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第1話

 それは、まだ彼女が6歳のある夜だった。

 生まれつき、心臓に疾患を持っていた月影輝夜(つきかげかぐや)。その両親は、医師から「輝夜ちゃんは、もう明日の朝までは持たないでしょう」との余命宣告を受けた。

 声を殺しながらも泣きくずれる妻を夫が力強く抱きしめる。

 その夫の瞳にも涙が浮かんでいた。

 輝夜は、この夫婦ににとって何者にも代え難い大切な一人娘だった。


 ――痛い……。苦しい……。息ができない……。誰か助けて――!


 意識を失った輝夜は、暗闇の中で苦しんでいた。

 そこに、全身に黒いマントを羽織った男がやってきて、幼い輝夜を抱きかかえた。


「苦しみもあと少しで終わる。そうすれば全てから解放され、お前は無の世界へ旅立つ」


 マントの向こうの顔は見えなかったが、男は淡々とそう言った。


 ――私……死ぬの……?――


「そうだ」


 マントの男は冷淡にそう答えた。


 ――死にたくない…。お父さんやお母さんと離れるのは嫌!――


 息も絶え絶えながら、輝夜は強くそう思った。


「それが、お前の運命だ」


 そう言って、黒いマントの男は、輝夜を抱きかかえたまま、暗闇の中に進もうとした。

 直感的に、そのまま暗闇の中に進むと、もう二度と出てこられない気がした。


 ――やめて! お願い、私を死なせないで……!――


 黒マントの男が輝夜の顔を覗き込んだ。と言ってもマントに覆われた男の顔は相変わらず見えなかったが。


「では、お前が17歳になった時……」


 黒マントの男は何か言葉を続けたが、輝夜には聞き取れなかった。


 ――え……!? なんて……? もう一度……!


 黒マントの男は、抱きかかえていた輝夜を降ろした。

 いつの間にか、輝夜の息ができないほどの苦しさや痛みはなくなっていた。



 気づくと泣き腫らした目をしたお母さんと、心配そうに覗き込むお父さんの姿が見えた。


「輝夜!」


 お母さんがベッドの上の輝夜を抱きしめる。


「いや、奇跡ですよ! あの状態から覚醒し、しかも心臓の異常も治っている! 奇跡としか言いようがない!」


 幼い頃からずっと輝夜を診察してくれていた先生が、興奮した口調で告げた。


「私ね、暗闇に一人でとても苦しくて、そしたら、黒いマントの人が来て……」

「怖い夢を見たのね。もう大丈夫よ。安静を取って、しばらく入院するけど、輝夜の心臓は完治して、もう、発作に怯えることはないのよ」


 お母さんが抱きしめたまま優しくそう言ってくれた。

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