表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスまるごと人外転生 ―最弱のスケルトンになった俺―  作者: 鰤/牙
第二章 神代高校魔王軍、東征す
18/115

第16話 魔王委員長の憂鬱

「い、いったい何が起こってるんですかぁー!」


 オウガの背中で、少女は困惑していた。


 目が覚めたら、えれぇことになっていた。そもそも、自分がオウガに背負われているというこの状況が異質だ。

 オウガは本来、人類の天敵である。個体差はあれどその性質は粗暴。膂力は人類をはるかに凌駕し、拳を振るうだけで大抵の人間は血袋になる。その食性について多くを知られてはいないが、少女の祖国では肉食性であることが確認されていた。個体数は少ないが生息域が広く、城壁の向こう側にも存在しているのだろう、とは思われていた。


 そのオウガに背負われている。しかし、どうもねぐらに持ち帰って、バリバリ食べよう、というわけではないらしい。


 異質な状況はそれだけではない。まず、少女を背負うオウガが本気で逃げているということだ。

 そして、オウガを追いかけているのがウィルドネスワームであるということだ。


 ウィルドネスワームは、時折城壁の外に存在を確認される大型モンスターである。砂漠に生息するサンドワームの亜種であり、荒野の硬い地層を食い破りながら進むことができる。一体一体の持つテリトリーがかなり広く、城壁からも同時に2体以上のウィルドネスワームが確認されたことはない。

 どうやら、生態系の上位に君臨すると思われたオウガでさえも、ウィルドネスワームにとおっては捕食対象でしかないらしい。


 なるほど、セレナはまたひとつ賢くなりました。


「って、違う違う! どういうことなんですか! ねぇ、これどういうことなんですか!?」


 オウガの角をひっつかんで尋ねてみても、当然返事はない。


 少女は徐々に、思い出しつつあった。赤い翼の悪魔に襲われ、行き倒れになりかけたところを、謎の二人組に救ってもらったのだ。その二人組は、ゼクウと呼ぶ存在に少女を運ぶように頼んでいた。おそらくは、このオウガの名前がゼクウなのだ。

 少女は、ゼクウの角を掴んだまま、後ろを振り返った。


 ウィルドネスワームの恐ろしげな威容。


 全長は一般的な人間の約10倍、直径は2倍近くといったところか。口元に生えそろった牙は、硬い岩盤すら掘削するはずだ。いや、撒き散らしている涎は、あるいは強酸性なのか。これで岩を柔らかくし、牙で掘り進む。合理的だ。


 めちゃくちゃ怖い。


 失禁を堪えるのには、相当な苦労を要した。如何に相手がオウガであるとは言え、背負って逃げくれている相手の背中を濡らしてしまうのは非常に申し訳ない。人間は理性の生き物である。頑張って我慢した。

 ああ、でももう終わりかもしれない。ウィルドネスワームは、徐々にこちらに追いつきつつある。もう十数秒もしないうちに、自分はガップリと食べられて死んでしまうのだ。そう思うと、自然と涙があふれてくる。


 ああ、お父様、お母様、師匠、そしてキョウスケ。迂闊で無能なセレナを墓前で叱ってください。


 角を掴み、ぎゅっと耳を縮めこませる少女。


「「おおおおりゃあああああ――――――ッ!!」」


 その時、横合いから殴りつけるようにして、ウィルドネスワームの身体に青い砲弾が直撃した。





 神代高校2年4組の〝魔王〟に就任した委員長・竜崎邦博は、頭を抱えていた。


 竜崎が今いるのは、拠点で新しく設えられた〝作戦室〟だ。小金井が私的に使用していた、やや広い空き部屋に、机や椅子を運び込んでできた。竜崎はここ最近、ずっとこの作戦室に常駐している。当然、サボっているわけではない。

 机の上には、地下11階までのダンジョンのマップ、そしてクラスメイトのリストが並べられている。ここ数日の調査で、ダンジョンの仔細な構造がわかりはじめていた。今まで、生徒が仲良しグループ同士で好き勝手に潜っていたところを、探索の効率化の為にパーティ別けを行うようにしたのだ。


 パーティひとつにつき、確実にひとり、回復魔法を使える生徒を。

 あとは前衛型、魔法型などを均等に。


 クラス全員の個性をしっかり把握している竜崎であるからこそ、そのチーム編成を行うのに淀みはなかったが、当然クラスからの不満は噴出した。が、最終的に紅井の『じゃあ死ぬ?』という言葉で、強引に抑えつけられる結果になった。

