運命のアメリカ戦
「いよいよだな、相棒。やっと、義隆さんの弟と戦える。お前を造った人の弟さんと戦えるんだ。お前も気合が入るだろう。そして、義隆さんを見つけるのはこの俺だと証明するんだ。だから。絶対勝とうぜ、影虎!」
ここは、アメリカ代表「マシンナーズ」のアジト。そこにいるのは、日本とアメリカ人のハーフの青少年と18mはある、二足歩行の黒いロボット。この青少年はどうやら、次の試合に今までにないやる気に満ちているようだった・・・
マシンナーズとの決戦を控えた今日。清隆たち、ソードダンサーズのメンバーは応援部隊に見送られて、今回の決戦のフィールド、未来都市フィールドに来ていた。
未来都市フィールドはビルなどの高い建物に囲まれているフィールドだ。
清隆たちがフィールド前の控え室に来ると、
対戦形式を決めるボードが現れる。今回も哲也と巴に相談しようとすると、
「宮野清隆!俺と1VS1で勝負しろ!」
相手側の控え室から日本とアメリカ人のハーフの青少年が声をかけてきた。その声に対し清隆も言葉を返す。
「誰だ、お前、名をなのれ。」
「俺の名は、ユウジ・マスティーニだ。ユウジと呼んでもらって構わない。お前の兄、宮野義隆の弟子だ。」
「ユウジ、お前・・兄さんのことを知っているのか・・」
「ああ、だから言ったろう弟子だって。その証拠にこいつを受け継いだ。」
ユウジは指を鳴らし、魔法陣を展開させる。魔法陣から18mくらいの黒いロボットが召喚される。
「・・・これは」
清隆にはこの機体に見覚えがあった。義隆が日本にいた頃から造っていた機体だった。清隆はこれの試運転をよくさせられた。義隆がアメリカ校へ行った理由は魔法工学が有名なアメリカ校でこの機体を進化させるためで、義隆がアメリカ校へ旅立つ時もこれを大型の船で運んでいったのを覚えている。
「ほう・・どうやら見覚えがあるようだな。こいつは魔法投射型対魔獣戦闘機、影虎だ。これが義隆さんの弟子である証拠だ。さあ、俺と一騎打ちだ。学園長からもお前が勝てば、知りたいことを教えてやると言っていた。おそらく、俺も知らない義隆さんの行方についてだろう。俺が知っているのは、義隆さんは生きていることだけだ。
俺はこの大会で優勝し、義隆さんをアメリカ校に連れ戻す。宮野清隆、さあ、戦いを始めよう。義隆さんを連れ戻す権利をかけて。」
ユウジは影虎に乗り込む。
「ドミニオンライフル、エネルギー充填完了。フェンリルブレード、異常無し、ブースター、特殊関節、メインカメラ、全て異常無し。その他もOK。」
ユウジは影虎の最終チェックをする。
清隆は肩からパンサーブラックと闇帳、二つの剣を取り出す。
そして、カウントダウンが始まる。
「試合開始、三秒前、3、2、1、0」
「いくぜ、影虎!」
影虎の眼が緑色に光って、勢いよく清隆に突っ込んで来る。
「速いな、だけど・・」
清隆は魔法陣を展開し、瞬間移動魔術を発動させ、その場から姿を消す。ユウジもそれに対応するように影虎の前進をやめる。
「もらった!!」
清隆は影虎の背後に瞬間移動し、影虎の脚を切り落とそうする。
「ブラックストライク‼」
清隆はパンサーブラックからブラックストライクを放つ。しかし、突然、影虎の胴体から下の脚の部分だけが回転し、清隆の方を向くと、ブラックストライクを蹴りで清隆ごと、吹き飛ばす。
