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ゲームが現実(リアル)で、リアル(現実)がゲーム!?  作者: 日出 猛
第2章 ~承~ 雪姫として進む日々
18/27

17話 対決! 雪の姫vs焔の娘

 気がついた雪姫()は保健室のベッドに寝かされていた。

「雪姫だいじょうぶ? 心配したよー」

「良かったぁ、直ぐに気がついて。ホムラがここまでお姫様だっこで連れて来たんだよ」

 身体を起こしたばかりの雪姫()にホムラが抱きついて来た。まるでご主人さまに飛びつく大型犬のようで激しく振られる幻の尻尾が見えた気がした。雪姫の脳が持つ映像記憶の中には尻尾は見えないから、イメージが産んだ幻で良いんだろう。珠ちゃんによるとまた運ばれたのか、お姫さま抱っこで。

「……ゴメンね、それとありがと……」

 最小限の発言で心配をかけたことを詫び、手助けを受けた礼を述べる。

「一緒に居たのに気付いて上げられなくてゴメンね、雪姫ちゃん」

 珠ちゃんが謝罪を口にするが、どちらかというと俺の失敗だ。雪姫()は首を横に振って、謝る必要はないと示す。焔邑と珠ちゃんは既に体操服から制服に着替え終えている。どの位倒れてたんだろうかと、時計を探す素振りをみせたのに気付いて珠ちゃんが教えてくれた。

「今、12時40分だから倒れて30分くらいだね、雪姫の着替えとお弁当持ってきたよ」

 そう言って珠ちゃんは雪姫のお弁当が入った巾着袋を、焔邑は畳まれた制服一式と体操服が入ってた手提げ袋を取りだした。

「保健の先生が、ゆっくり休めば大丈夫だって。食べられそうならお弁当食べて、昼休み終わるまではベッドで休んでなさいって」

 珠ちゃんが事情を説明してくれる、見た目は小学4,5年と言われた方が納得の行く雰囲気だけど見かけによらずしっかりしてる子だ。

「お弁当食べられそう?」

 焔邑が問いかけて来たんで、自問してみる。心臓の鼓動は結構早い1分100位はあるだろうか? 身体は起こせるから、ベッドに腰掛けて大丈夫そうだと頷きで応じる。珠ちゃんが開けてくれたお弁当箱を受け取る、雪姫の手との比較でもやっぱり小さいお弁当だ。2人はお弁当は良いのかと思い視線を向けたと同時に焔邑が先回りして答える。

「アタシ達はもうお昼食べたから、ゆっくりと食べて良いよ」


 風吹貴の作ってくれた美味いお弁当を、一口ずつぱくり、はむはむ、こくんと食べていた。

「いひゃっ……」

 ボイルエビを噛みしめたと同時に右下の奥歯の所に鋭い痛みを感じた。舌先に鉄っぽい血の味が刺激される。指先で痛みの出所に触れると真っ白な雪姫の指先に唾液に薄まった赤い血が付着する。

「どうしたの雪姫ちゃん? 口の中切ったの? 見せてみて?」

 珠ちゃんに言われて素直に口を開く、口の中を見せると言うのは無防備な姿をさらすようで落ちつかない。

「雪姫ちゃん歯がきれいだね。ひい、ふー、みー、よー、いつ、むー、あれ?」

 雪姫()の口元で指差して数えていた手を止めて口をもごもごさせ始めた、何をしてるんだろう?

「やっぱりそうだ。雪姫ちゃん、新しい歯が生えて来たんだよ」

 新しい歯? 親知らずって中学くらいで生えるのか? 口の中で舌先でなぞって歯の数を数えてみる門歯2対、切歯1対、臼歯3対で片側6本の上下左右で24本。人の歯って何本だったっけ、28本いや親知らず入れて32本だから、まだ親知らずの手前の大臼歯が生えてないのか? 武人()が中学の時に歯が生えるってあったか?