 もちろん、仲の悪いクラスメイト同士を同じチームに入れることはしない。なるべく、連携の取れそうな生徒同士を組ませる。指示を出せそうな生徒を一人は入れる。パーティに問題が発生すれば、それを組みなおす。


 頭の痛くなるような作業だった。


「先生はクラス替えの時とか3、40人単位でこんなことをやるのか……」


 頭を抱え込みながら、竜崎は呟く。


 クラスに残すのは、厨房の杉浦スキュラや家庭菜園の花園アルラウネなど、拠点での役割を持つ生徒だけだ。クラスメイトの不満を抑え込むためには、原則、例外は許されない。それはクイーン紅井ヴァンパイア犬神ワーウルフですらそうだ。紅井は『いや、あたし拠点防衛やるし……』とは言っていたが、その役目はローテーションでひとつのパーティに任せるということになり、結局彼女も探索班に駆り出すことになった。

 紅井は、まぁ良い。佐久間サキュバスと同じパーティ、さらに前衛要員として籠井ガーゴイルなどを組み込めば、人間関係的にも戦力的にもバランスは取れる。あとはまぁ、回復役として白馬ユニコーンだ。総合戦力がかなり高いので、このパーティが暫定的に最強となる。


 問題は他だ。先日、問題を起こした小金井と、その取り巻きであった鷲尾グリフォンや白馬のグループ。それに女子で言うと蜘蛛崎アラクネ木岐野キキーモラなどはクラス内でのヘイトが非常に高い。そのためパーティ配分が極めて難しいのだ。

 あとはまぁ、やはり犬神か。あの不良少女と折り合いをつけられるクラスメイトは誰ひとりとしていない。


 もちろん、緩衝剤となり得る生徒はいるのだが、その最たる例である佐久間は紅井の不満を抑えるので限界だ。


 ちょうどその時、コンコン、と扉が鳴った。


「竜崎くん、佐久間です」

「ああ、入ってくれ」


 がちゃり、と扉を開けて、クラスメイトの佐久間祥子が入ってくる。いつものような、心臓に悪い布面積の薄い服ではなく、その上からコートのようなものを羽織っていた。豊満な胸元やへそ下のきわどいラインは隠されてしまったが、裾から覗く脚線の肌色がむしろイイと、クラスの男子からは評判である。


「探索から帰ったのか。結構、早かったな」

「明日香ちゃんが、早く終わらせて帰りたいっていうからサクサク進もうとしてね」


 彼女たちには、新しく地下12階の探索をお願いしていた。

 竜崎は眉間を揉みながら立ち上がる。


「はい、これ。地下12階のマッピング。やっぱりモンスターは小型のものが多いみたい」

「死霊の王から逃げて、物陰にひそめるようなモンスターが主流だったってことか……。当初の見立てが当たったな」


 彼女から差し出された報告書には、さほど苦戦しなかった旨が添えられて記載されていた。まぁ、紅井はどうせ本気を出していないだろうが、それでもクラストップクラスの戦力だ。多少強いモンスターが出てきたところで、手間取るようなことはなかっただろう。


「他に問題はなかったか?」

「………」


 竜崎が報告書を眺めながら尋ねると、佐久間が少し曖昧な笑みを浮かべる。


「……私たちの班はなかったんだけど、帰り途中で、別の子たちがね……」

「仲間割れか?」

「うん。あの、小金井くんの班」

「またか……」


 大きく溜め息をつき、報告書を机の上に置いた。


 極めて高い魔法能力を有する小金井芳樹は、クラスに慣れればきちんとした戦力になる。そう思って探索班に組み込んだのだが、問題の病巣は想像以上に根深かった。


 小金井は現在、複数の班をたらい回しにされている。どこに置いても、不満は噴出するのだ。鷲尾たちだってそうだが、彼らは緩衝剤となる生徒たちと一緒に置いておくことで抑え込める程度の不満なので、小金井ほどではない。

