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ゲームが現実(リアル)で、リアル(現実)がゲーム!?  作者: 日出 猛
第1章 ~起~ 俺が雪姫?!
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8話 君は誰?

初登校で新キャラ登場

 天王院家の門を出て夢翔学園に向かう通学路へ一歩を踏み出す。最初に気付いたのは視界が鮮明だということだった。昨日は、雪姫になった時点で日が落ちており、すぐ天王院家に入ったので気付かなかったが、武人の時()より遠くまでくっきりと見える。武人()の視力は0.5程で日常生活には支障はないが、車の運転やパソコン作業の時だけ眼鏡を掛けていた。遠景がアナログ放送とデジタルハイビジョン位違って見える、雪姫の知覚パラメータが高いせいだろう。これは、雪姫になって良かったことなのかも知れない。ちょっと、照り返しがまぶしいけど。

 進むのは初めて通う道だが、昨晩調べた地図とストリートビューが、脳内スクリーンショットのように記憶されているんで迷う心配はない。経路960mだから不動産の公正表示基準で言えば徒歩12分、信号待ちなんかがあっても15分掛らないだろう。今、8時25分だから40分には着く、予鈴が45分だから十分間に合う。


 雪姫()は、小学生並みの小さな身体を中学の制服に包み、白い日傘を片手に通勤通学の人々が行きかう通りを静々と歩いていた。人通りの多い所で初めて履くスカートの短さが気になって仕方がない。膝上10cmにも満たないスカートがめくれ上がって白い下着に包まれたお尻が見えてしまわないかと気が気でない。この身体は(武人)自身の物じゃなく雪姫からの借り物だから見られても気にする必要はない、そう割り切りたい所だが。人の視線を受け止めるのは雪姫の身体じゃなくて、その中に居る俺の心だから、とても切り離せそうにない。

 さっきからチラホラと見られてるのを感じる。冬の朝から日傘を指してる銀髪中学生が目を引いてるだけだと思う。ここは雪姫の通学路だから、雪姫の存在自体は見慣れてる筈だ。こうして雪姫の身体に向けられた視線を俺が感じるんだから、そこに男の欲望が満ちていたらと思うと寒気がする。


 3分程歩いていて気付いた。さっきから雪姫()は後ろから歩いてくるサラリーマンに次々と追い抜かれて居る。最初は、電車の時間が有って急いでる人なんだろうと気にしていなかった。だが、抜いて行くのはサラリーマンばかりじゃなく、大学生風の男、OL、女子高生、しまいには元気な小学生の女の子にも。無意識下で鮮明に残ってる記憶を振り返ると別に皆特別急いでる風でもなかった。特別ゆっくり歩いてるつもりではなかったが、もしかして、雪姫()の歩くペースの方が遅い? あまりゆっくりだと20分で学園に着かないかも知れない。俺は意識して歩みを速める。


 天王院家のあった高級住宅地と旧市街と新興住宅街からの人の流れが交差点で合流すると、歩いている人の数が急に増えた。人の流れに合わせて足早に歩く。大股気味に歩くと冬の朝の風がスカートの下に吹き込みむき出しの太ももがひんやりする。人ごみの中に居ると、否応なく雪姫()の小ささが強調される。前のサラリーマンの背中は巨大な壁だし、隣の男子高校生も見上げる程、横を駆け抜けていった女子高生も頭1つ位大きい。電車通学やバス通学じゃなくて良かった、この身体でラッシュにもまれるなんて地獄だ。

 ここまで歩いて来て、ほとんどの成人男性は黒髪で、若い女性には染めたらしい茶髪や金髪は居るし、遊んでそうな若い男で金髪や赤毛、茶髪は居るが、雪姫()のように銀髪や天然物っぽい赤毛や金髪は見かけない、容姿やスタイルも俺の記憶にある平凡な日本人そのものだ。天王院家(俺たち)が異端なのか?


