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 ここまで彩純あすみの案内と採用を決めた人物がこの砦のトップ、騎士団長であった。


 「あなたが、団長…?」


 「すまん、最初に名乗るべきだったな」


 「あ、いえ。採用を独断で決めてらしたので、それなりに地位のある方なのかと」


 「そうか。なら話は早いな。団員たちへの紹介は後でするとして、とりあえず荷物を置いてこい。事務室へ行って他の事務員を紹介する」


 「はい」


 そして彩純が荷物を置くと居住区を出た。

 



 「ここが事務室だ。他の事務員は二人。まあ仲良くやってくれ」


 そう言うとランスロットはドアを開け「喜べ」と声をかけながら中へ入っていく。

 ランスロットに続いて彩純も入室すると、中にいた二人の事務員が驚いた顔をしてこちらを見た。


 「だ、団長、その人は?」


 「新しい事務員だ」


 「本当に…?」


 「こんな事で嘘をついてどうする。」


 「それは助かりますね。正直に言うと二人では厳しいものがありましたから」


 「マジで!? 嬉しい!」


 彩純を見る、二人の事務員の目は優しい。

 歓迎ムードを感じて彩純はホッと小さく息をつく。


 「まず自己紹介からだ」


 「はい!まず俺から。ブレット=カークランドです。よろしく!」


 「私はユアン=イングロット。これから同じ職場で働く者同士、仲良くやりましょう」

 

 「エリアスです。慣れないことばかりで皆さんにご迷惑をおかけすると思いますが、精一杯頑張りますので宜しくお願いします!」


 こうして彩純は二人の同僚に迎えられ、この世界で新たなスタートを切った。






 お互いの自己紹介後、早速仕事に入った彩純。

 とりあえずこれを。とユアンに簡単な仕事を渡され説明を受けつつこなしていった彩純をブレットは驚きの眼差しで、ユアンは満足そうに頷いて見つめた。


 「すげえ。簡単な仕事って言っても、普通はこんなにあっさりできないぞ」


 「それに仕事も速いです。これならもう少し難しい仕事を任せても大丈夫そうですね」


 「ありがとうございます。お役に立てそうで安心しました」


 こちらの仕事内容が見当もつかず不安だったが、正直これくらいの仕事なら日本でやっていた仕事よりも楽だった。これよりも難しい仕事と言われてもそれほど構える必要がなさそうで彩純は内心でホッと息をつく。


 「じゃあここらで一旦飯に行きますか」


 「…ああ。もうそんな時間ですか。では急ぎましょう。騎士たちが来る前に」


 「…? 騎士の方たちが一緒だとマズいんですか?」


 まさか騎士たちと事務方は仲が悪いのだろうか?


 彩純の不安が顔に出ていたのだろう。ブレットとユアンは慌てて否定した。


 「いや、違う。そういう意味じゃなくて…」


 「そうです。私たちと騎士たちの仲は良好です。ただ食事の時間だけは少し早めに行き、自分の食事を確保しなければ食いっぱぐれます」


 「……はあ」


 いまいち理解できていない彩純に、二人もこれ以上説明をするのは諦め食堂へと向かう。


 そうして連れて来られた食堂はとても広かった。

 二人に聞くと、あと数十分もすればここが騎士たちで埋まるというから驚きだ。


 「ほら、まずここでトレイを持って…」


 こちらの食堂は入口にあるトレイを持ちカウンターで食事を受け取るスタイルのようだ。


 「なんだぁ?新入りか?」


 二人に倣いトレイを手に取りカウンターへ進むと、カウンターの中からスキンヘッドの筋骨隆々の男が顔を出した。


 「ダッドさん。今日からうちで働くエリアスだ」


 「俺はここの厨房を任されてるダッドだ。…で、お前らの所ってことは事務か?」


 「はい。今日からお世話になるエリアスです。宜しくお願いします」

 

 「おーおー、こりゃアイツらが大騒ぎしそうだな」


 「……まあ、確かに」


 「 ? 」


 会話についていけず彩純が首を傾げていると、三人が彩純の顔を見ては溜め息をついた。


 「とりあえず慣れるまでは俺たちがついてますから」


 「そうですね。私たち三人が一緒にいれば大丈夫でしょう」


 「 ?? 」


 「こればっかりはどうしようもねえな。んじゃ早いとこ食っちまいな」


 よく分からないまま彩純は他の二人に席まで案内され食事を始めた。広い食堂にいるのは彩純たち三人だけ。本当にもうすぐでここが満席になるのだろうか。


 疑問に思いつつ、彩純はとりあえず一番知りたい砦のことや仕事のこと。同僚二人のことを聞いて情報収集に努める。


 「へえ、ブレットは俺と同い年なんですね」


 「まさかエリアスと同い年とは思わなかった…」


 「こうやって二人並ぶと兄弟みたいですがね」


 「それは勿論、俺が兄貴だよな!」


 「まあ、そうですね」


 苦笑しながら返すユアンを何気なく見ながら二人を観察する彩純。

 まず彩純の隣に座るブレット=カークランド。18歳。短めで明るい赤髪に琥珀色の瞳の爽やか系イケメン。子爵家の三男で、本当は騎士になりたかったが剣の腕よりも計算能力の方が高かったので事務仕事をしているらしい。

 次に向かいに座るユアン=イングロット。22歳。クセのない真っ直ぐな顎ラインまであるの淡い金色の髪に青色の瞳のインテリ系イケメン。同じく子爵家の次男でブレットとは幼馴染み。先に砦に勤めだしたのはユアンが先で、後から騎士になるためやって来たブレットを言葉巧みに誘い一緒に事務仕事をするようになったのだとか。


 「ひでえよな。俺は昔から騎士になるのが夢だったのに」


 「私が誘わなくても遅かれ早かれ挫折して騎士を辞めていたでしょうから同じですよ」


 「う……それはまあ、否定できない」


 「挫折…?」


 「いやあ、うちの騎士たち見てもらえば分かるけどな。俺とは違う人種かってくらい違うんだよ。身体つきとか、訓練の量とか」


 「ここが国境で警備の要ということもありますからね。精鋭を置いているんですよ」


 「そう言えば聞こえはいいけどな。早い話、王都から離れてるからお上品さが欠片も無い野郎どもの集まりだ。ったく、ここはどこの山賊のアジトだよ」


 「言い得て妙ですね。確かにうちの砦の騎士たちに気品はありませんね」


 山賊のような気品のない男たちの集団。

 話だけ聞いていると不安しかない。


 そんな話をしているうちに遠くの方が騒がしくなるのが聞こえた。


 「…戻ってきましたね」


 「うるさくなるなあ」


 「ええっと…?」


 「ああ、すみません。今日は月に一度の演習の日だったんですよ」


 「砦にいる騎士たちが最低限の警備だけ残して全員で近くの平原に行って演習するんだよ」


 「おかげでこの日は砦が静かで仕事が捗ります」


 「へえ…」


 二人の説明を聞いてる間に騒がしさがどんどん近づいてくる。彩純が食堂の出入口に顔を向けた途端、


 「うおっ!! 女がいるっ!!」


 最初に入ってきた騎士に顔を見られた瞬間、大きな声で叫ばれた。

 途端、後ろを歩いていたであろう残りの騎士たちがドタドタドタっと出入口に群がった。

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