最悪の出会い
塁は音をさせないようにゆっくり近づいた。ふたりの男の姿を確認する前に、ボールが視界に入ってきた。ボールがグローブに吸い込まれる音はとても心地よく、塁は次第に足を音に近づけていった。「カラーン・・・」 塁の足が空き缶に当たって高い音を響かせた。ふたりの男は塁の方向を見つめて、珍味を初めて食べたような、何とも言えない顔していた。学ラン着ていたひとりの少年が3歩程、塁
に向かって、歩き、そして、再び見つめた。 しばらく無言が続くと、塁は空気が耐えられなくなって、言葉を吐き出そうとた瞬間に、「野球好きなん?」と学ランの着ている少年が話しかけてきた。塁は下から上まで舐め回すように少年を見て、「あんまり・・・」と無表情で答えた。「ふーん」と少年はアヒル口の顔で言った。塁はあんまりと答えたが、実際は野球に全く興味がなかった、しかし、そのときは、すこしだけ興味を持ち始めていた。「アッーー」と少年が大声を放つと、塁の横を、全力疾走して、駆け抜けていった。塁はとっさの出来こと過ぎて、しばらくそこに止まっていたが、時間がないことに気づくと、追いかけ始めた。塁は必死に走り追いかけたが、一行に少年の姿が見えてこない、息を吐きながら必死に走り続けた。校門が見えてきたところで、キンコンカンコーン、と、今一番聞きたくない音が塁の耳に入ってきた。塁は急いでいた足を止めて、少しずつ歩きに変えていった。「くそー最悪や」と呟いて校門を過ぎようとすると、「よぉー遅かったやんまちくたびれたで」と少年が笑顔で話しかけてきた。塁は「なんで待っとん?もうチャイムなってもてるで」と冷たく答えた。すると、そう答えるのがわかっていたみたいに「だいじょーぶ俺に考えがあるから」と再び笑顔で答えて、校舎に進みだした。塁は心の中で疑問を持ちながら、少年についていくことにした。塁の学校は服装は決まってはいるが、携帯や髪型などは基本的には自由で生徒に任せる学校であったが遅刻にはすごく厳しいらしい、塁の心の中には嫌な予感しかなかった。塁は1組だった、階段は二つあって少年がむかったほうは5組の近くの階段だった。塁は少年に「何組なん?」と聞くと、少年は2と指で教えた。なんでわざわざ遠い方からと不安になってきたが、塁には考えが全く思いつかなかったので、乗るしかなかった、少年は「行くで、静かにな」と塁に言うと、しゃがんだまま廊下を進み始めた、塁は後を追いかけていった。2組の手前につくと少年は「こっからは別行動な」と塁に小声で言って背中を軽く叩いた。塁は嫌な顔、少年に見せて1組の後ろのドアまで進んで、開けようとしたとき、ガチャーン、とガラスがいきよいよく割れる音がして、次の瞬間に静かだったクラスから生徒がなだれ出てきた。塁は何が起きたのかがわからなかった。担任の先生が出てきて「いい度胸しとんな」と真顔で言われた。塁はすぐ違うと言おうとして、後ろを見たが少年はいなかった。