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EP31.翼の集いIV-追試

 バルメデアラ魔法学院よりしばらく歩いた場所にある、穏やかな丘陵地帯。その少しだけ高い場所に立つと周囲の景観がよく見え、吹く風が気持ちよく髪を撫でる。

 他の学院の生徒たちは一限目の授業を受けているであろう頃だが、私とノインはこの前の中間試験の追試として学院への奉仕活動――授業で使用する植物の採集をするため、ここメリアス丘陵に来ていた。


「奉仕活動って言うから楽な感じなのを想像してたけど……ここを探索するには結構な広さがあるんですけど……」


「し、仕方ないよ……できればやりたくないから仕事だから奉仕活動に回されたんだもん……」


 ノインはクレストール先生から渡されたメモ書きに目を通しながらそう言った。

 学院の先生たちは常に何かしら忙しそうにしている。

 担任教諭であれば自身が受け持ったクラスの管理はもちろん、専科教諭を兼任している先生もいる。

 それに加え、自身が得意とする分野の魔法研究を並行して行っている先生が大半だ。

 バルメデアラ魔法学院は王国中から魔法のエキスパートが集まってくる場所。魔法を学びに来るのは何も生徒たちだけではない。

 魔法研究者たちもまた、自信の知見を広げる、あるいは深めるために集まるのだ。

 それだけ熱心に研究をする者であれば、学生に教えを説くだけの基本的な魔法の知識は十分。研究費用の援助と引き換えに学院の教諭として働いているのだ。

 なので基本的に先生たちは金銭的余裕はあっても、圧倒的に時間が足りない。

 今回のような時間のかかる仕事は勘弁願いたいというわけだ。

 もう一度一週間かけて魔物を狩るよりは、一日で済む植物採集をする方がこちらとしてもありがたい。

 というか、元々は中間試験の追試なのだから、学院としてはかなりの譲歩である。

 文句を言いはしたが、それを撤回して、精一杯頑張らせてもらおう。


「それでメモには何が書いてあるの?」


「……ええと、スズ草……巻草(まきくさ)の種……トドン花の根……各々できるだけたくさん採集すること……って書いてある」


「たくさんって……それ一番困るやつじゃん……」


 私は腕を組んで(うな)った。

 採集した植物が想定の量に達してしなければ誰かがもう一度採集しに来なければならないし、想定以上に……余ってしまうほど採集してしまった場合、余りは不要と廃棄になってしまうかもしれない。

