恋人
花火大会の次の日、補習も終わったので、僕たちはいつもの喫茶店に集合した。
「お前ら、卑怯やぞ!昨日、俺と山野さんを撒いたやろ!」中川は周りに聞こえる程大きな声で叫んだ。その筋の人がこっちを見る。僕たちは声を出さずに、すいませんと口を動かし会釈した。
「ふたりが俺らを無視して、どんどん進んでいくから逸れたんやん」
僕は作戦のことを隠した。
「そうやそうや。ほんでお前らどうなったんや?」
徳井が呟くように言った。
「俺、山野さんと付き合うことになった。告られたから。山野さんが俺のこと好きなんて思ってなかったな。即OKしたわ」
「まじかよ!作戦大成功!」
徳井は口を滑らせた。
「やっぱり撒いたのは、作戦やったんかよ。でお前らはダブルデートしたんか?」
「いや、俺と章ちゃんも逸れてしまって。」
「そうなんかよ!それでそれで?」
中川のテンションがウザい。
「俺は安本さんとふたりで花火観て帰ったわ」
「章ちゃんもか?」
僕はエスプレッソコーヒーを一口飲み、答えた。
「俺は、寺井さんと、付き合うことになった」
中川と徳井は驚いた。
「章ちゃんも告られたんか?」
「いや、俺から告った。」
中川と徳井は顔を見合わせ、きょとんとしている。
「章ちゃん寺井さんのこと、好きやったんや」
中川が意外そうな顔で言う。
「いや、正直好きとかそんなんじゃなかったけど、その時の雰囲気というか、ノリで」
僕は後ろめたい気持ちで小声になった。
「ノリかあ。章ちゃんらしいな。付き合ってから好きになることもあるからな」
徳井は理解がある。僕と同じことを思っている。
「章ちゃん、責任持って付き合えよ。寺井さんのこと大切にしてあげろよ」
中川はこういうことには妙に真面目だ。眉間にシワを寄せ、僕の目をじっと見つめている。
「うん、俺、寺井さんのこと幸せにする。中川も山野さんのこと、幸せにしてあげろよ」
僕と中川は、握手した。元野球部の中川の握力はとても強かった。
「俺も安本さんに告ったらよかったな」
徳井がしかめっ面で言う。
「徳井も安本さんに告れよ!3対3でデートしたらええやん!なあ、章ちゃん!」
「そやそや、徳井と安本さんもお似合いやぞ」
勝手なことを言う。僕と中川は余裕なテンションなので徳井がかわいそうだ。
「まあ、考えとくわ」
徳井はセブンスターの煙を目で追いながら呟いた。
「俺ら、勉強しなあかんな。受験勉強。一学期の成績は最悪やったし、模試の点数もガタ落ちやし。このままやったら、浪人確定やぞ」
中川が急に真面目なことを言いだした。彼女ができたことで、焦ったのだろうか?
丸い窓からは、雑多なネオンの光が差し込み、薄暗い電球が灯された店内を明るく照らす。
僕たちはネオンの光から、離脱しなければいけないことをわかりかけていた。