現実[3-2]
悩んでいた。
目の前にはワープロソフトの画面が開かれたマイパソコン。その原稿は真っ白なままで、約30分ほど放置されている。
いや――、勿論俺も書こうとして何度かキーを押そうとしていた。実際押して、何文字か入れる事さえした。しかしそれは一瞬の事であり……直ぐに、白紙に戻る。
デリートデリートデリート……
「くそ……」
何を書けば良いんだよ。
いや、厳密に言うと書きたいことは全て決まっているのだ。しかし、
「本当に此れで良いのかな……」
と言う事で、延々と悩み続けているのだった。
しかし初めてみなければ何も始まらない。そう言うわけで、何回も何回も――それこそ堂々巡りになって結局全く進歩していなくても――書いては消すのを繰り返し続けているのである。
[こんな夢を……]
いや、此のフレーズは有名過ぎて使えない。あの文豪を、俺ごときの素人高校生が真似るなどとんでもない。デリートデリート……
「……此れなら書けると思ったのに」
言葉が浮かんでこないのだ。俗に言う「スランプ」という奴なのだろうが、此れは猛烈にしんどいものなのだと今初めて知った。
今までは、仮令どんなに下手くそで有ろうとも最初から詰まるなんて事は何一つ無かった。怖いくらいに出て来ないのは今回だけだ。
暫くしてから、乱暴にキーボードに倒れ込んだ。
[せjmあやdbyぴgっwwwwwwwwwwww………………]
向こうの俺に笑われているような気がした。……
そして、
「文化祭で出す作品、本当にこれでイイの?」
携帯に現れたその文字は部長のものだ。さっき送った俺の小説を読んでの反応だろう。
俺の書いた話は、昔に書いた作品だ。だから今のよりも見劣りするし、書き方も全然違う。因みにこの部長、俺と中学が同じで、更に中学の文芸部のOBでもあるから、実は少しだけ長い付き合いなのだ。彼が俺と共に所属していたのは1年間だけで、しかも2学期末を以て引退してしまったが、良く部室を訪れて来てくれていたので、丸3年の付き合いであるわけだ。
「これって中3の時に文芸部雑誌に載せてたやつだろ?今の修也ならもっとイイのできそーだけど。」
「本当にこれで行くの?書き直しは?」
俺の返事が無いままに書き連ねられてゆく部長の言葉。やっと重たい手を動かして、言いたいことを打ち込んだ。
「これでいいんです」
直ぐに反応が有った。
「本当に?後で差し替えは出来ないからな、もう明日には締め切りだし」
「大丈夫です、これで。
今回は……何一つ、全く思い出せないんす。書き直しもどう書き直せば良いか……」
今度は暫く間が空いた。考えているのだろう。俺がこんな困らせるような事を言ったから、実に困惑しているのだろう。もしかしたら他の部員にも相談しているかもしれない。だからといって、今は何もする気にはならなかった。
「解った。……じゃあこれでいくぞ」
こう返ってきた。渋々、といった雰囲気が色濃く感ぜられた。声を荒らげて規則を強要する性質の人じゃなくて助かった。
何も思い浮かばなかった。
何も。