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猫に小判。

ピピ、ピピピ、ピピピピピピピピピピピピピピピ




「....んん?ああ。」


〈ガシッ〉


いつもの電子音で目が覚めた。


いつもと違うのは、アームチェアからおりて、ベッドの棚にある目覚まし時計を止めた事だ。


時計に目をやるとAM8:15。


「ふわぁ。」


またアームチェアに戻った。



〈自分の部屋でゆっくりくつろげるように〉と、ソファーを買う事にしたのだが、家具屋で一目惚れのアームチェアとオットマンを見付けてしまった。


値札を見て愕然とした俺は、夜の昆虫採集を控えて、ひたすら金を貯めた。


全てはドイツ製のコイツを買うためだ。


何せ〈合わせ一本〉。

二つで7桁だ。そうそう簡単に金が貯まるもんじゃない。



苦労の末に現金を揃えて、ようやく買った。


...のだが、生憎の在庫切れ。


配送がドイツからになり、ようやく届いたこのアームチェアが愛し過ぎて、思わずそこで寝てしまったのだ。



「うん。」

意外や意外、チェアで寝たのに腰への負担がない。



俺はテーブルの上のセ○ンスターに手を伸ばした。


カチッ。

「ふぅー。」


ゆったりした体制で腹の上に灰皿を器用に乗せて、灰を落とす。


...思わずにやける。


「俺も来るとこまで....来たな。」

と一人言をこぼした。


小さいカップでクソ苦いコーヒーを飲みつつ、オーディオからカンツォーネでも流したいくらいだ。

カンツォーネのCDなんて生憎持っていないのだが。




朝の優雅な一時を過ごし、急階段を降りた。



「おはよ。」

母親に朝の素敵な挨拶をした。


...しかし、母親は御機嫌斜めだ。


「おはよ。....自分だけあんなソファと足置きなんか買って、いい身分だわね。」

配送の受け取りが母親だったのだ。



「いやいやいや、あれはあげれんよ。何せクソ高ぇんだから。」


「年老いた両親に居間のソファーもプレゼントせずに、自分だけそんな良いもの買うの?」


「いや。確かに、そりゃそうだけど。そこまで老いては....」


「じゃあ、あのソファーの半額ので良いから、買ってちょうだい。」


「いやいやいや。半額て。」


「あれ幾らしたの?」


「.......100。」


「はぁぁぁぁ?」


そんなやり取りをして、次の日曜に居間のソファーを買う約束をさせられた。


放蕩息子の親孝行だ、我慢しよう。


もう一度部屋に戻りたい衝動を抑え、俺はシャワーを浴びた。


急階段をあがり、部屋に戻った俺は、チェアに座りたい衝動をどうにか抑えて、身支度を整えた。


出掛けようとするも....やっぱり少しだけチェアに身を委ねた。薄ら笑いを浮かべながら。




急階段を降りて「行ってくるよ」と母親に声を掛け、車庫に向かった。


俺は、オンボロの高級車に乗った。


キュルルル、ブゥン。


少し荒めにアクセルを踏み込んだ。俺はいつになくハイテンションだ。



街を歩く人が平民に見える。

隣に並んだオンボロではない高級車に乗った人も平民だ。


〈合わせ1本〉のアームチェアとオットマンは持ってはいまい。



「私は貴族だ。昨日までは君達と一緒だったよ。ああ、平民さ。だが、今日の俺はナイトの称号を手にした一端の貴族なのさ。さぁ。私の前に平伏すが良い、愚民共め。」


...完全に舞い上がっている。


俺はつくづく権力を握ってはいけない人間だと思う。

権力を握った瞬間、ハゲて脂ギッシュな小男に変わってしまうタイプだろう。


ギルガ○ッシュの裸エプロンは好みだが、脂ギッシュでハゲの小男は好きではない。





...途中で[商店]に寄り、セブン○ターのボックス二つ、菓子パンといちご牛乳と缶コーヒーを買った。


ビニール袋に商品を入れてる最中に、おばちゃんが聞いてきた。


「どうしたの?ニヤニヤして、彼女でも出来たの?」


「いやぁ、彼女っつうか。」


〈ドゥフフフぅ〉と声にならない笑い方をして、おばちゃんに気味悪がられた。





再び、車を走らせる。



そうこうしてると隣の市のC店に着いた。


少し遅れてしまい....もう並びの列は店内に消えてしまっていた。


貴族な俺は悠長に、菓子パンをいちご牛乳で流し込み、ビニール袋に入った缶コーヒーとタバコ二つを手に車から降りた。