「雪姫もこれでまた一歩大人の階段を上ったんだね」

 焔邑は手放しで喜んでいる。噛むと痛むので食欲が出ない。

「……残り、食べて……」

 焔邑にそう()うと、焔邑は口をあーんと大きく開けて餌を待つひな鳥のような姿を見せる。焔邑に残りのおかずを1つずつ、箸でつまんで食べさせる。お姉ちゃん(風吹貴)特製のお弁当は自分で食べても美味しいが、焔邑は本当に美味しそうに食べるのでついつい楽しくなって残り全部食べさせてしまった。


「だいぶ元気になったね、雪姫ちゃん。授業出られそう?」

 珠ちゃんが訊ねて来たので、頷いて着替えを取りだす。ベッドを下りて、ジャージの上着、つづいて体操着のシャツを脱ぐと焔邑と珠ちゃんから歓声が上がる。

「ほっそーい」

「細いねー、雪姫ちゃん」

 好奇に彩られた視線が、肩から背中、腰へと舐めまわすように向けられる。視線がこそばゆく、思わず肩を抱いて身じろぎする。身長は5cmと変わらない珠ちゃんと比べても、雪姫の身体は細すぎる。慌てて、キャミソールをかぶりブラウスに袖を通していると、珠ちゃんが服の下に入れてしまったロール髪を引き出してくれた。こんな長い髪を持ってまだ2日と経たないから扱いに困っていた。スカートを履き、ジャージのズボンを下から抜いてブレザーを羽織る。

「足の長さと腰の細さでは負けるけど、胸はワタシの勝ちだね」

 珠ちゃんが、胸の下に手を当てて大きく胸を張って見せる。だが、見下ろした雪姫の胸と珠ちゃんの胸の優劣はブレザー越しでは正直いって区別はつかない。どちらも、微かに膨らみはあるよねとしか言えない。ジュニアブラ越しに雪姫のささやかな胸をしっかり見た珠ちゃんが言うならそうなんだろう。邪魔にならずにうれしいような、どうせあるなら立派な方が体験としてお得なような複雑な感情が湧く。

 そんなことをしてる間に、養護教諭がやって来て体調の確認を取って来たので大丈夫だと伝え、焔邑と珠ちゃんに両側からガードされて教室に戻った。5時間目と6時間目の授業は問題なく終わり放課後が訪れた。


 部活に行った珠ちゃんと分かれて、雪姫()と焔邑はフィーと待ち合わせている裏山に向かう。別れ際に珠ちゃんは「また2人だけでずるーい」とごねていたが、また今度とごまかして来た。

 校門を出て下校する生徒達にまぎれて、夢翔学園の外周を回り学園の北側にある大学部の農学部と理学部の実験林がある裏山に向かう。裏山は人が少なくて死角も多く、開けた場所もあるのでこっそりと練習や勝負をするのに適している。雪姫()と焔邑は、先に下見をしていたフィーと合流した。

「来たな、焔邑、雪姫」

「お待たせー、フィー」

 フィーが出迎えてくれたのに、焔邑が応じたので、雪姫()は会釈だけして置く。

「ここならば、人目に触れることは無いだろうし、2人とも変身して置いてくれないか? 焔邑はともかく雪姫の体力で山を登るのは、無理が出るだろうしな」

 フィーの言う通りと納得する。雪姫の(この)身体は弱い、ここまで歩いただけで心臓がバクバクとうるさく苦情を訴えている、この先まで歩くと数十分は動けなくなりそうだ。念の為、自分の目でも周囲を見回して確認する。雪姫になってから見た光景をそのまま記憶できるんで、同じ所を2度見渡すと2つの画像を記憶して、それを重ねて比較することもできる。異変を見付けるのには便利な能力だ。


「大丈夫そうだね、変身しようか」

 焔邑が先に声をかけて来たのでこくんと頷いて肯定の意思を示す。コンパクトをカバンから取り出して焔邑と背中合わせに立つ。

 雪姫()がコンパクトの青いキーを押すと、焔邑も腕時計型ブレスのパネルを開く。

「清らかなる雪の聖霊よ、もとめに応え静寂のベールに包め、Summon(サモン) Spirit(スピリット) of(オブ) Snow(スノー)

