26歳独身、魔法少女!
テレビの中で、ピンクの光がはじける。
「魔法少女☆ピピカ、変身!」
きらきらと回るリボン、舞い上がるフリル。
画面の前で、小さな女の子が目を輝かせる。
「お母さん、わたしもピピカちゃんみたいになれる?」
ほんのりピンクの光が、六畳一間の壁に映る。
「魔法少女☆ピピカ、変身!」
鏡の前の私は、自作のフリル衣装に身を包み、わずかに歪んだリボンを直す。
変身バンクは出ないし、魔法も使えない。
「……でもいい」
26歳、独身、森花音。
アルバイト転々。
履歴書の空白が人生の穴を示す。
貯金もほとんどない。
だけど、ここに立つ自分は、間違いなく魔法少女だ。
胸を張って、ゴミ袋を手に取り、外へ出る。
公園。
小さな子どもたちが砂場で遊び、犬を連れた父親がベンチに腰掛ける。
視線が突き刺さる。でも気にしない。
今日も町の平和を守るのは、私だ。
「必殺、紙くず消滅ビーム!」
紙くずを掲げてジャンプし、袋に入れる。
小さな成功に、思わず笑みが漏れる。
背後から声がした。
「えっと……その格好でゴミ拾いですか?」
振り向くと、警察官二人。
通報があったらしい。
「はい! パトロール中です!」
「……どこの所属ですか?」
「えっと、魔法少女所属です!」
警察官は眉を顰めて、何か言いたげに注意だけ残して去っていった。
今日の街も平和だ
空腹に耐えかね、コンビニへ。
「ポイントカードはお持ちですか?」
反射的に答える。
「魔法にポイントはありません!」
店員は凍り、後ろの客も笑いをこらえる。
それでも私は胸を張る。
「でも、町の人の笑顔を守ること。それが私の魔法のポイントです」
夕暮れの公園。
砂場の隅で、小さな女の子が泣いていた。
「どうしたの?」
女の子は顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃの顔を私に向ける。
「ままが、いない……」
膝をつき、目線を合わせる。
胸の奥がぎゅっとなる。
「大丈夫。魔法少女☆ピピカがいる」
小さな手を握り、母親を一緒に探す。
数分後、必死に名前を呼ぶ母親が見つかる。
女の子と母親が抱き合う瞬間、胸がじんと温かくなる。
女の子が振り返り、手を振る。
「ありがとう、ピピカちゃん!」
その言葉が、今日のすべてを肯定してくれるようだった。
夜。
六畳一間に戻り、ウィッグを外す。
鏡の中の私は、疲れた普通の大人。でも胸の奥には小さな誇りが残っている。
テレビでは、魔法少女☆ピピカが笑ってこう言う。
「魔法は、信じる心の中にあるんだよ!」
私は小さく頷き、メモ帳に書く。
【今日の魔法:迷子救出】
変身バンクはなくても、魔法は確かに存在した。
窓の外、夜空の端が薄くピンクに染まる。
明日も、またこの魔法を確かめに行こう。




