どうやら婚約破棄される心配はなかったようです
はじめて小説を書きました。
一気に書き上げてみて思ったこと。
主人公のセシアさん、婚約者である王子のこと、そこまで好きじゃなかったのかもしれない。
私と婚約者のジークは最近うまくいっていない。
一緒にいてもなんだか微妙に目をそらされるし、避けられてもいる気がする。仮にも婚約者なのに。
もしかして好きな人できたのだろうか。それはピンク髪のあの子なのか。ジークも『真実の愛』とやらに目覚めたのだろうか。
そもそもこの婚約は私たちが生まれた頃にはもう決まっていた話だった。
私は公爵家の娘セシア・ローネス。ジークは王子。家のつりあい、家同士の関係、などさまざまな要素を鑑みた結果、私が一番、王子の婚約者にふさわしかった。
私はジークの婚約者で、ジークの婚約者は私で。これはわたしにとって当たり前の事実でそれが揺らぐかもしれないなんて考えたこともなかった。
ヒロインと名乗るピンク髪の可憐な令嬢が現れるまでは。
幼いときはそれなりに仲は良かった。
「セシア、遊ぼう!」
「セシア、またね!」
「セシア、今度一緒にでかけよう!」
ジークは私を気にかけてくれた。
でも、お互い王太子教育、王太子妃教育が始まってからは時間が作れなくなり、一緒にいることはほとんどなくなってしまっていた。
だから、気づいたときにはジークの側にはあのピンク髪の令嬢が当たり前のようにくっついていた。
「ジーク様は私と思い合っているのです!」
「……そうなのですか、ジーク様?」
「いや!断じてそのようなことはない!信じてくれ!彼女が勝手に!」
といいつつ、ジークは彼女を引き離そうとはしていない。
ふむ。状況はなんとなくわかった。これは最近この国で流行っている物語と似たような話だ。
近年この国では「婚約破棄モノ」と呼ばれる物語が流行っている。
あの物語のように私も婚約破棄されるのだろうか。
彼女は物語に影響を受けたのだろうか。物語ではよくても現実的に考えれば非常識だろう言動が目立つ。
普通に考えれば許可なく王子に触れているこの状況は許されるものではないのだが、彼女はそこんとこ、どう考えているのだろうか。
こんな子に私は立場を奪われるのか。
もういいや。
今まで王子の婚約者としてふさわしい振る舞いを心掛けてきたけれど、どうでもよくなってしまった。
とはいえこの状況をそのままにしておくのもよくないだろう。
さて、どう対処したものか。
どうせ、婚約破棄されるなら私も自分のやりたいようにしよう。
私は私のやり方でいかせてもらおう。彼女にはぜひ自主的に自らの行いを顧みてほしい。
「彼女の真似をして、いかに自分が非常識なことをしているか自覚してもらおう」作戦決行!
彼女はまたジークにひっついて離れない。
「ジーク様ぁ、私、あなたが好きなんです!もっとお話しませんか?」
おお、彼女、ジークの腕におっぱい押し付けてるよ…。けしからんな…胸デカいな…。
真似しようかと思ってはいたけどこれはちょっと…。
ええい、一度決めたことよ、もうどうとでもなれ!
「…ジーク様!実は私もジーク様をお慕いしておりました!」
と言ってジークの腕をつかんだ。よし!おっぱい…は抵抗あるから軽めに抱き着くくらいで。
「ぐっ!」
なんかジークがダメージくらってる。どうしたんだ?固まって動かなくなったぞ。
あ、そっか、今両腕とらえられてるから動けないよね。
「ちょ、ちょっとあなた!なにしてるの!」
あなたの真似ですよ。
「離れなさいよ!」
あなたもね。
「ねえ、聞いてるの!?」
聞こえてるからそんな大きい声出さないでほしい。
この子、淑女教育受けてこなかったのかな。
で、ジーク、いつまで固まってるんだ、そろそろ何かしらリアクションが欲しい。
おーい、生きてるかー、とは聞けないので
「あの、ジーク様、大丈夫ですか?」
と聞いてみた。
「全然、大丈夫じゃない。」
大丈夫じゃなかった模様。
心なしか顔が赤いし、目の焦点もあってない気がする。
ジーク、体調悪かったのか。それは悪いことをした。
私はジークの腕を解放した。
「ジーク様、お加減がよろしくないように見受けられます。少し休まれますか?」
「…」
返事もできないほど、体調が悪かったようだ。
彼女、この状況を見ても、まだジークを離さない。私をにらんでくる。
私をにらんでる場合じゃないですよ~。あなたの愛しのジークは体調が悪いようですよ~。
あなたのけしからんおっぱい押し付けてる場合じゃないんですよ~。
はあ。作戦うまくいってる気がしない。
また、別の日。
「ジーク様!手作りのお菓子焼いたんです!食べてくれませんか?」
お菓子!そうきたか。
しかし、毒見もさせず王子に食べさせようとするなんて毒殺を疑われてもしかたがないくらい非常識なことだ。ほらみろ、ジーク困ってるぞ。
「ジーク様、早く!」
「…私が毒見いたしましょう。」
「はあ、なんであなたが食べるのよ!」
毒見のためですよ。話聞いてた?
