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日間ランキング一位ありがとうございます!
(休暇ねえ……)
彩純にとって帰る家も待ってる家族もいない場所で休暇と言われても特にすることがない。
それは日本でも同じだったが、あちらでは部屋の掃除をしたり、DVDを観たり、一人旅に出たり、やることはいろいろあった。
(とりあえず街に行って買い物でもしてこようかなあ)
消耗品の補充や下着類など買い足したい物が幾つかある。それらの買い物に行くだけでもいいかと考え、彩純はこの休暇をのんびり過ごすことにした。
迎えた休暇の日。
彩純は一人で街まで行き早々に買い物を終わらせて暇を持て余していた。
(……暇)
これがあと二日。困ったなと街をぼんやりと歩きながら思う。
(……よし。帰って本でも読もう)
そうと決めたら本の供にお茶と、できたらお菓子も欲しいと考えた彩純は目についたお茶屋さんに突撃し、しばらくしてホクホク顔で出てきて砦に戻った。
「何だ。もう帰ってきたのか?」
自室の部屋の前でドアノブに手をかけた彩純は奥の部屋から出てきたランスロットと鉢合わせた。ランスロットの手には書類の束。
「…団長。もしかして俺たちが休みの間って団長が事務仕事してるんですか?」
「ああ、まあ…な」
彩純が思わず目を細めてランスロットを見ると、ランスロットも気まずそうに頭をかいた。
「いや、別に無理してやってるわけじゃないからな。ただ暇だったからやってるだけで…」
「暇だから仕事って……どれだけ仕事人間なんですか。団長こそきちんと休んで下さいよ」
つい呆れた声が出てしまったが彩純だが、仕事人間に自分で仕事量を調節するのは難しいだろう。ましてや団長という立場では。
そこで彩純は今買ってきた自分の荷物を見る。袋から見えるのは茶葉の缶と菓子。
「団長。ちょっと休憩にしませんか? 自分も今戻ったところなので喉が渇いてしまって。良ければ甘い物も一緒に」
彩純が手に持っている袋を持ち上げながら言うと、ランスロットも苦笑しながら頷いた。
「悪いな。では事務室で待ってる」
先に階段を下りて行ったランスロットを見送り、彩純もすぐ部屋に荷物を置き茶葉と菓子を持って事務室に向かった。
「……美味いな」
「昔お茶にうるさい人によく淹れてあげてたんですよ。それで上達したんです」
昔とは当然日本でのことだ。お茶にうるさい人とは上司のこと。よく会社で来客があった時にお茶汲みを頼まれていて、それがお客様に好評だったことから上司にもお願いされて淹れてあげていた。ちなみに緑茶に少しの抹茶を入れてあげると深みが出て美味しいお茶になるのだ。
こちらの世界に緑茶は無くお茶といえば紅茶だが、上司がたまに紅茶を飲みたいと言う時があり、美味しい紅茶の淹れ方も練習したのだ。……美味しいのは緑茶だけと言われたくなかったから。
こちらの世界の茶葉も日本のと同じ手順で淹れて十分美味しいと、今までブレットとユアンに飲ませて実証されているのでランスロットにも自信を持って出すことが出来た。
「そうか……でも悪いな。せっかく買ってきたやつだったんだろ」
「そんな事ないですよ。どうせここに置いておこうと思っていたので」
事務室には自分たちでお茶が淹れられるように簡易キッチンがついている。ここで働くようになってから、そこは彩純の城と化していた。
一番美味しいお茶を淹れられるのが彩純だったのと、騎士たちからもらう菓子などの消費にブレットとユアンにも協力してもらっていたためキッチンに立つ機会が多くなったからだ。
「…この砦には慣れたか?」
「はい。ブレットもユアンも俺が砦や仕事に馴染むように気を配ってくれていますし、騎士たちも良くしてくれます」
「騎士たちは……まあ、お前が可愛くて仕方ないみたいだな」
「弟や息子みたいだとよく言われます。…俺これでもブレットと同い年なんですけど、みんな分かってるんですかね? 小さい子じゃないんですけど」
「お前みたいな奴は今までこの砦にいなかったからな。物珍しさもあるんだろう」
どう考えてもそれだけではないが、ランスロットはそれを彩純に伝える気はなかった。
「さ、この後はどの書類を片付けるんですか?」
二人で紅茶を飲み干し、彩純はカップを片付けながらランスロットに聞く。
「ん? お前は部屋に戻っていいぞ」
手元の書類に目を落としながらランスロットは彩純に退室を促す。
「団長が一人で仕事してるっていうのに俺一人で休んでいられませんよ」
「お前は……いや、助かる。ではこちらを頼む」
「はい。任せて下さい!」
そうして二人は夕食の時間まで黙々と仕事を続けた。
前回の後書きでお知らせした通り、活動報告に小話を載せました。
3月31日の活動報告です。
興味のある方はどうぞ|・ω・`)コッショリ