第10話 想い出の残骸
『やめろよ。小金井が嫌がってるだろ』
学校の校舎裏で、空木恭介は物怖じもせずにそう言った。
通りがかったのはたまたまだ。授業が終わり、校庭隅の体育倉庫に道具を戻しに行ったその途中で、同級生に引きずられるようにして、校舎裏に連れていかれる小金井芳樹を発見した。
当時はまだ高校入学したばかりの、1年生だった。恭介の友人と言えば幼馴染の瑛くらいで、まだ教室内でのグループは形勢されていない。そんな中、クラス内の不良生徒たちに真っ先に目をつけられたのが小金井だった。
背が低く痩せ型、常に寝癖でハネた髪と、黒縁メガネ。ただでさえパッとしない見た目に加えて、小金井は地声が大きかった。
始業式のあと、クラス最初の自己紹介で、好きなアニメと女子キャラクターについて大声で語ったのが小金井だ。当然、クラスは凍り付いてしまって、以降、小金井はクラス内では徹底的に無視される存在となった。
そんな小金井であるから、不良生徒にカモられるのも無理はないだろう。
恭介が制止の声をかけたとき、小金井は何が起こったのかわからないような顔をしていた。彼はちょうど、アニメキャラがプリントされた財布を取り出し、中から万札を手渡そうとしているところだった。
『小金井が、嫌がってるだろ』
恭介はもう一度、はっきりとそう告げた。
同級生たちは一瞬ポカンとしていたが、すぐにニヤリと笑って標的を恭介に変えた。恭介はブルース・リーさながらにジークンドーの構えを取り、囲んでくる同級生たちに応戦しようとしたのだが、しょせんは多勢に無勢。あっという間にボコボコにされてしまった。
彼らは恭介の制服を引っぺがし、中から財布と携帯を取り出した。携帯の番号を自分たちのものに登録しようとしたその時、こんな声が響いた。
『先生、こっちです! 早く!!』
誰かが教師を呼んだのだ。同級生たちは舌打ちをし、逃げようとした。恭介が一人の足を掴んで睨み上げると、彼は舌打ちをし、恭介の携帯と財布を宙に放った。
同級生たちが逃げる。だが、その後駆けつけたのは教師ではなく、たった一人の幼馴染だった。
『恭介!』
瑛が叫ぶ。
『まったく、まさかとは思ったけど、またか! 君は本当に……!』
『いやあ、悪いな瑛。助かった』
『まあ良いさ。これは貸しだぞ、恭介』
先生を呼んだというのは、瑛の狂言だったのだろう。恭介は、痛む全身を押さえながら苦笑いする。
『あんな不良が、まだ日本に生き残っていたんだなあ……』
『だからもっと偏差値の高い高校にしようと言ったんだ』
『ならおまえだけ行けば良かったじゃん……』
そこで、恭介と瑛は、壁に背を預け座り込んでいた小金井を見る。彼はまだ怯えた表情をしていた。
なんとか、緊張をほぐさないとな。恭介はそう思い、立ち上がって小金井の手にした財布を見る。アニメキャラの財布。水色の髪の、かわいらしい女の子だった。財布自体はだいぶ年季が入っているようだが、剥がれ掛けたプリントを何度も修正した痕跡が見られる。
『それ、ドラファンのアイナ?』
恭介が尋ねると、小金井はぱぁっと顔を輝かせた。
『そ、そう! そうだよ! ドラゴンファンタジー・オンラインの! キミ、知ってるんだ! 俺、すごい好きなんだ!』
『そ、そうか……。あ、えっと。俺は空木恭介な。こっちは火野瑛』
瑛は軽く溜め息をついて、小金井に小さく会釈する。
『ウツロギに火野か! 火野も知ってる!? ドラファン、すごい面白いよね!』
『知ってるけど知ってるだけだ。僕はそんなに詳しくない』
ぴしゃりと言い捨てる瑛だが、小金井は気にした様子を見せなかった。
『そっかぁ。うちに原作とブルーレイあるから今度貸すよ! あのさ、ウツロギは誰が好き?』
『え、ええ? お、俺はえっと……主人公、かな……』
『キリヒトか! 良いよねぇ! いつのキリヒトが好き!? やるゲームによってアバターが違うじゃん! 俺はやっぱさあ……』
恭介は瑛を見て苦笑いを浮かべた。瑛はもう一度嘆息する。なにしろ校舎裏であるから、窓からこちらを見下ろしてくる生徒もいたりするのだ。そして、小金井の声の大きさからするに、彼らのもとにもこのオタトークは聞こえてしまっているのだろう。
