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ゲームが現実(リアル)で、リアル(現実)がゲーム!?  作者: 日出 猛
第2章 ~承~ 雪姫として進む日々
23/27

22話 終業式と着せかえ人形(後編)

 回転ずしで昼食を取った雪姫()達は、一度家電ビルを出て隣のデパートへと移動する。エスカレーターに焔邑と珠ちゃんを前に、雪姫()と風吹貴が後に並んで階を一つ二つと登っていく。

「着いたよー」

 焔邑が元気に声をあげたのは4階婦人服売り場だった。いくつかのテナントが入っており、ティーンネイジャー向けの店や20代の女性向けの店、子供が居るような落ちついた大人の女性向けの店と並んでいる。

「う~ん、まあ一度見てもらった方が良いか」

 自分たちもひいきにしてるのであろうティーンネイジャー向けの売り場へと向かう焔邑や珠ちゃんの背中を見て風吹貴が呟くが、何を見てもらうんだ?

「これ、雪姫に似合うんじゃない?」

 淡い水色をしたワンピースを差し出してくる、シンプルで清楚な感じの衣装が俺に「似合いそう」なんだと言われると正直困る。ハンガーに掛ったままのワンピースを手渡されて胸の前に当てて鏡で見てみる。

 青味ががった銀髪のツインロールをした華奢な美少女が淡い水色のシンプルなワンピースを当てている。客観的に評価してこの儚げな少女に清楚なワンピースは似合うだろうと思う。ただ、サイズがいささか大きく見える。肩幅がかなり余っているように見える。

「これはサイズ合わないね、似合いそうなんだけど」

 風吹貴が一目で断じる。風吹貴が見たタグをみるとサイズには7号と書かれていた。婦人服ってS・M・Lとかじゃなくて数字で何号って付いてるんだな。店にあったサイズ表によると7号でバスト76・ウェスト58・ヒップ86に成るらしい、9号11号と並んでいるから7号は比較的小さめらしいんだがアニメやゲームのキャラと比べて現実のサイズは結構大きいんだな、特にウェスト。

「この子、肩幅狭いでしょ厚みも無いし、まだレディースだとサイズ合わないのよ」

 風吹貴が焔邑と珠ちゃんに対してとんでもないことを言っていた。この身体ティーン向けの衣服の規格外に小さいのか。一体どれだけ小さいんだ?

「サイズが合わないってことは」

「それだったら」

 焔邑と珠ちゃんの予想を肯定して風吹貴が応える。

「そうなの、雪姫はまだ子供服コーナーなのよ。ということで後2階上に行きましょ」

 その言葉で子供服売り場に移動することになった。婦人服でも苦痛なのに婦人服すらサイズが無くて子供服って、心のHP(ヒットポイント)がガリガリと削られるのを感じる。


 階をあがり目の前に広がったのは、婦人服売り場の背徳感とはまた違う場違いさを感じさせるパステル調で可愛くまとめ上げられた売り場、子供服売り場だった。小学生やもっと小さな子供を連れた母子が大勢いる。男の子は服装に興味なく着れればなんでも良いという素振りで、早く玩具売り場でゲームを見たがっている。女の子は小さい子でもおしゃれに興味があるのかあれこれと服を物色している。

 俺は男の子の方だから、女の子のファッションなんて興味無いんだよなーっ等と現実逃避してる間に焔邑と珠ちゃんの2人は獲物を狙う鷹の目で服を物色し始める。

 しかし、この場を支配する策士・風吹貴は軽々に動かず、強力な手札を切った。

「すいませーん、この子の採寸お願いします」

 店員を呼ぶ風吹貴の声に反応し、こちらを振り向いた店員の目が、爛々と輝きを見せる。この売り場にある限り雪姫()は猛獣の毒牙から逃げ惑う子うさぎのような無力な存在にすぎないのだ。

「は~い、採寸いたしますね」

 極上の獲物を狙うハンターの目で女性店員が見下ろして来る。平均的な身長にちょっとヒール履いただけの女性にも見下ろされる雪姫()の身長が恨めしい。試着室で店員に上着を脱がされそこかしこを図りまくられる。

