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第52話 異世界クラス会議(第5回)

※現在4章を読みすすめている方へ

 平素より人外転生をご愛読いただきありがとうございます。

 この4章なんですが、8月18日あたりを目処に一気に改稿を行う予定です。

 改稿といっても細かい展開の修正や入れ替え、冗長な描写の削除がメインになり、全体の流れに変化はありません。

 犬神響が消えたという事実は、歓迎会の途中で発覚した。竜崎は、いったん隣に座るウェルカーノに断りを入れ、そしてベルゲル酋長にも断りを入れてから、広場を後にして重巡分校へと向かった。

 体調を崩した紅井の護衛として、空木恭介や佐久間祥子たちが待機している。彼らに相談をするためだった。ゴウバヤシには目で合図を送り、その場にとどまってもらう。


「はいっ! じゃああたし、タクシー使って74に移動します! どう、捕まった!? 捕まった!?」

「いや、まだ。えーと、じゃあMr.Xの行動な。ここでバスを使って……」


 分校の甲板では、恭介たちがスコットランドヤードに興じていた。

 海外製のボードゲームだ。詳しいルールは竜崎も知らない。古城からの押収品のひとつである。


「現在位置は102」

「うそぉ!?」

「だから姫水、僕はさっき地下鉄で右に行こうって言ったじゃないか……」

「うん、私も言った……」

「じゃあ、もっと強く引き留めてよぉ!」

「てか、ウツロギ、ずいぶん騙すの上手だね。それも成長?」

「はは、なんか複雑だな……」


 ルールがわからないと何を話しているのかさっぱりだが、楽しそうで何よりだ。

 今は紅井も調子が良いのか、ボードゲームに参加していた。というか、遊んでいるのは重巡分校に残っている全員だ。恭介、瑛、凛、紅井、佐久間、それにゼクウである。言葉の通じないはずのゼクウが、それなりに複雑そうなボードゲームにプレイヤーとして参加しているのは意外だった。


「凛たちが迷走している中、ゼクウの読みが的確すぎて怖いんだけど……」


 しかもかなり健闘しているらしい。


 と、そんな呑気なことを考えている場合ではない。竜崎は事態の相談をするべく、片手を挙げた。


「あ、竜崎くんだ。やほー」


 まっさきに凛が気づいて、全身を振りながら挨拶してくれる。


「竜崎、歓迎会の方はもう終わったのか?」

「いや、まだだ。ちょっと問題が起きたから、報告に来た」


 簡潔に告げると、一同は表情を引き締め……たのかは、ちょっとわからないが、空気には緊張感が混じった。

 恭介が、手元のメモボードのようなものを甲板に置く。


「何があったんだ?」

「結論から言うと、犬神が姿を消した」


 空気に混じった緊張感が、より大きく確かななものになるのがわかった。


 そもそも、恭介たちがこの重巡分校で寝込んでいる紅井を護衛しているのは、その犬神の報告によるところが大きいからだ。この島に、吸血鬼がいる。その存在を嗅ぎ取る能力で言えば、おそらく犬神は紅井よりも優れている。

 竜崎は、彼女に一人で無茶をしないよう言い含めておいたつもりだが、一匹狼にはさほど大きな効果はなかったようだ。


「犬神さん……。私が、ついてればよかったのかな」


 佐久間がぽつりと言う。確かに、彼女は現状、犬神響の手綱を握れるほぼ唯一の生徒だ。だが、ここでそれをどうこう言っても仕方がない。


「姿を消したって、そもそもどういうことだ? 歓迎会の会場からいなくなっただけか?」

「そうだよ、ウツロギ。だから、まだあいつが危険な目にあったかどうかはわからない。けど……」

「まあ、犬神が単独行動するなら、十中八九血族絡みだからな……」


 恭介は腕を組んで頷く。


「犬神が連中と交戦した可能性があるならば、急いだ方が良いな」


 その横から、瑛が言った。


「犬神は転移変性ゲートを通ってモンスター化したわけではない、生まれつきの人狼族だ。血族には彼女を生かしておく理由がない」


 彼の言葉通りである。もし、犬神が単独行動の結果、血族に遭遇しているのであれば、事態は最悪の結果に推移している可能性すらある。状況の不透明さが、妙な居心地の悪さを作り出していた。