まあ恭介もアニメやゲームは好きだ。本は児童書が特に好きだが、ライトノベルも、嫌いではない。それを考えれば、これから始まる高校生活を、小金井みたいな奴と一緒に過ごすのも悪くはないだろう。そう思い始めていた。
翌日から、小金井は当然恭介たちに話しかけてきた。クラス内でハブられる小金井。彼と親しげに言葉をかわす恭介と瑛。同じグループにまとめられ、陰湿なシカトの対象になるまで時間はかからなかった。成績優秀でルックスに恵まれ、教師ウケと他クラスからの女子ウケが良い瑛がグループに入ることで、不良グループによる直接的なイジメは避けられたのが、救いと言えば救いだろう。
それに小金井は、声が大きく、空気が読めないが、面白いゲームやアニメをたくさん知っていた。元より恭介も瑛も、ハブられやシカトをそこまで苦痛に思わないタイプの人間である。小金井の持ちよるゲームやアニメのブルーレイディスクにすぐに夢中になり、なんだかんだ言って、彼らは楽しい高校生活を過ごした。
それが、1年生の時のことだ。
「……はっ!」
「あっ、起きた」
恭介が目を覚ましたのは、やはり食堂だった。ひと気はすっかり払われて、そこには数人の生徒がいるのみである。身体の自由が効かない、と思っていると、五分河原が一生懸命恭介の骨を組みなおしている最中だった。どうやら、バラバラになっていたらしい。
他にいるのは、凛と瑛、奥村、そして佐久間と紅井だ。佐久間は目じりに涙を浮かべ、紅井は彼女を慰めつつも、恭介の方には興味がないようで爪の手入れをしていた。
そこで、恭介はようやく思い出す。
確か、小金井に殴りかかったのだ。
拳は、小金井の顔面に正しく命中した。威力は大したことなかっただろう。だが、不意を打たれた彼はよろけて、床に倒れ込んだ。佐久間は解放され、恭介の後ろに回り込んだのだ。
それは同時に、乱闘開始のゴングでもあった。鷲尾と白馬、そして触手原が勢いよく恭介に跳びかかり、彼は一瞬でバラバラにされた。角うさぎのタックルでバラバラになるくらいだから、仕方のないことである。恭介の意志はそのあたりで途切れたが、どうやら状況を見るに、紅井がすぐに駆けつけたらしい。
「凄かったんだよー。紅井さん」
凛は恭介の意識を読み取ってか、あっけらかんとそう言った。
「小金井くん達をひと睨みでね。そのままさっちゃんを庇うように立ったから、もうみんな何も言えなかった」
「そうか。紅井、ありがとう」
「あたしが助けたのはサチであってあんたじゃないしねー」
紅井は相変わらずのクイーンっぷりで、自分の爪を眺めている。
「でも、まああんたもサチを助けてくれたんだし、こっちからも礼言っとく」
「あ、ああ……。佐久間はなんともないのか?」
「なんともないわけないでしょ。あたしは直接見たわけじゃないけど」
クイーンの言葉には棘がある。佐久間は、自らの身体を抱え込むようにして、ふるふると震えていた。
無理もないか。あんなように触れられて、扱われて。佐久間のような大人しい女の子が、ショックを受けるのも当然だ。その点については凛も憤りをあらわにしており、また同時に、同じ女の子として佐久間のことを気遣っている様子だった。
「まったく、まさかとは思ったけど、またか! 君は本当に……!」
瑛はふよふよと浮かびながら、例によって悪態をついていた。先ほど夢で見た1年生の彼とまったく同じセリフなので、恭介は噴き出しそうになった。
いや、そうだ。夢だ。
あの夢は、恭介と小金井が初めて出会った時の記憶だった。あれ以来、恭介と瑛は、小金井とつるむようになっていた。クラスの中では疎外されていたが、それも1年までの話で、2年になってからはそうした空気も緩和されていたような気がする。こちらが気にしなくなっただけかもしれないが。
小金井は良い奴だった。ちょっと調子に乗るところはあったが、それでも、良い奴だったはずだ。
「恭介、」
瑛は冷たい声で言った。
「君が何を考えているのかだいたいわかるからもう一度言おう。小金井は、最初からあんな奴だった」
そんな瑛をちらりと見て、紅井が凛に『なんで火野はウツロギのことそんなに気にしてんの?』と尋ねていた。凛は『あのね、火野くんはホモなんだよ』と答えていた。違う。違うが、今はそこを否定している場合ではない。
瑛の、言葉。
小金井は、最初からあんな奴だった。本当か?
