日暮しが宵越しの金を持つ。
ピピ、ピピピ、ピピピピピピピ
〈ガシッ〉
いつものように電子音で目覚めた。
時計に目をやるとAM7:20だ。
「....ふぅ。」
布団から[のそのそ]と這い出て、テーブルの上のセブ○スターに、手を伸ばした。
カキンッ、ジュボ、ッチン。
高級ガスライターで、タバコに火を着けた。
最近の俺は金回りが頗る良く、パチンコ屋巡りの道すがら、宝石店で10万円を越えるライターを買ったのだ。
そう成功者の証の喫煙用具だ。
勿論、俺は成功なんぞしてはいないが(笑)
...金回りが良くなった経緯は、ガキの頃俺に悪さを教えてくれた先輩に、久し振りに出会った事だった。
彼もパチンコをメシのタネにしていたが、所謂【平打ち】ではない。
【ネタ】で打っている攻略プロだ。
地元のキャンバスパブで、久し振りに会った先輩は、ドイツ製の【三点星】の車の鍵をジャラジャラしながら、イタリア製のスウェット上下、W喜平の太いネックレスとブレスをはめていた。
...俺からすると、御世辞にもセンスが良いとは言えない。
しかし[金持ってる感]は半端ない出で立ちだった。
その時、昔話で盛り上がった。気を良くした先輩は【ネタ】を格安で回してくれる約束をした。
そして、俺はベル番をメモして渡したのだ。
そして後日、約束通りネタを教えてもらったが「俺達が抜くって程には使えないけど、お前みたいな平打ちなら充分だろ?」と。昔馴染みと云う事で、特別にロハで教えてくれた。
他言無用との事だが「使えない」と言うのだから、気にはしないのだろう。
...しかし、俺はお人好しじゃない。
誰にも言わずにひっそり抜いている。新台からさほど時が経たずに教えてくれたのだから、自分だけが使える内に、抜けるだけ抜いておくに限る。
...そうしないと何ヵ月も経たない内に攻略誌でスッパ抜かれるだろう。
俺はこの【ネタ】を使うために、普段は足を伸ばさない地域まで足を伸ばしているのだ。
普段行く地域で出禁やマークされると、プロとして生きにくくなるから。遠出の為に、普段より早起きなのだ。
...俺は、夕べの飲み掛けの缶コーヒーを飲みつつ、タバコを消して、軽やかな足取りで古い住宅特有の急階段を降りた。
これ位の時間だと父親も出勤前だ。
仲が悪い訳ではないが、ギクシャクしている。
勤勉な父親には俺の生活が理解はしてくれど、到底納得は出来ないのだろう。
そんな父親と朝の素敵な挨拶を交わし、当たり障りのない話をし、シャワーを浴びてから、そそくさと2階に戻った。
そして、着替えを済ませ「行ってくるよ」と誰に言ったでもない言葉を玄関先に残して、慌ただしく家を出た。
「うるさい」単車に跨がり、走り出す。
雨以外の【通勤】は、単車が便利だ。
俺の走り方は、交通規範に反しているだろう。
しかし、車より早く目的地に辿り着ける。
そもそも俺はクズなのだ。
モラルもマナーも素行も悪い。
パチンコで勝てなかったら、出たり入ったりの懲役太郎確実だっただろう。
...上手い具合にパチンコと云う最後の砦で、ギリギリ引っ掛かっただけなのだ。
最近は片道小一時間かけて、パチンコ屋に行っている。
その道程、単車で30分も走れば見慣れた街並みから、段々見慣れない風景が拡がり始める。
...かと言って、感慨深いものはない。俺は俗物だ。
普段抱いている女性とは違う女性を抱けば、一頻り盛り上がる。
しかしだ。
普段走る街並みも、見知らぬ街並みも【街並み】としてしか認識できない。
見知らぬ街で
「こんなところに公園があるんだ。」
よりも、見知らぬ身体の
「こんなところにホクロがあるんだ。」
の方が数万倍盛り上がるのである。
....そんな愚にもつかない事を考えているうちに、馴染みのない店に着いた。
駐輪場に単車を止めると、ヤンチャ坊がパチスロのモーニングでも漁りに来たのだろうか?原付2ケツで2台に分乗してやってきた。
俺に思いっきりガンを垂れながら。
俺は地元じゃ多少顔が知られている存在だ、絡まれる事は少ない。
そもそも、絡んだヤンチャ坊は色んな意味で後悔するだろう。
しかし、地元じゃなきゃよく絡まれる。
俺は腕っぷしに多少の覚えはあるが、今日はケンカしたくて歩いている訳じゃない。今は大人しく目を反らしておこう。
もし、店員と揉めたら、腹いせにコイツらをブン殴ってから、この地域を離れよう。服装と顔は覚えた。
脳内でストレス発散しつつ、自販機で缶コーヒーを買い、パチンコ専用入口の列に加わる。
案の定、さっきのヤンチャ坊達はギャアギャア騒ぎながらパチスロ専用入口に並んでいった。
そうこうしてる間に、軍艦マーチが流れ始めた。
やはり何処へ行っても、この光景は一緒なのだろう。
先程までの朗らかムードから一転、皆猪武者のようにダダっと店内に雪崩れこんでいった。まさにデスマーチである。
俺の狙いの機械は、舞羅望烈火だ。
当たり確率は228分の1、当たり出玉は2300個。
簡単な方法で、驚異的な確率で保留玉連チャンを誘発させる事が出来る。
詳しく話せば、俺もこんがらがる。
