勇者召喚の、その後で。
とある国で魔王に姫が攫われた。
国王は国中から勇者を募ったが、誰も勇者と呼べる水準では無かった。
仕方なく行われる勇者召喚。
現れたのは三人の少年少女だった。
双剣士として育つ少年と、勇者としての頭角をメキメキ表していく少年、そして少女は格闘家として育っていった。
異世界から召喚された者は人を越えた力を手に出来る。
結果として少年らは、魔王を倒し、姫を奪還する事に成功した。
国中から祝福され、平和となったその国で開かれた盛大な祝賀会が終わったその夜、少年らは異質な気配を感じ、一体何事かと闇の中を駆けた。
それは祝賀会をしていた会場、壇上に居た。
水面のように波打つ壁から、バスケットボール程の赤い眼球が、カタツムリの触覚のように生えていた。
黒く不気味なそれは、誰が見ても一目で良くないものだと気付くほど禍々しく、少年らはそれぞれ武器を取り、戦った。
だが、それは眼球を刃に変え、勇者の剣をはじく。
少女の拳を軽くいなし、吹き飛ばす。
双剣士の少年の斬撃は全て防がれた。
魔王よりも強いそれは、一体何なのか全く分からないまま、疲弊していく少年達。
そこで双剣士の少年が、ふと、その赤い眼球に既視感を覚えた。
助けた姫と同じ瞳の色だったからだ。
勇者と格闘家の少女の戦闘を遮り、双剣士の少年が眼球へと駆け寄り、抱き締める。
攻撃してはだめだ! 姫様! 正気に戻って下さい!
そんな言葉に反応してか、気付けば双剣士の腕の中には、キョトンとした表情をした、銀髪で赤い瞳の美しい姫が居た。
全く何も覚えていないその様子に、きっと魔王の呪いだったのだろう、そう結論付けた少年らは、まずは姫を部屋まで送ろうとした。
勇者の少年を先頭に、格闘家の少女、次に双剣士の少年、そして何故か最後に姫。
本来なら有り得ない順番に違和感を覚えた双剣士の少年が、姫へと声を掛けようと振り返り、そして姫の両手に握られた、姫のか細さと似つかわしくない程の大きさの銀色の短剣に気付く。
だが、気づいた瞬間には、防ごうとした少年の腕を突き抜け、脇腹にまでその短剣が突き刺さっていた。
あまりの突然の事に呆然と、自分に突き刺さる短剣と姫を見る。
姫の目は、何も捉えておらず、まるで虫か何かを処分する者のような目をしていた。
何故か痛みは余り無く、しかし足の力が抜けて行く。
あぁ、毒か。
少年は思った。
その場に倒れ込んでしまった少年に、姫は馬乗りになって両手に持った短剣を刃を下にしたまま高く掲げる。
俺、これで死んじゃうのか。
そんな事を考えながら、少年は姫へと呟いた。
俺、本当は絵描きになりたかったんだ。
生まれ変わったら、なれると良いなあ。
次の瞬間、少年の心臓を、銀色の短剣が穿いた。
場面は変わり、一人の少年が、とある学園で魔法の授業を受けていた。
入学したばかりのその学園には様々な研究機関があり、その見学としてとある教室に足を運んでいたのだ。
そこでは、国で功績を遺した偉人や、伝説の人物などを現代に蘇らせるという怪しい研究をしていた。
この国では、王族や、偉人の肉体は水晶へ閉じ込め、大広間や宝物庫などに飾られている。
そして、少年の居た教室には、偉業を遺したが大罪を犯したという魔法使いの肉体と、胸に銀色の短剣が刺さった、自分と同じ歳くらいの黒髪の少年の肉体があった。
始めはそんな悪人蘇らせる気かよ止めとけよ、と思っていた少年が、隣の少年の肉体を見て、既視感を覚えた。
黒い髪、見覚えのある鎧、見覚えのある、顔。
途端に、少年を頭痛が襲った。
知りもしないはずの知識や記憶が、頭の中に溢れてくる。
そして、少年は気付いた。
あれは、俺だ、と。
様々な疑問が浮かぶ中、初めに思ったのはあれからどうなったのか、だった。
学業を疎かにしてしまうほど必死に調べた。
だが、どう調べても出てこない。
完全に歴史が消失していた。
そこに声を掛けてくる者がいた。
勇者なら、帰りましたよ。
驚いて顔を上げると、見覚えの無い少年が一人。
当時を知っているかのような物言いに、少年は問い掛けた。
お前は誰だ!
私ですか? 貴方の肉体の隣にあった魔法使いの生まれ変わりです。
な、なんだってー!!?
そんな夢を見たんだ。
ねえ、続きは?????