「肩幅が24.8cmで、着丈は47.2cm。バスト59.5cm、アンダー51.8cm、ウェスト41.8cm、ヒップ62.2cmね。とってもスリムなお嬢さんですね」

 肩幅が25cmに満たないとか着丈が50cmも無いとか余りにも小さすぎるんじゃないだろうか? バストウェストヒップは良いとしてアンダーてなんだろう。

「この数字だと120サイズ位になりますね。こちらのコーナーからどうぞ」

 店員が示された所は、小学生に上がる前後の子供が着そうなコーナーを紹介される。もう少し大きいサイズのコーナーを見ていた焔邑と珠ちゃんが、標的を見付けて飛び込んでくる。

「これ試着してコレ」

 焔邑が不思議の国のアリスっぽい水色のエプロンドレスを差し出して来る。

「それ似合いそうね、試着してみよう」

 風吹貴は、右手でエプロン付きワンピースを受け取り左手で雪姫()を抱えて試着室へ拉致していく。制服をはぎ取られた上からワンピースを被らされ、エプロンを装着される。試着室の鏡の中には、銀色のロール髪をした青い目のアリスが映っていた。「これが俺?」という言葉が漏れるのを堪えられたのは雪姫の口が重いからだろう。

「似合ってるね、これならパーティとかでも着れるから買っちゃおうか」

 風吹貴が喜んで、試着室のカーテンを開け雪姫()の姿を2人と店員に披露する。

「可愛いーっ!」

「似合ってる、本物のアリスみたいだよ雪姫ちゃん」

「とてもよくお似合いです」

 焔邑と珠ちゃんの言葉と店員の社交辞令、本物の雪姫なら素直に喜べば良いんだろうが、いや中学生くらいだと子供っぽいと言われるのを嫌うかも知れない。どっちにせよ、借り物の雪姫の身体に入ってる雪姫()としてはどう反応して良いのやら。ぎこちない笑顔で返して置く、表情筋の鍛えられてない雪姫の顔は普通に笑顔を作ってもかなり微妙な笑顔に成るんだが。


「今度はこっち着てみて、雪姫ちゃん」

 珠ちゃんから渡されたのは、白とピンクのストライプ模様の袖なしのドレスでスカート部分が大きく広がってるものだった。風吹貴がドレスを受け取るとカーテンが閉められ、アリス風ドレスは丁寧にはぎ取られてハンガーに掛けられ、代わりにストライプのドレスを着せられた。

「ご開帳ー!」

 着替え終わって鏡を見るよりも早く、風吹貴がカーテンを開けた。振り返る前のぱっくり開いた背中が焔邑、珠ちゃん、店員の3人の目前にさらされた。

「わー、大胆」

「雪姫ちゃん背中きれーだね」

「とてもよくお似合いです」

 店員の台詞は固定メッセージのNPC(ノンプレイヤーキャラ)なんだろうか。そんなことを思いながら、背後を振り返って鏡に映った背中を見ると肩口からへその裏側あたりまでぱっくりと大きく開いていて、ブラジャーの紐がはっきりと露出してる。ちょっと、これは駄目だろう。首を左右に振って否定する。

 ワンピースからセパレートのブラウスやカーデガン、あるいはスカートへと標的を変えた風吹貴、焔邑、珠ちゃんの3人が店員の援護攻撃を受けながらあれこれを持ってくる。

「雪姫はどれが良い?」

 風吹貴がそう尋ねて来たんで、ちょうど良いと自己主張を入れてみる。

「……ズボンが良い……」

 否応なくスカートを履くのにも馴らされた俺だったが、男としてズボンの方が楽で良いという気持ちがあるが、雪姫はスウェットや体育用のジャージ以外ズボンを持っていなかった。女の子でもパンツルックの1つ位あってもおかしくは無いだろう。

