運も実力のうち。
今日はパチスロです。
ピピ、ピピピ、ピピピピピ
〈ガシッ〉
いつもの電子音で目が覚めた。時計に目をやるとAM8:15。
「んん。」
モソッとベッドから降り、テーブルの上のタバコを漁った。
カチッ。
「ふぅー。」
そのままチェアに座り、オットマンに足を乗せた。
以前ほど浮かれてはいない.....が、やはり座り心地は抜群だ。
安物の灰皿を買った。喫煙所にある様な足が細くて少し背の高いタイプのものだ。
その灰皿に灰を落としつつ....思案をした。
「....今日はどこで何を打つべきか?」
浪費のせいで、タネ銭が心許なくなってきた。
...とは言っても、あるにはあるのだ。
しかし、タネ銭が無くなってからでは、玉砕さえ許されない身だ。
俺は確率ガミで負け続ける事を経験して、守りに入ってしまっている。
「....どっちにしても、パンクだけはしたくねぇな。」
一人でボソッと呟いた。
焦らず冷静に立ち回れる内に、体(財)力を取り戻す事もパチプロの心構えの一つだ。
「.....ふぅむ。」
灰が落ちそうになって、我に帰った。
タバコを消して、頭をボリボリ掻きながら...急階段を降りた。
今日は母親は友達と旅行だ。
...やはり一日中機械ばかり相手にしているせいだろうか?母親との会話は、ありがたいもんだと思う。
さみしがり屋の自覚はないが、さみしがり屋なんだろう。
脱衣所で服を脱ぎ、洗濯カゴの中に入れた。
...真っ白なTシャツと真っ赤な短パンを同じカゴにいれても、今日はお小言が飛んでこない。
「ふぅ。」
俺はシャワーを浴びながら、立ち回りを考えた。
あれこれ考え、パッと思い付いた。
俺は慌ただしく部屋に戻り、身支度を整え、急階段を降りて、家を出た。
「.....おっとぉ。」
玄関の鍵を閉めるのを忘れるところだった。
「うるさい」単車に跨がり、キックでエンジンを掛けた。
...今日の目的地は[駅前]だ。
いつもの街並みを抜け、駅前のB店についた。
駐輪場に「うるさい」単車を停めた。
腕時計に目をやると、いつもより早い到着だ。
自販機で缶コーヒーを買い、それを一気に飲み干し、いつもとは違う入り口に向かう。
その途中で、毎日居るガラの悪い常連に声を掛けられた。
「ひさしぶりだな、兄ちゃん。今日はコインか?何でも打つなぁ。」
「ははは、器用貧乏なんですよ。」
「じゃあ、俺は不器用貧乏だな。」
他愛のない会話を交わして、パチスロ専用入り口に向かった。
俺はモーニング取りをする事にしたのだ。
モーニングとは、店側がフラグが立った状態で台を放置してくれるサービスだ。
狙う台はスーパープラネット(スープラ)だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
B店のパチスロは13(6.5)枚交換。
サラリーマン客の滞在率の低さ、回転率の良さから、設定はかなり甘めだ。
モーニングはBIGのみ。モーニングから、高設定をツモる事も多々ある。
◇◇◇◇◇◇◇◇
軍艦マーチが鳴り、ダダッと駆け込んだ。俺は客を掻き分けて、無理矢理シマの奥の方に割り込み、奥の台からローラー作戦を敢行する。
サンドに千円を入れるが、2回も吐き出された。
...焦る。
ようやく、3回目でコインが出てきた。
コイン投入口にコインを入れ、レバーを叩き、俺は「マ」の形をした7を狙う。
..色々なところから、BIGの音楽が聞こえてきた。
俺は3台回したところで、次の台が無くなった。
「チッ、失敗かよ。」
けして、練りに練った戦略ではないのだが、空振りすると嫌なものだ。
昭和文学ならば「嗚呼、やんぬる哉!!」男はすわと立ち上がりその場を立ち去る...ところだろう。
しかし。ほぼ千円分のコインがある俺は立ち去れない。
「ん?」
前日のデータはわからないが、どうやら設定変更からのフルーツゲームの様だ。
フルーツゲームとは、リセット後に小役の集中状態になること。34.7分の1でパンクする。
集中機とは違い、増える為のものじゃなく、オマケ程度のものだ。とは言え、無駄にはならない。
当然、無駄にしない打ち方もある。
その方法は、左リールに3種類ある中の「プラネット、チェリー、7」の7を上段にビタ押し。
プラネットが枠内に滑りこんだら、中リールもプラネット狙い、テンパったら、右にもプラネット狙い。
この打ち方で、初めてフルーツゲームの恩恵がフルに受けられるのだ。
俺は「ここからどうするか?」を考えながら、淡々と消化していく。
左に7がビタ止まりして、何気に中右と7を狙ったら.....あららららら、揃ったがな。生入りだ。
