"魔法災厄"という、未知の存在が原因の事件が起きる」


"魔法災厄"の語に合わせて、私の周囲に沈殿していた本や、古い紙束が浮かび上がる。

勝手にページの繰られる(正確には私が魔法で繰っているのだが)それらは、どれもが人智を超えた存在に関する研究資料だ。


「この学校では、それを解決すると、評価が上がりますよね?」


私は微笑を浮かべて、確認する。

先生は、答えを躊躇うように、目線を彷徨わせる。


…貴方も、知っているでしょう?もう、本当に今更だって。



「そして、災厄を解決した人間は、その人間の持つ"魔力"という形で世界に記憶される」


恐らく、魔力によって世界を構成する式に細かな傷をつけるのだろう。

そして、傷の形で、魔力の持ち主を判断するのではないか。

まあ、私は世界式を見る事が出来ないので、これは推測の域を出ないが。


「そんな仕組みがあるって事は、多分、災厄も魔法使いの資質を見るための、試験の一つなんでしょうね?」


本来なら、全てが世界の予定という訳だ。

私のせいで、狂ってしまったけれど!


「世界の式に記憶された魔力を読み解けるのは、生徒を評価する立場にある、校長先生だけです」


「だから、転校してきて、直ぐに高い評価をつけた私をーー貴方が評価したんですよ? マーク出来た筈なんだ」




「…それでも、君を信じたかったのですよ」


先生は、静かにそう言った。


「そうですか」


私は、あっさりと(見える風に)切り捨てる。

ここで内心を見せてはいけないのだ。

今や私達は敵同士である。



「ところで、私を信じていた先生」


相手を小馬鹿にした前置きと共に、言葉を続ける。

徹底的に、嫌わせたかった。


「何時、私を信じられなくなったのですか」



「何時、ですか」

「…実を言うと、疑念は、随分前から抱いていました」


そうか。


「ただ、決定的だったのは、魔力の濃さですね」


「君の言った通り、私は、魔法災厄を解決した者の魔力を識別出来ます」

「そしてそれは、私に"しか"出来ない」


「だから君は、知らなかったのですね」

「魔力には、"形"だけでなく、"濃さ"がある」


「世界の式につけられた傷を見れば、そこに残る魔力の濃さで、およそ何時頃の出来事か、というのが解るのです」


与えられていない情報。

…何だ。結局、私にはどうにも出来なかったのか。

つまらない。


「残存する魔力の濃さによって、私が日に幾つもの魔法災厄を解決…この言い方は良くないな、手懐けていると気づいたのですね」


「はい」


「そして、その事実の不自然さに疑問を持った」


魔法災厄を解決すれば、世界の式に消えない傷がつく。

恐らく、いや絶対に、その傷痕は消えない。

たとえ時間が、巻き戻っても。

システムが、私の敵に回ったのだ。



勿論、毎日のように訳の解らぬ災厄が起きる筈はない。

そして、"訳の解らぬ災厄"を、一瞬にして解決出来る筈もない(訳が解らないからこそ、魔法災厄の解決は評価に繋がるのだから)。

…意図的に起こしているのでもなければ。


そうだ。私は、自分の意思で魔法災厄を発生させ、手懐けてきた。

要するに、盛大で壮大な自作自演だ。



「何故、そんな事を?」


先生は、私に尋ねる。

まあ、疑問は当然、そこに行き着くだろう。


しかし、その答えは私にも解らない。

解らない、というより、言葉にするには混沌としすぎている、と言った方が良いかも知れない。


少し、整理しようか。



普通に生きていれば、お目にかかれないであろう、伝説の怪物や、摩訶不思議な現象の数々。

そういったモノへの、探究心や知的好奇心がまず一つ。

『好奇心は猫をも殺す』という言葉も留めず、次々と災厄を呼び覚ます位には、私は刺激に飢えていた。


とはいっても、魔法使いの評価基準になっている位だ。評価する前に、災厄によって死なれちゃ堪らない。

恐らくは、本来の姿より、かなり弱く"設定"されていたのだろう。

"設定"がどういうものなのかは、私にはよく解らないが、無理に言葉にしようとすると、"設定"というのが一番しっくりくる。



それから、根底にあったのが、厭世観。

先に挙げた知的好奇心にも繋がるだろうが、私は若干、平穏な生活に飽きていた。

毎日、目が覚めて、服を着て、学校に行き、既に完成した(誰かが知っている、面白味のない、死んだ)知識を只管頭に詰め込む。

退屈じゃあないか。

嗚呼、嫌だ、嫌だ。


ブチ壊してやろう、と思った、のかも知れない。

勿論、それだけではないが。



(歯切れが悪い…)