「ズボンねぇ、合わせてみましょうか」

 風吹貴が珍しく気乗りしない反応を返してくる。

「これがウェスト合わせだけど」

 そう言って一着の女児向けのスリムなデザインのズボンを渡してきたので、試着室で履いてみる。

「……お尻が」

 余裕で入るかと思われたパンツはヒップが障害となってボタンを留める所まで行かなかった。途中まで上げて裾もやけに短かった。

「こっちは入るでしょ」

 新しいさっきより二周りほど大きいズボンが差し出された。こちらはゆっくりとした造りでお尻が引っ掛かることは無かったが凄いローライズのズボンで下着の一部が露出しそうになっている。裾も短くて脛の途中までしかない。脱いだズボンをこれは駄目という意図を込めて首を左右に振りながら風吹貴に返す。

「やっぱりダメでしょ、雪姫の足が長くてウェスト細いから既製品だとサイズ無いのよ。欲しいなら今度縫ってあげるからね」

 そう言って頭を優しく撫でられる、子供扱いが不快だが手の感触は気持ち良かった。結局ズボンは断念し、数着の服を買って、同じ階の下着売り場へと移動した。


「今日の本題の1つが、雪姫のブラ探しだったんだけどね」

 風吹貴の言葉と同時に、焔邑と珠ちゃんの視線が雪姫()の小振りな胸に注がれる。勝者の余裕か焔邑はへぇーっと気楽に構え、優位が危ういせいか珠ちゃんは戦々恐々の顔で注視している。

「ブラのサイズって確か、アンダー52でトップ59ですよね。カップサイズはAAになりますね」

 そう言いながら、珠ちゃんが良かったと胸を撫で下ろしてる。AAカップというとAカップより小さい筈だが中学生としてはどうなんだ? アンダーは胸の下のサイズで、トップ(=バスト)とアンダーの差がカップの大きさに成るらしい。カップの早見表が掲示されている。

「そうなの、胸は最近成長著しいんだけど、アンダーがねえ」

 風呂の中で毎日洗い回されるのを思い出して恥ずかしさを覚える。顔が熱い薄い肌を通して顔色も真っ赤になってるに違いない。アンダーがと言った通り付け始めの子供向けでもアンダー65からで52cmというサイズは無い。

「期待はあまりしてなかったけど、やっぱりサイズ無いよね」

 サイズが無いという風吹貴の言葉にここで解放されると安堵しかけたが。

「やっぱりあそこに行くしかないね」

 風吹貴が何か心当たりがあるようだ。

「雪姫ちゃんが今してるブラとかどうしたんですか。お姉さん?」

 珠ちゃんが鋭く指摘をする。きになる所を的確についてくれてありがたい。

「それはねえ、知り合いの下着や服を作ってる知り合いにお願いして作って貰ったのよ」

 風吹貴が語る相手、もしかしてアイテム作りが得意なシティスカウトか妖精、創手の可能性もある。風吹貴でアイテム作りの情報交換をしてた相手もいたから、その線の可能性がある。優れたアイテムの作り手なら仲良くしておいた方が解決の策を見付けられる可能性はある。

 風吹貴の案内で駅前の繁華街から一本裏道に入った所、一見ただの雑居ビルの一角に「ホームメイドファッション織姫」のステッカーがこのビルの1階に風吹貴のいう作り手の店があると判別できた。


