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ゲームが現実(リアル)で、リアル(現実)がゲーム!?  作者: 日出 猛
第1章 ~起~ 俺が雪姫?!
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6話 始まりの日の終わりには?

 ノックされて無視すると、鍵を掛けたままだから変に思われるか。部屋を見回して隠す必要のあるものがないのを確認して扉に歩み寄り鍵を開ける。

「……はい」

 戸をゆっくりと開けながらけっこう頑張って声をかける。雪姫の(この)身体は声を出すのが億劫になる。

「はい、雪姫~、お姉ちゃんの特製ホットチョコよ」

 トレイ片手に風吹貴が入って来て、茶色の液体で満たされた雪だるまの絵が付いた可愛らしいカップをテーブルに置いた。

「雪姫は成長期だからしっかり栄養取るのよ。もう遅いから明日の用意して、歯磨いて寝なさい」

 そう言って水色の上下セットの服をベッドの上に置くと風吹貴は部屋を出て行った。もうそんな時間か? 雪姫の(この)細い喉から小さい胃に苦労して夕飯を流し込み(味は大変美味しかったが)部屋に戻ったのは20時30分過ぎで、失神から目覚めたのが20時45分だった、時計を確かめると21時20分。明日の支度して歯磨きして22時頃、小学生なら寝る時間だろうと思うが中学生にしては早くないか?

 そんなことを考えながらせっかくの『お姉ちゃん特製ホットチョコ』に手を付ける。カップを近づけるとカカオの香りが広がる、口を付けるとまだ雪姫の(この)猫舌には熱すぎるので、ふうふうと吹いて表面を冷ましてそっと啜る。どうやって淹れたのかは分からないが市販のココアとは違うミルク、カカオ、砂糖だけでない複雑で豊かな味がほっとした気分にさせてくれる。


「ふわぁ…」

 思わず可愛らしい欠伸がもれる。瞼が重くなって降りてくると、長く豊かな銀のまつ毛が視界の上辺を覆う。眠い? 身体が心地よい脱力感に覆われる。武人()にとってはまだまだ宵の口でここから3時間程が『Hidden Secrets』の一番盛り上がる時間帯だが、雪姫の(この)小さな身体は疲労と消耗から休息を欲しがっている。雪姫の食の細さと小さくて軽い身体では小学生低学年並みの体力で夜中まで持たないのかもしれない。

 温かいホットチョコで糖分を補充すると眠気が少し抑えられたが、長くは持ちそうにない。12月だが冬休み前でまだ数日授業がある筈だ、学校を休むという選択肢もあるが、それをすれば風吹貴が心配して放っておかず行動の自由が効かなくなるだろう。それに、学校での雪姫の状況も探っておきたい。そこが、原因に繋がってる可能性は大いに考えられる。


 明日必要な教科書やノートを用意する為に、まずは時間割の確認だ。何処にあるかと考えると机の中を調べた時に見た光景が次々に浮かびその中で時間割表が挟まっていた光景があった。記憶に従って引き出し2段目を開けノートをどけると、時間割表のプリントが出てきた。その内容を一瞥すると、脳裏に時間割表のスクリーンショットができあがる。雪姫も時間割表が画像として脳裏に固定されていたからわざわざ張って置く必要が無かったのか。

 カバンの中に明日の授業の教科書とノートを入れていく、英数国理社と音楽か。6教科分の教材を詰めたカバンを持ち上げてみると雪姫の細腕にはずっしりと重い。持ち上がらないってことはないが、長い時間片手で持つのは雪姫の(この)細く非力な手には厳しそうだ。記憶にある女の子が両手で大切そうにカバンを持ってる光景は彼女達の手には重かったからなんだろう、雪姫()もその一員に入ったということなんだ。なんだか理不尽さに不満を感じた。


 もう1つ準備しておくことが有った。この天王院家から夢翔学園中等部までの道順だ。今日気付いた時はすでに広場に居たし、そこからも日火輝のバイクで帰ったから道順が分からない。帰路の断片は雪姫の映像記憶で残ってるが日火輝のことを考えていて、その背中ばかりを見ていたせいで道順が繋がるだけの情報がない。なんで俺が男の背中の記憶ばかり焼きつけてなきゃいけないんだ?

