おやすみ八月
交わさなかった言葉が
仇になる八月
夏が終わる
やんわりと過ぎて行く夕陽に
君は密かに私を沈めて
私は君の面影ばかりを追う八月
あんなにも激しかった声は
鳴りを潜め
甘い思い出だけを寄越し
静かに蝕んでいく
ささやかな傷の
声なき声に耳を塞ぎ
アルバムに綴るように
君の画を瞬きに閉じ込める
おくり方を知らない夜の中
寝付けない八月が終わる
例年通りの蒸し暑さが
例年通り過ぎて行くなら
アスファルトの蝉を跨ぎ
君は私を思い出に変えながら
その感傷を躊躇わず
秋のせいにしてしまえばいい
心なしか冷えた風と
君と交わすはずだった言葉が
君と私のサヨナラだとしたら
惜しむことも
省くこともせずに
届けただろう
君と私が夏を越える
おやすみ
捲った季節に
隣を歩まぬひと
おやすみ
まだやけた砂浜に
足跡を残すひと