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ゲームが現実(リアル)で、リアル(現実)がゲーム!?  作者: 日出 猛
第2章 ~承~ 雪姫として進む日々
19/27

18話 2人の魔法少女VSカマキリ怪人

流血等痛みを早期させる表現が有りますので、苦手な方はご注意ください。

「何か出た! 魔獣や魔人の気配じゃない」

 妖精フィーが気配を察知して叫ぶ。魔獣や魔人と異なる敵、それは魔法少女世界ではない仮面ヒーロー世界か異能者の世界の敵だろう。

 魔法少女の世界、仮面ヒーローの世界、異能者の世界は、それぞれ現実世界では認知されていない不思議な力、総称して『神秘力』(しんぴりょく)を持ち、同じく神秘力を持ちながら悪用する『敵』と戦うのが『Hidden Secrets』の基本構造だった。


 魔法少女と妖精が用いる神秘力は『魔法』と呼ばれ、敵である魔獣・魔人もこれを使う。

 仮面ヒーローとスカウトが用いる神秘力は『秘技』と呼ばれ、敵である怪人や幹部もこれを使う。

 異能者と創手が用いる神秘力は『異能』と呼ばれ、敵である異形や異端もこれを使う。


 この『魔法』『秘技』『異能』には相性があり、その相性は当然使い手同士の戦いの相性にも繋がる。有利な相手には7:3位、不利な相手には3:7位の分の悪さになる。今見つけたのは魔法の使い手ではないので、相性が良い『異能』使いか相性の悪い『秘技』使いのどちらかになる。

 バーニンガールとの手合わせで消耗しているし、まだスノープリンセス・ユキの力を扱いこなしてるかと問われれば否と言うしかない状態だ。相性の良い異端なら良いが、相性の悪い怪人ならかなり苦戦を強いられるだろう、いや下手をすれば死亡という結果もありえる。

「とにかく、行ってみようよ! 相手が何者でもまずは見ないと何もできないよ」

 バーニンガールがそう宣言する、魔法少女としては至極まっとうな言い分だ。自分たちだけでなんでも解決できると楽観してないのは判断としても正しい。ユキ()も正義の魔法少女である以上この方針には頷かざるを得ない。役割の制約を無視しても、自分が助けられる人を助けずに後味の悪い結果になるのは避けたい、そう考える程度に俺は善良な小心者だ。

「行ってみよ、助けられる人は助けたいし」

 ユキ()の言葉を受けて、腕ならぬ翼を組んでフィーがバーニンガールの頭の上で思案を巡らせて、決断を下した。

「わかった。助けを求めて伸ばされた手を振り払うのは、君たち魔法少女のすることじゃないな。人々の悲しみが溢れてきている、止めに行こう」

 フィーの言葉に、ユキ()とバーニンガールが力強く頷く。

「問題は場所だな、現場は蜜川(ひそかわ)ニュータウンの方だ」

 密川ニュータウンは駅前通りから、旧市街と高級住宅街と分かれる十字路を一直線に行った所にある、密川新開発計画で開かれたばかりの新しい家々が立ち並ぶ地帯で入口まででも、裏山からは1.5kmはある。

「屋根の上走っていく?」

 バーニンガールがそんな提案をする。確かに魔法少女の常人の5,6倍でトップアスリート2,3倍の身体能力なら屋根やら屋根に跳んでわたるという漫画チックな移動もできるだろう、人込みや車に邪魔されず一直線にルートをとれて距離が短くなるだろうが、距離感や感覚に慣れてないユキ()じゃどっかで失敗する。バーニンガールの無邪気な提案を有効な代案を提示することで回避しよう。

「私の(ほうき)で行けば良いんじゃない?」

 さっきの戦闘中にも活躍してくれた日傘を構えてバーニンガールとフィーを交互に見詰める。ユキのフライングブルームは昨日の戦いの時にも見せている。

空飛ぶ箒(フライングブルーム)か、確かに悪くは無いが、2人乗りできるのか?」

 フィーが当然の質問を返してくる、内容はもっともな問いだ。フライングブルームは本人の習熟度と魔力によって積載量と速度と航続距離が変動する魔法だ。平均的な魔法少女が2人乗りをこなせる様になるのは上級の使い手になる必要がある。