 既に、2年4組は小金井を連中にさらわれ、鷲尾を殺害されている。この上で犬神まで、というのは、非常に歯がゆいものがある。


「ともあれ、スコットランドヤードやってる場合じゃないね」


 凛はきっぱりとそう言って、甲板に広げたボードゲームを仕舞い始める。状況を飲み込めていないであろうゼクウだけが、なんだか妙に寂しそうな表情をしていた。ゼクウの肩を、ぽんぽんと叩く凛。


「うんうん、また今度やろうね。カタンとかドミニオンとかね。あたしはルール知らないけど、さっちゃんが全部知ってるからね」

「それで、どうする。もう日は暮れてるが、これから吸血鬼を探すのか?」


 恭介の発言は、おそらく竜崎だけに向けられたものではないだろう。同じ血族の一味である紅井にも、確認をとっている。紅井は昼間に比べて体調が良くなっているようではあるのだが、渇血症を発症していることを考えると、無茶はさせられない。それどころか、血族は紅井の不調を知って動いている可能性さえある。

 紅井が何も言わないので、竜崎は自分の意見を述べることにした。


「まずは、犬神がいなくなった件を、ウェルカーノさんやベルゲル酋長に伝えるかどうかだ」


 そう言って、竜崎は指を折る。


「彼らが俺たちを完全に信用していない、という以前に、あの人たちが吸血鬼と関係している可能性がある。あまり、迂闊なことは言いたくない」

「でも、吸血鬼とつながりがあるならどのみち犬神のことは知ってるはずだから、隠しておいてもしょうがないんじゃないか?」


 それも、そうだ。言われて気が付いた。やはり、自分だけで考えると、どうしても頭が凝り固まってしまうものなのか。

 恭介の言葉に、瑛が捕捉を入れる。


「むしろ、彼らが吸血鬼と繋がりがあるのなら、こちらから犬神がいなくなったことを伝えないのは、不自然に受け取られるはずだ。犬神が消息を絶ったことを伝えて、その反応で状況を占う方が良い」

「瑛、その反応で……って、どういうことだ?」

「つまり恭介、彼らが何も知らない善意の人間ならば、犬神がいなくなったことに同情的な対応を示すはずだ。そうではなかった場合。あまり真剣みが感じられなかったり、あるいはその情報を邪険に扱おうとしたりすれば、彼らが血族と繋がっていると見て良い」


 理屈で考えれば至極当然であると思うほどに、瑛の指摘はもっともだった。こういう時、はっきりと頼りにできる男だ。航海中は船酔いですっかりダウンしていたが、その分、こうした時の発言は信頼性が高い。恭介、凛、そして佐久間は、瑛の言葉にいちいち頷いていた。


 となると、次の問題だ。

 まずこの島に潜んでいるであろう吸血鬼に対し、こちらが完全に後手に回っているということを、改めて自覚しなければならない。相手は、紅井の状況を知っているのか。どのような目的を持って接触してくるのか。犬神は無事なのか。無事だとして、どこにいるのか。


 あらゆる情報が、圧倒的に不足している。


「単なる殴り合いなら、負けないんだけどな……」


 恭介が、彼には似合わない珍しい台詞を吐いたので、竜崎は目を丸くした。


「ウツロギ、ずいぶん強気だな……」

「恭介くんはね。新しい自分を探してキャラ付けの真っ最中なんだよ」

「変な言い方をするな」


 ぺちん、と恭介が凛をひっぱたく。それをちょっと羨ましそうな目で佐久間が見ていた。


 この業の深い三角関係には、あまり踏み込まないようにしたいものだが。


「まぁ、明日香を動かせない以上、ウツロギと凛が実質クラスの最強戦力なのは間違いないんだけど、相手の動きも場所もわからないんじゃ、手の打ちようもないのは、確かだな」


 考えてみれば、今までクラスが陥った危機というのは、ほとんどが正面からの腕力で解決できるような事態がほとんどだった。今回のように、攻めるにも守るにも情報が少なく、まともに身動きが取れないというのは、なかったパターンである。

 だからこそ竜崎も動きようがなく、恭介たちに相談しにきたのだ。結果、多少実りのある意見を得られはしたが、やはり事態は進展していない。


「とにかく、」


 そう言って、恭介は立ち上がった。


「レッドムーンの吸血鬼がこの島にいて、既に犬神と接触をしているなら、俺たちがこの島にいることはバレている。相手の目的はまだわからないけど、クラスメイトはある程度ひとつのチームにして行動させた方が良い」

