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6(ブレット視点)

 俺はブレット=カークランド。

 この国境に位置する砦の事務として働いている。

 当初は騎士になるつもりで来たのに、幼馴染みのユアンに向いてないと言われ、気がついたら事務職に納まっていた。


 騎士は確かに小さい頃からの夢ではあったけど、それはただ貧乏子爵家の三男という立場で将来の食い扶持として目指したものだった。だからそんな理由なら騎士ではなく事務員として食っていくのでもいいだろうとユアンに言われ、それもそうだと納得したのだ。

 それにこの砦の騎士たちは……俺とはレベルが違った。一度訓練に参加させてもらったことがあるが、あれが精鋭と呼ばれる騎士たちのレベルかと、訓練所の隅で吐きながら痛感した。


 ただここの騎士たちは腕は確かだが、頭は良くない。

 ここに来た頃、ユアンが必死に俺を勧誘したわけが今ではよく分かる。あの時はユアンの他に事務員が二人いたが二人とも高齢のため辞めて隠居すると言っており、ユアン一人で事務仕事は無理だと切羽詰まっていたようだ。

 ……本来であればこういった事態の場合、次の事務員が見つかるまで騎士たちの中で交代で手伝いを寄越してもらえるみたいだが、これが全く役に立たない。むしろ二度手間になることが多いため、一切の手伝いを断ることになった。

 脳筋とはこういう奴らを指して使うんだと実感した。

 

 それからユアンと二人、人員不足のため常に忙しかったけど、たまに唯一事務仕事が出来る団長自らが手伝ってくれるお蔭でなんとか仕事が滞ることなく毎日が過ぎていった。


 そんなある日ーー。


 仕事中、団長が「喜べ」と言いながら部屋に入って来た。

 ユアンと二人、何事だと顔を合わせ揃って団長に顔を向けると、横に一歩ズレた団長の後ろにいた人物が目に入り、これまた二人揃って息を呑んだ。


 男にしては低い背に華奢な身体。この辺では男女共に見かけない白い肌。それと正反対な漆黒の髪。

 その瞳は髪と同色で、くりくりとした目が緊張気味にこちらを見ていた。

 ……まあ早い話、あまり見ないタイプの可愛らしい外見をした男がそこにいた。

 正直男物の服を着ていなかったら女だと間違えたかもしれない。


 そいつの名前はエリアス。なんとここで俺たちと一緒に働くことになった新しい事務員だと言う。

 人員が増えるのは嬉しい。嬉しいが、こいつがこの砦で一緒に生活することに物凄い危機感が募った。


 大丈夫か。狼の群れに羊を放り込むことにならないか。


 どうやら団長もその事については心配しているらしく、後でそれとなくエリアスを頼むと言われた。周りがこれほど危機感を持っているというのにエリアス本人にはあまり自覚が無いようで、頼まれた俺とユアンは黙って頷くしかない。


 エリアスはすぐ砦に馴染んでいった。

 最初は自分たちとあまりに違う新入りに、どう扱っていいか分からず騎士たちはあまり近寄らなかった。でもエリアスが同じ騎士服を着るようになり、やっと仲間だと認識出来たみたいだ。単純すぎる。

 

 そして誰にでも笑顔で優しく接するエリアスに騎士たちはあっという間に骨抜きにされていった。


 砦の騎士たちは精鋭と言えば聞こえがいいが、つまり粗野な野郎が多い。見た目もごつくてあまり女性にモテる奴がいない。女性に優しくされたことがない騎士たちが女の子みたいに可愛いエリアスに笑顔で優しくされる。それで落ちない騎士はいなかった。


 みんながアイツは俺の弟だとか、息子みたいだと言って可愛がっている。それは別に構わないが、中には本気でエリアスに恋心を抱く連中も出てきた。そういう奴には他の騎士たちが正気に戻らせるための鉄拳が飛んでくるが、それで正気に戻れた奴はいなかった。


 そんな中、休暇の時期がやって来た。

 交代で取る休暇の話も、エリアスはあまり興味が無さそうに聞いている。こいつも独り身の俺と同い年のはずだが、娼館に通ったりしないのだろうか。正直コイツと娼婦が並んでいてもイヤらしさは全く感じないだろうというのが素直な感想だが。


 前にエリアスは孤児だと聞いたが、そういう奴が生活のために自分の身体を売り物にするのは珍しい話ではない。もしエリアスが男娼として働いていたら人気が凄そうだと思うが、この平和ボケした雰囲気にそれはないとすぐ否定した。

 …でも一瞬だけベッドの上で乱れるエリアスを想像して俺は慌てて頭を振って今の想像を消した。


 エリアスはユアンと休暇について話している。騎士たちの最近のおかしな言動をエリアスを弟のように見ているため、家族と思ってる奴に娼館に行くなど知られたくないだけだと説明したが本当は違う。

 どちらかと言うと本命の彼女に浮気してるのをバレたくなくて、それを必死に隠しているという様子が挙動不審に見えるだけだ。

 あまり深く追求するなと釘を刺すが分かっていないようだった。やはりこいつにこの手の話は早いのかもしれない。

 そしてエリアス自身の休暇をどうするか決めかねているようで、ユアンがもし街に泊まるならと外泊届を渡していた。それを見たエリアスがフッと笑みを浮かべる。


 それはいつも見る笑顔とは違い、何の構えもない、無防備な柔らかい微笑みで、俺の胸の奥がギュウっと締め付けられた。


 ガタガタガタッ。


 バサバサバサッ。


 俺は思わず椅子を倒して立ち上がり、隣のユアンは持っていた書類の束を盛大にばらまいていた。


 ユアンと二人、お互いの惨状を見て目を合わす。ユアンの顔はいつもの冷静さからは想像出来ないほど赤くなっていた。ーーきっと俺も同じ顔をしているんだろうな。

 大丈夫かと慌てて書類を拾い出すエリアスに続き、何でもないと言い訳をしながら俺たちも残りの書類を拾った。

 だがこの赤い顔が治まるまで顔を見られたくなかった俺とユアンの書類を拾う手は遅かった。

すみませんm(_ _)mストックがここで尽きました…。


明日、明後日は別連載の更新をするので、こちらの更新はお休みです。

次回の更新は多分、日曜日です。


更新はお休みですが、もしかしたら活動報告でくだらない小話を載せるかもしれません。

ネタだけフワッと浮かんだので。

砦のモブ騎士たちのしょうもない会話。

もし載せたら次回の更新でお知らせ致します。

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