01
暑い。
夏の体育館に全校生徒を詰め込むなんて暴挙だ。
なんで終業式なんてやらなきゃいけないんだろうな。
さっきからずっと校長が何か話してるけど、声がくぐもっててよく聞こえないし。
前の笹倉が振り向いた。小声で、
「話長いよな」
とうんざりしたような顔をする。
笹倉裕也はぼくのクラスメイトだ。
ぼくの名前は狭山小春、だから出席番号が前後でそれなりに仲がいい。
ちなみに校長は、入学式の時から集会のたびに、よく聞こえない話を長々とするんだ。
今回は暑さのせいか、いつもより余計に長く感じるね。
「そうだね。にしてもなに言ってんだろう」
ぼくはそう切り返す。校長が何を言ってるのか、ぼくは割と気になるタイプなんだ。
「もし分かってもいいことねえよ」
笹倉がため息をつくように言う。笹倉は気にならないタイプみたいだな。
「確かになにもなさそうだ」
ぼくは笹倉に合わせて答える。わざわざ反対意見言うのもあれだしね。
へへへっ、と笹倉が笑う。
すると校長が突然、
「そこ、静かに」
と、はっきりとした声で言った。
ぼくらのことを言っているみたいだ。周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
笹倉はさっさと前を向く。
「笹倉のせいでぼくまで笑われたじゃないか」
ぼくは言い訳をするように小声で言った。
「わりぃわりぃ」
笹倉は前を向いたまま小声でぼくに謝った。返事したぼくも悪いのは内緒だ。
校長がぼそぼそとつぶやいたまま、副校長に連れて行かれた。
この学校の名物らしい。あちこちから笑い声がきこえる。
体育教師の篤井知彦先生が閉会の言葉を口にする。
「えー……これで終業式を閉会とする!くれぐれもハメを外さないように。じゃあ各自クラスに戻れ」
周りがガヤガヤと騒ぎ始めた。
塾が忙しいだ、海に行きたいだ、宿題をやりたくないだ、楽しそうに話してる。
いつもならうつむいていたかもしれないけど、今年の夏休みはぼくも楽しみな予定がある。
時間はさかのぼって七月一日、梅雨が明けジリジリとした暑さが、ぼくをじんわりと汗でしめらす。
今は図書館にきている。とくに本が読みたいわけじゃないけど、ここ最近はよく来る。
「待ってよー!あいつがやるなら私もやるからね!」
廊下からハリのある大きな声が聞こえる。
声の主がもう一人の女の子と一緒に、図書室に入ってくる。
そのもう一人の女の子が、ぼくのほうを向いて微笑んだ。
「やっぱりここにいた、小春くん!ちょっときて!」
手を振りながらぼくの名を呼ぶ。
彼女の名前は村上 しおり、一個上の先輩だ。
ぼくは待っていたかのように、というか待っていたんだけど、
席を立ち、本を片付けて彼女の元へ駆け寄った。
「うわっ」
「小春くーん!うりうりうりー!」
村上先輩がぼくに抱きついてきて、服の上からでも分かる成長した胸を、ぼくの顔に押し当てる。
ぼくは思わず息を止め、顔を赤くする。これは期待してない。
「ちょっ、やめてくださいよ先輩!」
ぼくは慌てて村上先輩の肩を押して先輩から離れた。
あっさりと離れた先輩はそんなぼくを見てにんまりと笑う。
ぼくはその顔が好きだ。
「小春くんいつもそういう反応してくれるから好き!」
そう言ってまた抱きつこうとしてくる。右に行くフェイントをかけ左に避ける。
先輩はまんまと引っかかる。抱きつくのは勘弁してほしい。
先ほど大きな声を出していた女の子が、
「そこら辺にしときなさいよー。ここ図書室なんだから」
と、小さな声で注意してきた。
彼女の名前は吉田理沙、
同じく1つ上の先輩で、村上先輩とは小学校からの幼馴染みだそうだ。
いつも村上先輩と一緒にいて、ぼくはたぶん邪険にされてる。
「うーん……まぁそうだね……あ!そうだ!小春くんに話があるの!とりあえず私たちの教室に行こ」
村上先輩は思い出したって顔でポンと手を合わせて、ぼくの手を取ると図書室をいそいそと出た。
ぼくはその手に引っ張られて同じく図書室を出る。