なので単純に説明させてもらうが、保留玉を点けずに単発打ちで回していく、それでリーチが掛かると100%当たりになってしまうのだ。
そして、そのリーチの最中に保留玉を点けると、モード次第で50%、33.3%、16.7%で当たりになる。
最高で50%の確率の当たりの保留玉4個。強烈な連チャン機になるのだ。
しかし。こんな【ネタ】を使えないとする先輩はどれだけ抜いているのか?想像を絶する額だろう。
この機械は、ホール側が連チャンの仕組みを知っているのだろう。全台よく回る調整だ。
単発打ちで回していくのに、苦労する程だ。
先輩に聞いた話では「内部モード次第じゃ連続回転させると当たりが来ねぇ」だとか。
俺は単発打ちだから、真贋はわからないが、この店のジグマらしき数名が「回るけど当たらねぇからな(笑)」と取り捨てを迷っていたので、事実なのかもしれない。
...俺は、そのジグマらしき人間と離れた席の適当な空き台にタバコを置いた。
なるべく、他の奴に手の内を知られない様にだ。
両替して席に戻り、缶コーヒーを「グビリ」と一口飲んで、くわえタバコで....いざ尋常に勝負。
単発打ちで回りを重ねていく。
単発打ちと言っても【5〜6発打って、入らなければ、5〜6発】それを繰り返す。
多重入賞してしまう事もあるが、本当に単発打ちでは、時間効率が悪過ぎるからだ。
しかし、当たり以外にリーチが掛からないのは退屈で仕方ない。完全に作業だ。
甲高い〈ピャウピャウワピャウピャウワ、ピロロ、ピロロ、ピロロ〉と云う電子音を聞きながら、眠気との勝負。だから自然とタバコの量が増える。
「こりゃ不健康促進台だな。」
飽々してきたころ、リーチが掛かった。
ここは流石に目が覚める、右に当たり図柄が停止するまでが勝負なのだ。打ちっぱなしにする。
「チッ。っんだよ。」
運悪く保留を3個しか点けられなかった。
まぁ良い。四が4つ揃ってのスタートだ。
◇◇◇◇◇◇
この店は、70玉交換、2円85銭。
初当たりの三、五、七で無制限。
風、林、火、山がラッキーナンバー。二、四、六、八が交換図柄。ラッキータイムはなし。
◇◇◇◇◇◇
当たりを消化して、嬉し恥ずかし保留玉の時間だ。1個目スルー、2個目で三のリーチだ。
「....逆じゃねぇか!!」
初当たりで欲しかった三図柄のリーチだ。
当然。三三、三っと揃った。
若干、苦笑いしつつ。当たりを消化する。
消化後。
初当たりから見て、3個目の保留で、またも五のリーチだ。
「ツイてねぇな。。。」
苦虫を潰した顔になりつつ、無制限図柄を二つ潰した格好で、3連目を消化した。
当たり消化後
「よっこい..しょーいち。」
ドル箱を3つ抱えて、ジェットカウンターに向かい、玉を流す。
余り玉を片手に「さて、次こそは」と、違う台に腰を落とした。
同じ台で、店側にデータでバレるのを防ぐためだ。
効果があるのか?わからないが、一台で圧していくよりも良いだろう。
2台目は、画面に「林、風、山」。何となく書道家みたいでカッコいいから座った。理由はそれだけだ(笑)
余り玉で、書道家みたいなハズレ出目を崩してから、僅か1000円投資でリーチが掛かった。
...残念ながら図柄は一だが。
「ヨシッ!!」
ここは上手い具合に、保留を満タンに出来た。
無事(?)に当たり。
当たり消化後、1個目の保留玉で当たり。ダブル。
消化後、再び保留1個目で当たる。トリプル。
消化後、再びリーチが掛かり、嬉し泣きしそうなフォースだ。
まさか?まさか?で、消化後の保留玉でリーチが掛かる。
無事に揃い「お初に御目にかかります」のフィフスだ。
店員が煽りマイクをガンガン入れる。
「○○番台のお客様、烈火烈火烈火烈火烈火で5連チャン!!オープンスタートぉぉ、どうぞ!!」
...結局のところ。
今日は一日、無制限図柄にありつけなかった。
ラッキーナンバーもすぐ交換が出たり、持ち玉の恩恵は少なかった。
しかし、5連などをやらかして、当たりはツイた。
22時の初当たりからの2連を消化して、そのドル箱2つを流して、今日の仕事は御仕舞いだ。
最後のレシートをカウンターの店員に渡して、特殊景品と余り玉のお菓子を受け取った。
目立たないように、レシートは前以て景品交換して、現金化してある。
店から出て、駐輪場横の交換所で、2回分の景品を交換した。
駐輪場で単車に跨がり、こそっと現金を数えて、今日の水揚げを勘定した。
単発打ちのお陰で、投資額は低い。
時間効率が悪く初当たりの回数は少ないが、他の客より総当たりの回数は確実に多いだろう。
投資は少なく、返しはデカく。ローリスク、ハイリターンだ。
今稼いでる分も、泡銭には変わりない。しかし、今は夜の昆虫採集に勤しむ体力はない。
ネタが使えなくなってから、思いっきり散財しよう。
今は身を粉にして、稼げるだけ稼ぐとしよう。
「はぁ。この距離往復するなら、ホテル住まいのが楽だな。」
そう一人で呟き「うるさい」単車のエンジンをかけて、夜の闇の中へ走り出した。
一応は不定期連載です。
ブラボー烈火。
単発打ち時の保留玉は毎回50%じゃなかった記憶があるので、それを基に書きました。