「そのためには…」


評価基準の一つという枠に押し込められた、劣化版の魔法災厄では、駄目だった。


(完全な災厄を生み出す事と、意図的な災厄の発生に、関係があるのだろうか。)


(そもそも、劣化版であっても、自らの意思で災厄を起こす事など、可能なのか。)


「魔法災厄に、"禁忌"という本来彼らが持っている筈の要素を、還元する必要があった」



私は、知っていた。

魔法災厄は本来の力を奪われ、ただの評価基準に成り下がっていた事を。

能く、理解していた筈なのだ。

それが、世界から与えられた私の役割の一つだからだ。



この知識には、まだ少し慣れない。

本来の力を取り戻した、魔法災厄の知識だ。

災厄の名は、『禁断の書』。


元はと言えば、偶然だった。

それこそ、街で級友と会うように、力の弱まったあの本と出会った。

永い、永い時の中、管理が杜撰になっていた図書館塔で、物語に擬態して眠っていた禁書を、私は開いて<起こして>しまった。


それが、全ての始まりだった。



目の前の人物が纏う雰囲気が、剣呑になる。

あゝ、そうか。

この災厄を、不完全だと侮ってはいけない。


私の愛した生徒はもう、異質なモノへと変わってしまったのだ。



眠りから醒めた禁断の書は、私の××力を糧に急速に力を取り戻していった。


そして、混ざった。

自我が、魂が、知識が、魔力が。


××力を取り込むための"道"から、あらゆる良くないものを含めた、それこそ"魔法災厄"が、私の中に流れ込んできたのだ。


世界を破滅へ導く災厄は、知識に飢え、世に飽いていた、元の"私"の心とよく馴染んだ。


私達は、こうして一つになった。


(それが、永い間制御されてきた災厄の、目覚め、反撃の始まり)


(ヒトの××と引き換えに、禁断の書は"禁忌"の力を取り返した、という事か。)


(彼らは、互いに影響を与え合っているのだろう。)



「………………。」


相対する人物の足元を彩る影には、何処までも深い闇が潜んでいる。


そりゃあ、そうだ。


「禁書は、魔法災厄を目覚めさせる方法を知っていました」


「こうして私は、意図的に災厄を起こす手段を手に入れたのです」


(魔法災厄ーー未知への知的好奇心と、自らを封印した世界に対する復讐心)


(各々目的は違うが…)

(彼らの手段は、一致してしまった。)


(だからこそ、二つは上手く同化した。)


(意図的に災厄を起こす事は、好奇心を満たす事にも、世界を壊す事にも繋がるからだ。)


(そして、枠を破壊して完全なる災厄を復活させる方法…)


("禁忌"の還元。)


(世界から禁止されている"何か"を、弱体化した災厄達に与える、思い出させる…上手い言い回しが見つからないが。)



「魔法災厄が、日に何度も起こっていた、それは、あり得ない事…」


「…やはり」


「あゝ、そうですね。」

「時間遡行の魔法を使ったのでしょう?」


「…ご名答。」


時間遡行の魔法。


起きた筈の出来事を起きなかった事に。起きなかった筈の出来事を起きた事に。

過去を変えたいという願いの産物。


禁術の一つだ。


ただ、禁断の書が知る禁術の中では、比較的易しい魔法である。

あくまで、"比較的"ではあるが。


勿論、安全(セーフ)という訳ではない。

一度時の歯車が動き出してしまえば、もう元には戻れない。


こんな、出来事が世界の式に傷をつけるシステムでは。

恐らく、時間遡行の術を完成させた先人らは、知らなかったのだろう。


時間遡行は、フィルムの逆再生に過ぎない。

起こってしまった出来事は、時を巻き戻し、禁忌を犯しても、無かった事には出来ない。

精々、巻き戻ったフィルムの上から、意味不明の、白痴じみた夢物語(らくがき)を散らすだけだ。


逆再生する度、何度も何度も。

本来の姿を"落書き"で塗り潰して、巻き戻して…壊す、壊す、壊す。

起こった事はどうにもならない。白痴の夢物語は現実となる。そして元には戻らない。

それは不可逆反応である。


あるがままの姿を汚す愚かな魔法使いを、この世界は静かに見ている。

抵抗も非難もせずに。


何度も同じ一日を繰り返しながら、その全てが違うモノに改変されていく。

違う、しかし、同じ日を、世界の式は余さず記録している。

それは、世界に矛盾を生む。

時間遡行が生み出したパラレルワールドを、無理に一つの時間軸に纏めているからだ。


時を遡る度に、(ひず)みが生まれる。

世界の式に、取り返しのつかない傷がついていく。


そして式は、咎めず、禁術の齎した傷を、甘んじて受け入れる。


世界の式に残った傷跡は、ある種の"禁忌"の証だ。


時間遡行の魔法を使えば、世界の式を覗く事の出来ない人物には、不自然な災厄の発生を悟られない、というメリットもある。


(世界の破壊を望む彼らには、時間遡行によるデメリットはないーー見えなかったのだろう。)