 だが、小金井は無理だった。それまでの彼の振る舞いを見ていれば、当然だったかもしれない。


「正直ね」


 きゅっ、とコートの襟元を掴みながら、佐久間は顔を伏せる。


「私も、まだ、小金井くんと一緒の班になるのは……怖いから」

「そうか、そうだな……」


 彼女は一度、小金井に食堂で辱められたことがある。


 辱められた、と言うには語弊があるかもしれない。だが、あの一件は明らかにやりすぎだ。引っ込み思案な文学少女であった佐久間がショックを受けるのも、無理からぬ話ではあった。あの時は、空木恭介が助けに入ったから良いものの、そうでなければ、傷はもっと深かったかもしれない。


「ともあれ、わかった。小金井の処遇についてはまた考える」

「う、うん。ところでさ……」


 佐久間は、ちらりと作戦室の片隅に視線をやる。竜崎もそれを追った。


 そこには、ちょうど人間サイズの棺桶が置かれている。竜崎は『ああ』と言って、苦笑いを浮かべた。そうだ、こいつも頭痛の種だった。


「良いんだ、とりあえずこいつは」

「えっと、そ、そう……? えっと、じゃあ、私、お昼食べるから……」

「ウツロギ達が戻ったら呼びに行こうか?」

「え、い、いいよ……。自分で、あの、探しに行くから」


 佐久間は小さく笑って、そのまま作戦室を後にする。竜崎は、もう一度大きなため息をついた。

 食堂の片隅で腐ったトカゲとなっていた頃に比べれば、日々は充実しているし張り合いもある。だが、心労に関して言えば2倍にも3倍にもなった気がする。理解あるクラスメイトが陰ながら支えてくれると言っても、ゴウバヤシにさせていた気遣いを自分で引き受けるようになったのだから、当然と言えば当然だ。


 このクラスに、課題は山積みだ。今まで良いクラスだと思っていたし、良いクラスなのだろうが、事件は起こるし状況は変化する。それを、なんとか維持していかなければならない。

 ひとまず竜崎は、部屋の片隅に置かれた棺桶のもとまで歩いていくと、中からイビキが聞こえてくるそれを、思いっきり蹴とばした。





「「おおおおりゃあああああ――――――ッ!!」」


 助走をつけてからの大ジャンプキック。特に技名はつけていないが、登場と同時にぶっ放す一撃としては最適だ。度重なる特訓により強化された一撃は、ワームの横に着弾し、その身体のバランスを大きく崩させる。

 恭介と凛は、そのまま着地し、ジークンドーの構えをとった。ちらり、と視線をやると、少女を背負ったオウガがこちらを見て目を白黒させている。ゴウバヤシより、いくらか背の低い個体だった。だが、そのオウガ以上に驚いているのが少女の方だ。


「え、えっと、あなたは……」

「通りすがりのスケルトンだ」


 恭介はそう言い、倒れたサンドワームに視線を移す。


「………」


 だが、すぐに顔をあげ、振り返った。


「言葉が通じた!?」

「ひいっ! スケルトンがしゃべった!?」

「驚くなら声をかけるんじゃないよ!」


 少女は、オウガの首を絞めるようにしながらガチガチと震えている。


 見たところ、日本人ではない。目の色は青く、独特のアホ毛がピョコンと生えた髪は金色だ。手には槍のようなものを持っている。ガントレットに、金属製のブーツ。


「うぅん、ファンタジーな服装だ……」


 凛がぽつりと呟く。


「ひいっ! スライムがしゃべった!?」

「あたしを一瞬でスライムだと見抜いた! この子すごい!」

「あ、いえあのあのいえ、いえあの、モンスターの生態についてはその、べべ、勉強を……えっと」


 よく見ると、口元の動きと聞こえてくる言葉が微妙に合っていない。どういうカラクリかは知らないが、少女の言葉がこちらに自動的に翻訳されているのだ。これがモンスターの能力なのか、あるいは転移の際に自動的に会得した能力なのかは、わからない。