「バーニンガールと……、焔邑となら大丈夫だと思う」

 ユキの身に付けたフライングブルームは中級だから通常なら2人乗りはできない計算になる。平均的な身長と引き締まってスリムな体型の焔邑の体重は50kgは有っても60kgを越えることは無いだろう、それとユキの体重が30kgを割り込むから合わせて85±5kg程度だ。魔力が高いユキのフライングブルームなら、中級で辛うじて90kg超の積載量を確保できる。これ以上語り合っても意味は無い実際にやって見せる方が早いだろう。

「|Flying Broomフライングブルーム!」

 魔力が日傘に通い、またがった者の体重を支える強度と乗せた者ごと意のままに飛行させる力を与える。その日傘(魔法の箒)を見てフィーが頷く。

「確かに、力強い箒だユキとバーニンガールの組合わせなら飛べそうだ」

 フィーのお墨付きを受けたユキ()は日傘にまたがると一緒に乗るように促す。ちょっとためらったバーニンガールが意を決したように身体をすりつけるように密着して日傘にまたがって来た。

「ひゃん」

 脇の下をくぐって身体の前に回されたバーニンガールの腕に刺激されて恥ずかしい女の子みたいな悲鳴を上げていた。振り返って肩越しに見ると、たしかにこの短い日傘で2人乗りすると密着するしかない。ユキの小さめながらも女の子らしさを主張するお尻をバーニンガールの太腿が挿みこんでいて、かぶさるように抱きついてくる体温がとても暖かい。

 だが、それ以上に大きな問題は低すぎるユキの座高のせいで、丁度首からあごにかけてを左右から包み込む中学生にしては立派なバストに包まれることだった。柔らかく暖かい感触が落ちつかないが、いまさら降りろとは言えない。

「じゃあ行くよ、しっかり掴まってて」

 魔法の箒となった日傘がまさにシューティングスター=箒星といえる光の軌跡を描きながら空に舞い上がった。


「あそこだ」

 フィーがくちばしで指し示しながらそう言った。視線をそちらに送るとニュータウンの一角で暴れる異形な人型の存在と遠巻きに恐れに満ちた顔の人々が見えた。

「あれが敵……」

 見下ろした存在は若草色とでも表現するのが似合う緑に包まれてある虫をモチーフにしたマスクをした人型、怪人という総称が似つかわしい存在はカマキリらしき顔をして、両手に大ぶりな鎌を持っていた。

「……カマキリの怪人?」

 ユキ()の口から思わずこぼれる疑念。変身前の雪姫の場合と大きく異なる点だ。

「あれを倒せば良いんだよね、下ろしてユキ!」

 さっそくやる気満々なバーニンガールが後ろから声をかけて来た。やる気は良いけど、闇雲に突っ込むのはお兄さん反対だな。怪人は、仮面ヒーローの敵である存在で、宿主となる人間のエゴが動植物の特性と融合して生じ、欲望に忠実に暴れる存在だ。厄介なことに、魔法少女との相性が最悪の相手だ。

「あせらないで、相手の力を確かめないと」

 ユキ()の制止も聞かずに日傘(魔法の箒)から飛び降りて怪人へ駆けだしていく。

「燃える闘志が邪悪な心を焼き尽くす。燃える炎のバーニンガール!」

 拳に炎をまとわせ走り込みながら右ストレートを放つバーニンガール。目の前の女性を襲うことに夢中になってたせいで怪人の反応が遅れた。バーニンガールの炎の右拳が怪人の昆虫めいた顔にめり込み肌を焼く。


「ギシャー!」

 怪人が悲鳴とも威嚇とも取れる声を上げた。口元が人間の口じゃなく昆虫の大顎よろしく左右に開閉している。殴られた頬(?)は表面が煤けているが、陥没も炎上もしておらずダメージは軽微に見える。怪人が反撃を繰り出す鎌を持った右手がバーニンガールに向けて伸び、それをバーニンガールがヘッドスリップで(かわ)した。戦闘経験豊富なバーニンガールが優勢に戦いを進めているように見えた。

 怪人の左手が鎌を左右に揺らしてバーニンガールの注意をひきつける。だが、バーニンガールの背後からもう一枚の刃が迫ってるのを上空から見るユキ()の目には見えた。

「危ないっ、後ろ! しゃがんで」

 ユキ()の叫びに迷うことなく屈みこんだバーニンガールの首が有った所を怪人の右手の鎌が素早く横切っていた。鎌というのは、本来戦闘に向かない形だが、今回の避けた筈の手が戻る攻撃のように、非効率な形をしてるが故の馴染みの薄い攻撃ができるのが厄介だ。

