第2話
主治医や母が言ったとおり、輝夜の生まれつきの心臓の病気は完治したようだった。
今まで、幼稚園や小学校でも、、お遊戯の時間や運動会などは、心臓に負担がかからないようにとみんなの輪に入れず、寂しい思いをしていたが、心臓が治って以来、体育の授業も参加でき、友達も増えた。そして、さらに中学校ではテニス部に入った。
あの時の見た夢も……。「私が17歳になった時」……続きは聞き取れなかったが、ただの夢だったのだろう。あまり気にならなくなってきた。
第一志望の高校に入り、輝夜は再び女子テニス部に入った。勉強に、部活に、毎日忙しかったが、友達も多く、充実した日々を過ごしていた。片思いだが、憧れの先輩もできた。
高校2年生になり、部活では後輩もできて、後輩の指導にさらに忙しくなったが、その忙しさが心地よかった。
部活が終わった帰り道、途中までは友達と帰り、分かれ道からは近道をしようとして、草道を横切った。草道といっても、そこを通り抜ける人は多いらしく、ちゃんと歩くことができるような平らな道が続いていた。
しばらく歩き続けて、輝夜は気がついた。
………。おかしい。
いつも通る草道なのに、出口が見当たらない。進んでも進んでも木々が立ち並んでいるだけだ。
どこかで曲がり間違えたのだろうか。毎日通る道なのに?
日も沈み、輝夜は不安になって、元の道へ戻ろうとして振り返った。
振り返った輝夜は思わず悲鳴を上げそうになった。
後ろには、全身黒いマント姿の男が立っていた。
「輝夜――。17歳の約束を覚えているな?」
「…………!」
今まで忘れかけていた、幼い頃の夢を突然思い出した。
「なんのことですか!? あなたは一体誰!?」
あれは……夢ではなかったのか。だが、「17歳になった時……」その続きは思い出せなかった。
「俺は、死を司る『死神』だ。俺は6歳のお前の命を救った。――代わりに、お前が17歳になった時、俺の花嫁になることを条件に」
「…………!?」
黒いマントの男が、輝夜に1歩ずつ近寄って来た。
輝夜は思わず後ずさるが、大きな木にぶつかり、身動きが取れなくなってしまった。
黒いマントの男は、輝夜の顔を上げさせ、自分の顔を近づけた。
その時、初めてマントの奥の男の顔が見えた。
「いやーーーーーーっ!」
輝夜はその顔に恐怖を覚え、悲鳴を上げた。
マントに隠れたその顔は…髪も皮膚も肉もなく、骸骨そのものだった。
輝夜は顔を背け、そこから逃げようとしたが、マントの男は輝夜が逃げ出さないように、大木に輝夜の背中を押し付けた。
「俺の姿が怖いか? 醜いか? だが、お前もいずれは同じ姿になる」
「やめて! 私、あなたの花嫁になんてなりません!」
震える声で、でも精一杯の声を出して輝夜はそう言った。
「まだ、お前の17歳の誕生日まで、2ヶ月ある。この2ヶ月はお前が人間でいられる最後の2ヶ月だ。せいぜい、楽しむがいい。――2ヶ月後には、お前の方から俺の花嫁になりたいと懇願することになるだろう」
そう言うと、死神は突然姿を消した。
道に迷ったはずの、草道……。だが、それは、いつもと同じ道で、出口も目の前にあった。