 だが、必要な情報は得られる。恭介は解きかけた構えを再度とり、こちらを警戒するワームを睨む。


 ちょうどその時、背後から駆けてくる剣崎が、恭介たちに追いついた。


「ウツロギ、凛、遅くなった!」

「あぁっ!? 騎士が来てくれたのですね! 助かりました、私は……」

「む、言葉が通じるのか! すまんがこいつを預かっていてくれ!」

「ひいいいいッ!? 首がっ! 首があああああ!!」


 剣崎に首を投げ渡され、少女は泡をふいて卒倒した。危うく落下しかけた首は、オウガがしっかりとキャッチする。


「ウツロギくん、気絶しちゃったよ!」

「剣崎、今日おまえロクなことしないな……」

「な、なに!? 今度は何の不手際が!?」


 剣を引き抜きながら、首なし風紀委員は露骨に狼狽した。


 気絶した少女が、うなされるようにつぶやく。


「う、うう……。そのモンスターはウィルドネスワーム……。口から強酸性の液を吐き、地中の圧力に耐える為外殻は堅牢な二重構造……」

「この子すごい」

「むにゃむにゃ……。お父様、もう食べられません……」

「何を? ウィルドネスワームを?」


 凛の疑問ももっともだが、今は夢心地の少女を邪魔している場合ではない。ウィルドネスワームは、口から涎をしたたらせ、こちらを威嚇していた。垂れた涎は荒野の大地に落下して、じゅうっという音と共に煙をあげる。


「外殻が固いとなると、やはり節目を狙うしかなさそうだな」

「ああ、俺と姫水のキックでもヒビひとつ入らない」

「ウツロギ、私が剣をめり込ませて隙間を作る。その後は任せたぞ」


 そう言って、剣崎は大地を蹴り、勢いよく駆け出した。


 この場に瑛がいれば、また叱られそうな迂闊な行為ではある。相手の具体的な実力もわからないのだ。だが、恭介と凛はそれを援護することにした。

 走る剣崎に、ウィルドネスワームが狙いを定める。巨体をくねらせ、直径3メートルはあろうかと言う大口で、彼女を飲み込まんとする。恭介は、剣崎と反対方向に向けて走り、逆側から拳を振りかぶった。


「ストライクッ」


 その言葉に、凛は即座に次の技を理解する。


「「スパァイク!!」」


 硬質化した拳がぶつかると同時に、凛がトゲ状に身体を伸ばす。だが、強固な外殻には、傷ひとつつけることが叶わない。


「くっ!」

「ウツロギくん、腕を伸ばして!」

「あ、ああ! わかった」


 恭介は飛びのき、右腕を大きく振る。びゅんっ、と鞭状に凛の身体が伸びた。ただ伸びるだけではない。恭介の右腕、肘関節から先の橈骨と尺骨を思い切り運んでいく。恭介は凛の意図を理解し、伸びた腕を外殻のざらざらした部分へと引っ掛けた。


「………!!」


 ウィルドネスワームは鬱陶しそうに身をよじり、標的を剣崎からこちらに移す。だが、その大口に飲み込まれるよりも、凛が身体を巻き取る方が早かった。恭介の右手首が掴んだ場所まで、身体が一気に運ばれていく。そのまま、ウィルドネスワームの身体の上に乗った。


 剣崎はその間に、ちょうどワームの側面に回り込んでいた。

 右手に構えた剣を、ちょうど剣道の〝突き〟の要領で、寸分たがわずワームの身体に突き立てる。ちょうど外殻と外殻の境目、関節部を狙い澄ました一撃だった。


「!!」


 ワームはまだ、激痛に身をよじる様子はない。人間で言えば、小さな針が刺さった程度のものなのか。しかし剣は意外と深く刺さり、刃を伝うようにして血が流れてくる。緑色の血だった。


「ウツロギ、凛、頼む!」


 そう言って、剣崎がウィルドネスワームから飛びのくようにして距離を取る。


「ようし、やるぞ、姫水!」

「おっしゃあ!」


 恭介が右手を振るうのに合わせ、凛がびゅるんと鞭を伸ばし、今度は恭介を剣の柄まで運んでいく。


「外殻を引っぺがす! 良いな!」

「うん!」


 突きたてられた剣をテコのように動かして、外殻間の隙間を少し広げる。恭介と凛はその間に手を突っ込み、全身に力を込めた。


「「おおおりゃあああああああっ!」」

「!!!!」


 さすがにこれは相当痛いらしい。ウィルドネスワームがびたんびたんとのた打ち回った。それでも、恭介と凛は構うことなく踏ん張り続ける。


 べり、べり、という音がして、やがて二重構造だというウィルドネスワームの外殻が剥がれた。中は、柔らかそうな緑色の肉で覆われている。恭介は外殻を放り棄てると、剣崎が突き立てた剣を引き抜き、もう一度、その緑色の肉に突き立てた。


