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ゲームが現実(リアル)で、リアル(現実)がゲーム!?  作者: 日出 猛
第2章 ~承~ 雪姫として進む日々
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26話 初めての日とライバルとの出会い

 身体測定の騒動から10日程過ぎた月曜日、朝目覚めが遅く風吹貴に起こされた雪姫()は普段にもまして頭がはっきりとしなかった。風吹貴に促されて階段を下りる途中踏み外しかけ「しっかりしなさいよ」とお叱りを受けてしまう。

 そのまま風呂場で身体を暖める為にシャワーを浴びるが手足が温まっても頭が回ってこない。ふらふらしながら風呂場を出ると風吹貴につかまり手足や首筋にしっかりとUVローションを塗りたくられた。

 制服を着ると風吹貴に追われるようにしてダイニングの雪姫の席に付き、朝食を食べる。味は美味しいと思うのに食欲が湧かずもそもそとゆっくりしか食べられない。雪姫の身体はいつも快調と言えないものだったが、今日は一段と悪い。


「雪姫ーぃ、おはよう」

 食べるのにもたもたしてるうちに焔邑が迎えに来てしまった。

「朝はしっかり食べた方が良いよ。雪姫は身体が弱いから特にね」

 何かを言う前に釘を刺されて、食べてもらったり残す選択を断たれ、もそもそと食べ続ける。

「時間が押してきたらあたしがおぶって走るから安心してね」

 焔邑から心強いうれしくない提案がされる。焔邑におぶさって走り抜ける構図の余りの情けなさに、ひきつった笑顔を返すと朝食のサンドイッチをお腹に収める作業に専念した。


 やや時間が押しているものの雪姫の足でなんとか間にあう時間に家を出た。

「今日は雪姫、顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」

 焔邑が心配そうに顔を覗き込んでくる。焔邑のような美少女に間近に迫られるとドキドキする。焔邑に手を引かれながら学園への道を進んでいく、胸のドキドキが止まらない。

 視界が暗く霞み、手足に力が入らなくなり、意識も朦朧としてくる。


「気がついたわね、貧血で倒れて紅衣さんに運び込まれたのよ、覚えてる?」

 保険医が声を掛けて来た、カーテンで仕切られた保健室のベッドに寝かされているらしい。身体を起こそうとしたら。

「まだ横になってなさい。貧血で倒れたから、無理するとまた倒れるわ」

 保険医に制止されてしまった。

「貧血の原因は生理ね、処置はして置いたわ」

 保険医から予想外な言葉が漏れる。『生理』と言えば思春期を迎えた女性に月1回訪れ股間から血を流す生理現象の通称だ。男である限り深入りしがたい雰囲気を持つ物で保健体育でそういうものがあると聞いた以上の情報はない。

 処置して置いたという保険医の言葉から意識してみると両足の間に下着とは違う分厚い物が挟まった感触が有った。

「天王院さん、先月も保健室に来てたわね。初めてじゃないんだからちゃんと準備して置かないと駄目よ」

 保険医からダメ出しを貰ったが、それより重要な情報が有った。雪姫が先月に保健室に世話になっているという言葉は聞き逃せない情報だ。先月に雪姫がまだ生理に慣れて居なかったであろう事と入れ替わりが起こった直前で雪姫は慣れない生理を体験していたということだ。

「貧血が多いみたいだから、鉄分をもっと取らないと駄目よ」

 保険医から注意を受けた。解ってるけど雪姫の身体が受け付けない食品が多いから難しい。帰宅後には風吹貴にもしっかりと怒られたが、雪姫にとっては初めてじゃなくても、俺には初めての経験でどうしようもない。


 それから週末まで生理とそれに伴う貧血に悩まされたが、土曜にはようやく生理から解放され貧血も治まった。フィーと焔邑からいたわられて事件関係の情報から離れていた。だが、今日になって事件が起きたという情報を受け風吹貴に焔邑と一緒に出かけるとギリギリ嘘にならない宣言をして家を出る。

「お待たせ、雪姫」

「敵は商店街の方に出たようだ」

 焔邑とフィーに合流した。

「清らかなる雪の聖霊よ、もとめに応え静寂のベールに包め、Summon(サモン) Spirit(スピリット) of(オブ) Snow(スノー) |Metamorphoseメタモルフォーゼ!」

「燃え上がれあたしの情熱(ハート)! マジカルハート、バーニングアップ!」

 直ぐに変身し、スノープリンセス・ユキとバーニンガール・エンへと姿を変えた。フィーから贈られたプリンセスパラソルを伸ばしてフライングブルームを唱えた。

 エンを後ろに乗せてフィーと共に宙に舞う。商店街を目指し青い尾を引く箒を飛ばす。あっ、という間に商店街の上空に達し、怪人と戦闘員の姿が見えた。さらに、既に先客も来ているのが見えた。