 その扉を潜ったと同時に背後に立つ人の気配を感じ、同時に雪姫()のささやかな胸に人の手の感触が走る。

「ひゃっ……」

 敏感な胸を触られピリリと痛みが走るが、それ以上に暖かさ、柔らかさ、滑らかさで陶酔させる。甘い陶酔に力が抜けた膝が砕ける。

 倒れかけた身体を背後から腰に回された腕が支えてくれる。

「いらっしゃーい、風吹貴と妹ちゃん、後は初顔だね」

 後ろから前に回りながら名乗りを上げたのは、30歳前後に見える派手な女性だった。髪は紫に染め、ジャラジャラとピアスが耳を飾り派手なメイクをしてる。

「こんにちは、織枝さん。こっちは、雪姫のお友達で焔邑ちゃんと珠ちゃんよ」

「初めまして、丸井珠代です」

「紅衣焔邑です」

 2人の挨拶に続いて、挨拶する。雪姫は初面識ではないようだから、初めましてではない挨拶をすれば良い。

「こんにちは……」

 雪姫()達4人を一瞥してから、織枝と呼ばれた女性がにっこりと笑って言う。

「今日は妹ちゃんのブラを作りに来たのかな? お友達の分もかな?」

 あのわずかな接触で目的を見抜いたというのだろうか? だとすると相当な鑑定眼の持ち主だろう。

「そう、雪姫の胸が成長期に入ったんでそれにあったブラが必要だと思って、伺ったんです」

 その風吹貴の言葉に焔邑が喜色をうかべ、珠ちゃんがかすかに眉を(ひそ)める。

「あたし達は付き添いです」

 焔邑が応えて珠ちゃんも頷く。

「ちょっと興味はありますけど」


「なるほどね、じゃあ入って、妹ちゃんだけは奥にいらっしゃい」

 応接室らしきソファのあるスペースに風吹貴達3人は通され、雪姫()だけはさらに奥の衝立(ついたて)で仕切られたスペースに通される。

「触診でもだいたいわかるけど、きっちり素肌で測定して置かないとね。はい、服脱いでね」

 そう言う織枝さんなる人にあっという間に脱がされる、ボタンを外す手が上手すぎる。パンツ1つだけの姿に剥かれ、雪の様に白い肌が露出している。暖房が利いた部屋は寒さこそ感じさせないが、無防備な姿をさらすことに抵抗感を強く感じる。

「可愛らしく健気に育ってるねえ、これははじめてを経験した後だね。間違いなく成長期だね、風吹貴がああだし血筋的に立派に育つだろうね」

 そんな風に言いながら優しい手付きで胸を触り膨らみを確かめられる。

「それに、この肌はきれいだね。もう少し育った胸だったら男どもが幾らでも金出して見たがるだろうね」

 織枝さんが淡い桜色した胸の頂を指差しながら言う、確かに綺麗な色で大人の胸になら商品価値は高いだろうとは思うが、この人明け透けすぎる。

「成長期だから月に1cm位ずつ成長しそうね。それを計算に入れてこれから3か月位の丁度良く成長を助けるように作るわね」

 織枝さんが衝立ごしに風吹貴へと確認を取る。

「はい、それでお願いします。揃いのショーツも一緒に」

 風吹貴が返事を返す。

「アンダー52.5のAAカップで揺れを抑えるタイプに作って置くわね。ソフトタイプだから今と変わらない感覚で付けられるから安心してね。色のリクエストとかある?」

 織枝さんの問いに、俺自身の希望は特にないから雪姫の持ち物から妥当な答えをする。

「白と水色……」

「そうか、前回頼まれた時もそうだったね、分かったブラとショーツのセットで7セットで良いね」

 織枝さんが応える。

「はい、それでお願いします」

 オーダーメイドの下着ってどの位取られるんだろう?

「ジュニアブラとショーツのセット7組で6万3000円のところ千円単位はサービスして6万で良いわ。支払いは商品と交換で」

 1枚9000円ってかなり高いが、オーダーメイドとしては良心的な感じのする値段設定だな。

「本当はね、妹ちゃんみたいに成長期の女の子にオーダーメイドでぴったり合う下着付けて貰いたいんだけど、サイズも変わるし手間も掛るから難しいのよね。そうだ、妹ちゃん下着モデルしてくれない? モデルしてくれたら下着代サービスするわよ」

 織枝さんの立派な主張の後に聞き捨てできない言葉が続いてた、雪姫()は無理だというのを首を振って応える。

「しょうがないわね、じゃあ来週までに仕上げておくから取りに来てね」


 下着のオーダーも済ませた雪姫()達一行は、家電ビルで発番処理の終わったスマートフォンを受け取って、前の携帯から移植されたスカスカの電話帳に焔邑と珠ちゃんの番号を登録し、風吹貴の運転する法定速度ピッタリで爆走する軽自動車に乗って各々の家へと向かった。

初フィッティングルームと下着購入でした。

主人公の身体が極端に小さいので既製品が無いというお話。

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