「くっ、今のはいったい・・」
清隆は影虎の蹴りをなんとか二本の剣で受け止める。
「驚いたか、これは、特殊関節という機能で、胴体から下が360度回転する機能だ。これによって、後ろからの攻撃を瞬時に防ぐことが可能だ。」
影虎の内部からユウジの声が聞こえる。
「ほうー、さすが兄さんの機体だ。凝ってるな〜、でも、僕にはやらなくちゃいけないことがあるんだ!!」
清隆はそう言って、魔法陣を展開させる。そして、瞬間移動し、影虎の胴体を背後から狙う。
「ブラックストライク‼」
再び放たれる黒い閃光。それを見たユウジは微かな笑みを浮かべる。
「清隆、言い忘れてたけど、実はこの特殊関節、胴体から上も360度回転するんだ。」
「・・・なに⁉」
ユウジの述べた衝撃の事実に驚く清隆。そして、ユウジの言葉を証明するように影虎は今度は胴体から上だけが回転させ、清隆の方を向いて、右手のフェンリルブレードを振り下ろし、黒い閃光を掻き消して、清隆に攻撃する。清隆はその攻撃を避けるため、瞬間移動魔術を使って影虎との距離を程よく保つ。
「今度はこっちからいくぜ!」
清隆に振り下ろされるフェンリルブレードの一振り。清隆は瞬時に考える、影虎に攻撃を当てる方法を。さらにフェンリルブレードと清隆の距離は近づく。そして、清隆はある一つの答えを見つけた。
影虎の右手からフェンリルブレードが清隆に向かって振り下ろされる。清隆はこの攻撃を避けるのではなく、受け止めることにした。
「宮野剣術奥義・始」
清隆は闇帳に魔力を収縮したのち、フェンリルブレードとぶつかる瞬間に魔力を一気に放出する。鋼鉄をも砕く剣撃がフェンリルブレードを砕く。真っ二つになるフェンリルブレード。
「な、なに⁉」
ユウジもこれに驚く。清隆は気を抜かず、瞬間移動魔術を発動し、影虎の頭の辺りに移動し、二つのメインカメラを破壊しようとする。
「させるかよ、遠距離系魔法、シグナルビーム‼」
メインカメラから放たれる二つの光線。清隆は闇帳の封印を解き、この剣の能力、「魔法破壊魔法」で二つの光線を切り裂く。そして、影虎の二つのメインカメラを壊す。
「ぐはっ、クソが・・」
ユウジは影虎のメインカメラが破壊された衝撃で壁に頭をぶつける。
「ちっ、ヴェン、ヘッドパーツとフェンリルブレードの在庫はあるか?」
ユウジは通信をいれ、チームメイトのヴェンセント・クリサリアにつなげる。
「ユ、ユウジ、ヘッドパーツとフェンリルブレードなら、一個だけあるぞ。それと例のあれ、使ってみないか。」
「例のあれ?」
「試作品の追尾型遠距離系魔法投射ユニットさ。あいつは今まで、誰も傷つけることができなかったこの機体に傷をつけたんだ。試す相手としてはふさわしいと思うんだが・・」
「でも、あれはまだ、試運転を一度もしてないんだぞ。」
「そんなことを言ってる場合じゃないだろ。
このままだとお前、負けるぜ。」
「なんだと、俺が負けるはずないだろ。」
「いいや、負けるね。フェンリルブレードが破壊されたあたりから明らかに動揺してる。
お前もわかっているんだろ、ユウジ。」
「・・・ああ、そうだな、使ってみるしかないか。ヴェン、ホーミングの状態は?