歩きながらビニール袋を漁り、ポケットにタバコ二つを押し込み、缶コーヒーを手にして、さりげなくビニール袋を捨てて店内に入った。




...ナイトは戦場に出て、初めてその力を発揮するものだ。



店内に足を踏み入れ、冷静になった俺はお目当てのシマに急いだ。



今日のお目当ては、ビアホールだ。



当たり確率240分の1、出玉2350個。


当たり終了後、保留1個目のみが当たり5分の1で再抽選される保留玉連チャン機だ。


絵柄は、0〜9までの数字と、枝豆、ジョッキ、ビール瓶、串もの、生(漢字)。


因みにC店では、初回のみ3、5、7、ジョッキ、ビール瓶で持ち玉、4、6、8で交換。生は無制限だ。ラッキータイムはなし。66玉(3円)交換だ。





シマに入ると先客がチラホラ。昨日打っていた台は抑えられてる。


ハシから釘を見て歩く。


あからさまに開いた台がチラホラ、あからさまに締まった台もチラホラ。


「出た台は締め、出なかった台は開けか。」


C店は釘を小まめに叩いてくれるから、やりがいもある。


俺は、空き台の中でヘソは及第点、一番綺麗な道釘を選んだ。


このメーカーの機械は、ヘソに向かう道釘の本数が少なく、ヘソが開いただけじゃ思うような回転数を稼げない事があるからだ。


タバコでキープして両替をして、席に戻る。


タバコの蓋の部分を千切り回転数を数える準備をして、缶コーヒーをグビリと一口飲み、くわえタバコで、いざ尋常に。


勝負開始!!






シュポン、シュポン。


この台は、ヘソに入る度に、瓶ビールをあける音がして、回転中には「正月から12月まで理由を付けて酒を呑む」音頭が流れる。酒を呑むのがコンセプトの台だ(笑)

出目は左、右、真ん中の順で止まり、下から上にスクロールする。




...俺は回転数を数えながら、淡々と投資を続けて1万円打ち込んだところで、342。一回交換のボーダーは上回っている。


保留が3個ついた状態で、両替機へと向かった。


両替を済ませて、席に戻ると〈イッキイッキ〉と、リーチが掛かってる最中で、グイッと中出目が止まる瞬間だった。


777。


「ぬおっ。」

ビックリして、思わず仰け反った。




こうして「ありがたや。ありがたや。」の持ち玉遊技がスタートした。



当たり終了後、保1でリーチ。

〈「イッキイッキ」タンタンタン「イッキイッキ」タンタンタン〉から掛け声が「イッッキィ」に変わった。当然の如く図柄が揃い、俺は箱を下ろし店員を呼ぶ。連チャンだ。



2連だったが、これで5000発弱を抱え臨戦体制が整った。



この機械、画面はドットなのだが、演出はなかなかのものだ。


真ん中のドットは役物としても動く様になっている。

同じメーカーのハネモノで活躍するオヤジが持っているジョッキが中出目なのだ。


リーチ中は、お姉ちゃんが「一気一気」と煽ってくる。よく見ると、役物のお姉ちゃんの腕も動いてる。スーパーになると、オヤジがグイッグイッと酒を呑むように、中出目をあげていく。とても秀逸だ。



当たり一回分打ち終わる前に、ノーマルで当たり単発。


この台のノーマルは通り過ぎる瞬間にグイッと持って当たる、見ていて本当に気持ちが良い。



次は約4500個飲まれたところで、スーパーが掛かる。


持ち玉遊技陥落寸前、ここまで3つのスーパーをはずしたところだ。


「イッッキィ、イッッキィ、」

手前を通り過ぎて、止まれ!!と念じる。


止まった。


「ヨシッ。」


当たり終了後、保1を華麗にスルーして、トイレに行こうと席を立ちかけたら、4のリーチが掛かる。


〈イッキイッキタンタンタン〉


グイッ。


444。


まさか、まさか、の自力連チャンだ。

しかも実質初回の交換ナンバーを蹴ってくれた。





そんなこんなで、道中一旦連続札は外れたが、すぐにラッキーナンバーを引き戻し、閉店近くまで打つことが出来た。


22時に当たった図柄が6で、札が取られて悔いなく終了。






出玉を流して、カウンターにレシートを出し、景品を受け取った。





外に出て景品交換所に並ぶと、思わず顔がニヤついてくる。




受け取った現金を財布に押し込めて、足取りも軽やかに車に向かう。



〈チェアちゃん待ってろよ、ドゥフフフぅ〉



俺はオンボロの高級車で帰路についた。














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