「燃え上がれあたしの情熱(ハート)!」

 雪姫()と焔邑は変身開始の確認ボタンを押しながらコマンドを唱える。

「|Metamorphoseメタモルフォーゼ!」

「マジカルハート、バーニングアップ!」

 雪姫()と焔邑が身に着けていたコートと制服が光に変わると同時に、首から下がまばゆい光のシルエットと変わる。背中合わせに回転する雪姫()の身体を中心に白い雪の結晶が舞い、同じく焔邑の身体から炎が上がり火の粉が飛び散る。雪の結晶が雪姫()の身体を包み、炎が焔邑の身体を包み、魔法少女の装束を形作る。

「静けさに包む穢れ(けがれ)なき雪の乙女、スノープリンセス・ユキ参ります」

「燃える闘志が邪悪な心を焼き尽くす。燃える炎のバーニンガール!」

 スノープリンセス・ユキに変身したユキ()が、日傘をくるりと回して閉じたそれを突き付けるポーズをとると同時に、バーニンガールとなった焔邑がシャドーでパンチ、キックを繰り出しポーズを決める。


「初めてにしては中々息が合ってるな」

 フィーがそう言ってたたえるが、女子中学生と息ぴったりと言われても微妙な評価でくすぐったい思いばかりだ。そう考えていると焔邑がフィーに応じた。

「当然でしょ。今日も朝からずっと一緒だったし、友達だもん」

 そういう風に穢れない瞳で信頼を向けられると罪悪感で胸が痛む。1回り年上の成人男性が中身だなんて知れば、焔邑はどう思うことだろうか。

「まずは裏山の山頂まで競争してくれ。私が飛んだらそれが合図だ」

 焔邑の肩に乗っていたフィーが空へ舞い上がった。それを見るや否や間をおかずバーニンガールが飛び出して行く、その動きに焦りを感じた俺は、一瞬出遅れた上、斜め上に高々と飛び上がっていた。

 不意のことに対応しきれず、雪姫の背丈の5倍はある太い枝に、思い切り頭頂部をぶつけてしまった。幸い、自動防御フィールドがダメージを軽減してくれて痛みは無いが、魔法少女といっても魔法を使ってない部分では物理法則に従う。

 雪姫()は飛び上がった軌道から外れて枝によって叩きつけられる事になった。辛うじて前回り受け身で身体を痛めることも無く立ちあがることができた。ただし、白と水色の魔法少女装束は泥まみれになっていた。防御フィールドはダメージは軽減してくれるが汚れなどの無害な物は防いではくれない。ダメージも100%軽減ではなく受けたダメージに比例して軽減されたわずかな痛みは感じるようになっている。


「ユキ、気をつけろ。普通に走るよりも後ろに蹴る力を強めに下に踏むのを最小限に抑えるんだ」

 昨日と同じ失敗したのは恥ずかしかったが、フィーの指導通りに前に蹴ると飛び上がり過ぎずに前に進む。だが、常人離れ(おそらく一般人の5,6倍トップアスリートの3倍程)した脚力が発育の悪いユキの20cm足らずの足に掛っているから舗装されてない土の露出した林道では深く地面をえぐってしまう。

「ユキ、地面を蹴る瞬間に足先に魔力を集めて魔力で作った足場を蹴るようにするんだ」

 フィーのアドバイスが飛ぶ、魔力を足に流す? 全身を駆け廻っている気配は理屈でなく直感として解る、フライングブルームを使用した時も魔力が身体から日傘()に流れこむのを感じていた。魔力ってのはソレのこととして、上手くやれるかが問題だ。

 身体を駆けめぐる『魔力』と称されるエネルギーが足に強く流れるよう意識をすると足に力がみなぎるのを感じる。その力を靴底から広がるようにイメージを作ると、それまでは強化された蹴りの前に崩れていた足場が崩れなくなった。まるで、靴底に足の10倍くらいの面積を持つ水蜘蛛かかんじきでも付けてるような感じだ、多くの範囲に加わる力を分散させているらしい。上手くやったら水面も走れるかもしれない、水面を走る爬虫類バシリスクのように。

