第15話 追われる少女と重巡探索
少女は、必死に逃げていた。まさか、壁の外にあんな化け物がいるなんて。
かつて外敵の侵入を拒むために建造され、長きにわたりその先を不可侵と定められた城壁がある。その定めを破り、城壁の外を調べるために組織されたのが、少女の入る調査隊だった。少女が入れられたのは、半ばお情けのようなものだ。実力もなく、優秀な兵士たちの足手まといになることはわかりきっていた。それでも、彼女は武勲を求めたのだ。
国内でも優秀な騎士、魔導士を中心にして、調査隊は組織された。これだけの戦力がいれば、少女が足を引っ張る心配もない。安堵と落胆が同時にあった。
そうして調査のさなかに出会った、真っ赤な翼を持つ魔人。
あのような怪物は、少女をはじめ、調査隊のうちの誰ひとりとして目撃したことがない。
魔人は、疾風のような俊敏さと恐るべき膂力で、次々と少女たちの護衛を屠っていった。調査隊は半壊。残るメンバーも、少女を逃がすための囮となる。少女は逃げた。誇りも責務もすべて捨てて、赤茶けた荒野をひたすら走った。
魔人はもう、追って来なかった。だが、少女の心には絶望の影が落ちていた。
ここは、どこなのだろう。
見渡す限りの荒野。右も左も、東も西も、北も南も、何もかもわからない。ただひとつ、東に進めば故郷があることだけはわかっていたのだが、少女には手持ちの食糧さえなかった。手にしているのは、一本の槍のみ。疲労と空腹に耐え、じりじりと照りつける太陽に方向感覚を失いながらも、少女は槍を杖代わりにして東へ進んだ。
しかしやがて、限界が訪れる。少女は、荒野に倒れ込んだ。
ああ、ここで死んでしまうのだ。少女は思う。
お父様、お母様、師匠、それにキョウスケ。ごめんなさい。迂闊で無能なセレナを、墓前で叱ってください。
朦朧とした意識の中で、辛うじてそれだけを思う。
それからさらに、いくらかの時間が経過した後だ。
「あら?」
少女の耳に、そんな声が聞こえた。まぶたは重く、開かない。それでも、ぎらぎらした太陽を背に、いくらかのシルエットだけは確認できた。
「ゲンちゃん、ちょっとこの子!」
「む……行き倒れか?」
「女の子……。人間かしら? 第一村人発見ね」
「うぅむ……」
聞こえてくる声はふたつあった。音だけは耳に入って来るが、理解するだけの脳が働かない。
「初めて会ったこちらの人間だ。事情を聞きたいが、あいにく今は急ぐな……」
「ええ。あのアカハネを追わなきゃいけないわね」
アカハネ。赤い、羽。その言葉を聞いた時、少女の指はぴくりと動いた。
「あ、生きてるわ。でも、かなり衰弱している……。どうする?」
「仕方ない。これからあいつを追うのに、連れて行くわけにもいかん。ゼクウ!」
野太い男の声に応じるようにして、低い獣のような唸り声が聞こえる。
「この娘を、ずっと西にいる、俺たちの仲間に届けて欲しい。覚えているな? おまえと出会った、あの岩場、そこから更に西へ進んだ場所だ。そこにも岩場と、その奥に迷宮があり、そこでみんな暮らしている」
西!? とんでもない、故郷から離れてしまう。少女は身体を起こし抗議したかったが、まったく動かない。
ゼクウと呼ばれた影は、獣のような唸り声で応じると、どうやら少女の身体を抱え上げたらしい。妙な浮遊感と共に、ごつごつした場所へ乗せられる。これはゼクウの背中だろうか。
どうやら、助かるには、助かるらしい。だが、意識をこれ以上保つのは無理そうだ。
少女は、全身が柔らかい暖かさに包まれるのを感じた。これは、回復系の魔法だ。ありがたい。空腹まではごまかせないが、ぐっすり眠れば、かなり回復しそうではある。