 パソコンを立ち上げ顔認証をパスするとネットでマップ検索しストリートビューを開くと天王院家が見つかったので、そこをマーキングした。その上で、今度は夢翔学園を検索する。

 直径500m位の円形の敷地が並木で中央区画と四方に仕切られ、初等部、中等部、高等部、大学部の校舎が入って居る。中央は学園共同施設で、北に大学部、西が高等部で東が初等部、雪姫()が行くことになる中等部は南のブロックになる。中等部の校門前をマークして天王院家から校門までのルートを徒歩ルートで検索する、直線距離では600~700m位だろう。ルート検索の結果は、駅前と商店街を経由しての960mと出た。地図を確認し、さらに曲がり角や分岐点をストリートビューで確認する。目を閉じて地図を思い浮かべると細部まで鮮明に記憶が蘇る、天王院家は高級住宅街の入口にあたるらしい、奥の方は大きな区画の家ばかり並んでる。道順も分岐のストリートビューも鮮明に浮かび上がる。この脳内スクリーンショットな映像記憶能力は本当に便利だが、どこか不安も感じる。


 とりあえず、明日の登校の準備はできた。明日は学校に行って雪姫の学校での状況を探ってみよう。

 そうだ、ついでに1つ確認しておかないと行けないことが有った。この世界が本当に『Hidden Secrets』と同様の要素を備えた世界なのかどうか。

 『Hidden Secrets』のメインタウンである密川市が存在し、雪姫()の他に日火輝()風吹貴()が『Hidden Secrets』のまま現実化した姿で存在することと、雪姫が魔法少女であることは確認した。しかし、日火輝の変身も風吹貴の覚醒も見ていないし、怪人や魔獣、異端者の存在を確認した訳ではない。

 もしかしたら『Hidden Secrets』と同様の並行宇宙が収斂した世界ではなく、そこにより合わされる世界()の1つである『スノープリンセス・ユキ』の世界なのかも知れない。雪姫が唯一の魔法少女であるユキの世界ならば、雪姫が受ける心理的負担は増すだろうし、雪姫が敵の標的になる可能性も上がる。早めに確認しておいた方が良いだろう。


 大分、眠気が増してきた。雪姫の身体が眠りを要求しているらしい、早めに切り上げよう。歯を磨けと言われてるから、カップを返して歯を磨いて来よう。部屋を出る前に、ベッドの上に置かれた服を確認する、裾や縁が丸くカットされフリルのあしらわれたかわいいデザインの女児用パジャマだった。思わず溜息をもらし、一日も早く戻る方法を見つけようと心に誓う。

 飲み終えたホットチョコのカップを手にキッチンへ向かう。そこでは、風吹貴が何やら料理をしていた、もうすぐ22時という時間に料理? 日火輝が夜食でも食べるのか? 眠りたい身体が考えようとする脳の要求を拒むのか、考えるのが億劫になって来た。雪姫()が食べる訳じゃないから関係ないか。

「コップ……」

 空になったコップを風吹貴に差し出す、本来なら流しで洗うべき所なんだが、流しを風吹貴が占領してるんで指示を仰ぐしかない。直ぐに風吹貴が振り向いてコップを受け取りながら言う。

「持ってきてくれてありがとう、美味しかった?」

 慈愛に満ちた笑顔を向けられてくすぐったい。声を出すのも億劫だったんで、こくんと頷いて、微かな笑みを返す。それだけで納得してくれたのか風吹貴が「良かった」と言いながら頭を撫でてくる、子供扱いが歯がゆい。


「眠そうだし、歯を磨いて早く寝なさい」

 そういう風吹貴の視線の先には壁に埋め込まれた洗面台が有った、洗面台にはプラスチックのカップが置かれ、黒、赤、緑、水色の4本の歯ブラシが立てられていた。ここで歯を磨けということだろう、どの歯ブラシを使えば良いかだが、残念なことに悩む余地が無かった、水色の1本だけ短くヘッドの小さい形状をしている、雪姫の小さい手と口に合わせたチョイスだろう。また子供扱いを受けて気が滅入る。

 歯ブラシを軽く水洗いして歯磨き粉を付ける、さすがに雪姫専用で子供ハミガキが用意されているということが無かったことに安心する。まあ、子供用ハミガキ使うのは小学生でも低学年位までか。歯ブラシを口に入れて、歯を磨き始める。ブラシが柔らかめなのと、雪姫()の握力が弱いんで今一つ物足りない気分になる。


 歯を磨きながら、風吹貴が来たせいで中断された思考を再開する。俺が雪姫の(この)身体に入って居る事態の理由と方法については考えた。後は、意味なんだが。偶然であれば、意味は特に無いだろう。俺は意図して実行していない。雪姫が招いたのなら、第3者が招いたのなら、神の意図ならこの俺が雪姫になっている現象にどういう意味がある。