「確かに、そうだな」


 竜崎も頷く。

 レッドムーンの吸血鬼は、転移変性ゲートをくぐってモンスター化した生徒たちを、戦力として取り込むことを目的としている。この島で単独行動するのは危険だ。まずは、これ以上はぐれる生徒が出ないよう、最大限の気を遣う。


 これはいわば“護り”の話だ。


 そして、犬神が敵の手に落ち、行方不明になっている以上、“攻め”の話も必要になってくる。

 それを果たしてどうするか、ということなのだが。


「水臭いぜ、委員長。俺たち抜きでそんな大事な話をしているなんてよ」


 後ろから声が聞こえた。竜崎が振り返ると、そこにはギルマンの魚住鮭一朗が、いつの間にか船べりに背中を預けるようにして立っている。


「おっ、みんな帰ってきたね」


 凛が明るい声で言った。彼女の言う通り、そこにいたのは魚住だけではない。

 砂浜の方へと伸ばしたタラップを登って、2年4組の生徒たちがぞろぞろと帰ってきているところだった。中には当然、ゴウバヤシもいる。恭介たちは、他のメンバーの帰りを普通に出迎えたが、竜崎は少し、困惑した。


 歓迎会は“宴もたけなわ”といった状態であった。大盛り上がりの中だから、竜崎はこっそり抜け出してきたのである。あれから、そう何分も経ってはいない。彼らは、歓迎会の途中、全員で抜け出してこっちにきてしまったということなのだろうか?

 密林の奥、広場のある方向からは、まだかがり火の光が夜空を照らして見える。


「委員長、犬神がいなくなったんだって?」

「状況はわかっているのか?」

「やっぱ、あの吸血鬼連中の仕業なのか?」


 生徒たちは、甲板に押しかけながら、グイグイと詰め寄ってくる。竜崎は少し、恨みがましい視線をゴウバヤシに送った。その場にとどまるよう、目できちんと合図を送ったつもりだったのだが。


「あの視線は、竜崎。俺は『クラスのみんなを頼む』という意味だと受け取ったのだが」


 ゴウバヤシは腕を組んだまま言った。


「そのクラスのみんなが、こんなものを回してきたので、歓迎会の席を抜けることにしたのだ」


 そう言って、ゴウバヤシが取り出したのは、一枚の小さな紙切れである。

 折りたたんだメモ用紙のようなものだ。竜崎が訝しげな顔をしている横で、恭介がそれを手に取って、開いた。


「『委員長と犬神がいなくなってる。気になる人は隣に回して』。おお、授業中にこういうの回してる奴いたなぁ。俺のところには回ってこなかったけど」

「恭介くん……。このタイミングで友達少ないネタを挟むのはやめようよ……」


 竜崎は、恭介の開いたメモ帳を黙ったまま覗き込む。筆跡を見ただけで、それがクラスの中の誰なのか一瞬で把握したが、それを口に出したりはしない。歓迎会の席で、2年4組のクラスメイトは、海上キャラバンの商人たちと共に円周状に並んでいた。これを書いた生徒は端っこにいたし、ゴウバヤシもその反対側の端にいた。つまり、このメモは、クラスの全員が目を通していると思って間違いはないのだ。


 彼らがここにいるのは、クラスメイト達の総意ということになる。


「さすがにクラスメイトが姿を消して、呑気にしていられるほど薄情じゃないさ」


 猫宮が、いつもの気取った調子でそう言った。


「鷲尾みたいなことがまたあったら、イヤだろ」


 白馬の物言いはそっけないが、語調はやや強い。


「こいつは、アレだなぁ竜崎。また異世界クラス会議だな」

「ああ……。そうしたほうが、良さそうだ」


 恭介の言葉に、竜崎は頷いた。





 とは言え、ここで新たにしなければならない事実があるわけではない。甲板で急遽開かれた第5回異世界クラス会議は、もっぱら、今後このアルバダンバでどのように行動していくべきか、犬神をどうやって探すかという点に焦点が置かれた。

 恭介も竜崎も、クラスメイトの決意が予想以上に硬いことに、少し戸惑っていた。いつの間にか、というべきなのか、あるいは遅々とした変化は既にあったのか、彼らは犬神を喪うことに強い忌避感を抱いていたし、それを回避するためには、吸血鬼たちと事を構えることになる、という事実から、目を背けようとしたりは、していなかったのである。


