4.
それからしばらくが過ぎた、月の青い夜の事です。
とぷんと何の前触れもなく、島は海中に沈みました。誰一人の声すらない、それはそれは静かな出来事でした。
天然自然が時に見せる凶相であると、訳知り顔に講釈する者もいます。
島民たちを愛してやまない海神が、島丸ごとを己が懐に抱き寄せたのだと物語る者もいます。
諸説は紛紛と交わされました。
でも一体何の重みが島を沈めてしまったのか、全てはもう深い深い海の底でした。
誰にも本当はわかりません。
けれど、今も。
船が島のあった辺りを渡る折、歌のする事があるのだといいます。
幽くも妙なる調べが、耳に届く事があるのだといいます。
甘く、哀しく、愛おしく。
大切な、とても大切な人へのひたむきな想いを歌い上げるその旋律は、心の奥底まで雨のように染み込んで琴線をかき鳴らしてやみません。
親を、兄弟を、恋人を。
妻を、夫を、息子を、娘を。
逢いたくてたまらない顔を胸に呼び起こして、誰にも苦しいほどの郷愁を掻き立てるのでした。
海すらもこれに聞き入るようで、その折風は唸りを抑え、波は騒ぎを潜め、だから人も息を殺して、じっと耳を傾けるのでした。
一度聞けば忘れられない旋律は、やがて人伝て口伝てに遠く広く歌い継がれて、最早知らぬ者とてありません。
そうして、ただ、美しい調べとして。
二人の恋歌は海を渡り、今日も世界を巡るのです。