 雪姫が意図したものであれば、その意味は雪姫自身の代役だろう。自分の立場を投げ出し代役を求めた雪姫が、成り行きを見守っているとしたら、雪姫の置かれた状況を改善すれば戻って来るかもしれない。

 第3者が意図したものであれば、スノープリンセス・ユキの弱体化を狙ってだろう。事情の分からない他人と入れ替えることで無力化を狙った計画。もしそうならば雪姫のことを多少は知る俺が入ったことは不幸中の幸いだったのかも知れない。雪姫の時以上に活躍することで諦めさせることができるかもしれない。

 神の意図だった場合か、何の意味があるんだろうな。俺に対する試練、単なる実験や暇つぶし、入れ替えることで何かをさせようとしている?

 情報を集めながら絞り込んで行くしかないだろう。歯を磨き終わったので、思考を中断し口をすすぐ。歯ブラシを軽く洗って洗面台に戻して、風吹貴に振り返る。

「……おやすみ、なさい」

 就寝のあいさつはしておくべきだろうと考えて挨拶をすると、また風吹貴の慈愛に満ちた笑顔が返って来る。

「おやすみ、雪姫。暖かくして寝るのよ」

 風吹貴の言葉に、こくんと頷いて応えると、部屋に戻る。今日から事態が解決するその日まで俺の拠点となる雪姫のおへやに。


 部屋に戻ると、眠気もかなりきつくなってきていたが、着替える必要があるだろう。着ていたスウェットを脱ぎ椅子に掛ける、下に着ていたキャミソールを脱いだ所で問題に遭遇した。

 これは眠るときは外しておくものなのか? それともつけたまま眠るべきなのか? うつむいた視線の先にある白い肌の上に回された水色の物体、その名はブラジャーと呼ばれるもの。グラビア等でお目にかかるきっちりカップのついたものとは異なる子供用?っぽいブラ。付け心地としては締めつけられた感じはないし、寝苦しくはなさそう。胸に手が当たっただけで痛みを感じたことを考えると、付けて保護しておいた方が良い? 今日初めて付けたばかり(入浴で着替えたんで2枚目だが)のブラを寝るときどうすれば良いかなんて分からない。

「くしゅん」

 高く小さい可愛いくしゃみが雪姫の口からもれる。上半身ブラ一枚で迷ってる間に冷えたらしい。ブラの下に隠れている未熟すぎる果実を直視する踏ん切りがつかない俺はブラを付けたまま眠ることにして、手早く白く細い腕をパジャマの袖に通し襟元を合わせる。やはり合わせが逆で一瞬戸惑うが、白く細い指でボタンを1つずつ止めていく。ズボンも脱いで履き替えると、急いでベッドに潜り込む。女子中学生のベッドに入るというのに抵抗を感じたが、身体は持ち主のものだし、眠くて寒くて早く暖かくなりたかった。

 ベッドに入ったら女子中学生らしい香りとか感じるのかと期待したが、特別な香りは感じなかった、雪姫自身の香りだからだろうか? 明るい水色の水玉模様のカバーに包まれた掛け布団はかなり厚みがある物だったが、驚くほど軽い布団だった。これが噂に聞く羽毛布団という奴か、軽くて頼りないかと思ったが保温性が高くてとても暖かい。ひ弱な雪姫の(この)身体だとこういう布団でないとゆっくり休めないのかも知れない。

 枕もとに照明のリモコンが有ったので30分のタイマー消灯をセットする。


 暖かい布団に包まれて、気持ちよくまどろみながら、明日からのことを考える。

 まず大事なことは、行動の自由を確保する為に日火輝()風吹貴()には雪姫の中身が別人()だとばれないように隠すこと。これは大前提だ。2人には悪い気もするが雪姫を取り戻す為でもあるんで我慢して貰おう。

 その上でやるべきことは

 1:この世界の情報を集め、何処まで『Hidden Secrets』と類似した世界かの確認。

 2:俺が雪姫の中に居ることになった原因の調査、まずは雪姫が原因の可能性から。

 3:雪姫の置かれた環境の確認と改善。友達位作れないものか。

 4:俺と雪姫の接点である『Real World Online』を進める、ずれを生じさせると戻れないかもしれない。


 かなり忙しくなるな……、この身体で持つかな……、おやすみ……


ようやく1日目の終了です。6時半の少し前から10時過ぎまでわずか4時間で6話も掛ってしまいました。


次は、翌朝から始まり初登校します。

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