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 魔女の老女ことアビーに拾われて半年が経とうとしていた。


 彩純あすみはこの世界での一般常識を生活の中で叩き込まれた。

 住処がある森の中にアビーと二人だけの生活。知識は備わったが他の人間を見たことがなく、実際森を出て街に行き生活出来るのか、まだまだ不安なところではあるのだが。



 「アスミ。話がある」


 夕食が終わり食器の片付けをしている彩純の背中にアビーが話し掛ける。


 「……今お茶入れるから、座って待ってて」


 それだけでアビーが何を話そうとしているのか察した彩純はぐっと奥歯を噛み締めお茶の準備を始めた。




 「……さて。お前さんがここに来てもう半年になる」


 「はい」


 「分かってると思うが、私がお前さんをここに住まわせてるのはこちらの世界に慣れるまでだ」


 「はい」


 「もう大体のことには慣れたし、知識も授けてやっただろう」


 「はい」


 「明日、出て行きな」


 「 !!……はい」


 出て行けと言われるだろう。そう覚悟していたが、まさか明日とは思わなかった。


 半年も一緒に暮らしていてこの対応は冷たいと、普通なら思うだろう。だが彩純には分かっていた。冷たく突き放しているように見えるが、本当はとても心配してくれていることを。できればこんな追い出すような事はしたくないと思っていることを。


 だが駄目なのだ。魔女とは誰かと馴れ合いながら行きていくことが出来ない。他者が側にいると魔女の力が弱まる。そういった誓約の下に生きていると、前に聞いたことがある。

 そろそろ潮時なのだ。


 ズルズルと引きずるのはお互いに良くない。だからそうと決まったらさっさと出ていくのが双方にとっては一番いいのだ。




 魔女の家を出てどこへ行ったらいいのか。

 彩純は考えに考えた。

 まず住込みで働ける職場を探したい。

 自活して生きていくには何よりお金を稼がなくては始まらない。

 だがこの世界は彩純がいた世界とは違い、女性が働く場所が少ない。


 野菜や生活雑貨を売っている店は家族経営だから赤の他人は雇わないし、女性が多い職場は針子などがあるが裁縫技術など、特別な技能が必要だ。雑巾なら何とか縫えるレベルの彩純には絶対に無理だ。


 食堂などの給仕の仕事は客に誘われれば娼婦の真似事もするので出来れば避けたい。処女ではないが知らない誰かと身体を重ねるのは抵抗があるし、医療水準も低そうなこの世界で変な病気を移される心配のある職業は嫌だ。


 だがこれ以外となると女の身で働ける職場が思い浮かばなかった。






 (やっぱりここか)


 彩純は魔女の家を出て一番近くの街に到着していた。

 そして雇ってもらえそうなところを片っ端から突撃してみたのだが、どこも断られた。

 ついに最終手段である食堂の前に来たはいいが、なかなか中に入る決心がつかずにいた。


 (背に腹は変えられないか……)


 魔女から餞別代わりに多少のお金はもらっていた。

 だが今すぐ働かなければ数日で尽きてしまう金額だし、この辺で一番大きな街がここなので、ここ以外の街では恐らく仕事は見つからないだろう。


 となればもうここしかない。

 彩純は覚悟を決めて食堂のドアを睨みそのドアに手をかけようとしたーーーが、


 彩純が開けるより先に中からドアが開いた。

 そこから出てきたのはボサボサの頭に髭だらけの顔のむさ苦しい男だった。

 その男は一緒に出てきた女の肩を抱き、夜の街に消えて行った。


 (無理無理無理無理無理っ!!)


 病気云々の前にあんな男の相手など生理的に受け付けない。

 元いた世界では風呂好きな日本人で生きてきたのだ。

 こちらの世界では普段は風呂には入らず盥に水を張って身体を拭くのが当たり前だが、それすらサボる男も多い。早い話、不潔な男が多いのだ。


 せっかく固めた決心もあっという間に崩れ、彩純は食堂の横の路地で蹲った。


 「……どうしよう。やっぱり私に娼婦は無理」


 とりあえず今日は何処か宿をとろう。

 一日歩き回った彩純は疲れた身体を引きずり宿屋を見つけ、受付カウンターの奥の壁を見て


 「これだー!」


 と叫んだ。


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