悪役令嬢達のデスゲーム ~ただし死ぬのはお前たちだ~
知らない場所に連れ込まれた五人の令嬢は、かつて悪役令嬢と呼ばれた五人であった。そんな彼女たちに天井からぶら下がる映像射影装置に映っていた道化師がデスゲームの開始を告げた。しかしこのゲームは成立しない。なぜなら、このゲームはこの時点で破綻したからである。――寄りにもよってこの五人を選ぶだなんて、運が悪かったと思う事ね、と黒い令嬢は思うのだった。
※細かいことは気にせず読んでください。
『――みなさま、ご気分はいかがでしょうかな?』
耳障りな声がして、私は目を覚ました。頭を抱えながら体を起こさせると、そこには異様な空間が広がっていた。
無機質な真っ白で無機質な四角い部屋。天井からは映像射影装置がぶら下がっていて、そこに道化師のような化粧をした人間が映っていた。部屋にいるのは、私を含めて五人の女性。全員が、美しいドレス姿だった。
「最悪よ、私たちを誘拐して何をする気なのかしら」
私の一番近くにいた赤い女性が映像射影装置に映っている道化師を睨みつけた。白い女性がまだ床から起き上がれない私に気が付いて助け起こそうとしてくれている。青い女性がこの部屋の唯一の出入り口だろう扉を蹴っている。黄色い女性が扇で顔を隠したままうつむいている。
私は――黒い女性である私は立ち上がりながら一緒にいる女性たちのことを思い出していた。
『もちろん、楽しい楽しいゲームを行っていただきます』
「はっ、ゲームねぇ。……楽しいのは私たちじゃなくて、アンタたちってわけぇ?」
黄色い女性が扇を畳みながら歩いてこっちにきた。道化師の顔をこれでもかと睨みつけながら。
白い女性は小さい声で何かつぶやいた。その瞬間、体の疲れが一気に取れた気がした。気のせいではない。彼女は、そういう力を持つ人なのだから。道化師には気づかれていないだろう。
『これから皆様に、命を懸けたデスゲームをしていただきます。ほら、楽しそうでしょう?』
部屋の空気がぴりりと冷え込んだ。冷え込んだ理由はもちろん私たちの感情によるものも含まれるが、一番の理由は、青い女性だ。
「あんたも、私を――私たちを馬鹿にする気?」
青い女性の触れている扉が、凍っている。
『……あれ?その部屋では、魔法は使えないはずで……』
「私に……いいえ、私たちに一般人向けの魔力制御装置が通用すると思ってるのかしら?」
状況の把握はできた。これから、私はどうするかを頭で巡らせる。ここはどこなのか。あれは誰なのか。今いる女性たちの力を使えばどうなるのか。私たちの殺し合いで楽しむ人たちは誰なのか。この場所に助けは来るのか。
来ないだろうな、ふん、と鼻で笑った。
「しかしこの人選は何なのかしらねぇ、面白くて笑っちゃったわ」
くすくす笑う赤い女性は黄色い女性の胸元のリボンを整えていた。黄色い女性もそれにつられたように口角を上げている。青い女性も冷静になってきたのかこっちにやってきて、白い女性は穏やかに微笑みながらもどこか威圧感をにじませていた。
「全員、悪役にされた女たちじゃない」
私は過去に呆れながら笑った。
『……悪役?』
「あら、知らないまま連れてきたの?じゃあやっぱりここ私たちの世界じゃないのね。なんだかおかしいと思ったのよね」
「何もかも、わかったの?」
「何もかも、わかったわよ」
「さすが私たちの頭脳」
「大好き」
「愛してる」
「褒めんなさんな」
――私たちが住んでいた国は、五つの主要都市でできている。方角で東、西、南、北、それに中央。各地方を四大公爵家が収め、王家が中央でまとめ上げる。私たちはそれぞれの都市の長の娘に当たる。さらに重要なのは、ヒロインのための悪役に仕立て上げられた経験があるという事だ。
おかしな話だがそれは現実だ。同時期、同時刻に、私たちはそれぞれの婚約者に婚約破棄を突き付けられた。婚約者の傍らには当然のようにヒロインがいて、婚約者はそれをかばうように立っていた。曰く、ヒロインあいつにいじめられていた。曰く、あいつは自分をないがしろにした。曰く、曰く、と続けば続くだけ浮き彫りになっていくのは、悪役に仕立て上げられた令嬢の醜態。本当にあったことなのか、違うのか。そんなことを誰も確かめもしないという恐ろしい状況の中、私は――私たちはキレた。
ヒロインの顔をぶん殴ったのは誰だったか。ヒロインを氷漬けにしたのは誰だったか。ヒロインの髪に火を放ったのは誰だったか。ヒロインに剣を投げつけたのは誰だったか。
そしてヒロインを磔にした誰かの手によって、国全体の浄化が行われ、魅了魔法という禁忌魔法に侵されていた全員がぶっ倒れて気絶するに至った。
結局すべてはヒロインの強欲によるものであり、同時進行で行われた五件の婚約破棄事件の首謀者は全く別の場所で高みの見物をしながら最終的には自分が全部手に入れるつもりであったようだが、そのたくらみも全部ぶっ壊した。自分が真のヒロインだなんて言っていたけれども、魔女か魔王かの間違いじゃないかしらと誰かが言った。
黒い拳が、赤い炎が、青い氷が、黄色の剣が、白い光が、すべてを浮き彫りにしたのである。
