夢[4-1]
いつも通りの朝だ。
だった。
――ヒトミさんが項垂れている以外は。
「どうしました……?」
理由はさっぱり解らない。どうしたんだろうか?俺は何か気に食わない事でもしてしまっただろうか?
解らないままずっと居るのは気分が悪い。聞いてみることにした。
「何か有りました?……それとも俺?」
「ぐすっ」
鼻を啜るような音がした。そこまで行くくらいの物なのか。
「し、シュウ君……」
「何ですか」
狼狽えたい気持ちを押さえて、あくまでも冷静に振る舞う。こうする事で、少しは落ち着いてくれると良いのだが……
「……うぅ〜っ。ねえ聞いてよ」
「聞いてますよー」
「あのねあのね……何でか解らないんだけど、昨日聞いた事全部忘れちゃったの!!」
「また教えましょうか?」
「ほ、本当?」
こんな事で嘘を吐いても仕方ない。頷いて言おうとした――
が
――――
何か、
聞こえる。耳鳴りだ。キィンと甲高い、思わず耳を塞いでも治る事の無い、不快過ぎる音。
それと同時に目の前が暗く、暗く、暗く。……
何も解らない。吐き気がする。ああ、何も出来ない。思考だってこんな無意味な叫びを滔々とあげ続ける事しか出来ない。
幻影は見えないし幻聴も聞こえない。其れは幸いな事かもしれないが其れが逆に、思考を止めて居る気がする。
奇妙な空間に囚われ続ける事で気が狂うかも知れないと――初めて思った。此れまでは、ヒトミさんと話をしたりして、気をまぎらわしていたからだろうか、何もその様な事は感じなかった。夢だと解っていたし、安心して何でも行動していた。……。
……
…………夢?
だったっけ?
其れにしては随分と味覚も、触覚も、嗅覚も、視覚も、痛覚も、何もかも冴え渡り過ぎてやしないだろうか?
これは最早夢ではなく、何か別の時間軸に飛んでいってるんじゃあ無かろうか?小説ならば珠に有る、「平行世界」とか言う奴なのでは無かろうか?
解らない
解らない
解らない
此の世界は、本当に夢?