「えぇぇぇーっ! あれだけは駄目、駄目、駄目だよー」

 突如、後に乗っているエンが大声をあげ怪人と先客の注意を引きつけてた。こちらを見上げる黒光りするボディに長い触角をもつ不快害虫No.1のそれが2m程の身体を後ろ足で立ち上がっている。それに対峙していた先客2名も見上げている。

 見上げている2名の片方はクリスマスイブに出会った自称:ライトニングジャック君だ即興っぽかった名乗り覚えて居るだろうか? もう1人は豪奢という言葉が良く似合う金髪の魔法少女だ、コスチュームも厭味にならないギリギリのラインで金銀がふんだんに使われている。

「私はスノープリンセス・ユキ、こっちはパートナーのバーニンガール・エン。上から失礼します」

 怪人のモチーフへの拒否反応で錯乱しているエンの分も挨拶する。

「お前らは!」

 ライトニングジャック(仮)が気付いたようなので軽く手を振りながら笑顔を返して置く。

「2度目だね、たしか名前はライト……」

「ライトニングジャックだ! 知っててやってるだろお前」

 残念ちゃんと覚えて居たとは予想外だった。

「わたくしはシャイニーオラクル、先着したわたくしに権利が有りますから下がっててくださる?」

 シャイニーオラクルと名乗った魔法少女の芝居がかったしゃべり方に既視感を感じる。先着の権利というのは『Hidden Secrets』がゲームであった時代のマナーとして先着プレイヤーには後続プレイヤーが参戦するのを認めるか認めないかを選択する権利が有ったことをさす。主には仲間を呼んで合流するのに使われるが、稀にソロ攻略をするケースもあった。その考え方がここで出てくるとは思いがけない話だった。

 だが、そう言ったシャイニーオラクルが怪人を正視せずに視線を逸らしている、後ろでパニック状態のエンよりはマシだけど、倒せるとは思えない。


 シャイニーオラクルの先行権主張は、ライトニングジャックも尊重してるだけに尊重せざるを得ないだろう。だが、このままシャイニーオラクルが怪人を避けてるのを放置する訳にもいかない。それでフィーに確認を取る。

「シャイニーオラクル達も一緒に結界に入れられる?」

「ああ特殊な力を持つ者はみな結界に囚われることになる」

 ゲームの設定と同じことを確認できて準備は整った。

「シャイニーオラクルさん? 提案があるんだけど聞いて貰えるかな?」

 怪人から目を逸らし続けるシャイニーオラクルに尋ねる。

「何の提案です? 手短にお願いできます?」

 シャイニーオラクルの返事を聞いて、提案をする。

「一般人を保護する為に敵と私たちだけ隔離した結界に移したいんだけど、それだけ受け入れてもらえない?」

 シャイニーオラクルがあごに指を当てて考えるしぐさをする。

「わかりましたわ、その提案受け入れましょう」

 シャイニーオラクルの許諾を受けてフィーに声を掛ける。

「フィー、おねがい」


「まかせろ」

 フィーが怪人と戦闘員と俺達を囲うように空を飛び結界を張り巡らす。それまでの商店街の風景が消えて採石場を思わせる岩場に黒光りする害虫の怪人、戦闘員、ユキ、エン、フィー、シャイニーオラクル、ライトニングジャックがその位置関係をそのままに姿を現す。

「良い妖精を連れて居るわね。やりやすくなったわ」

 シャイニーオラクルがフィーに賛辞を贈るがやはり怪人からは視線を逸らし続けている。逸らしながら、視界に入った戦闘員にパンチ、キックをお見舞いしているが埒が明かない。