「!!!!」


 ぶしゃあっ、という音と共に緑色の血が再度噴き出す。


「恭介、無事か!!」

「ウツロギ、姫水、剣崎!」

「助けに来たデブ!」


 瑛、五分河原、そして奥村の3人が到着した。3人は剣崎の首を持ったオウガと、そのオウガが背負った少女に一瞬気を取られたが、すぐにウィルドネスワームと恭介たちを睨む。


「ちょうど良かった! 瑛、力を貸してくれ!」

「わかった! 姫水、代わるぞ!」

「おっけー! がったい、かいじょッ!」


 恭介が剣崎の剣を持ったまま、ウィルドネスワームの身体から飛び降りる。凛はそのまま合体を解除し、ずるりと大地に落ちた。同時に、瑛が落下する恭介にまっすぐ向かってきて、その全身に炎を纏わせる。身体中から噴き出す炎のスラスターが、恭介の身体を再度宙へと押し上げた。


「瑛、あの殻の剥がれた部分を狙う。内部から丸焼きだ」

「了解した。口の側から狙うよりはリスクが少なそうだね」


 ウィルドネスワームは、外殻を引きはがされた痛みと怒りから、強酸性の唾液を吐き散らし暴れている。恭介は、そのまま空中から、外殻のはがされた一部に狙いを定めた。

 剣崎の剣を放り棄て(悲鳴が聞こえた)両掌を向い合せる。魔力と炎が供給され、火球が生み出された。火球は秒を追うごとに、勢いと力を増していく。


「プロミネンスッ!」


 一気に投球の姿勢を取り、呼吸を合わせた。


「「ボオォォォ―――――ルッ!!」」


 かくして、死霊の王に向けて放った一撃が、ここでまた炸裂した。太陽の輝きを宿した火球が、一直線にワームの体側部へと向かい、生身の肉の部分へと激突する。直後、激しい爆裂がウィルドネスワームの身体を内面から焼いた。

 強固な外骨格はここで仇となる。二重構造による断熱性の高さから、爆裂のエネルギーを一切外に逃がすことなく、ワームは内面から黒焼きになった。最後は悲鳴すらも上げず、ゆっくりと大地に倒れ込む。しばらくピクピクとしていたが、そのまま動かなくなってしまった。


 恭介は、そのままゆっくりと地上へ降下し、瑛との合体を解除する。


「うぅーん……」


 凛が渋い声を出していた。


「やっぱりトドメは火野くんかぁ……」

「そうガッカリすることはない、姫水。格闘戦に優れた姿で戦い、追い込んだ後に火力に特化した姿で一気にケリをつける。フォームチェンジの基本戦術だ」

「なんかよくわかんないけど、美味しいところを持って行かれたのは変わらない気がする」


 唇をとがらせていることをアピールしたいのか、全身で「3」の形を表現する凛であった。


「おいウツロギ、なんかこの子、気絶してるぞ」

「ん、ああ。剣崎の生首がトドメになったらしい」


 白目を剥いて泡を噴く少女を指して尋ねる五分河原に、恭介は答えた。オウガに抱きかかえられた剣崎の生首がばつの悪そうな顔をしている。

 しかし、この少女とオウガは一体何者なのだろう。首をかしげる一同の中で、奥村がスッと前に出る。たゆんと腹が揺れた。


「………」

「………」


 奥村は無言のままオウガを睨み、オウガもまた奥村を睨み返す。しばしの間、荒野は沈黙だけに支配された。


 不意に、奥村が自らの腹を叩き、スパァンという快音がこだまする。


「……!!」


 オウガは驚いたように目を見開き、少女と剣崎の生首をそっと下ろすと、見事なサイドチェスト・ポーズを決めて見せた。オウガ特有の胸板の厚みを強調し、直後、腹筋アドミラブルアンドサイ、そしてダブル上腕二頭筋バイセップスを披露する。凛はぺちんぺちんと拍手もどきをし、剣崎も驚嘆していた。


 奥村はうんうんと頷きながら、自らの腹をスパァンと叩き、さらにたるみ切った顎の肉を強調する。


 余人には理解の及ばぬ、筋肉と贅肉による交感は、しばらくの間続いた。

 そして最終的に、奥村は一同に振り返ってこう言ったのである。


「こいつはゼクウ。ゴウバヤシの仲間デブ」

「わかったのか今ので!?」


 恭介の叫びは、当然その場の全員の心情を見事に代弁していた。

次回の更新は明日の朝7時!

モンスター学級に放り込まれた少女の存在が、新たな波乱を呼びます。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