改変された世界式を、弱体化した魔法災厄に引き合わせ、禁忌を覗き込ませる。丁度、私達がそうして出会ったように。

世界を冒瀆する禁断の力を、封じられた災厄の本質を、蘇らせるのだ。

そして、完全体となった災厄に、念入りに、この世界や、先生への復讐心を植え付ける。まあ、大概の魔法災厄は、その姿を取り戻した時点で復讐のしもべと成り果ててしまう訳だが。


大雑把に言えば、私達はこういった事をしていた。

もう少し、複雑な手順は踏んでいたけれど。


こうやって、私達は多くの災厄を手懐けてきた。

災厄を手懐ける事は、則ち、災厄の解決である。

非日常の存在を、自由に使役出来るのだから。

一応、使役する者は私ーー人間だからね。


ただ、災厄の解決が、評価基準として世界に記録される当初のシステムは、先生との対立を生み出してしまった。

システムが敵に回ったとは、こういう事である。



普通に考えて、私達には勝ち目がない。



私は、元々ただの脆弱な人間。

評価が高くとも、それをつけたのは先生。

この人とは、そもそも立っている場所が違うのだ。

きっと、永遠に超えられない。

自分が一番能く解っている。


あーあ、やってしまったね?私、死ぬよ?

それで、後悔はしないと決めたけどさ。

だって、先生の力の全容が見られるかも知れないのだから!

上手く立ち回れば、それ以上の何かも。

これで、私の知的好奇心は漸く満たされる。漸くだ。

この時を待っていた。



あたしは、所謂『禁断の書』。

目の前の、クソ忌々しい魔法使いに、かつて封印された禁書の一つだ。

そう、あたしは一度敗北している。

あたしだけじゃない。

他の災厄も敗れて、あろう事か、後進の魔法使い共の練習台として、世界の陰の部分に固定されてしまったのだ。


ずっと、ずっとずーっと!

あたしは!苦しんできた!


牙を抜かれた獣。これでは、まるでサーカスの見世物じゃないか!馬鹿にしやがって!


赦さない。

ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!


アア、勝ち目何てどうでもイイ!

世界ごト壊シてやル!!



彼らが完全に、同化する。

僅かな別人格の断片も残さず。


魔法災厄、『??』。


虹彩に滲む、冒瀆的な夢の破片。

血走った、刺々しい視線の孕む狂気。

人の正気を溶かす、禍々しい瘴気。

微睡んでいた図書館塔はざわつき、沈殿していた知識が混ざる、混ざる、混ざる。


紅い仄日が、浮き上がる書物を燃やす。

世界が、真っ赤に染まっていく。

火を巻く熱風が、伝説の怪物(ドラゴン)となって??の背後で立ち上がる。

()の眸には、一片の理性も見出せない。怪物の雄大な立ち姿は、ただ、怒りと殺意に彩られている。


西洋の怪物の吐き出す、地獄の業火が、何もかもを呑み込んで焼き尽くす。


「あはハはははははハハhはahあハハハははhahあは」


??は哄笑する。


魔法災厄の咆哮が大地を揺るがす。

純粋なる破壊。


空が剥がれ落ちる。

堕ちた星が、地上に降り注ぐ。

太陽が沈んだ筈の空が、死にゆく星の最期の光に、明るく燃えて見える。


??の肥大化した欲望が、情念が、世界の式を壊してゆく。


彼らの、余りに強い願いが、世界の本来の姿を捻じ曲げる。


あらゆるモノの輪郭が溶ける。


魔法使いと、魔法災厄。

衝突する魔力の余波が、天地を震わせる。


やがて、世界が崩壊する。


そして、辺りは無に呑まれた。




*??になった世界にて

「剥がれ落ちた世界の残骸…」


「それが、僕達の起源なの?」


「そうですよ」


先生は、穏やかに微笑む。


僕は考える。

"先生"は此処に居て、話に出た??は此処に居ない。


「じゃあ、先生が勝ったんだね!」


「…それは、少し違います」


「…え?」


どうして?



「言ったでしょう、輪郭が溶けた、って」

ストーリーは完全に雰囲気だけでしたね。

一応、災厄の強化の下りは、丁寧に書いたつもりでしたが、後から読み返すと本当に訳が分からない!


拙作を読んで頂き、有り難う御座いました。

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