 走り方を変えて、後ろに蹴る力9割で下に踏む力と足にまとわす魔力で5分ずつにするとスムーズに駆けあがれるようになった。左右の木々が矢のように後ろに飛んでいく、肉体強化を得た魔法少女スノープリンセス・ユキの脚力は超人的だ、時速100km/h位は出せるだろう。だが、これでようやくバーニンガールに突き放されずに付いていける程度だ。これでも後を追う利点を生かして、彼女の足を置いた所を蹴りロスを減らしてるが、格闘系魔法少女なバーニンガールと全域対応魔法少女スノープリンセス・ユキの違いだろう。

「よし、2人ともゴールしたな。スピードではバーニンガールに一日の長があるから、コンビネーションのことを考えて合わせられるようにユキはスピードアップを図ってくれ、魔力が高いからその使い方を身に付けた方が向いてるだろう」

 フィーの言葉はもっともだったので肯定する。

「はい、がんばります。フィーのコーチングも適切で助かりました」

 この状態だと声帯と肺も強化されるので声が素直にでる、その分不信感を持たれない程度に気を付ける必要があるが、仕事で使う丁寧語の会話を心がければ問題にはならないだろう。

「バーニンガールは、走りそのものは問題ないが、周囲の警戒をしないと足元をすくわれるぞ。それと、ユキはまだ使いこなせていない力がだいぶあるようだから、うかうかしてれば直ぐに抜かれてしまうぞ」

 フィーがバーニンガールに注意をして、バーニンガールが頭を垂れて髪をかきむしっていた。やっぱりあの炎の耳(?)は熱く無いんだな。


「次は、2人で手合わせしてもらおう。審判は私がする。制限時間10分で、その間に10ポイント取った方が勝ち、決着がつかない場合は、稼いだポイントが多い方が勝ち。判定は完全に致命的な一撃が綺麗に入った場合一本で10ポイント、強力な一撃か完全なクリーンヒットで技あり5ポイント、守りを破れる攻撃は有効で2ポイント、当たりはしたが有効打にならないものは効果で仮1ポイントとする」

 フィーが説明したルールは、剣道や空手に近い考え方のようだ、一発逆転があることで勝負から気を抜くことはできない。効果の仮1Pというのはどういう意味だろう? そう疑問に感じてると口にするより前にバーニンガールが疑問を口にする。

「一本とるか、技あり2回で勝ちは分かるんだけど、細かい所が良くわかんない。仮ポイントとか特に」

 やっぱりバーニンガールの焔邑は考えるのは嫌いな性質(たち)らしい、落ちついて考えれば分からない話ではないんだが。やれやれという風に、止まった木の枝の上で肩ならぬ翼をすくめて呆れた風のフィーが答える。

「仮ポイントはそれを蓄積させても点にならず、最新の効果を得た側に1ポイントのアドバンテージを与えるものだ、判定になった時の勝敗を決める要素でもある。勝ち方は一本取る、技あり2回、技ありと有効3回、技ありと有効2回と効果、有効5回の何れかだ。解ったかい?」

 フィーの説明はだいたい予想通りだったが、それに対するバーニンガールの反応の方は予想外だった。

「一本とるか、技あり2回取れば良いんだよね。難しいこと考えるよりそこをがんばった方が良いや」

 単純思考な焔邑なら言いそうな答えだったが、余りに短絡的で予測できなかった。その言葉に裏を持ってるとも限らないから、ルールを最大限利用して技比べに勝たせて貰おう。良い所見せないとバランスが取れないからな。


 開けた場所に出てフィーが結界魔法を行使する。効果時間が12分なので、余裕を見て10分の試合時間にしたとのこと。この結界が効いている限り、凍らせようが燃やそうが、現実には影響がない戦闘用の結界だ。

 バーニンガールとスノープリンセス・ユキを比べた場合運動能力や体力、単純打撃力などはいずれも2割位バーニンガールが優ってるだろう。正面きっての殴り合いになるのは避けたい。逆にバーニンガールが格闘型魔法少女なのに対して、魔力型なユキは同時に多くの魔法を操れるし魔法の弾数も多い。絡め手を上手く使ってバーニンガールを翻弄すれば勝機は十分にある。