「問題ない。ばっちりだ。」
「よし。」
ユウジは指を鳴らし、影虎の背後に魔法陣を展開させ、ヘッドパーツとフェンリルブレード、八つの銃口のついた円盤を召喚する。
「さあ、ドッキングだ。」
影虎の頭が外れ、新たなヘッドパーツがつけられる。剣が腰につけられ、背中に円盤が装備される。
「ホーミングレーザーユニット、ドッキング率20パーセント、40、60、80、100パーセント‼ よし、いくぜ影虎!ここからが俺たちの本当の戦いだ。清隆に見せてやろうぜ。お前の真の力をよ‼」
影虎のメインカメラが青く光る。
「清隆!これがよけられるか。」
「・・・っ?」
影虎に装備された円盤、追尾型遠距離系魔法投射ユニットの八つの銃口から放たれる八つの光線。それらはすべて、清隆を襲う。清隆はそれらから逃げるように魔法で影虎の頭の上に移動する。だが、光線は清隆を追いかけてきた。そして、清隆に八つの光線が直撃する。
「ぐはっ、追尾型だって?」
清隆は真っ逆さまに落ちてゆく。
「まだまだ終わらないぜ。」
ユウジは影虎の左手のドミニオンライフルを
起動させ、清隆に銃弾を二、三発当てる。
「ぐっ・・くっ・・」
清隆に激痛が襲う。
「楽しかったぜ、清隆。また戦えるといいな。だが、今回は俺の勝ちだ。」
「っ・・・」
「これで終わりだ、清隆。プロト・オーシャン・ドライブ!!」
ドミニオンライフルから放たれる青き光線。
落下状態の清隆の元へ襲いかかる。清隆は激痛で瞬間移動魔術が発動できない。清隆は激痛を堪え、襲いかかる光線を闇帳で切り裂く。
「うおおおお‼」
なんとか青き光線を切り裂く。そして、清隆は体勢を立て直し、着地する。
「む、あれを負傷しながら避けるとは。だが・・」
ユウジがそう言うと、
バキッ
という音が聞こえ、闇帳が粉々に砕け散る。
「や、闇帳が・・・」
「その剣を失って、この攻撃が避けることができるか!ホーミングレーザー!!」
円盤から放たれる八つの光線が容赦なく清隆を襲う。
「・・・くっ、ここで負けるわけにはいかないんだ。」
清隆は激痛を堪えて八つの魔法陣が展開させる。さらに清隆はパンサーブラックを握りしめ、魔法陣に向かって黒き閃光を放つ。
「ブラックストライク、くっ。」
黒き閃光は八つの魔法陣に均等に吸収される。八つの光線もすぐそこまで迫る。清隆は八つの光線にそれぞれ魔法陣を展開する。
「魔法瞬間移動魔術‼」
魔法陣から放たれる黒き八つの閃光。それらは八つの光線と同時うちになり互いに消滅する。
「ハアハア、なんとか防いだぞ。どうだ、ユウジ‼」
「自惚れるな、清隆。」
ユウジは影虎の右手を清隆の持っている剣に向ける。
「迅雷斬‼」
ユウジは影虎の右手から稲妻を放つ。清隆の目に見えない速さでパンサーブラックにそれが襲いかかる。
ぱりっ。
パンサーブラックが砕け散る。
「はっ、パンサーブラックまで・・・」
清隆は二本の剣を失った。残る武器はポーチの中に三本の使い慣れない短剣。
「さあ、剣のないお前にこの攻撃をかわせるか。ホーミングレーザー‼」
清隆に八つの光線が再び襲いかかる。
僕はこのまま負けるのか。兄さんの行方も聞けないまま、美雪の最後の言葉も聞けないまま、ここで終わりなのか。・・・そんなのいやだ。僕はこの試合に勝って、兄さんの行方を聞き、この大会も優勝して、僕は美雪に・・美雪に・・
「僕は美雪に会いたい、会って、できることなら蘇らせて、もう一度美雪と一緒の時間を過ごしたいんだ。・・・はっ。」
今まで気づかなかった本当の気持ち。いや、抑えていた気持ちが口にでる
今まで告白を全て断ってきたのは、自分が美雪を守れなかった悔しさと美雪を忘れたくなかったという思い生んだひねくれた感情表現。そして、魔闘会で優勝すれば美雪を蘇らせることができるという希望の裏返しだということに清隆は気づく。
「俺は・・負けられないんだ。」
清隆は短剣を両手に一本ずつ握り、心の中で念じる。
短剣よ、我が愛刀となりてここに姿を現せ。
清隆の右手に闇帳、左手にパンサーブラックが召喚される。
「あれは・・・武器交換⁉なのか。」
