EP06.とあるフレイアの一日
フレイア・エテルファルシア:(15)
ノイン・メイヴィア:(15)
ロゼッタ・ホークリング:(15)
クレストール・リヒテンタルト:(44)
ノインとロゼッタ、二人の決闘から一週間が経った。
あれから、特に何か問題が起きることもなく、平穏な学院生活を送っていた。
今は午前最後の、タルト先生が教科担当の魔法戦闘基礎の授業中だ。
「フレイア・エテルファルシア! 今のところ、しっかりと聞いていたのか!?」
タルト先生の怒号が私目がけて飛んでくる。
日当たりがいい席に座っているせいで、少し欠伸をしてしまった。
それを見られていたのだろう。
しかし、タルト先生が担当している授業はいつもこうなのだ。
一字一句とはいかないがしっかりとタルト先生の話を聞いて、板書もしっかり写しているのに、私ばかりを指名してくるのだ。
「き、聞いてますって!」
「本当だろうな? ではここの説明をしてみたまえ」
「ええっと……」
「やはり聞いていなかったのではないか!?」
「ちょ!? 今、頭の中で整理してただけ! 答えますから!」
舌打ちを隠そうともしないタルト先生。
初日においたをしてしまったのを根に持っているのだろうが、いい加減私以外のクラスメイトも指名して欲しい。
タルト先生の授業で他のクラスメイトが答えたことはまだないのだから。
「魔法を扱う者が握る武器が大きく二種類に分けられる理由、それは……
一つは、単純に戦闘を行うための武器。魔法はあくまで、その武器を用いての戦闘補助に使用し、武器自体が一定の戦闘能力として捉えられるため汎用性に長けています。
二つ目は、魔法を使用するのを補助するための武器。杖や短杖などの武器がこれに当てはまりますが、これらは魔法使用者の魔法増幅器・補助装置としての役割が大きく使用者の力量に左右されるため扱いが難しいです。
三つ目は、この二つの武器特性にパートナーと二人で戦闘を行うことを鑑みて、これらをバランス良く配置すれば更なるパフォーマンスを発揮することができるからです」
「……チッ。そうだ、それに付け加えるとすれば、二つの武器特性を合わせたハイブリッドも存在するがそれは、高性能であり、コストパフォーマンスが非常に悪く、汎用性も低くなるからだ。……まるでどこかの誰かさんのようだな」
だから、他のクラスメイトも同じ授業を受けているのだから舌打ちはやめろ!
私の使う魔法≪祝福≫が増幅・補助の役割を果たし、実質的に私自身が増幅器となり装備した武器の能力を引き上げながら戦っていることを言いたいのだろう。
コストと汎用性を棚に上げたようだが、一緒に付いてくる高性能とトレードオフなのだからいいではないか。
「質問等がなければ次に進む。……フレイア・エテルファルシア、次のページを読みたまえ」
「……はい」
もう諦めた。
クラスメイトの皆、私、一年間タルト先生係頑張ることにしたから……!
「えー、魔法発動の鍵となる魔力は万物が有しており、生物はその保有量が比較的多い傾向にある。自然界に存在する魔力を少しずつではあるが自力で吸収できるためだ。そのため一度魔力を消費してしまうと回復するのにしばらくの時間を要する……」
参考書を読んでいるとチャイムが鳴った。
これで午前中の授業はすべて終了だ。
「授業はこれまでだ。実技授業もしばらくすれば始まる。事前準備を怠らないように」
タルト先生、それは皆に伝えるべき事です。私だけを見て言わないで下さい。
それだけ補足すると退室していった。
「フ、フレイア、お昼にしよう……!」
「本日はどちらで頂きましょうか?」
授業が終わって昼休みに入ったためノインとロゼッタが私の席に集まってきた。
「だから、お昼は教室でいいって! 毎日中庭で食べてたら大変だって!」
しゅんとするロゼッタだが、毎日のように席を買っていては予約システム自体が破綻し、他の学生たちの迷惑になってしまうので当然と言える。
いつも通り机を向かい合わせて大テーブルを作り、お弁当を並べる。
最近はお弁当を食べ終えるとロゼッタがデザートを用意してくれているので楽しみの一つになっている。
三人分のデザートを用意するぐらいならば、お金を使いすぎることもあるまい。
超美味しいけど、そんなことないよね?
