受け継ぐ力
背筋が凍る。清隆は今の状況をうまく飲み込めていない。
「ど、どうして、どうして僕をかばったんだ・・僕は人を守るためなら、命を捨てる覚悟ができていたって言うのに・・」
「うっ・・・うう・・清隆・・」
巴は弱りながら、何とか声を出す
「巴さん・・」
「清隆・・・お前は・・一つ忘れている。」
「忘れていること・・・」
「そうだ・・げほっ、ごほっ」
「もう、しゃべらないで下さい。これ以上はもう・・」
「ごほっ、げほっ・・いや、しゃべるぞ。お前は命に替えても、大切な人を守ると言った。でも、お前が命を失ったら、悲しむ奴がいるんだ。」
「ーー!」
清隆は巴の言葉に、恋人、美雪の顔を連想させる。
ロンドンに置いてきてしまった大切な人。「さよなら」すら言っていない。一生の別れになるかもしれない。だから、別れを言わないで死ぬのは嫌だと、今更ながらに思う。
しかし・・・
ーーお前は誰かの盾になるんだ。お前自身は盾でできている。決めたんだろ。必ず大切な人を命に替えても守ると。それは、一度大切な人を守れなかった、お前の罪なのだーー
頭に響く謎の声。それが、別れを言えないという後悔を掻き消した。
「清隆・・つまり、私が言いたいのは、常にお前に死なれたくない奴がいることを忘れないで欲しい。そして、私がお前を庇ったのは、私もお前に死なれたくない奴の一人だからということだ。げほっ・・・」
「巴さん?」
「ずっと、好きだった、清隆。最後に守れて良かった・・・」
巴が息を引き取る。
「巴、さん?嘘でしょ、冗談ですよね。」
当然、巴に反応はない。その瞬間、巴が契約していた精霊が何故か、清隆の右手の甲に吸い込まれるように集まり、甲に刻印らしきものを刻んで消える。
清隆は理解する。
巴は死んだ。自分を庇ったせいで。自分はまた守れなかった、大切な人を。巴を殺したのは、目の前の魔獣、アルシオーネ・ナイトメア。
(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)
清隆は吹き飛ばされた二本の長剣を回収し、構える。
怒りで魔力が回復する。しかし、瞬間移動魔術を使用するには至らない。だが、清隆には分かる。今、自分には巴が残した力、精霊を使うことができると。
清隆にナイトメアの光線が放たれる。
(宮野剣術・6の型・剣で作る盾)
清隆は剣を剣で回転させて、盾にする。さらに
(火精霊フレアーー)
清隆は、盾がわりの剣に火精霊を纏わせる。そして、盾がわりの剣は光線の軌道をそらす。
そして、落ちた盾がわりの剣を回収し、ナイトメアに向かっていく。
「うおおおおおお!」
(踊る剣術)
清隆は脚と剣のコンビネーション攻撃を放つ。
キーン
しかし、清隆の攻撃はすべてガードされる。
(ならばー影精霊スプリガン)
清隆は影精霊を剣に纏わせ、剣を空気と同化させる。剣の姿は見えなくなる。そして、再び、踊る剣術を放つ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
清隆はナイトメアを斬り裂いていく。ナイトメアは、剣が見えないためか、清隆の攻撃をガードすることが、できないようだった。そして、ナイトメアは光の粒子となって消えていった。
「・・・・」
清隆の心にはナイトメアを倒しても、何とも言えない悔しさが残るだけだった。
まわりをみると、清隆と同じナイトメアを担当していた他の人はほとんどが死んでいた。
僕は大切な人たちを守るために、魔法科高校に入学したっていうのに、結局は同じ過ちを繰り返した。
一年半前から何も変わっちゃいない。
いや、変わったは変わったが、結果は同じ。
結果が変わらなければ意味がない。
大切な人たちを救えなければ、この一年半は無駄な時間。
自分が強くなかったから、巴は死んだ。庇わせてしまった。
「く、クソおおおおおおおおおおおおおおおお」
清隆はただ、叫ぶことしかできなかった。