 屈みこんだバーニンガールを怪人の足が蹴り飛ばしに来た、反応が早い。顔面に来る蹴りをとっさにバーニンガールがオープンフィンガーグローブの両手を重ねてブロックするが、蹴りの勢いを殺すまでに3回転後方に回転させられる事になる。

 怪人の身体能力は高い、基本の身体能力で比較すると仮面ヒーロー・怪人の世界が最も高く、魔法少女・魔獣の世界は中間、異能者・異端者の世界が最も一般人に近い。特殊攻撃の数や威力は逆に仮面ヒーロー・怪人は低く、異能者・異端者がもっと高く、魔法少女・魔獣は中庸という。このバランスによって絶妙な三竦み関係ができあがっている。

 ユキ()やバーニンガールのような魔法少女は、この怪人に対して身体能力や通常の攻撃力、防御力で劣っている。特殊攻撃を繰り出せば幾らかダメージを通すことができるが、押しきるのは難しい力関係にある。まして、模擬戦で消耗してる今はさらに不利だ。だが、他の戦える者が来るまで俺達が食い止めないと一般市民の犠牲者が増えるばかりだ。この世界をゲーム、一般市民は被害度を示す為に組み込まれたNPCだと割り切ることができれば、心を痛めず無視することもできただろう。だが、雪姫として体験した全ての感覚はゲームじゃないリアルなものだ、目の前に倒れる人逃げ惑う人を偽りのものと見捨てることはできなかった。できる限りのことはやらずに逃げるのは無理だ。

 怪人の注意がバーニンガールに向けられている内に箒で空から真上に移動する。

「急降下からの、Freezing(フリージング) Blizzard(ブリザード)!」

 広範囲に広がる凍結嵐が一般人やバーニンガールを巻きこまないように真上から十分接近して放った。基本防御力と耐久力が高い怪人には、微々たるダメージしか通らないものの、凍結効果は防げない筈だ。ゲームの設定が反映されるなら昆虫系は凍結には弱い筈だ。


「キィエェェ!」

 奇声を発して振り下ろされる鎌を横に転がって避けるとそのまま側転して間合いを広げる。

「左右からラッシュで行くよ、ユキ!」

 バーニンガールに呼ばれてそちらを見ると、すでに怪人の左側から飛びかかる彼女の姿が見えた。1人だけで飛びこませるのは危険すぎる。注意を分散させるべきだ。フリージングタッチを両掌にまとわせるとバーニンガールを追うように怪人の右側面に肉薄する。

 シュバ!

 風を切る音が響き目の前を鎌の刃が横切った。飛び込むのを止めて半歩下がって避ける。大きく避けたのは敵の思惑通りだったようだ。怪人は飛び込んで来たバーニンガールの拳を鎌で払いのけた。刃が食い込んだ腕から鮮血が噴き上がる。怪人の攻撃力がバーニンガールの自動防御フィールドを大きく越えて居たんだろう。

「大丈夫? バーニンガール」

 焔邑のことを心配し声をかけようとしたが、呼びかけが勝手にバーニンガールに成っていた。同一人物と認識している相手の呼び方が自動的にその姿に即した呼びかけになるのは、正体を隠しながら戦っていく上でとても便利な機能だ。

「これくらい大したことないよ」

 そう言ってバーニンガールは、右腕の傷口を左手で拭い取ると傷口は既に塞がり始めている。

「安心しろ、ユキ! バーニンガールはダメージを回復させる魔法を身につけている」

 フィーが上から解説してくれるが、ダメージを回復できると言っても痛みがなくなる訳じゃないのはバーニンガールの表情からうかがえるし、回復には数十秒から数分は必要な筈だ。治らない者が傷つかないよりは痛くても治るバーニンガールが怪我をした方がましかもしれないが、親しい中学生の女の子が傷つくのを見るのは成人男性として看過できない。

 バーニンガールが万全に戻るまではユキ()が引き受ける、決意を固めリスクを乗り越えるつもりで踏み込む。鎌をふるう怪人の間合いに、危険だと全身の感覚神経が警鐘を打ち鳴らしているが、黙殺し進撃を全身に命じる。

 怪人が今度は牽制でなく致命傷を狙って振り下ろす右の鎌を、左手で側面を叩いて怪人の内側に反らす。左手は右手をつかんだまま身体を回転させ怪人と腕がくっつくように回り込み、左足で怪人の右足を払いながら右手で背中を押すと怪人が転倒する。倒れた怪人の右腕を後ろ手に決めると左右の凍える手で手首と肘を掴み凍結の効果を蓄積させる。