「そう言えばロゼッタの私用装備って、さっきの授業でいうところのどれに該当するの?」
「私の魔法機銃ですか? あれは一応、戦闘特化武器になります。コスト的にはハイブリットにも劣りませんが……」
うん……、コストはそんなことだろうと思った。
しかし、戦闘特化というのは意外だった。
「一回だけ触らせてもらったことがあったけど、あんな重いのハイブリットだと思ってたよ。魔法の補助が無いと持ち上げるのも厳しいし」
「私は≪重力≫の魔法を得意としてます。ですので、≪重力≫を使ってその重量をカバーすることで圧倒的な攻撃能力を実現しているのです」
なるほど。ロゼッタの≪重力≫があるため重量を気にせずに性能を盛り込み、攻撃性能を底上げしているようだ。
その性能の盛り込みでコストも底上げされているようだが……。
「なるほどね。ノインのはわかりやすく補助武器だよね」
「う、うん……。ま、魔法さえ発動できれば、だ、誰も私を捉えられないから……」
確かにノインの魔法はすごかった。
≪影分身≫で分身を生み出したり、≪透明化≫で姿を消したりと、相手にすれば厄介極まりないだろう。
さらに短杖の魔法発動補助でそれらの魔法を瞬時に発動できるため、ノインの動きを見極めるのが非常に難しくなるのだ。
「そう言えばフレイア様の私用装備はまだ拝見したことがありませんわね?」
「あー、面倒だから基本、実技授業のある日にしか持ってこないんだよね。ノインの私用装備ぐらいすっきりしてたらいいんだけど……」
「だ、大丈夫だよ……! フ、フレイアの私用装備はここにある……!」
「……は?」
……いや、は?
ノインが取り出したのは正真正銘、私が使う私用装備だ。
待って欲しい、なんで私の私用装備をノインが持ち歩いているの?
頭が理解を拒む。
私の私用装備を前にしたノインとロゼッタは嬉しそうにきゃっきゃしているが、私はそれどころではない。
今すぐにノインを何とかしろと、頭の中で警笛が鳴り響く。
誰かに相談するか? それとも然るべき場所に突き出すか?
いや、今すぐに自分の手で何とかする……!
私は≪祝福≫の白い炎を腕に纏い、ノインの頭を鷲掴みにする。
「ふ、ふへいひゃ!? い、いひゃい! いひゃいよ!?」
「……ノイン、私は悲しいよ。ノインは高等部に入って最初の友達。魔法戦で一緒に戦うパートナーにもなった。そんなノインを自分の手で屠らないといけないなんて……!」
「まばばばばへっ! ぼめめめはいはからまっ! ぶふぁ……」
これで悪は滅びた……。
逝ってしまったノインを見て、ロゼッタもガクガクと震えている。
ロゼッタもこうならないように気をつけるように。
まったく、どうやって私の私用装備を持ち出したのだろうか。
自分で手に取り確認してみる。
盾裏に剣が収納できるように設計され、一体型になれるのが特徴の私用装備は普段私が使用しているものだ。
しかし、不思議なことにまったく傷がない、まるで新品だ。
結構酷使してボロボロだったはずなので何かが、おかしい。
「ひょ、ひょれはふへいひゃのひぇやれ見ひゅけて、わ、わひゃしが買っひゃやひゅ……」
生き返ったノインが真相を話した。
………………うん、自分のものと勘違いしたのは謝ろう。
しかし、ノイン、あなたを正式に家に招待したことは一度もない。
よく朝に勝手に私の家にお邪魔しているが呼んでもいないし、約束もしていないからね?
それに勝手に私の部屋を見るな。
「ノイン、私はね―――」
「ふ、ふへいひゃのぼひょぼひょだったから、しゃ、しゃぷらいふ、ぷ、ぷれへんとにっへ思っへ……」
……ノイン、今それを言うのは卑怯なのではないか?
気持ちは嬉しいし自業自得とは言え、これでは私が悪者ではないか。
とりあえずは、床に倒れたノインを抱き起こしてあげた。
「……嬉しかった……。フレイアに友達って言われたこと……本当に嬉しくて……」
「! ノイン……? ノイン!?」
ノイン、ちゃんと話せるじゃん。
そっちの話し方のほうがずっといいよ、だから、逝くなノイン!