「成長してるのは、恭介くんだけじゃないってことだよ」


 と、凛は耳打ちするように言っていた。


「ひとまず、明日、ウェルカーノさんとベルゲル酋長に、犬神がいなくなったことを伝えるつもりだ」


 竜崎は、一同に対してそう言った。


「その上で相手の出方を見て、対応を変えて行こうと思う。で、問題は、どうやって犬神を探すかなんだけど……」


 その中で、おずおずと手を挙げる少女の姿がある。

 アルラウネの花園華だ。普段から自己主張をあまりしないタイプの生徒なので、一同の視線は一気にそちらへと向けられた。


「えぇと……あたし、この島の木とか草に聞いて、探してみようと思う」


 植物の声を聞けるというアルラウネの能力を、家庭菜園以外に初めて生かそうという、花園の意思表示である。そこから少し離れた場所で、茸笠も頷いていた。頷くたびに胞子が飛ぶので、他の生徒たちが退避する。


「じゃあ、俺もこの島のキノコに聞いて、探してみようと思うぜ」

「この島、キノコ生えてるのかなぁ」

「結構毒々しい奴がいくつか生えてたから、いけるはずだ」


 不安そうに頬を掻く竜崎に、茸笠は力強くコメントした。


「なるほど、じゃあ俺も、この島に自生している触手に聞いてみるか……」

「触手って自生しているもんなのか……?」

「結構毒々しい奴がいくつか生えてたから、いけるはずだ」


 触手原も力強くコメントした。


「まぁ、とにかくわかった。一番手がかりが多そうな探し方だな。ウツロギ、花園たちの護衛には、おまえと凛がついてくれ」

「ん、わかった」

「任されたー」


 こちらが犬神の居場所を探しているとわかれば、吸血鬼たちも放ってはおかないはずだ。ナイト級の吸血鬼を圧倒できる、恭介と凛をその護衛にまわす。


 他にも、飛行可能な生徒たちが空から探すなどといった案が飛び出す中、ケット・シーの猫宮美弥はこのような提案をした。


「犬神の居場所がわかった場合、すぐに突入できる身軽な救出部隊を、スタンバイさせておいた方が良い。《影渡り》を使用できるボクと、あとは猿渡みたいな身軽な生徒が欲しいんだが」

「わかった。編成は猫宮に任せる。救出班に編入された生徒は、いつでも連絡が取れる場所……。でも分校ここじゃない方が良いな。歓迎会をやった集落の近くで、待機していてほしい」


 この救出部隊には、ゴウバヤシを護衛としてつける。平均的な戦闘能力は高いチームになるはずだが、ポーン1体と渡り合うにもやや力不足だ。その点、ゴウバヤシなら、ポーン程度の吸血鬼に後れを取ることはない。


「では、我はこの分校の護りにつこう」


 いつになくはっきりとした声で、原尾真樹が言った。ポーン級の戦闘能力を有する生徒は限られるから、どのみちそうした配置する予定ではあったが、彼の方から申し出てくるとは、やはり意外である。


「分校の護りは、実質明日香の護衛よね? アタシも回るわ」


 そう言って手を挙げたのはカオルだ。そう、分校の護りは、紅井の護りである。

 彼らの出方がわからない以上、不調の紅井を無防備にしておくわけには、いかなかった。


 生徒たちが積極的に力を合わせ合うと、こうも話がスムーズに進むものなのか。竜崎は驚きを隠せずにいた。今まで一人で悩み、ときおり頼れる友人に相談し、頭を痛めて班分けなどを考えていたのが、如何に非効率的だったのかを思い知らされる。

 ようやく、クラスは本当の意味での団結を見せ始めていたのかもしれない。


「他のみんなには、明日以降も、何食わぬ顔で交易会の準備を進めていてほしい。犬神や、島の吸血鬼の問題は緊急を要す話ではあるけど、この交易会だって手を抜けないイベントなんだ。これが成功すれば、紅井の血だってもらえるかもしれないし、大陸にもう一度渡った時、キャタピラユニット用の資材を準備できるようになるかもしれない」


 竜崎の言葉に、一同は頷く。


 このアルバダンバで、吸血鬼との戦いが起きるかもしれない。だが、出来ることならその戦いに、島民や商人たちを巻き込みたくはなかった。なにも人道的な理由だけではない。彼らの不信を買うような真似は避けたいからだ。