 道のりの半分ほどが過ぎ、駅前に差し掛かるとサラリーマンやOL、『学園』以外の高校大学へ通う学生らが駅へと向かって行き、人の流れが変わる。巨人の群れに囲まれてる状態が緩和されて一息つこうと、信号機の根元に立ち止まる。ふぅと白い息を吐き出すと、呼吸が浅くなり、心臓がバクバクと激しい動悸を打っているのに気付いた。ずっとカバンと弁当を持っていた右手がだるくなっているので、日傘と持ち替える。まだ10分も歩いてないのに、なんでこんなに消耗してるんだ? 呼吸と心臓を落ち着かせようと、ゆっくりと深呼吸をする、冷たい空気が肺に染みわたる。

 1分程掛って、呼吸が落ちつき動悸も治まった所で残り半分の道のりに歩を進める。たった1km足らずの通学の道のりが初めての雪姫の身体にとって、こんなに冒険だとは思いもよらなかった。


 後半の道のりは、雪姫の身体に無理を掛けて周りのペースに合わせるのは止そう。雪姫()のペースで歩けば大丈夫だろう、学校に着いたら倒れたとか何の為に通ってるのか分からない。最初に歩きだした時と同じ無理のないペースで学園に向かって歩きだす。丁度通学列車が着いたのか駅の方から、小中高と学園の制服を着た生徒達が多数合流してくる。予鈴が鳴る前の通学ラッシュの時間だけに、学生の密度は非常に高い。

 合流してくる学生、雪姫()を抜いて行く学生の中に、明らかに俺の常識からすると普通ではない学生が居た。金髪縦ロールのいかにもお嬢様という背筋を伸ばして歩く女子高生、初等部なのに風吹貴よりも大きなバストのロリ巨乳、天然赤毛のバンダナ巻き男子高校生等、個人的接点はなかったが『Hidden Secrets』の有名プレイヤーキャラクター達、他にも日本人離れした美少年美少女やネタとしか思えない球体のようなデブ等非常識な外見の学生が1割程混じってる。学園の生徒数が初等部6学年2000人、中等部3学年1500人、高等部3学年1800人、大学部が3000人でその中に、初等部(4~6年のみ)に200人、中等部に400人、高等部に600人、大学部に1000人程プレイヤーキャラクターが居た筈だ。半分位はそれほど目立たない外見だが、5~10人に1人位、クラスで数人程度はプレイヤーキャラクターが居る計算になる。コンタクトを取れれば、俺と同じような状況のプレイヤーが居るかも知れない。何より、雪姫()だけが日本人離れした規格外美少女で目立ちすぎると言うのは避けられそうだ。ゲーム美少女が実体化した美少女が1割以上居ると普通のアイドル位の容姿だと埋没しそうだな。


 ドンッ! 不意に右肩に後ろから衝撃が襲った。上半身がつんのめり、身体が左方向に曲げられたたらを踏む。重さが負担になってたカバンが勢いで手から飛び出す。なんとか転倒はまぬがれたが、ショックは大きかった。

「悪りぃ、急いでるんだ!」

 前方から掛けられた声に、顔を上げるとそこには高等部の制服を着た男子が、半身で手刀を顔にかざしながら、学園に向けて走っていた。たぶん、何かの理由で走ってた男子高校生の手が雪姫()の肩口に当たったんだろう。平均的な男子高校生だったが、それでも小さく華奢な雪姫()より頭1つ背が高く体重が2倍位になる。元の武人()との対比でいうと2m140kgクラスの相撲取りか格闘選手やアメフト選手みたいな連中に取り囲まれてるようなものだ。さっきは相手がなるべく衝撃を減らそうとしてくれたんだろう、それでも倒れそうになる位の衝撃だった。そんな余裕も無い相手にぶつかられたら、そう考えたら背筋がゾクッと冷たくなった。

 ここで立ち止まってる訳には行かない、学校へ向かう為、足元に落ちたカバンに手を伸ばす。白く小さな手は、寒さとは違う理由でかすかに震えていた。雪姫の家族の庇護から離れて1人街を歩いて、自分がどれだけか弱い存在になったのかを自覚させられた。


 それから、歩みの遅い雪姫()を次々と抜いて行く中高生がぶつかるんじゃないかとチラチラ背後を気にしながら歩道の端を歩いていた。信号のない交差点にさしかかるとわき道から人が飛び出して来ないか気にかけ、後ろから脇をすり抜けていく中高生の影にビクつく。