「始めっ!」

 フィーの開始宣言と同時に詠唱省略で先制攻撃をかける。

「Freezing Blizzard!」

 付き出した左手の指先から氷雪の嵐が吹き荒れる。90度の円錐状に広がる氷雪はダメージと凍結効果の他にも視界を遮る効果がある。

「先手ユキ、技あり5ポイント!」

「やられた、でも……えっ?!」

 そんな宣言やバーニンガールの呟きも聞く間もなく氷雪嵐が荒れ狂ううちに素早くバク転を繰り返して林の木々の合間に身をひそめていた。こちらの作戦はバーニンガールに力を出させずに遠距離戦でポイントを稼いで判定勝ちを狙うことにある。

 こちらの手札は、昨日見せている身体強化と感覚強化、自動防御フィールド、フライングブルーム、フリージングブリザード、アイスプロテクション、フリージングタッチと隠し札が1つ。虚はつけるだろうが、決定的切り札には成らない。後は接近戦で合気道スキルが活きてくると思うが、相手の力を上手く使って投げたり決めたりする武術という大枠くらいしか知らないんで、積極的利用ができない。


「ユキ何処?!」

 バーニンガールが両拳に炎をまとって追って来る。あれに殴らればダメージが通って有効は取られるだろう。魔力の差で防御フィールド自体はユキの方が優ってると思うが基本的に常駐型の防御は攻撃に比べて効果が落ちるのが世の常。格下を完封するのには便利だが、格上相手には撃破されるまでの必要な手数を2~3倍に増やさせる程度でしかない。格闘型魔法少女はセオリーとして2,3種の自己強化魔法を使い空いたスロットで攻撃用魔法や防御魔法を使う。バーニンガールは言動や身体能力の高さから言って格闘系脳筋魔法少女で多数の魔法を身につけていない筈だ。間合いに入らせなければ一方的な攻撃ができる筈。

 左手にフリージングタッチ、右手に持つ日傘にアイスプロテクションを発動し、バーニンガールの動きを読みやすくするために声をかける。

「私はこっちです、バーニンガールさん」

 気付いたバーニンガールは予想通りまっすぐに迫って来る、その機先を制するように下ろした日傘の先端からフリージングブリザードを放つ。今度は予測していたバーニンガールが顔を庇いながら間合いを詰めてくる。しかし、2度目のフリージングブリザードを受けたバーニンガールは本来の動きの精彩を欠いていた。繰り出された拳を日傘の前にできた氷の盾で受け流すと、すれ違いざまに凍気を帯びた左手でバーニンガールの首筋をなでる。

「ひゃん!」

 冷たい、それも氷点下のタッチで首筋を刺激されてさすがにビックリしている。フリージングタッチは殴ることでダメージを与えるファイヤーフィストと違い、『掴む』ことでダメージを与える魔法なので触れただけでは与える効果は半減する。バーニンガールが驚いてたたらを踏む間に距離を取る。

「ユキ、有効。合わせて7ポイント」


 フリージングブリザードのような投射型の魔法は、使える弾数が少ないが1発1発の威力は大きいのできっちりガードしても有効程度には効く。さすがにあと技あり1か有効と効果で決まると分かってバーニンガールの動きが慎重になる。

 だけど知覚が強化されてるユキ()にしてみれば、焦りを見せるバーニンガールの息使いは良く分かる。大きめの木の背後に隠れて、あえて存在を明かし、右か左か迂回した所をカウンターでもう一発氷雪嵐を浴びせて決めよう。そう踏んでいたが、予測を裏切られた。

「バーニングダイブ!」

 勢いを付けた突進技で、背後に背負った巨木を貫いて飛び出して来た。とっさに盾を張った日傘をかざして背中をカバーしたものの、威力を殺し切らず日傘を飛ばされ半身を焼かれた。こちらの氷雪嵐もかすめていたが、近接距離での勝負になってしまった。

「バーニンガール技あり5点、ユキ有効2点で合わせて9点」

 フィーが得点を告げる、劣勢の打ち合いでもちゃんと点をカウントしてくれるのはありがたい。肩口に痛打を受けたので左腕が(しび)れて動かない。片手が使えないと合気道の技もほとんど使えない筈だピンチだ。さすがに脳筋なスタイルで力押しを押しとおして来た魔法少女はパワフルだ。