「あなたのために作ったんじゃないわよ!」
このままだとさすがにあなたが不敬すぎて見ていられなかったから助け船を出したつもりなんですけどね。むしろ、感謝してほしいくらい。
よし、このお菓子見た目は大丈夫だな…。
思い切って口に入れる。
…ほのかに感じる上品な甘み、口に広がるバターのうまみ…。
大変、美味である。
「1枚だけじゃまだ、わかりませんから」
「な!なにどさくさに紛れてもう1枚食べてるのよ!」
おいしかったからです。
「ちょっと、無視しないでよ!!」
「ジーク様、毒はなさそうです」
「あ、ああ。いただこう。」
「どうですか?おいしいですか?」
彼女、ものすごいうるうるした目でジークを見ている。
うるうるした目ってどうやるんだ…?とりあえず瞬き我慢して目を見開いてみるか。
目が乾燥してきた。つらい。いたい。
この状態でジークの方を見る。
「セシア!?どうしたんだい!?」
どうもこうもないです。
「目が乾燥して…」
「そっそうか、気をつけるんだよ」
「ええ。」
心配していただいて、恐縮ですが、自業自得なのでお構いなく。
「ねえっ!お菓子どうですか!?」
「え?ああ、おいしいよ」
「そ、それだけですか?」
「上品な甘みと口に広がるバターのうまみが大変美味でしたわ」
「あなたに聞いてないわよ!!!」
あっそう。
ということで彼女はお菓子を焼いてきたわけだが、これの真似もさすがに…。
ええい、どうとでもなれ!
私もお菓子作りに挑戦。
後日。
「ジーク様。私もお菓子を作ってみました」
「はあ、あなたが?私の真似?」
そうです。
「そうまでしてジーク様の気を引きたいの?みじめね」
あなたもね。
はじめてつくったから少々不安だけど、我が家の一流料理人と一緒に作ったから大丈夫なはずだ。
「毒見いたしますね。」
うん、おいしい。初めてにしては上出来だと思う。
「この通り、毒はありません。どうぞ、召し上がってください。」
「ありがとう、セシア!うれしいよ!君の手作りが食べられるなんて!」
いいからはよ食え。
「…」
無反応。
口に合わなかったか?
「…ジーク様?」
おーい、生きてるかー。しっかりしろ~。
「あの、ジーク様、生きてま、じゃなくて大丈夫ですか?」
「(幸せすぎて)死にそう。」
あらま。
毒なんて仕込んだかしら。
彼女が不敬罪で捕まるより先に私が不敬罪で捕まったらどうしよう。
「あなた!お菓子に何仕込んだのよ!」
心当たりないです。
「…大丈夫だ。すごくおいしい。天上の味がしたよ」
王子はこの短い間に臨死体験でもしてきたのか?
もう、二度とお菓子なんて作らないようにしよう。
そしてまた別のある日。
「あなた、私のこといじめなさいよ!」
ん?アナタ、ワタシノコトイジメナサイヨ……?何語?
「ねえ、聞いてるの!?」
ええ、聞こえていますとも。聞こえてはいるけど理解できなくてね。
「聞こえています。どういうことでしょうか。」
「ふん、あなたがいじめれば私はジーク様と私の距離が縮まるでしょう!」
どういう論理?てか、普段からジーク様にひっついてるから距離なんてないでしょうが。
「…ねえ。僕、ここにいていいの?聞いてていいの?」
まじそれな。
そして。あるパーティーの日。
大勢の人がいる。
この状況は、あれだ。
例の物語の「婚約破棄」のシーンと一緒だ。
もし婚約破棄されるなら今日だろう。
今日まで彼女の真似をしてきたが、全く手ごたえがなかった。
もはやこれまでか。
ジークと例の彼女が入ってきた。
けしからんおっぱい再び。そんなに押し付けて苦しくないのか。
このばからしい光景を見るのも今日で最後になりそうだ。
ああジーク様…。今までありがとうございました。
けしからんおっぱいさんとお幸せに…。
「ジーク様!さっさと婚約破棄しちゃって!!」
相手は王族だよ。敬語つけようね。
「婚約破棄はしない」
「「なぜ!?」」
彼女と声がかぶってしまった。
「それはそうだ。セシアにはなんの瑕疵もない。婚約破棄する理由がない。
……それに、僕は彼女のことが好きだからだ!」
初耳なんですけど?
「な!?どういうこと!?ジークは私のことが好きなはずでしょう!?」
え、そうなの?
「セシア!違うからね!僕が好きなのは君だから!」
そっか。
ん?だとしたら今までのそっけない態度はなんだったんだ。
「今まで、ごめん。君のことを意識すると緊張してうまく話せなかったんだ」
「そうだったんですね」
だったらそう言ってくれ。自暴自棄になって変なことしてしまったあの時間を取り戻したい。
「でも、うれしいよ!君も僕のことを好きでいてくれたんだね!」
ん?私そんなこと言ったっけ?
「そっ、その、僕の腕をとったり、お菓子を作ってきてくれたり、いろいろ…」
同じようなことをピンク髪の彼女もしてたけど、それについては完全スルーかな?
「ちょっと!私を無視しないで!ねえってば!!」
うん、そうなるよね。
「ごめんね、そういう訳だから君とは一緒になれない」
「そ、そんなあ」
ああ、彼女泣き出してしまった。
とりあえず王子の袖で鼻水ふくのはやめたほうがいいよ。
結局、そのパーティーで婚約破棄が行われることはなかった。
よかった。今まで王太子妃教育頑張ってきたことが無駄にならなくて。
どうやら婚約破棄される心配はなかったようです。
fin
けしからんおっぱい…。深夜テンションで書いてます。不健全です、申し訳ないです。