「確かに、気の良い奴だった。それは認めよう。僕や恭介のことを友人だと認め、時には無償の付き合いもしてくれた。でも、声が大きくて厚顔無恥で思い込みが激しく、自己中心的で自尊心が高いのは昔からだ。気づいていなかったのか?」
「瑛……、おまえ、よく友達のことをそんな悪し様に……」
「僕がそういう奴だっていうのは知っているだろう。君が度が過ぎたお人好しで、愚か者だという指摘だって何度もしている」
クイーン紅井は呆れたように『なるほど、こりゃあホモだわ』と言っていた。違うと言うのに。
恭介は、瑛の言葉を反芻する。
小金井芳樹は、最初からあんな奴だった。声が大きく、恥知らずで、思い込みが激しい。確かに、そうだったかもしれない。自己中心的で自尊心が激しい。確かに、そうだったかもしれない。で、あるとすれば、力を手にし、ちやほやされた小金井が、増長して今のようになる可能性は、十分にあったのかもしれない。
そうであるとして、
そうであるとして、
そうであるとして、だ。
恭介は、小金井の言葉を思い出す。
―――ウツロギよりも火野よりもチビで、ガリで、どうせウツロギだって俺のこと見下してたんだろ?
―――ウツロギは弱いんだからさ、
―――そうなったら、強い俺たちの仕事だよな
何故、気づいてやることができなかったのか。
「まあ、何にしてもさ」
紅井は興味薄そうに呟き、自らの爪をふうっと吹いた。
「あたしが見れない時は、サチには春井か蛇塚をつけるようにしとくから。ヘンなムシがつかないように」
「ああ、あと剣崎だな。あいつも佐久間のことを気にかけてくれてる」
「剣崎か……。あたしあいつ苦手」
デュラハン剣崎はお堅い風紀委員だ。自由気ままなクラスの女王・紅井との相性は最悪だろう。
それでも、渋々と協力を了承するあたり、紅井は相当佐久間のことを可愛がっているのがわかる。
「よぉし、直ったぞ!」
それまで黙々と恭介の骨で立体パズルをやっていたゴブリン五分河原が、ぽんっと恭介の頭を叩いた。1つのパーツも余さず、1ミリのズレもなく完璧に組み立てられている。恭介は手を握ったり開いたりして、その感触を確認した。
「ありがとう、五分河原」
「良いってことよ。あ、今日の探索で甲冑のパーツはだいたい揃ったから、明日全部まとめて渡すわ」
五分河原は明るくそう言って、恭介たちに手を振り食堂を去る。オーク奥村もそれを追った。
「あーあ、これからクラスどうなっちゃうのかなー」
五分河原と奥村に手を振ってから、凛は呟く。
「完全にリーダー不在だよぉ。小金井くんもさ、人気はあるけど、今のクラスをまとめられてる感じしないし」
「小金井は、自分に友好的な一部の生徒を取り入れて最大派閥を形成しているだけだ。僕たちや五分河原たち、犬神みたいな、派閥に属さないはぐれ者のフォローまでは考えていない」
凛の言葉に、瑛も分析し、同意を示す。
小金井のことをいまだに悪く言うことができない恭介だが、これにはやはり同意だ。小金井はリーダーではない。なれる、なれないといった器の話ではなく、そもそもとして、彼はクラスのリーダーではない。小金井派という、一大派閥のリーダーであるというだけだ。
それまで黙っていた佐久間が、ちらりと紅井を見た。
「明日香ちゃんは……? 明日香ちゃんがまとめてくれたり、しない?」
それはおそらく、実行に移せるのであれば、一番現実的な案であるように思えた。紅井は、いまや小金井に睨みを利かせられる唯一の人物だ。彼女がトップにたてば、小金井派閥はそのままにクラスは安定する。だが、紅井はけだるげにかぶりを振った。