「事はついでだから、もう一手お手伝いして良いかな?」

 シャイニーオラクルに尋ねる。

「好きにしなさい、毒食らわば皿までよ」

 シャイニーオラクルの言質を取った所でライトニングジャックに振り返る。

「ライトニングジャックさん、ナパームライトニング使えます? 使えるなら戦闘員の全部に撃って貰えない?」

 ライトニングジャックが話を振られて、こちらを仰ぎ見る。

「もちろん使えるぜ、この人数くらい一度に狙うのは訳ないさ」

 ライトニングジャックが右手を振り上げると天空に雷雲が浮かぶ、手を振り下ろすと雷雲から戦闘員の各々に雷が降りそそぐ。一発で戦闘員9体が焼け焦げた死体に変わった。

「ということで、一手お手伝い終わりました。あとは怪人だけですよ、シャイニーオラクルさん?」

 声を掛けられたシャイニーオラクルがわなわなと震えている。そして、意を決したように宣言する。

「こうなったら、最後まで面倒見てもらいますわ。怪人もあなた達で倒してくださいな」

 シャイニーオラクルが折れて怪人自体倒すのを任されることになった。意地を張っていたが怪人の姿に耐えかねて居たんだろう。


「わかった、こっちで倒させてもらいます。ライトニングジャックさんは手伝ってくれますよね」

 シャイニーオラクルに引き受ける旨告げるとライトニングジャックを振り返って尋ねる。

「手伝えばいいんだろ手伝えば」

 イライラした態度を隠さずに応えるライトニングジャックは、相当ストレスがたまっていたようだ。

「私が前衛で攻撃を防ぐので、ライトニングジャックさんは後衛で遠距離攻撃して敵の体力を削ってください」

「やってやるよ、あと呼ぶのはジャックで良い、長ったらしくライトニングジャックさんなんて言ってたら気が抜ける」

 ライトニングジャックが名前の省略を提案して来たのでそれに乗る。

「よろしくお願いします、ジャック」

 一旦、怪人から離れた所に降りたユキ()は、錯乱気味のエンをフィーに任せる。

「離れてるから、ここなら大丈夫、エン。フィー、エンの事お願いします」

 それだけを告げると怪人の元へ走りながら2つの魔法を唱えた。1つ目は箒モードから変形させ傘を開き柄を縮めた盾モードのマジックワンドを軸にしたアイスプロテクション。そして、氷の剣アイスフルーレを右手に生み出した。

「静けさに包む穢れ(けがれ)なき雪の乙女、スノープリンセス・ユキ参ります」

 名乗りの口上をすませて、右手の氷剣で切り掛る。アイスフルーレを選択したのは、目の前の怪人を素手で殴るにはさすがに抵抗があったからだ。

 体長約2m程で後ろ足2本で立ちあがったゴキブリそのままのシルエットは、エンが取り乱し、シャイニーオラクルが視界に入れるのを避けるのも頷ける。俺もこうして挑んでいるが、人並みに気持ち悪いという感情はある、我慢できる範囲だという差があるだけで。

 突き出したアイスフルーレが避けられた、動きが早い。昆虫型は一般的に素早い傾向があるがベースがゴキブリだけに輪を掛けて早い。

「そういう相手なら、フリージングブリザード」

 構えた氷の盾表面から氷雪の吹雪が吹き荒れる。範囲型攻撃で素早い敵も捕らえることができる。しかも、凍結効果のある吹雪が足を凍りつかせてくれる。足が凍りついたゴキブリ怪人はもがきはじめる。そこにジャックから雷がほとばしる。

「氷の魔法は、炎や雷ほど威力は無い。その代わり、動きを縛る氷結効果が一手毎に累積する。一手、二手、三手これでもう身動き1つできない」

 語りながらゴキブリ怪人の6本の足各々に剣の攻撃を加えるとそこが凍り付いていく。

「動きが止まったから大きいのお願い」

「雷の王の名の元に、千千に乱れる雷を一に束ねて悪を討つ! バンドルライトニング!」

 広がっていた放電が一点に集束され太い雷の束となって怪人を焼き焦がしていく。怪人はそのおぞましい姿を散らし中からはメタボ体型で脂ぎった女性にモテなさそうな男が出てきた。

「ありがとうジャック。お陰で早く倒せた」

 そう言って右手を差し出した。

「礼なんて要らねえよ、あんなの俺一人で楽に倒せたんだ、あの女が余計なことを言わなきゃ」

 ジャックは差し伸べられた手を取ることなく愚痴る。

「ジャックとの連携は良かったから、今後も組んで戦いたいんだけど」

 もうひと押ししてみた。

「ば、馬鹿言うな。女となんか組んで戦えるか。お前らがピンチの時には助けてやってもいいが、つるんだりしない」

 照れたように視線を逸らしながらジャックはいう。

「そうなんだ。それは残念、ピンチの時はジャックの加勢、期待させてもらいます」

 ジャックはその言葉に応えず背中を向けて立ち去って行く。

「片付いたようですわね」

 シャイニーオラクルが話しかけて来た。

「片付きました。ライトニングジャックの活躍のお陰で」

 シャイニーオラクルは面白くなさそうな表情を見せる。

「今日の所は助かりましたわ、お礼を言わせていただきます。何事も相性というのがありますからね。今度出会った時には、わたくしの実力たっぷりと見せて差し上げます。失礼しますわ」

 捨て台詞を残すとシャイニーオラクルは背中を向けて歩み去る。

「そろそろ目を覚ましてくれないかな、エン。もう怪人は退治されたよ」

 その一言にエンが正気を取り戻す。

「えっ、終わったの? あたし何もしてないよ」

主人公にとって初めてのあの日でした。但し雪姫としては初めてではないので表向き大きなイベントは有りませんが、主人公の精神への影響はその限りではないようです。

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