「ゼクウ、言っておくが絶対に食べたりするんじゃないぞ」
少女の意識が途切れる直前、なんだかやたらと不吉な言いつけが聞こえた気がした。
「おーたから探してエーンヤコーラー」
その歌を聞いて恭介が初めて思ったのは、凛が音痴だということだった。
「もーひとつおまけにエーンヤコーラー」
剣崎恵など、その辺に転がっている石ころを拾い上げて、テーブルに置いた自分の耳に突っ込んでいる。げっそりした顔は青ざめていた。凛は陸上部、剣崎は剣道部だが、同じ運動部のエースとして仲が良かったと聞く。とすると、一緒に何度かカラオケも行ったのだろうか。同情する。
凛は自分が音痴ということなど、露にも知らないらしい。たいそう気持ちよさそうに歌っている。どうしてわかるかと言えば、身体の一部分がアンプスピーカーや音符の形状になっているのだ。変形の精密さに比べ、歌声はひどくイビツであった。
さて、恭介たちはこの日、待ちに待った重巡洋艦の探索を行うことになった。
探索メンバーは、恭介、凛、瑛、剣崎、五分河原、奥村。〝魔王委員長〟竜崎を主導として行う探索事業で、迷宮の外に行くのは初めてだ。重巡洋艦の構造に詳しい小金井を加える提案もあったが、小金井本人と瑛が強硬に反対した。
ゴブリンとの交渉は、五分河原によって先日成功した。恭介たちと衝突したことを丁寧に詫び、こちらからワニ肉の燻製を手土産に持って行くことで、彼らとはなんとか和解することができた。
そして、今恭介たちがいるのは、船長室である。
「かーさんのためならエーンヤコーラー」
凛は、楽しそうに歌いながら、船長室を隅から隅まで調べている。部屋の中央にあった艦長代理の大尉の亡骸は、あまりの破壊力を持つ歌声に耐え切れず、サラサラと崩れて行く。なんという残酷な話だろう。レクイエムにしてはちょっとアレすぎる。
「とーさんのためなら……あれっ、二人ともどうしたの? 手がとまってるよ?」
「いや、独特な歌を歌うなと思ってな……」
恭介は事実を告げるか迷ったが、とりあえずそれだけ言って頭を掻く。
「いやぁ、気分を盛り上げようと思ってさぁ……」
「姫水は歌が好きなのか?」
「うん! つるぎんがね、『おまえの歌は凄いなぁ』って褒めてくれたの!」
剣崎は机の上の首をひっつかみ、ぶんぶんと横に振り回していた。遠回しな指摘のつもりが、さらに調子にのらせたというアレだろう。彼女はもう歌を聞きたくないのか、しまいにはボロボロになった執務机の引き出しをあけて、首をしまってしまった。
凛は、またその謎の〝エンヤコラ音頭〟を歌いながら、本棚をひっくり返していく。
この重巡洋艦はこの世界の重要な手がかりだ。一体、彼らはどのように転移して、どのようにこの世界と関わり、そして死を迎えて行ったのか。それを知るために、竜崎は恭介たちをここに派遣した。
「しかし、なんだな」
剣崎はガサゴソと部屋の中を引っ掻き回しながら、くぐもった声で言った。声がくぐもっているのは、顔を引き出しにしまっている為だろう。それでも、なぜか視界は効くようで、ものを探す動きに淀みはなかった。
「こうやって、元の世界の産物と接触していると……何故この世界に来たのか、ということを考えてしまうな」
「そうだねぇ。やっぱ突発的な事故なのかなぁ」
「事故じゃないなら、なんなんだよ」
凛と恭介も、やはり手がかりになりそうなものを探しながら口々に喋る。凛はぴたりと動きを止め、『うぅ~ん』と考え込んだ。
「わかんないね! 事故じゃないなら、誰かが仕組んだってことになるし!」