「そういうキャラじゃないよ。サチだってわかるでしょ」
「うん……」
が、まぁ、紅井の言葉通りでもある。そういうキャラではない。
「俺に考えがあるんだ」
恭介がそう口にしたので、視線は一様に彼の方に向けられた。
それは、考えというよりは、〝信念〟、それも〝託された信念〟に近いものであった。
ゴウバヤシが拠点を去る前日、恭介に尋ね、そして彼が答えた言葉。だからこそ、ゴウバヤシは安心してここを去ることができたのである。恭介はそれ以来、ずっとこの考えを実行に移すことを考えていた。
「なに、なに!? どんな考え!? あたし、聞きたい!」
ぴょんぴょんと凛が跳ねる。
「どうせまたロクでもないことなだろう、恭介」
瑛が冷たく言い放つ。
紅井と佐久間も首を傾げ、かたや気だるげに、かたや興味深げに耳を傾けていた。
ここにいる全員になら、まあ話しても問題はないだろう。恭介は、一語一句真剣に、自らの考えを口にする。
「そのためには、五分河原に頼んだ鎧が要る。姫水、瑛、力を貸してくれ」
「ストリーム!」
叫びを合図に呼吸を合わせ、拳を振りかざす。次の瞬間、恭介と凛の呼吸が重なった。
「「ブロウッ!!」」
籠手の重量などものともせず、文字通りの鉄拳はまっすぐに繰り出される。流水拳と名付けられた一撃は、目の前に立つ赤茶けた大岩を、正面から粉々に粉砕した。
「いよっしゃー! 強いっ! あたし達、強いっ!」
鎧の隙間から青い身体をぴょこぴょこ出し入れして、凛が大喜びする。
いま、恭介たちは新たなる特訓に臨んでいた。五分河原が持ってきた全身甲冑を纏っての実戦練習である。黒光りする甲冑は、この打ち捨てられた地下墓地に眠っていたとは思えないほどしっかりとしており、それを纏った恭介と凛の姿は、さながらブラックナイトと言ったところだ。
この甲冑には2つの意味がある。
1つは、凛の負担を軽減するため。鎧をまとわず戦う場合、パンチやキックの威力を増すためには、凛は常に密度や質量の操作を行いながら、戦わなくてはならない。だが、それを最初から硬い外骨格で覆っておくことで、彼女は完全に筋肉としての動きに集中できるのだ。
そしてもう1つは、正体を隠して行動するためだ。恭介と凛、そして瑛が合体できることは、極力秘密にしておきたいという瑛の意志を、恭介はなるべく尊重するつもりでいた。それでも、恭介が自らの〝考え〟を実行に移すためには、合体しての戦闘行動は必要不可欠となる。そのための緩衝地帯が、言わばこの甲冑であった。
凛の負担を軽減した上で破壊力、そして防御力を維持し、なおかつ見た目もカッコイイというこの鎧だが、当然欠点もある。
なんといっても、凛最大の特徴である柔軟性を、ある程度犠牲にするというのがその最たるものだろう。甲冑には隙間やスリットがあり、凛はそこから身体の一部を出して戦うことができるのだが、それでも限界はある。加えて、骨の構造を組み替えての逆関節ジャンプなどができない。甲冑の関節と互いに干渉し合うからだ。
総合的に見て、この甲冑は、パワーと防御力は上がるが俊敏性と柔軟性を下げるという、非常にわかりやすいパワーアップアイテムになっていた。
「良いなぁ……」
と、それを眺めて呟くのは、佐久間である。
「私も合体したいなぁ……」
「サチ、小金井のトラウマはもう良いの?」
その横で、紅井が爪の手入れをしていた。
「そ、そういうわけじゃないけど……。えっと、えぇっと……」
「恭介には、合体相手の力を増幅する特殊効果がある。常時引っ付いていれば、佐久間も似たような恩恵を受けられるかもしれないな」
