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彼女がストーカーで悩んでいる

  まさか、この私が被害に遭うなんて。



 ストーカーの存在に気づいた時、私が最初に感じたのは恐怖よりも驚きだった。際立った美人でもないし可愛げもない、生まれてこの方地味一筋22年。その私が、あろうことかストーカーに狙われている?何かの勘違いではないだろうか?心当たりは全くなかった。きっと欲求不満が強すぎて、自意識過剰になってるだけに違いない。終電を降りた帰り道、私は何度も何度も後ろを振り返った。



 この時間帯、いつもの見慣れた公園も錆びたカーブミラーも、朝方見せる顔とはまた違った表情を浮かべている。夜の住宅街の一角は不気味なほど静まり返っていて、猫の子一匹見当たらなかった。こんな静かな夜空の下に、伸びているのは私の影だけだ。普段住んでいるはずの街なのに、何だか違う世界に迷い込んだような気がして、私はぶるっと肩を震わせた。



 「…やっぱり」


 勘違いなんかじゃないみたい。

 後ろの道には誰もいなかった。それなのにさっきから、私を見つめる視線をずっと感じている。ストーカーなんて、私には関係のないことだとばかり思っていたのに。



 気がつくと、私は急ぎ足で夜道を駆け出していた。古びた電灯の光が、黒一色の足元を弱々しく照らしては消えた。


 このまま、一直線に自宅に向かってはまずいのでは?


 驚きがだんだんと恐怖に変わっていく頃には、私は角という角を滅茶苦茶に走り回っていた。しばらく距離を置いて、もう大丈夫だろうと振り返っても、見えない相手の視線は一向に消えることはなかった。ずっと後ろから、誰かが私を見つめ続けている。こうなるともう、恐怖は大混乱へと変わっていた。


「はぁ…っ…はぁ…っ!」


 足がもつれそうになりながら、転がるように誰もいない自宅へと駆け込む。普段は触ることもないチェーンを今晩ばかりはドアに取り付け、カーテンを引きちぎるような勢いで隙間なく締め切った。視線。一体誰の?会社?友達?わからない。怖い。怖い怖い怖い。頭の中を恐怖がぐるぐる回り続けた。寒くもないのに、体の震えが止まらない。私は全身を毛布ですっぽりと覆い、暗闇の中でぎゅっと膝を抱えた。



「何で…!?」


 それでも消えてくれない、突き刺さるような視線。首筋に迫るその感覚に、私は恐怖で凍りついた。


「お願い、もうやめてよ…」


 もっと可愛い子はいるんだし、何も私じゃなくたっていいじゃない…。姿の見えない相手に、私は声を震わせた。毛布の中にまで入り込んで、視線は私を逃すまいと覗き込んでくる。



 …こんなことなら、気づかなきゃよかった。

 まさかこんな短編小説の中の私を、画面の向こう側から誰かがじっと、今もこうして見てるだなんて…。

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