気持ちの変化
アメリカ戦が終わった夜。
「わかったわ、任せて。」
清隆は静香にパンサーブラックと闇帳の修理を頼んだ。静香の得意魔法、巻き戻しで剣を砕かれる前の状態に戻して貰おうと考えたのだ。
「はあっ」
まずは、パンサーブラックの修理。剣の破片が一つにまとまっていく。そして、パンサーブラックは元の姿に戻った。
「おおー」
清隆は目の前の光景に驚く。
「ふふ、もう一つの剣の方も修理しちゃうね。」
静香は闇帳にも巻き戻しの魔法をかける。しかし、何も起きない。
「っ・・・魔法が破壊されてるなんて・・・」
「まさか・・・」
「まさかって、なに清隆。」
「もしかして、闇帳の魔法破壊魔法が働いているんじゃ。」
「そんなのどうしたら・・・」
「じいさんに聞くしかないな、この剣を作った本人に。」
「そっか、役に立てなくてごめんね。」
「いやいや、パンサーブラックを修理してもらっただけでもとてもありがたいよ。うーん、なにかお礼がしたいな。なにか欲しいものはある?」
「うーん、じゃあ・・明日、買い物に付き合ってよ。」
「ああ、喜んで。」
「うん?清隆、何か前と変わったね。今までは女の子と買い物ってだけでも美雪ちゃんのことを思い出して、少しためらってたよね。でも、今日の清隆、すぐに承諾しちゃって、天夏さんのことはもういいの?」
「いいや、けど、美雪に対する想いが少し変わったかな。今までは美雪を守れなかったことに必要以上の責任を感じて、その罰に美雪の最後の言葉を聞き入れて、恨みの言葉も辛い言葉も全て受けいれ、死んでと言われれば死ぬつもりだった。でも、今日、気づいたんだ。本当はもう一度、もう一度、美雪と同じ空の下、美雪と一緒の時間を過ごしたいっていうことに気づいたんだ。だから、僕は魔闘会で優勝したら、美雪を蘇らせるんだ。」
「そう・・」
清隆が心のうちを明かすとなぜか静香は少し残念そうな顔をした。
「じゃあな、静香。」
「じゃあね、清隆、また明日。」
清隆は別れを告げると、清隆は峰隆の泊まっている宿に向かって走っていった。
そして、峰隆の泊まっている宿ににて。
「んん、これは・・治せるかもしれん。それには剣が二本、必要だが、あるか?」
「あるよ。」
清隆はさっき、治してもらったパンサーブラックと護身のために持っていた「光線剣」を差し出す。
「よし、これを預かるぞ、まあ、戻って来ないかもしれないが。」
「えっ・・」
「ああ、大丈夫だぞ。剣の能力だけは残るから・・」
「それってどういう・・」
「まあ、これらは預かるぞ。」
「必ず直してくれよな。」
「ああ、任せなさい。」
こうして、闇帳の修理は始まった。
翌日
「清隆、こっちこっち。」
静香はマジシャンズアイランド中をまわりたくさんの買い物をした。もちろん、お金を払っているのは、清隆である。一応、先日のエドガーとペガサス狩りの依頼をこなしたときの報酬金があり、だいぶ余裕はあるが、ワンコそばなみの速さででお金が減っていく。
「清隆!こっち来てー」
今度はなぜか武器売り場だ。魔剣、魔法銃、魔法楔鎌 、魔槍など魔法を使った武器がたくさん売っていた。
「清隆、今度、私もなにか武器を使って戦うスタイルに変更しようと思うんだけど、何がいい?」
「うーん、そうだな、魔法銃とかいいんじゃないか。」
「へえー意外。清隆なら、剣がいいんじゃないかと言ってくると思ったんだけどな。」
「いや、やっぱり、遠くから攻撃できるのは大きいと思うよ。それに最近の魔法銃はノーコンでもきちんと相手に照準を自動で合わせてくれるからね。」
「ふうーん。じゃあ、なんで清隆は剣を使ってるの?」
「それは、僕は中学生まで剣道をしていたし、僕の家系が宮野剣術っていう剣技の流派だっていうのと、僕が宮野剣術の後継者だからだと思う。」