「え、ええっ!? じょ、じょうじ!? ひっついて!?」
瑛が冷静に告げると、佐久間は顔を真っ赤にして取り乱す。
「でも、それ、アレだね。ウツロギって骨じゃん。絶対肋骨とかにひっかけて服破くよね」
「そうだな。それに刺さって怪我をしそうだ」
「あ、あうう……」
紅井と瑛の冷静なコンビネーションアタックに、佐久間はそのまま座り込んでしまった。
さて、この美少女コンビが特訓の場に居合わせているのに、深い意味はない。佐久間は小金井と顔を合わせたがらなかったし、恭介たちの特訓は迷宮の外でやるという。ならば見学したいと言い出し、断る理由もないので許可してやった。紅井はその護衛だ。
とは言え、せっかく来てもらったのだ。特訓を手伝ってもらおうというのは、恭介の弁である。
「紅井、頼んだー!」
「んー」
紅井は目も向けず、鋭い爪先で自らの左手の人差し指を切りつけた。そのまま指を恭介の方へ向けると、滴る血が大地に落ちて、やがて大きな質量へと変化していく。瞬く間にそこには、紅井の血によって生み出された紅の兵士たちが誕生した。
血界兵団。瑛が名づけ、紅井にダサいとバッサリ切り捨てられた、彼女の能力だ。
血界兵団は一様に武器を構え、恭介と凛に突撃していく。
「「うおおおりゃあああっ!」」
ブラックナイトは軽く跳躍すると、先頭に突っ込んできた兵士に、ローリングソバットを見舞った。ぱちゅん、とまるで風船のように弾け、兵士は消滅する。着地後、そのまま一切の隙を見せず、2体目へのアッパーカット。空いた右腕をぶるんと振るうと、意図的に空けられた籠手のスリットから、青い鞭が飛び出した。鞭は血の兵士たちを横なぎに叩き消し、そのままびゅるるるとブラックナイトの籠手に戻っていく。
血界兵団の戦闘能力は、意図的に下げてもらっている。だが、その素早さや反応速度はそのままだ。大量の敵を相手に、いかに反応し、撃破していくか。その練習である。
兵士たちは数を減らしていき、最後にはやや大きく、強力そうな個体が残った。
「恭介! 姫水! グランディオスパイクだ!」
瑛が叫ぶと、ブラックナイトは軽く後ろへジャンプして、一定の距離を取る。距離を詰めるため、紅い兵士が大剣を振りかぶって突撃した。
「グランディオォッ!!」
拳を大きく、弓なりに引き絞り、恭介と凛は迎撃態勢に入った。勝負は一瞬。恭介の合図で、呼吸が重なる。
「「スパアァァァーイクッ!!」」
兵士のどてっぱらを狙う、強烈なストレートパンチが炸裂した。だが、鉄拳が腹にめり込んでなお、攻撃は終わらない。
一拍遅れて、めり込んだ籠手のスリットから、青い棘が一斉に飛び出した。文字通りスパイクが兵士の身体を串刺しにし、最後の一体も撃破が完了する。
「これが……グランディオスパイク……!!」
佐久間が力強い声で言った。
「だっさ」
紅井が呆れた声で言った。
どうやら、鎧をまとっての戦闘訓練は順調であるらしい。となると、次の段階に移るべきか。次の訓練こそが、今回の特訓のキモと言っても良い。恭介が発案し、瑛が理論上不可能ではないと言った、新たなる戦術。
それには危険が伴うが、瑛は最終的には了承した。戦闘時にぶっつけ本番でやらされるよりは、はるかに良いからだ。
当然、瑛はその戦術にも名前をつけた。
「では次は、《トリニティ・フルクロス》を行うぞ!」
「だっさ……」
紅井はもう一度、吐き捨てるようにつぶやいた。
次の更新は夜の19時!
トリニティ・フルクロスとは一体!? そして次回はプチさっちゃん回! お楽しみに!