「仕組んだ? 私たちを、この世界に送りたいと考えた奴がいるのか?」
「だからわかんないってばー」
そうだ、まったくわからない。だからこそ、こうやって探索を行っている。
しかし、船長室だというのにまったく手がかりになりそうなものがない。航海日誌くらいは、あって良いとも思うのだが。
成果の出ないガサゴソを続けていると、船長室の入り口に、ふよふよと瑛が飛んできた。
「剣崎、奥村が錆びて開かない扉を壊してくれている。ちょっと中の探索を手伝ってくれないか」
「ん、わかった」
言うなり、剣崎は瑛について船長室を出て行く。それをしっかり見送ってから、恭介たちは再びガサゴソに戻る。
恭介は本棚の本を一冊ずつ確認しているが、ふと、凛の手(?)が止まっていることに気付いた。
「どうした? 姫水」
「んっふっふー……」
怪しい笑い声が漏れる。
「……どうした? 姫水」
「ウツロギくん……、あたしね、特訓したんだよ!」
「特訓? 何の」
恭介は作業の手を休めずに尋ねる。それは、ここで言うくらい重要なことなのだろうか。
「正妻っぽさでは火野くんに勝てず、お色気ではさっちゃんに勝てず、キャラ立ちでは奥村くんに勝てず……」
「いや、姫水も結構キャラ濃いと思うけど」
「あまつさえ三角コーナーと呼ばれたこのあたしが! アドバンテージを埋めるために手にした姿……!」
「何を言って……うわあっ!?」
妙にテンションをあげていく凛の方に視線を向け、恭介は悲鳴をあげた。
凛は、まず手を作っていた。泉から這い出るように手を伸ばし、それを床にかけ、ゆっくりと全身の形を変えて行く。まるで、姫水凛の身体から、人間の上半身を引っこ抜くような光景だった。無論、全身が水色の半液状なのだが、出てきた女性の上半身は妙に艶めかしい。
上半身は、ふんー、と鼻を鳴らすと、胸をそらしてこう言った。
「どうよ! ねぇ、どうよウツロギくん! ねぇねぇ!」
「変に人間の形とるより三角コーナーの方がキャラ立ってないか?」
「ひっどぉ! 見てよほら、おっぱいの大きさも自由自在だよ! ウツロギくんはどれくらいが好きなの!? あなたの好みに合わせたベストなバストに設定しま……」
ばしゃん、という音がして、直後に凛は砕け散った。バストを風船のように膨らませていた女性の上半身は跡形もなく飛散し、またずるずると這いよるように集まってスライムの形に戻る。
ちょっぴり気まずい空気が流れた。
「……あー、俺は小さいのも好きだぞ」
「それは今や何の慰めにもならない! ううー、やっぱり90秒が限界かぁー!」
「魔戒騎士でもあと9秒はもつぞ……」
「やはりあたしはこうして生きるしかないのか……」
凛は部屋の隅に移動し、三角コーナーに変形する。これも相当辛い姿勢のはずだったが、壁に接触しているためか90秒以上余裕で持ちそうである。壁に接していれば変形を保てるというあたり、ますます三角コーナー臭がぬぐえない。
「三角コーナー臭ってなに!? すごい生臭そう!」
「とうとう俺と接触せずに思考を読むようになったか!?」
「あー、ごほん! おまえ達!」
その直後、くぐもった咳払いが聞こえ、恭介と凛はピンと背筋を伸ばした。凛に背筋はないが、とにかく縦一直線に伸びた。
そうだ、この部屋にはまだ剣崎がいた。正確には、剣崎の首があった。引き出しにしまわれてはいるが。
「風紀委員であるこの私を前にして、イチャイチャするとは良い度胸だ!」
「イチャイチャしてません!」
「前にしてません!」
「口答えするな!」
風紀委員は引き出しの中で烈火のごとく怒っている。
