知らない公衆電話
『先輩って幽霊とか信じますか?』
この言葉を聞いたのは、今日の昼ぐらいだ。その言葉は今も変わらないのだが、流石に怖いものは怖い。まぁ何が言いたいのかというと、いま目の前に着信音が鳴る公衆電話がある。
幽霊以前に、月明かりと街灯だけが頼りになるこの時間帯に急に公衆電話が鳴り出したら誰だってビビるだろう。ていうか、こんな所に公衆電話なんかあったっけ。
まぁいいや。このまま無視してもいいんだが、まだ童心が残っているようで、でろと申してくる。
まぁどうせ幽霊なんていないし、出てもいいだろう。
ズズーズズーズーズズズーズズズーズズーズーズズズーズ
鳴り響く砂嵐の音。ただ、それに違和感を覚える。
ズズーズズーズーズズズーズズズーズズーズーズズズーズズズーズズーズーズズズーズズズーズズーズーズズズーズ
「ズズーズズーズー、ズズ、ズーズ。ズズーズズーズー、ズズ、ズーズ」
周期的。その音を繰り返している。
「モールス信号ってやつかな?」
考えてもわからない、とりあえず家に帰って調べるか。
頭の中にこびりついたその音と共に、家へと向かう
風呂によって濡れた髪をタオルで乾かしながら、今も尚、頭の中にこびりついたあの音の意味を調べる。
「多分、『でた』だよな。でたってどういうことだ」
ピンポーン
「ただいまぁ、ドア開けて」
「ん、あぁ」
誰かと思えば彼女だったので、開けてあげようと、扉の方に向かおうとする。が、朝の記憶を思い出し、疑問を晴らす為に問いかける。
「鍵は?」
「え?」
「朝、鍵持って行っただろ?」
「あぁ、それ?忘れちゃって来て」
「それに、朝遅くなるって言ってなかったか?」
「それは⋯⋯思ったより早くに仕事が終わっただけで」
トゥルルルルル⋯⋯トゥルルルルル⋯⋯
その時、突然電話の音が鳴り響く。誰かと思い確認してみれば、目の前に居るはずの彼女からの電話だった。
「いちいち電話してくる意味ないでしょ?」
「え、なんのこと?いいから開けてよ」
「はぁ?」
その状況に困惑しながらも、とりあえず電話に出る。
『もしもし。今、家にいる?』
「いるけど、てか目の前にいるじゃん⋯⋯」
『なに、寝ぼけてんの?いないけど⋯⋯』
「だって⋯⋯」
恐る恐るドアスコープを覗く。その先の彼女は、スマホを持っていなかった。
「え、は、どういうこと?」
『なに、どうしたの?』
「いや、目の前にお前が、お前今、え?」
『落ち着いて、状況説明して?』
「ねぇ、早く開けてよ」
声を抑えて電話先の彼女と話す。
「今扉の向こうにお前がいんだよ。でも、今電話してるのもお前で」
『幽霊とか信じるタイプだっけ?』
「信じてないけど、今まさに起こってんだから信じるしかねぇだろ」
『わかったから。とりあえず、なんか心当たりは?』
心当たり⋯⋯まさかアレって?
「あるけど」
『どんなの?』
「公衆電話から着信がなって、それに出た」
『なるほど⋯⋯ちょっと待ってて』
「ねぇ、開けて」
ドンッドンッ
「ねぇ、早く開けてって」
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ
「ねぇ、開けて。開けてよ」
『とりあえず、ドアから離れて』
「わ、わかった」
言われた通りドアから離れ、リビングに行く。
「どうすればいいと思う?」
『捕まえるのよ』
「捕まえる?」
『そう。除霊はできないかもだけど、捕まえることくらいできるでしょ』
「お前そう云うの詳しかったっけ?」
『今はそんなことどうでもいいでしょ。とにかく言う通りにして』
「あ、あぁ」
いままで、幽霊系統が好きな素振りは見たことなかったが、今はそんなことどうでもいい。とにかくこの状況を打破できるのならなんでもいい。
ドンドン
『ぬいぐるみってある?』
「ぬいぐるみ?そんなもの、お前の部屋にいっぱいあるだろ」
『⋯⋯あぁ、そうね。じゃあそれの背中の部分を破ってちょうだい』
「いいのか?お前がいつも大切にしてたもんだろ?」
『いいから』
すぐさま寝室へ入る。
寝室がドアから遠いことと、扉を閉めたことで、扉を叩く音が聞こえなくなる。
周りが無音になったことで、心音と呼吸音だけが大きく聞こえる。
ゼェハァゼェハァ、ドッドッドッドっと、まるでいままで走っていたかのようだ。それを抑えるべく、深呼吸をし、気持ちを整える。
ベッドの上から人形を一つ拝借し、机の上にあった鋏で、背中を裂く。
「で、次にどうすればいいんだ?」
『その破いたところからこのスマホを中に入れて?』
「え?あぁ」
こう云うのって、爪や髪の毛ではないんだろうか。と云う疑問さえ出て来ず、俺は言われるがままにスマホをぬいぐるみの中に入れる。
「入れたぞ」
「じゃあそのまま玄関に持って行って」
「わかった」
またドアを叩く音が聞こえるかと思い、身構えながらドアを開ける。しかし、ドアを開けても、叩く音は聞こえなかった。
「いなくなった?」
「本当に?ちゃんと確認して」
「あぁ」
恐る恐る玄関に近づき、ドアスコープを除く。
ドアスコープ越しに映る景色には、誰の姿もなかった。
「よかっ「ねぇ!」うわっ」
「何?ドアの向こう側にいるの?だったら開けてよ、早く。なんで開けてくれないの?ねぇ」
ドンドン、ドンドン
ドアを叩く音が強くなる。
「開けて、開けてよ、ねぇ」
「人形を扉の前に置いたら、開けて」
「え、開けるの?」
「当たり前じゃない。大丈夫、成功するから」
言われた通り、人形を置き、扉を開ける。
あれ?今更だけど、ぬいぐるみに入ってるのに妙に声が鮮明に⋯⋯
「やっと開けてくれた」
「ねぇ?成功したァ」
「え?」
◆◇◆◇
「都内マンションで男女の変死体?」
「えぇ、目の前に見えるあのマンションがその事件現場です。現場には二十代男女の死体と、背中が裂かれスマホが入れられているぬいぐるみ。そして、寝室からそのぬいぐるみを裂くのに使ったであろう鋏が見つかったらしいです」
「なるほど。で、なんで変死体なんです?」
「外傷もなく心不全等でもないと」
「ぬいぐるみも相まって、奇妙ですね」
ジリリリリリリ
「ん、あぁ公衆電話からか。点検でもしてるんですかね?」
「さぁ⋯⋯あれ、このあたりって公衆電話ありましたっけ?」
「あったんじゃないんですか?」
「私の記憶ではなかったと思うんですが⋯⋯まぁいいです。現場に向かいましょうか」
「はい」
ジリリリリリリジリリリリリリジリリリリリリジリリリリリリ
ガチャ
『ズズーズズーズズズズーズズズーズズーズズズズーズズズーズズーズズズズーズズズーズズーズズズズーズ』