 捜索部隊、救出部隊、そして分校の護衛部隊に別れ、残る面子は交易会の準備を進める。広くはない島だが、決して狭くもない。仮に戦闘が起こったとしても、意識がそちら側に向かないような工作を、進める必要がある。


 もちろん、ウェルカーノやベルゲル酋長が、吸血鬼と無関係だった場合はの話だ。


 見たところ、あの2人はただの人間だ。吸血鬼でない以上、御しようはあるのだが、


「……佐久間、」


 竜崎は、それまで黙っていたサキュバスの少女に声をかけた。


「もしもの時、ウェルカーノさんやベルゲル酋長に《魅了》をかけてくれって言ったら、できるか?」


 その問いを受けた時、佐久間は不意を打たれたような表情を作った。口を結び、視線を落としてさまよわせる。浮かび上がる葛藤。佐久間の視線が、一瞬恭介の方へと向かったのを、竜崎は見逃さなかった。

 だいたい、察する。


「……わかった。心の準備が必要なら、無理強いはしない。慌てて心の準備を整える必要もない。良いな?」

「……うん」


 言わんとしている意味を、佐久間も察しただろう。

 《魅了》を使えるか否か、という問いが状況を不安定にするのなら、最初からないものと割り切ってやった方が良い。佐久間が覚悟を固める為に、準備が必要だというのなら、なおさらのことだ。


「竜ちゃん、《魅了》が必要なら、アタシを呼んで頂戴」

「ああ、頼りにしてるよ。カオルコ」


 5回目のクラス会議は、だいたいそうした話し合いの中で、幕を閉じることとなった。





 翌朝早朝、恭介たちは犬神の捜索に出発することになる。


 捜索メンバーは花園、茸笠、触手原。その護衛役として恭介、凛がつく。さらに、瑛もこのチームに加わって、計6名となった。密林の中を歩く場合、瑛の能力は使いにくいが、彼と合体して空から俯瞰できるようになるのは大きい。

 班長が一人もいないチームになってしまったので、リーダーには恭介が任命された。


「……俺、そんなガラじゃないんだけど」

「じゃあどんなガラ?」

「そりゃあダシガラだよ」


 と、言う一発ギャグを、一晩かけて凛と一緒に考えたのだが、あまりウケは良くなかった。


「ウツロギ、あまり変にキャラたてようとしない方が良いぞ」


 茸笠に余計な心配までされてしまう始末だった。


「茸笠、恭介は自分の殻を破って新しい恭介になろうと努力しているんだ。良いことだよ」

「瑛、余計なこと言わなくて良いから……」


 “空っぽ”と“変なキャラ”のどちらがマシかは、悩ましいところであるのだが、さておき。


「冗談はここまでにしよう。一応、これから犬神の捜索に出る」


 砂浜には、波の押し寄せる静かな音が響く。日の昇りきっていない空は紺色で、帰りの遅い星がそこかしこで瞬いていた。まさに早朝だ。浜の方へと流れ込む海霧が、視界を妨げている。

 本当は、捜索が決まった昨晩のすぐにでも、捜しに行きたいところだったのだが、それは竜崎に止められてしまった。夜間の捜索はあまりにも危険だからだ。ここは見知らぬ土地で、魔獣の住まう密林があり、更に吸血鬼が潜んでいる。島民も、必ずしも味方とは言い切れない。様々な事情を考慮し、出来うる限り譲歩した結果、夜がぎりぎり明けたくらいの時間帯に、捜索を開始することになった。


「犬神さん……。無事だよね」


 ぽつり、と花園は言った。


「楽観視はできない」


 瑛が冷たい言葉を放つ。


「が、悲観視する必要もない。吸血鬼と接触したという情報自体、僕らが割り出した類推に過ぎないからね。案外、チョウチョを追いかけて密林の中をさまよっているだけ、という可能性もある」

「うん……」


 花園は、その言葉にしっかりと頷いた。


「で、恭介くん。これからどうすんの?」


 密林の方に視線をやる恭介に、凛が尋ねる。


「どうするって?」

「そりゃあ、アレだよ。触手やキノコはともかくとして、草木なんてそこらじゅうに生えてるじゃん。華ちゃんにひとつひとつお話しさせてたら日が暮れちゃうし……」

「ひとまず、昨日歓迎会があったっていう広場の方まで行ってみよう」


 恭介は、一同をぐるりと見回して言った。


「犬神が歓迎会を抜け出してどっちへ向かったのか。まず、足取りを追って行こう」

次回は明日朝7時更新だすー。

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