 バーニンガールの炎の拳が十分なダメージを与えない敵に、凍える手を使ってもダメージには成らないだろうが、ダメージとは別に凍結によるバッドステータスが見込める。合気道スキルを利用して敵を制し、凍結で動きを止めてバーニンガールと止めを刺す役割分担としては悪くない。


「キシャァアアー!」

 後ろ手に締めあげられている怪人が奇声を発しながら、抑え込むユキ()ごと無理やり立ちあがってきた。体重30kg足らずのユキはガッシリした怪人の3分の1程でしかないだろうが、この体勢から押し返すとは驚きだ。ゴキッと嫌な音がして取っていた腕があらぬ方向に曲がっている。ぶら下がってるだけの腕を掴んでいてもリスクばかり増えるので手放して距離を取る。

「キェエエーッ!」

 怪しい声と共に無事な左手の鎌を上段から真一文字に振り下ろすと、空気を裂き衝撃波が飛んでくる。慌ててアイスプロテクションを展開し攻撃を受け止める。そのつもりが支えきれずに一発で氷の盾が切り裂かれ減衰した斬撃が右の肩口に当たった。

「っ!」

 覚悟していた痛みは無いが、無傷とは言えなかった。バッサリと魔法少女の装束が切り裂かれ、胸元から肩口にかけて前はもちろん背中側まで服だけが切り裂かれてハラりと布が落ちると光に成って消えた。胸こそ未発達で切られた部分はまだ膨らんで来てないが、真っ白い肌が衆目にさらされた。

 なんという業の深い秘技だろう、怪人は特性に応じた秘技を使用できるが、こいつの秘技は、『女性の着衣を切り刻み裸に剥く』というものの様だ。周囲にうずくまってる被害者は1人残らず女性で、男性の犠牲者は居なかった。恋人や肉親の女性を助けてる男性以外は若くスケベ心むき出し野郎どもだということか。周囲の男からの視線が、突き刺さってくる。

「惜しい、もうちょっと」

「胸にもうひと頑張り希望」

「こういう未熟な果実も味わいが」

 口々にしゃべってるのはガン見する男の中でも性質の悪い連中だ、中学生の中でも発育が遅れ気味のロリータ体型のユキに欲情するとはこの腐れ外道どもめ。だが、胸元に肩に脇に突き刺さる視線の熱が自分の物でないから見られても平気な筈の身体に羞恥心という熱を生じさせる。肌が羞恥によって赤く染まって来る。

「白い肌が朱に染まる姿はいいですな」

 フリージングブリザードで頭を冷やさせてやろうかと思うが、さすがに攻撃魔法を一般人に使う訳にもいかない。だが、ユキがこんな下種どもの今夜のおかずに使われると思うと怒りが止まらない、この感情は本当に純粋な怒りなのか判断する暇はなかった。

 続いて打ちこまれた服を裂く斬撃を横に飛んで(かわ)す。あれをこれ以上受ける訳にはいかない。視界の端でベストアングルを求めて動く野郎どもが目障りだ。


「ユキー、そいつの足止めて!」

 バーニンガールが声をかけて来た、攻撃できる程度に回復したんだろう。

「任せて」

 バーニンガールに答えると、身体を深く沈めた体勢から打ち上げ気味に町や人を巻き込まないようフリージングブリザードを放った。それと同時に走り込み怪人の股を潜りつつ両足をフリージングタッチで固める。

 それを待ちかまえていたバーニンガールが全身を炎に包んで飛び込んでくる、バーニンガールの必殺技バーニングダイブだ。これ程の破壊力を有する攻撃はユキにはない。これで倒せなければ2人の技で倒しきることはできないだろう。

「これで終わりだぁあーっ!」

 バーニングダイブが決まって、怪人の姿が光となってはじけ飛ぶ、これで勝った。怪人を無事倒したと心が緩みかけた時、飛び散っていた光が再び集まり始めた、まるで動画を逆回しにしたように。

 集まった光は、等身大と呼ぶには一回り程は大きい2m程の体高を持つカマキリそのものの姿に、さらに飛び散った光が20体のゾロンと呼ばれる怪人の部下で戦闘員にあたる敵に変化した。ゾロンは1体1体は鍛えられた一般人の格闘家程度だが数が多くこちらのリソースが食われる面倒な相手だ。

 手合わせでの消耗に加え、カマキリ怪人第1形態相手に消耗しきった所で第2形態とゾロンの群れ、かなり厳しい状況に追いやられた。


怪人との戦いです。

戦闘回が次回にまで続きます。

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