「そういえば、清隆って、全国大会準優勝者だもんね。ところで清隆って次男だよね。剣術とかそういうのって、普通長男が受け継ぐものなんじゃないの。」
「いやあ、兄さんは昔からロボット造りに夢中だったからね。剣術なんかに興味なかったから。僕も二年前までは剣術も魔法なんかに興味もなかったし、魔法は人前で使うこともなかった。でも、魔法を使えるようになることで美雪に償えると聞いて、じいさんに魔法を教わった。そして、教わる条件として宮野剣術を受け継ぐことになったんだ。今じゃ受け継いで良かったと思ってる。」
「ふうーん、そっか、良かったね、清隆。」
「あ、でも剣を使うのはやめておけよ。」
「わかってる。ねえ、清隆は魔法銃使わないの?」
「うん、使わない。剣になれてしまったからね。」
「ふうーん、やっぱり、私も剣を使う!」
「やめておけよ。」
「ダメ、絶対使う。だからね、清隆、剣の使い方を教えてよ。」
「はあ~どうせ教えないって言っても教えてって言って来るんだろう。」
「うん。」
「わかった、この大会が終わったら教えるよ。」
「絶対だよ。」
「ああ。そういえば、僕、今、 剣が一本もないんだよな。いつ、闇帳が直るか分からないし、一本買っとこうかな。」
「じゃあ、私の剣も選んでよ。」
「わかった、よし、じゃあ探すか、僕らの相棒を。」
「うん。」
こうして、静香と清隆はそれぞれの剣を探した。
「ねえねえ、清隆、これはどうかな。」
静香が清隆に見せたのは透明な一本のレイピアだった。
「おお、なかなかいいかもね。でも、レイピアは専門じゃないからな、俺じゃ扱い方を教えるのは無理かな。」
「うーん、じゃあどうしようかな。」
「静香、これはどうかな。」
清隆は一本の透明な細め長剣を取り出した。
「これは魔力耐性もなかなかだし、軽いし、専用魔法も使えるみたいだし、初心者にはピッタリだと思うけど・・」
「ふうーん、じゃあこれにしよ!」
「そうか、じゃあ、僕が奢るよ。僕も剣を選ぶから待っててくれ。」
「うん。」
それから、清隆は悩んだが結局自分にあった剣をが見つからず、オーダーメイドを頼むことにした。
「いらしゃいませ。」
「あの~、オーダーメイドを頼みたいんだけど。」
清隆はカウンターに行き、オーダーメイドを頼む。
「武器の種類は、性能的には、どのような物を?」
「えっと、魔法、物理耐性を強めで、専用魔法もあると嬉しいかな。多少重めでも構わないから。」
「かしこまりました。完成は明日の夕方になりますがよろしいですか?」
「はい。」
清隆はオーダーメイドを頼み終え、静香の剣とその鞘を購入した。
「はい、これ。」
「ありがとう、清隆。」
「大事にするんだぞ。」
「うん。」
そして、夕方になり、静香と清隆はそれぞれの宿へと帰る。
「ねえ、清隆。」
静香は帰り際、突然、清隆にキスをした。前回のように頬にだった。
「・・・
「・・・」
しばらく、沈黙が続く。
「よし。」
そして、静香は意を決したように深呼吸してから自分の気持ちを告げた。
「清隆、私、今日、確信したんだ。私、清隆のことが好きなんだって。」
「静香、僕は・・」
「今は返事はいらない。ただ、清隆に私の気持ちを伝えたかっただけ。だけど、天夏さんのことが一段落ついたら返事が欲しいな。
「ああ、約束する。」
「じゃあね、清隆。」
静香は清隆の言葉を聞いて去っていった。
また、告白された。でも、いつもと違い、断るしかないという辛さはなかった。清隆の中で美雪に対する責任感よりも、美雪に対する想いの方が大きくなり、気持ちが少し明るく、開放された気分になっていた。清隆もこの気持ちの変化を嬉しく思った。