――私たち五人は、その時の五人だ。婚約者に婚約破棄を言い渡され、ヒロインの悪意にさらされた、被害者であった五人。悪役令嬢と呼ばれながらも、泣き寝入りなんて許さなかった、強い五人。
そんな私たちに喧嘩を売るのって、すごく面白そうだ。
「……エリー、この部屋をもっと明るく照らしてちょうだい」
「ええ、もちろん」
「ネヴァ、扉は砕けそうかしら?」
「思ったよりも脆くてもうひびが入った、行けそうよ」
「スカーレット、力を蓄えて頂戴」
「もちろんよ、体を温めておくわね」
「ウィロウ、刃こぼれしない分厚い武器を頂戴」
「好きなのを使いなさい」
白い女性が人差し指を掲げながら点に向ければ部屋の明るさが三段階は上がった。聖魔法の唯一の使い手である東の公爵家の令嬢・エリーが、私たちに身体強化魔法をかけた。
青い女性が右手の平を顎下に添えてふうと吹きかければ氷漬けの扉にぴしりとひびが入った。絶対零度の氷魔法の使い手である北の公爵家の令嬢・ネヴァが、私たちの周りに冷気が来ないように整えた。
赤い女性は天井にぶら下がっていた映像射影装置を炎を出して燃やした。灼熱の炎魔法の使い手である南の公爵家の令嬢・スカーレットは、私たちが冷えないよう体温を調節し続けてくれた。
黄色い女性が手を掲げると空中にたくさんの武器が出現した。この世のすべての武器を所蔵すると言われる西の公爵家の令嬢・ウィロウが、惜しみもなくその在庫をさらけ出した。
私は――黒い女性であるところの私は、ウィロウから借りた一本の手斧を手にし、目を閉じる。集中、一点特化。氷漬けの扉に狙いを定め、その扉の一番脆い部分を見つける。手斧をぎゅうと握りしめたまま大きく振りかぶり、そうして扉に当たる瞬間力を込めた。膨れ上がる黒い魔力。凝縮する絶対的な力。これこそがこの国の中央に位置する王都に居を構える王家の第一王女・クリスタ――私が有する力。王家に千年に一人生まれると言われる国を粛清するための力。それこそが、闇。
扉は、粉々になった。次の扉の向こう側にも天井から映像射影装置がくっついていて、道化師が怯えたような顔をして震えていた。さて、デスゲーム、だったかしら。
「最初に殺すの、貴方に決めたわ」
私は、道化師に指をさしながらそう言った。
もうすでに、この建物内の構造は把握した。地面に触れていた時にそれはすでに済ませておいた。あとは正しい道を通って殴りたい相手の元へと向かうだけ、ああ、なんて簡単なんだろう。
「逃げるのは、許さないわ。貴方が始めた物語でしょう?」
きちんと殺してあげるから、覚悟していてね?
にんまりと五人がそれぞれ笑った。天使とも思える無慈悲な微笑みで。貼り付けたような冷淡な微笑みで。目だけが笑わず燃え上がった微笑みで。すべてを切り裂くような鋭利な微笑みで。そして、すべてを掌握し、すべてを弄び、すべてを見下し、すべてを壊しつくす、そんな微笑みで。
私たちは、強い。なのに歯向かうやつがいて本当にうっとうしい。素敵な物語が欲しいなら勝手にしてちょうだい。私たちを巻き込まないで。
でも、喧嘩を売るなら買ってあげる。ほら、優しいと言いなさい。
そうして私たち、五人の元悪役令嬢達は歩き出した。このデスゲームとやらを、ぶっ殺すために。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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余談
・これは悪役令嬢たちのそれぞれの物語が悪役令嬢側のハッピーエンドに終わった後のお話。
・それぞれの元婚約者は全員中央の王都の牢獄に入れられました。全員が魅了魔法が解けた後過去三年の記憶を無くしているため貴族たちの会議で今後どうするかが長い年月をかけて行われています。
・それぞれのヒロイン五名と真のヒロインは全員魅了魔法を使っていたとして裁判なしに処刑となりました。魅了魔法は禁忌魔法に属しており、別名隷属魔法とも呼ばれています。使った人間、教えた人間、記録した人間全員に死刑が言い渡されます。処刑方法は国で唯一の聖魔法の使い手による神の憑依によるもの。神は六名の身体と魂を抹消しました。あっけない最期でした。
・デスゲームの道化師はこの世界の住人ではなく、別の世界の住人であり、令嬢たちがいる部屋も別の世界です。デスゲームを娯楽として楽しむ人間が存在する世界で、召喚した人間をデスゲームに参加させ、その絶望の顔を見るのが楽しいのだそうです。
・なお、今回召喚した五人により会場は破壊、道化師も捕まった後死ぬぎりぎりまで攻撃され、閲覧者の一部もぼこぼこにしました。外に出れたことで聖魔法の使い手が逆召喚魔法を行使することで元の世界に戻りました。炎魔法の使い手のおかげで寒さは屁じゃないし、氷魔法の使い手のおかげで水も手に入れられ、剣魔法の使い手のおかげで武器も使い放題。闇魔法の使い手の影の中に潜ませておいた非常食という名のたくさんの美味しい焼き菓子もありました。
・会場には召喚者が魔法が使える場合を想定して魔力制御の魔法陣が組み込まれていたそうですが、規格外の五人のせいで召喚と同時にキャパオーバーでぶっこわれました。かわいそう。
楽しくなってきたな。




