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公爵令嬢クラリスの矜持  作者: 福嶋莉佳
二章

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第6話

クラーラは、自室の窓辺に立っていた。


薄い陽が差し込み、白いカーテンが揺れる。


——王妃様のお茶会。


それは穏やかで、静かで、

どこか落ち着かない席だった。



王妃の私室で、茶会は行われた。

香は淡く、季節の花が低い位置に飾られている。


「クラーラ嬢。いつも孤児院へ足を運んでいるとか」


王妃は優雅に微笑んだ。


「ええ。ささやかなことですが……」


「アルヴィーン家の寄付も、評判ですわ。

 善意は、続けてこそ意味がございますものね」


クラーラは、胸が熱くなるのを感じながら頷いた。


そのとき。


「本日は、もう一人お呼びしておりますの」


王妃がさらりと言う。


「孤児院の視察に関心をお持ちでして」


扉が静かに開く。


「失礼いたします」


ルシアンだった。


クラーラは思わず息を呑んだ。


なぜ殿下が——。


王妃は目を細める。


「ちょうどよろしいところへ。

 クラーラ嬢が孤児院のことをお話ししてくださっていましたの」


ルシアンは一瞬戸惑いながらも席につく。


「そうなのですか」


侍女が静かにルシアンの前へ紅茶を置いた。

白手袋の指先が、音もなく引く。


王妃は、ゆるやかに視線を向ける。


「殿下も、王家として支援をお考えでしょう?」


「え……ああ、はい」


王妃は満足そうに頷く。


「では、クラーラ嬢。

 どのようなことをなさっているのか、殿下にお聞かせして差し上げて?」


「読み書きと、簡単な刺繍を……。

 子どもたちが将来困らぬようにと」


ルシアンの表情が、わずかに和らぐ。


「それは、素晴らしいことですね」


王妃は紅茶を傾けながら、

2人を見比べる。


「孤児院は、王家の名で支援されれば、より安定いたしますわね」


ルシアンがわずかに姿勢を正す。


「王家の……ですか」


「ええ。善意は形にしてこそ残りますもの」


クラーラの胸が高鳴る。


「わたくしどもの働きが、そのような形になるのであれば……光栄でございます」


王妃は微笑む。


「殿下。若い世代が、王家の理念を体現する。

 それは、とても尊いことですわ」


ルシアンは一瞬、言葉を探す。


「……考えてみます」


「ええ、もちろん。

 ご無理は申しませんわ。


……ただ、善意は早いほうが喜ばれますわよ」


ルシアンは、わずかに視線を落とした。


王妃はカップを置いた。


「そう言えば……殿下、最近は陪席が続いていると聞きましたわ」


ルシアンは顔を上げた。


「……学ばせていただいております」


「若いうちの負担は、将来の礎になりますもの」


王妃は柔らかく笑う。


「けれど、実務は思いのほか細やかでございますでしょう? 」


ルシアンはわずかに息を整える。


「……はい。想像よりも、ずっと」


クラーラは顔を上げた。


「お忙しいのですね……」


王妃は視線を滑らせる。


「殿下は真面目でいらっしゃいますから。  

すべてご自分で抱え込まれるのです。


……ですから、若い殿方ほど、

支えが必要な時もございますわ」


クラーラの指先が、膝の上でそっと重なる。



クラーラは窓から離れる。


殿下の視線が、わずかに伏せられた瞬間が、

胸の奥に残っている。


控えめなノックが響いた。


「お嬢様。宮内省より、お手紙でございます」


クラーラは振り返る。


差し出された封書は、深い青。 銀の紋章が押されている。


宮内省。


指先が、わずかに強張った。


封を切り、中身を取り出す。


『第二王子殿下主導にて、

王妃殿下の御意向を受け、

孤児院支援検討会を設けることとなりました。


つきましては、現場事情に明るいご令嬢として、

ご意見を賜りたく、

来週〇日、宮内省小会議室へお越し願えますでしょうか』


クラーラの息が、浅くなる。


殿下主導。


——学ばせていただいております。


——すべてご自分で抱え込まれるのです。


王妃の言葉が、静かに重なる。


「……わたくしに」


侍女がそっと問いかける。


「……ご返事は、いかがなさいますか」


クラーラは手紙を胸元へ寄せた。


「……明日中に、お返事を」


窓辺へ戻る。


白いカーテンが、また揺れた。


(お力になれることが、あるのなら)


陽光が、封書の紋章を淡く照らしていた。

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