BIGボーナスがスタートした。
〈ぺーンぺッペペン、ぺぺンペンペン〉
[もろびとこぞりて]を聴きながら、再び「どうするか?」を考える。
しかし。B店は開店1時間はコインを流せない事に気付く。もう打つしかない。
BIG終了後、店員を呼んでリセットを待つ。
...が、店員が来るのが遅い。
慌ただしいモーニングのリセット解除の作業が終わり、通路でタバコでも吸っているんだろう。
俺は呼び出しランプを点けたまま席を離れ、自販機で缶コーヒーを買った。
席に戻ると、店員がちょうどリセットで鍵を捻っているところだった。
「ありがと。」
店員に一言お礼を言い、席についた。
さっきは慌てて飲んだコーヒーを、今度はゆっくりグビリと一口飲んで、くわえタバコで、いざ尋常に。
勝負再開。
早く当たったので高設定に期待しつつ、ゲーム数をカウントしながら打つことにした。
回転数表示はないが、簡単に自分でゲーム数をカウントする方法はある。
道具は必要だが、パチスロを打つと決めていた今日は持ってきたのだ。
その道具とは、ずばり万歩計。
ホームセンターで販売されている一般的なやつで良い。
万歩計をヒモで括り、レバーに下げる。
一回レバーを叩けば1歩進む、これで1回転だ。
誤差は出るが脳内カウントとは段違いだ。
フルーツゲームを消化して、チェリーが出なくなった為、適当なハサミ打ちに切り替える。
持ちコインが残り少なくなったところで、左リールにプラネットベル7、右にも同じ出目がテンパった。
中リールを「外れろ」と念じ、目を瞑りながら押した。
ジリリリが聞こえてこない。リーチ目だ。
「7狙っときゃ良かった。」
うろ覚えだが、バケなら右のプラネットが下段までスベって来ることが多いはずだ。
案の定BIGだった。
スープラは、とんでもない数のリーチ目とチャンス目がある。
成立ゲームでしか拝めない枠上7なんてリーチ目もあるくらいだ。
まぁ、俺は最低限しか覚えていないのだが。
店員にリセットをしてもらい、ゲーム再開。
フルーツゲーム中、チェリー付きのバケ確定目が出た。
「いつ入ったよ?」苦笑いしながらバケを揃えて、消化する。
バケ消化後、クレジット内でバケ、バケが続き、直ぐ様BIGを引いた。
7を揃えて、レバーの万歩計を外して、数字を確認すると..当たりが軽い。
「6じゃねぇか?」
心の中の幸せの鐘がゴーンゴーンと鳴り響き始めた。
設定6のボーナス確率はB226R206。
合成確率は驚異の108だ。
店員を呼び、リセットしてもらって、再び打ち始める。
フルーツゲーム消化後ほどなくして、バケ。
バケを消化してる最中に、俺はトイレに行きたくなった。
左リールにプラネット、ベル、7を狙い、右リールにも同じ絵柄を狙いつつ、ハサミ打った。
ハズレたら(ほぼ)当たりのトイレ目製作作業だ。
テンパイ形を作り、トイレに行くために席を立った。
〈ワクワクどきどきのお小水タイム〉を済ませて席に戻ると7が揃っていた。
嬉しい半面、誰も居ない台からBIGの音が鳴り響いていたのだ。周りの客は迷惑だっただろう。
俺は、少し小さくなりながらBIGを消化した。
その後、ボーナス合算で5〜6を確信してブン回しに入った。
割数は5で107%、6なら111%だ。まず負けはしないだろう。
尿意が近くなる缶コーヒーを控えて、閉店時間か?腕が千切れるか?まで....ブン回すだけだ。
道中、永遠に続くようなバケの連打が始まり〈ピンポーン、ピンポーン〉の効果音が〈ビンボー、ビンボー〉に聞こえる被害妄想を、どうにか乗り越えて....22時45分に終了した。
万歩計と、コインを積んで数えたボーナスの合算は100を切り、見事なフィニッシュだ。
平積み1箱半と木葉積みで山盛り1箱のコインをカウンターに流す。
そのレシートをカウンターに持って行き、景品を貰い店外の交換所に並ぶ。
俺は現金を受け取り、駐輪場へと歩きながら、無造作に財布の中に現金を押し込んだ。
駐輪場へ着いた俺は、単車に跨がり、タバコをくわえて火を着けた。
「ふぅ。」
[モーニング狙い]と云う点では負けたが、〈偶然〉高設定をツモり、それが〈偶然〉千円でツいて、満足な収支を叩いた。
...出来すぎた感は否めない。
しかし、運やツキって云うものはこういうもんなんだろう。
金銭的に疲弊した時に、良い〈偶然〉に巡り合えるか?どうか?
行き交う人々を尻目に、タバコを吹かしながら、ぼんやりと夜空を見上げた。
タバコをピーンと指で弾き、エンジンをキックで掛け「うるさい」単車で帰路についた。
パチスロは文字にするのが、極端に難しいですね。