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風が通り過ぎる。
そよそよと優しい風であったけれど、短く切った髪のせいであらわになった項をくすぐる。
女ーーー男は強い意志を宿した瞳で目の前の門を見つめる。
失敗は許されない。何が何でもこの試験に通らなければ。
でないと自分は……
(野垂れ死にたくない!!)
江里口彩純がこの世界に来たのは本当に突然だった。
朝出勤しようと玄関のドアを開けたら森の中だったのだ。
コンクリートジャングルには住んでいたが本物のジャングルに住んだ覚えはない。
いつもの見慣れた景色はどこにも見当たらず、彩純は呆然と立ち竦むが、とりあえず一回部屋に戻ろうと振り返りドアノブを掴もうとしたらドアはどこにも無かった。
何だこれ。自分はドッキリにでもかけられているのだろうか。
辛うじて働いた思考がそう答えを出したが、そんな訳無いと冷静な自分が否定する。
(ちょっと待って、これってどういうーー)
「珍しい。こんな所で迷子かい?」
「 !! 」
後ろから突如聞こえた声に彩純はビクリと身体を震わせた。
「けったいな格好だねぇ。異世界ってのはみんなそんな格好なのかい?」
理解が追いつかない。
玄関開けたらいきなり森だったことも。
異世界という単語にも。
彩純の格好がけったいだと言われることも。
「お前さん異世界から来たんだろう?今日はやけに森の動物たちの落ち着きが無かったからね。こういう日は違う世界と混じりやすいのさ」
「異世界……」
「そう。ここはお前さんがいた世界とは違う世界だよ」
「そんな…ど、どうすれば帰れますか?」
「無い」
「……え?」
「だからお前さんが帰る方法は無い」
「なっ!…… 」
知らない場所。そもそも世界が違う。帰る方法も無い。いったい自分はこれからどうしたらいいのだ。
じわじわと薄ら寒い何かが這い上がってくる。
「はぁ。これも魔女の仕事さね。おいで。お前さんがこの世界で生きて行けるくらいの知識は与えてやるよ」
こうして彩純は住み慣れた世界を離れ、見も知らぬ異世界での暮らしが始まった。
今回も見切り発車ですが、頑張って完結させますので宜しくお願い致します.゜+.(´∀`*).+゜.