哲也は清隆が起こした行動に驚く。
そう、あれは哲也の得意魔法「武器交換」である。清隆は自分の本当の気持ちに気づいたことでこの大会に対する想いが高まった。その想いが清隆に一時的に「武器交換」の使用を可能にしたのだ。
「うおおおお‼」
清隆は影虎の脚元に向かって走る。
「いい加減、負けを認めろ‼」
ユウジもドミニオンライフルから銃弾を連射する。
「宮野剣術、1の型、糸釣り刃。」
清隆は二本の愛刀にワイヤーを取り付けて、ワイヤーを操り幾つもの銃弾を弾いていく。
「クソが・・・プロト・オーシャン・ドライブ‼」
ドミニオンライフルから放たれる青き光線。
「宮野剣術、6の型、剣が作る盾」
清隆はパンサーブラックを宙に放り投げ、それを闇帳でうまくつつき、パンサーブラックを回転させていく。回転させた剣は青き光線の起動をそらし、清隆の右を通り、消えていった。
「クソ野郎が・・・ホーミングレーザー‼」
円盤から放たれる八つの光線。それらが再度清隆を襲う。
「うおおおお‼」
清隆は再び闇帳の封印を解き、闇帳を目にもとまらぬ速さで振るう。そして、「魔法破壊魔法」の能力を使い、八つの魔法の光線を切り裂く。
「これで終わりにしよう、ユウジ。」
「俺はまだ終われねえ・・」
「宮野剣術奥義・始‼」
清隆は二本の愛刀の剣先に魔力を凝縮させ、影虎の脚を斬ろうと剣を振り下ろす。
「そんな攻撃が効くかよ。」
ユウジは影虎の特殊関節を起動させ、脚を180度回転させて、その勢いで回し蹴りをし、二本の剣にぶつけてきた。
「うおおおお‼」
「うおおおお‼」
激しく火花を散らす二本の剣と一本の脚。
パキッ
ガタン
清隆のパンサーブラックが割れる。そして、元の小刀に戻る。
影虎の脚がくだける。そして、影虎は倒れる。
「ちっ、脚部損傷か。ヴェン、レッグパーツは・・・」
ユウジはヴェンに通信をしようとすると、突然、通信がきれてしまった。
「な、なんなんだ。」
ユウジは影虎内部のスクリーンをみる。すると、エネルギー切れならぬ魔力切れの表示がされていた。
「魔力切れだと・・・ちっ、クソが・・」
影虎のエネルギーは機体にチャージされた魔力である。魔力がきれた機体はガラクタ同然である。
「ん?止まった?」
影虎の異常に気づいた清隆は素早く攻撃を繰り出す。
「宮野剣術、4の型、乱れ突き‼」
清隆は影虎の脚、頭、胸部など次々に破壊して行く。そして、影虎は全壊し、ユウジが出てくる。
「ちっ、クソが・・ここまでか・・降参だ。清隆、お前の勝ちだ。」
ユウジは降参を宣言すると、清隆に封筒を渡す。
「・・・ん?」
清隆は突然渡された封筒に顔をしかめる。
「それにはアメリカ、ロサンゼルス校学園長、メリッサ・フリーザの招待状が入っている。それを見せれば、アポをとって無くともすぐに学園長に会えるはずだ。きっと、俺たちロサンゼルス校の生徒も知らない義隆さんの行方とその原因であるあの事故のことも・・きっと・・」
「あの事故?」
「いや、なんでもない。とにかく、しっかり義隆さんの行方を聞いて来るんだぞ。そして、義隆さんを連れて帰って来てくれ。俺にも協力できることがあれば、協力は惜しまない。ぜひ頼ってくれ。じゃあな、清隆。お前との戦い、楽し勝ったぜ、またやろうな。」
「ああ、僕もだ。」
ユウジは会場を去っていった。
「お知らせします。ソードダンサーズvsマシンナーズの試合は、ユウジ・マスティーニ選手の降参宣言により、ソードダンサーズの勝利です。」
結果報告がされ、喜ぶソードダンサーズ応援部隊の方々。すると、歓声ともに闇帳に変わっていた小刀元の姿に戻る。清隆はこのアメリカ戦を勝って、兄を連れ戻すという目的の達成に一歩近づいた。本来は喜ぶベきところだが清隆には課題があった。割れてしまった二本の愛刀。闇帳の「魔法破壊魔法」、パンサーブラックの「ブラックストライク」。どちらも清隆が本戦を勝ち抜いていくのに必要な力だ。でも、今日、清隆はこの二つの力を失った。これからどうするべきか、考えなければならない。アメリカ戦は清隆に大きな爪跡を残していったのだ。