「フレイア……最期だから言っておくね……」
「ダメ! 最期なんて……絶対に聞いてあげなっ―――」
私の肩に手が置かれた。
そちらに目を向けると首を横に振るロゼッタ。
もうほとんど見えていないのだろう、虚ろだが必死に私を見つけようとするノイン。
もういいから、今は休んで!
「フレイアの……ベッド……気持ちよかぶひぃっ!!!」
「ロゼッタ、今度の魔法戦一緒に頑張ろうね!」
「え、えっと、ノインさんは……?」
「ダレソレシラナイ」
そこの肉塊のことを言っているなら、気がついた時にはすでにそこに在ったのだ、私は何も知らない。
あっ、ちゃんと血は拭き取っておかないと。
「まったく、最近寝てる時に何か違和感を感じると思ったら……」
「ね、眠りが浅いようでしたら私が最高級ベッドをお贈りいたしましょうか?」
「ううん、大丈夫。もう解決したから!」
「そ、それなら良かったですわ……」
憑き物が落ちたように清々しい、まるで一年の始まりの日におろしたてのパンツを履いているような気分だ。
「ところでフレイア様の私用装備はどんな性能をしておられるのですか?」
先ほどから私用装備の話をしていたのだ、気になっていたのだろう。
こちらも教えてもらってばかりでは悪いので解説する。
「学院で使われている訓練用タイプとほとんど同じで、使える標準魔法も変わらない。けど剣は通常よりも少しだけ短いショートタイプで、盾も三角タイプになってるの」
「魔法補助もないのでしたら訓練用の方がいいようにも思えるのですが……?」
ロゼッタの疑問はもっともだ。
近接戦闘用の武器なのにリーチが短いのは不利だし、盾の方は、相手の魔法を標準魔法である≪防御≫で受ける分には同じだが、円盾で捌くのと三角盾で受け止めるでは大きく戦闘方法が変わってきてしまうからだ。
「あー、そこなんだけど、実は剣が投擲用の槍に変形するの。一回投げたら攻撃手段が無くなって、それを少しでも補うための三角タイプなの」
「まあ! 隠し技ってことですのね!」
目をキラキラさせながら身を乗り出すロゼッタ。
隠し技とかそういうのが好きなのは、思春期の男子だけではないのだ。
それだけで十分、選ぶに値する。
「そういうこと!」
「ぜひともみて見たいですわ!」
「実技授業ももうすぐ始まるみたいだしその時かなー」
「そうですわね! ……ノインさんも見たかったでしょうに」
「わ、私……し、死んでない……」
……仕留め損なったか。話し方も戻ってるし……。
ノインとロゼッタは感動の再開に抱き合っている。
そんなことをしていたらお昼休みが終わっていた。
ノインのせいで、今日は食べられなかったデザートを思いながら臨む午後の授業は、いつもよりも眠たくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日の晩御飯はなんだろうか? そう思いながら帰宅した。
家に入る前に周囲を確認するが、ストーカーにつけられてはいないようだ。
昼休みにあれだけ教育したのだ、次はあんなものでは済まされないのだから、当然だろう。
「お母さん、ただいまー」
家に入ると、とりあえずお母さんに帰宅したことを知らせる。
そのまま鞄を自室に置いて、洗面所で手洗いを済ませた。
そこで自分の私用装備のことを思い出し、再び自室に戻る。
確認してみたが使い込まれた跡がしっかりとあり、ちゃんと自分のものだとわかる。
「まったく、ノインはちゃんと家に来たいって言ってくれればいいのに……」
愚痴をこぼしながらダイニングへと向かう。
しかし、そこで違和感を覚える。
もう日が落ちて暗い時間だというのに家の明かりが灯っていないのだ。
「お母さん?」
お昼寝でもしてまだ起きていないのか?
そう思いながら部屋の明かりをつけた。
明るくなった室内を見回すが、どこにもお母さんの姿は見当たらない。
であれば、自分の部屋にいるのだろうか?
お母さんの部屋に行き、確かめるがやっぱりいない。
晩御飯の準備をしていて、買い忘れたものに気付いて買い物に出かけた……にしては晩御飯が作られている様子もなかった。
お母さんがどこに行ったのか、まったく見当がつかないままダイニングに戻った。
「……ん?」
ふと、テーブルに目を向けると、そこにはさっきは気づかなかった手紙が置かれていた。
それに少しだけ安堵し、手紙を確認した。
そこにはただ一言。
――――我らが女神よ。
いいね・評価とても励みになります!
読んでいただきありがとうございます!