「こっからは、アタシの反撃のターンだよ」

 バーニンガールが宣言する、バーニングダイブは間合いを開けないと使えないのでこちらの反撃を警戒して使えない筈。攻めは近接でのファイヤーフィスト中心になるだろう。ボクシングを思わせるファイティングポーズを取ったバーニンガールが、炎の左拳を素早く繰り出してくる。自由の効く右手で必死に払うがそれで精一杯、じりじりと押されてくる。バーニンガールが凍結効果で動きを鈍らせてなければとてもガードはできなかっただろう。


「あっ!?」

 じりじり後方に下がっていたユキ()はヒールが木の根に引っ掛かって体勢を崩す。後ろに思い切りのけ反り転倒は免れない致命的な状況、目と鼻の先にバーニンガールが牽制のジャブではなく、必殺の右ストレートを打ちおろそうと構えていた。当たれば技ありで、バーニンガールの宣言通りの技あり2つで分かりやすい勝利になる。


「勝負あり!」

 ユキ()は膝をそろえてつま先を開いた姿勢で尻餅をついた状態で聞いた。

 バーニンガールはそんな俺の前に自然体で立ち繰り出した拳を凝視していた。そのバーニンガールの拳には尻餅をついたユキ()の右手に握った薄い六角錐型の氷の剣『アイスフルーレ』が刺さりかすかに血がにじんでいた。

「ユキ、効果1点を加えて10点でユキの勝ちだ!」

 フィーが勝敗を宣言した。この氷の剣を作りだすアイスフルーレが隠し技だ。ビジュアル的に綺麗で格好いいというのが理由の半分でユキに身に着けさせた魔法だが、近接戦になった時に1回不意を打てれば上出来と期待していたがこんな決定的な働きは予想外だった。

「いやあ、負けちゃったあ、ユキ強いねぇー、驚いたよ」

「バーニンガールは、考えなさ過ぎだ。ユキを見習ってもう少し頭を使ったらどうだ」

 負けたバーニンガールがさばさばとした態度で笑顔を見せ、フィーがたしなめる。これまでフィーが苦労してたんだろうな。

「おめでとう、ユキ」

 バーニンガールが手を出して来たので、右手で握り返すと直ぐに引き起こされた。

「おめでとう、ユキ。今日の勝利をたたえて君にプレゼントを用意しよう、楽しみにしてくれ。それから、工夫して戦う姿勢は見事だが、あまり小手先に頼り過ぎないように力を付けてくれ」

 フィーが勝利を称えつつ、耳の痛い忠告までくれた。プレゼントって何だろう? 妖精は、仮面ヒーローのスカウト、異能者の創師とならぶ魔法少女界の生産職でアイテムを創造することができるんだが、フィーってそこまでこなすのか、超大当たりな妖精だな。

「どうでもいいけど、アタシもユキも結構大きな怪我してるんだから治療お願い」

 バーニンガールがそう言ってフィーを抱きかかえた、怪我してると言ってるがバーニンガールの右手の傷など血が止まって塞がりかけている。ユキの目で見ると、最初の状態と現在の状態を見比べるなんて造作のないことだから。フィーって治療魔法まで使うのか、本当に凄い妖精だ。

 フィーの治療で焼かれていた左腕はシミ一つなく綺麗に回復し痛みも完全に取れた。大やけどなんてして帰ったら、うなじの日焼け跡1つで大騒ぎする風吹貴がどれほど騒ぐか分かったものじゃない。

 治療が終わると程なく、結界が消えて元の空間に戻って来た。バーニンガールがぶち抜いて倒した巨木も元通りになって何事も無かった景色が広がっている。後は帰るだけかなと思った時、フィーの声が響いた。


「何か出た! 魔獣や魔人の気配じゃない」

 魔獣や魔人でない何か、魔法少女系でない敵だろう。その正体は何か、それと戦うのか避けるのか、猶予はあまりない。

スノープリンセス・ユキとバーニンガールの力比べと

雪姫に新しい歯がはえるというイベントが起こってます。第二大臼歯で小学校高学年から中学位に生える歯ですね。


次は、謎の敵に対してどうするかのお話になります。


3月22日誤字修正しました。

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