「それにお、おお、おっぱいだと!? ベストなバストだと!? いつからそんな不埒な娘になった、凛!!」
「あたしは昔から体育の時間につるぎんのおっぱいが羨ましくて揉んだり摘まんだりするような不埒な娘でした!!」
なんという余計な情報だろう。前立腺が熱くなるな。そんなものは幸い今の身体についていないが。
ともあれ、剣崎をなだめなければならない。恭介は執務机に近づき、一番下の引き出しをあけた。中には真っ赤になった剣崎の顔が入っている。軽くホラーだ。
「まったく、ウツロギ! おまえもだ! 真面目で骨のある男だと思っていたが……」
「今は骨しかないけどな」
剣崎の顔を引き出しから拾い上げる恭介だが、そこでふと、引き出しの中にもう一個、何かが入っていることに気付いた。
何かの、本であるように見える。恭介は剣崎の首を凛に向けて放り投げると(悲鳴が聞こえた)引き出しの中からその本を拾い上げる。表紙にはこう書かれていた。
誌日海航。
いや違う。
航海日誌。
「あったぞ!」
「マジで!?」
凛は剣崎の首を放り投げ(悲鳴が聞こえた)恭介のもとへ這ってくる。
「うわぁー、本当だ! これ航海日誌だよ!」
「おまえ達、他に言うことはないのか!?」
砂となった旧日本海軍大尉の死体がクッションになり、怪我をせずに済んだ剣崎がわめく。
「すまん、剣崎」
「うむ」
「あとここ、おまえが最初に探してなかったか?」
「なんだと?」
なにしろ、執務机の引き出しなど一番怪しい箇所である。部屋に入って一番最初に、剣崎が念入りにチェックしていたはずだ。剣崎は、表情筋と首の筋肉を駆使して頑張って顔の体勢を変えると、執務机をまじまじと見つめた。
「……確かに探したかもしれん」
「つ、つるぎん……」
「だが、あの時は首を机の上に置いていたので、よく考えたら中を見れていなかったな」
「やっぱ顔がないと視界が効かないんじゃないか!!」
「つるぎんさっきまで何してたの!?」
そもそも身体の方は何をしに瑛についていったというのか。
バタバタという足音が聞こえ、船長室に剣崎の身体が戻ってくる。剣崎の身体は両手両膝をつき、恭介たちに向けて全力で土下座をした。
「ふ、ふん! 不純異性交遊にかまけて遊んでいたおまえ達に指摘されたくはないな!」
「剣崎、顔と身体のやっていることが一致してないぞ」
「これが俗に言う〝口は強がってもカラダは正直〟って奴なのかな……」
スタイルの良い女騎士ボディを眺めながら、恭介と凛は生ぬるい声で呟く。
さて、そんな漫才はともかく、ひとまず目当ての品は見つけたのだ。素直じゃない首を素直な身体に返却し、恭介たちは船長室を出る。瑛たちに報告しよう、と思った時、甲板の方から声が聞こえた。
「おーい、ちょっとみんな来てくれー!」
五分河原の声だ。後ろの部屋からも、瑛と奥村が出てくる。一同は顔を見合わせて頷き、甲板に移動した。
以前の戦闘で、恭介と凛がド派手にぶち壊した船首だ。散々たるありさまではあったが、ゴブリン達のリーダーと思しき個体と、五分河原はそこにいた。
「どうした、五分河原」
「ああ、今、こいつらのボスと話していてさ。この甲板の上にある機銃? 大砲かな。それ、持ってっても良いってことになったんだ」
その言葉を聞き、瑛が『なるほど』と呟いた。
確かに、こんな錆びついた機銃、インテリアくらいにしか使い道はないだろう。弾薬がなければ動かせもしない。が、それはゴブリン達だけではなく、恭介たちにとっても同じことである。一体こんなものを持って帰って、どうするつもりなのか?
