Can't forget memory(キャント フォゲット メモリー)・中三の夏
時は過ぎ、清隆と私は三年生になった。清隆は男子剣道部部長になった。そして、夏の大会。剣道部は全国大会に進み、個人戦では清隆が全国大会に進んだ。
清隆は全国大会でも勝ち進み、とうとう全国決勝の舞台に上がった。清隆は気持ちが高ぶっていて嬉しそうだった。私もそれを見て嬉しくなる。
「頑張ってね、清隆。」
私は清隆に声をかける。
「ああ、頑張って勝ってくるよ。今まで僕を支えてくれた美雪のためにも。」
「うん・・」
私は嬉しかった。清隆が私のために戦ってくれることが。
清隆と対戦相手は一礼して、それぞれのラインで蹲踞する。試合がもうすぐで始まる。
対戦相手は去年の大会、二年生ながらも優勝した、夜刀神矢白という選手だった。ただ、この選手の試合は相手が一歩も動かず試合が終わっているという不自然な点があった。私は不安に思ったが、清隆は心配ないと言うのでそれ以上は首を突っ込むのはやめた。
そして・・
「始め‼」
審判の声で試合が始まる。清隆はすぐに夜刀神の構えに隙を見つけて、小手を打ちに行こうとする。
だが・・
「・・・っ!」
体が重い・・だるい・・体が動かない・・
清隆は体に異常を感じた。まるで金縛りでもかけられたかのように体が全く動かない。
「メエエエエン‼」
夜刀神が清隆の面を打った。
「面アリ!」
審判の旗が三本上がって夜刀神の面打ちが決まる。
その瞬間、清隆の体からだるさと重さが消えて、清隆は動けるようになる。
何なんだ、これは・・まあ、いいや、動けるようになったし、反撃といこうか。
清隆は気合いを入れ直す。
「二本目!」
審判の声で試合が再開する。その瞬間・・
「・・・っ!」
再び清隆は体に重さとだるさが襲い、体が動かなくなる。
「メエエエエン‼」
夜刀神が素早く面を打った。
「面アリ!」
審判の旗が三本上がって夜刀神の面打ちが決まる。
清隆の頬から涙が出た。
ははは、僕・・負けたのか・・何もできずに、一歩も動かずに・・
最前線で見ている部員のみんなの前で・・美雪の前で・・あんな無様な試合を・・
その次の日の団体戦。大将戦で一本取らなければならない場面で清隆は本調子が出ず、大将戦は引き分けに終わり、結果、桜花中学校男子剣道部は全国大会初戦敗退という結果に終わった。
清隆は表彰式終了後、部員たちから逃げるように会場を去っていった。
私はそれを追いかけた。やっとの思いで清隆を見つけると清隆は木の陰で泣いていた。ただ俯きながら。私はそれを見ていて心が折れそうで清隆を抱きしめた。
「・・・」
「・・・」
私たちはしばらくそのままの体勢でいた。
やがて、清隆の方から私に離れ、清隆の手が私の頭に置かれ、清隆が口を開く。
「ありがとう、美雪。もう大丈夫。すっかり心配かけちゃったね。これも僕が不甲斐ないせいだね。今度は、美雪に心配かけないようにするから必ず。
もう、美雪にそんな顔をさせないように頑張るからさ。そんな顔しないで美雪。」
清隆のそんな言葉に折れそうになった心が立て直される。私の方が慰められてしまった。
私の考えは良い意味で外れた。
私は清隆が剣道をやめてしまうのではないかと思っていた。けど、清隆は屈せず立ち直っていた。立ち直りに自分も役に立っていたなら嬉しいと思う。
私と清隆はさらに心が通じ合う仲になった気がした中三の夏だった。