 そんな雪姫()の姿が、商店街のショーウィンドに映った。小さな身体を縮こまらせびくびくと左右を見回す怯えた小動物のような少女の姿。その目は涙に潤み、日傘を持つ手は小刻みに震えている。思わず庇護欲を掻き立てられる儚げで可憐な少女の姿、これが俺の姿だというのか? 雪姫の身体は華奢で繊細で整った顔立ちでそれだけでも男の庇護欲を刺激する少女だが、今ショーウィンドに映ってる姿はそう言った外見の儚さだけでなく、表情や所作ににじみ出る雰囲気までも弱々しく、心も容易く折れそうに見えた。自身の情けない姿に戦慄をおぼえ、その場で硬直し歩みが止まる。


「ちょっと、天王院さん。何してるの遅刻しちゃうよ!」

 呆然としてた所に、知らない女の子の声がしたと思ったら、右手に持っていたカバンを取り上げられ、その手をとって引っ張られた。やわらかくて決して大きくはない女の子の手が温かく力強かった。半ば放心状態であった雪姫()は、女の子に手を引かれるまま足を進める。

 赤い髪をツンツンとワイルドになびかせた活発そうな女の子は雪姫()と同じ制服を着ており、リボンタイの色が同じだから学年も同じようだ。彼女は雪姫()を「天王院さん」と呼んだから雪姫のことを知ってるんだろう。だが、雪姫の記憶を持たない俺には誰だかわからない。まつ毛や眉と同じ染めたものではないナチュラルな赤毛の少女は、繊細で儚げな雪姫とは対極の生命力あふれる活き活きとした元気少女だが、その顔立ちスタイルは現実のアイドルやモデルじゃ比較にならない程に整っている。この子もきっとプレイヤーキャラクターなんだろう。

「あなたは…」

「話は後々。急ぐよ。しっかりついて来て!」

 プレイヤーかどうか確認しようとしたのを遮り、少女は雪姫()の手を引いて走り出した。右手で2人分のカバンを掴んで走るいかにも運動少女というその娘に、雪姫の非力な身体で対抗できる訳も無く、引っ張られるまま倒れないよう必死で足を動かす。カモシカのようなという形容が良く似合う健康的で伸びやかな脚を大胆に広げ、大きなストライドで元気に走る少女に、引きずられながら華奢な脚を細かく回転させてついて行く。気付くとあれだけ居た登校中の学生達の姿が左右に無く、前の方で走ったりさらに前方で小走りに急ぐ姿しか見えない。

 少女に引っ張られるまま走る。少女にとっては準備運動レベルなのかも知れないが、雪姫()にはきつい。心臓の鼓動は激しく、息が苦しい。日傘も差す余裕はなく、左手にぶら下がって空気抵抗だけを生産してる。ぜぇぜぇと息をしながら止まって欲しいと願うが声を出す余裕はない。前方の走ってる学生グループに追いつき、小走りから走り始めたグループに迫る。

「ラストスパート、後一息がんばって!」

 商店街を抜けたあと学園の校門に向けて100m程の上り坂が続いてる。本来、なだらかなスロープとでもいうべき坂だったが、今の雪姫()にとっては心臓破りの坂に見えた。チラチラと腕時計を確認しながら走る学生達と並び、少女に引かれるまま動悸が激しい心臓と酸素不足にあえぐ肺を抱え、疲労を訴える足に鞭打ち坂を上る。足をほんの少しだが元より高い位置にあげるのが辛い、細すぎる太ももの筋肉が悲鳴を上げる。もう許して欲しい、休ませてくれとへたり込みそうになるのを、力強く握った少女の手が許してくれない。少女は崩れそうになる雪姫()の身体を半ば引き上げるように走りきり。他の学生達と一緒になだれ込むように校門をくぐった。


 キンコーンカンコーン キンコーンカーンコーン

「なんとか、間にあったね。天王院さん」

 少女の言葉と長らく縁のなかった学校のチャイムの音を聞きながら、雪姫()の足から力が抜け、少女の胸に倒れ込む。視界が闇に染まり、思考が混濁する中、少女の声が耳に響いていた。

「ちょ、ちょっと、天王院さん。天王院さん、しっかりして……」

初登校は冒険だった。

新キャラの正体は次回判明

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