「暮森に直してもらう」
「暮森くん? 五分河原くんと同じ模型部だったっけ。何に転生したんだっけ?」
「〝グレムリン〟デブ」
凛が全身でクエスチョンマークを作ると、奥村が答えた。
「イギリスの飛行機乗りの間に伝わる妖怪デブ。機械をいじって狂わせる。まぁ、整備不良を妖怪の仕業にしたんデブな」
「あー」
凛がこくこくと頷く。
「同志スターリンのお墓があるところだね」
「それはクレムリン」
同志スラーリンが時折みせる謎の知性がまた光った。
「夜中にご飯をあげちゃいけない奴だよな」
「おっ、ウツロギ詳しいデブな」
古い海外映画は結構好きなのだ。ワーナー・ブラザーズの〝グレムリン〟。名作である。
暮森は、転生直後は五分河原と同じゴブリンだと思われていた。だが、五分河原に比べても力が貧弱で、本人も典型的なインドア系であったことから、あまり戦闘に出る機会がなかった。その代わり、五分河原以上に手先が器用で、荒れ放題だった拠点を次々に整備していったのだ。杉森のキッチンも、花園の家庭菜園も、死んでいた水道設備を復活させたのは暮森である。
結果、彼はゴブリンではなくグレムリンとして認識されるようになった。ちなみに、一部の生徒が例の映画を真に受けたせいか、夜中にはご飯を食べさせてもらえない。あと水浴びもさせてもらえない、割と不憫な奴だった。
とにかく、その暮森なら、この機銃を直すことができるかもしれない。
「実は、僕と奥村も同じことを考えていたんだ」
瑛がそう言うと、奥村は錆びた鉄の棒を取り出した。これは小銃だ。
「これも暮森に直してもらうデブ」
「錆びて入れなかった部屋の中に弾薬庫があった。あのあたりもダメになっているかもしれないけど、試してみる価値はあるんじゃないか」
戦力の拡充を図るには、確かに良いアイディアかもしれない。
銃や大砲は、使う本人のスペックに関係なく強力な兵器だ。もちろん、使い手が下手くそでは当てることすらできないが、人外転生によって大きく開いた身体能力・魔法能力の差を、埋めることができる。暮森や花園でも、戦闘に参加できるのだ。
五分河原は、そのままゴブリンのボスに交渉を始めていた。このあたりも彼らからすればガラクタのようなものなのだろう。ワニ肉の燻製を条件に、ゴブリンのボスは快諾してくれた。
「こんなのもあったんデブよー」
そう言って、今度は奥村は小さな筒のようなものを取り出す。剣崎が尋ねた。
「望遠鏡か?」
「御明察デブ! 荒野は広いデブからなぁ。こうやって……」
奥村は望遠鏡に目を当て、地平線に視線を向けた。レンズにヒビが入っているようだが、まだ使えはするらしい。だが直後、彼は『んん?』と首を傾げた。
「ゴウバヤシ……?」
「えっ、本当か!?」
恭介は思わず尋ね返す。
「あ、ああいや、違うデブ。ゴウバヤシとは人相が違う。別個体のオウガデブな……。背中に、女の子を背負ってるみたいデブ」
「ああ、そうか」
わずかな落胆と共に、しかし恭介は奥村の言葉に、わずかな引っ掛かりを覚える。
直後に、ハッとした。恭介だけではない。凛や剣崎も、すぐに察したらしい。
「女の子!? 人間なのか!?」
「見たところ、角や羽や尻尾はないし、耳も足も普通っぽいデブな。それに……」
「それに?」
「何かに追われているようデブ」
恭介たちは、顔を見合わせた。オウガが、人間の少女を背負い、何かから逃げている?
「サンドワーム……デブかな。かなり大きい、ミミズみたいなモンスターデブ」
「わかった。助けに行こう」
恭介が言い、すぐに剣崎も頷いた。瑛がいつもの叱責を飛ばしてくる。
「恭介、また君は!」
「言いたいことはわかるけど、この世界の手がかりでもあるだろ!」
そのまま、恭介は甲板の縁に足をかけ、奥村の視線の先を睨む。確かに、何か大きな怪物が動いているように見えた。このままでは、重巡洋艦か拠点の方にまで被害が及ぶ。瑛も、それはさすがにわかるだろう。
はぁ、と瑛が溜め息をつく。
「言ってみただけだ! 君は僕がいないとすぐに無茶をするからな!」
「おまえがいても無茶をするよ。いくぞ姫水、合体だ!」
「待ぁってました! 合体ぁいっ! とおっ!!」
凛の身体が、恭介に纏わりついて合体が完了する。甲板の縁から飛び降りると、凛が足を逆関節状に組み替え、足の肉を増量して衝撃吸収構造に変更した。着地を成功させるや、また瞬時に肉の位置をずらして、脚部の瞬発力に特化したスプリンターモードに変形する。
剣崎も恭介を追うように飛び降りて、並ぶようにして荒野を走り出した。後ろから瑛がまっすぐについてくる。
「はぁー。あたしも火野くんみたいにガンガンいきたい……」
「それは嫌だなぁ。姫水は今のままでいてくれ」
「おっ、マジで!? じゃあ今のままで頑張ろーっと!」
二人の会話を聞かないように、剣崎は両腕に持った耳をきっちり塞いでいた。
次回は明日朝7時更新です。
ついに恭介たちと第一村人の接触がはじまる!