 そう考えるとどれぐらい採集すべきか悩ましい。


「ス、スズ草は乾燥させて保存……巻草の種は砕いて魔法薬に使う……トドン花の根は煎じて塗り薬にする……ど、どれもよく使われるから学院で栽培したりするのかも……」


「ほえ~」


 ノインはもじもじと指をつつき合わせながら言い、私はそれに対して感嘆の声を漏らした。

 植物に関する知識は花の名前を少し知っている程度だったので、ノインの解説を聞いて素直に感心した。


「じゃあ、採集し過ぎるってことはないとして、採り過ぎない程度に採集しようか。ノインが一緒でよかったよ……流石、委員長!」


「てへへ……」


 照れて頬をほんのりと染め、控えめに笑うノインは可愛らしい。

 頭を撫でてあげたくなる可愛いさがある。

 だが、たまに常識を外れた行動をして私を困らせてくれるので素直に褒められないのが(たま)(きず)だ。


 ノインの知識を頼りに採集場所の目星を付け、探索を開始して早2時間ほどが経った。

 ノインの予想は的中し、目星とした場所にはスズ草、巻草の群生地があり、それを私たちは黙々と採集した。

 魔物の邪魔が入ることもなく黙って採集した甲斐もあり、正午を前にスズ草、巻草の種は必要量を集め終わり、残すはトドン花の根だけとなった。

 そして切りがよかったため、今はお昼には少し早いのだが近くにあった川辺で軽食を口にしながら休憩をしているところだ。


「……すごい……落ち着く……」


 私はぼーっと川の流れを眺め、サンドイッチを食べながらそう呟いた。

 ここ最近は心休まる暇が、まったくと言っていいほどなかった。

 澄んだ川の水が日差しを反射しながらキラキラと流れ、風は草花を揺らし優雅な音楽にも劣らない音を届けてくれる。

 こうして雄大な自然に囲まれ、ゆったりとした時間を過ごすと抱えている問題すべてが嘘なんじゃないかと思ってしまう。


「フ、フレイア最近面倒続きだったから……少しでもゆっくりできるようにって先生なりの計らいかも……?」


「……う~ん、まさかあのクレストール先生が、ねえ……」


「せ、先生近頃フレイアにや、優しいから……!」


 隣に座りながら同じくサンドイッチを食べていたノインがそう息巻く。

 私、そんなに先生に優しくされていただろうか。


「フ、フレイアのことすごく心配している様子だったし……フレイアだけ名前で呼んでる……!」


「確かに心配はしてくれたみたいだけど……名前に関しては払う敬意が無いって気もするのがね……」


 先生は規則に厳しく、とても厳格な人だ。

 遅刻には煩いし、生徒たちには必ず平等の対応をする。

 そんな先生が私だけを特別に扱うなど考えられない。

 あるとすれば、それは先生に呆れられ、失望され、学院の生徒として見られていないということではないだろうか。

 心配してくれることだって身近な人が落ち込んでいたりすれば当然、心配をするわけでノインたちも私のことを心配してくれた。

 つい昨日、ロゼッタの様子がおかしかった時は私も彼女のことを心配したわけで。

 だから特別優しくされている実感は無い。


「まあ、最初よりはいい印象にはなったかな」


 それって……! と、なにやら勝手な想像をしている顔のノイン。

 ノインの考えているようなことは絶対に無いと断言しよう。

 私はノインの頭をくしゃくしゃにして憂さ晴らしをした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 少しゆっくりし過ぎたようだ。

 隣に座っているノインの頭が肩に寄りかかって来たことで、だいぶ時間が経ってしまったことに気付く。

 あまりに気持ちのいい日差しに、うたた寝をしてしまっていた。

 眠っているノインの肩を優しく揺らして起こす。


「……起きてノイン。そろそろ残りのトドンの花を探しに行かないと」


「う、うん……」


 まだ眠っていたい思いを我慢して立ち上がると今日一番に強い風が吹いた。

 私は腕を前にして顔をかばう。


「おや……? 怪しい人物がいると聞いて来てみたのだけど……君たちは学生さんかな?」


「! 誰っ!?」


 視界が利かない状態で不意に声をかけられ、反射的に聞き返す。

 すぐに腕を解き、声が聞こえた方向を見据え警戒すると、声のした方向……川の対岸から一人の女性が真っ直ぐ(・・・・)こちらに向かって歩いてくる。

 白い法衣(ローブ)を身に纏い、腰辺りまである長い金髪を風になびかせながら、彼女が迷いのない足取りで川の上を歩くのはおそらく魔法を使用しているからだろう。


「警戒するのもわかるのだけど質問をしているのは私だよ。君たちが着ているのは……バルメデアラ魔法学院の制服だ。君たちが本当にそこの生徒であれば今日この場にいることは不自然……だろう?」


 凛とした表情で彼女は言った。

 彼女が言っていることは正しく、私たちを不審に思うのも無理はない。

 追試としてこの奉仕活動を課せられでもしなければ、学院の生徒である私たちはここにはいないのだから。

 とりあえず彼女から何かしてくる様子はないので、信じてもらえるかはわからないが弁明をする。


「私はフレイア、こっちはノイン……あなたの言う通り私たちは学院の生徒です。今日ここには学院の奉仕活動として、授業で使用する植物を採集しに来たんです」


「奉仕活動……? 奉仕活動というなら授業を放ってまで行うのは違うのではないかい?」


「うっ……」


 鋭い指摘だ。知らない相手に試験の追試で来た、とは言いたくなかったので省いて説明したが、余計怪訝(けげん)な顔をさせてしまった。

 彼女が何者かはわからないが、誤解を解かぬままでは探索を続けさせてはくれないだろう。

 素直に追試として来たことを明かす。


「すみません……実は試験の追試としての奉仕活動なんです。先生から渡されたメモもあります」


 言うと、しっかり顔を確認できる距離まで来ていた金髪の女性にノインが先生のメモ書きを渡した。


「ふむふむ……それで君たちはスズ草と巻草を採集していたんだね」


「えっと……信じてくれるんですか?」


 自分で言ってなんだが、今の説明だけで信用できるとは到底思えない。

 私が嘘を言っている可能性だってあるし、メモ書きだって最低限のことしか書いていないのだ。

 あれほど疑念の目を向けてきた彼女だ、素直に信じてくれたとは思えない。


「自分で言ったんだろう……信じるよ? それにスズ草も巻草も取りつくされてはいなかったのだから、君たちは分別をわきまえているようだしね」


「! あ、ありがとうございます、信じてくれて!」


 採り過ぎないよう最初に決めたことがいい方向に転んだ。

 ほんの気まぐれ……なんとなく採りつくすのは可哀想だと思ったのがよかった。


「私はオリヴィア。ここにはたまに来るぐらいなのだが、さっきも言ったけど怪しい人物がいると聞いてね」


「私たち植物採集してただけで怪しいことは何も……ん? 私たちここを探索している間、誰にも出会ってませんけど?」


 オリヴィアと名乗った彼女は誰かに聞いて私たちの元までやって来たらしいが、探索中、私たちは誰かと出会うことはなかったし、見かけるようなこともなかった。

 見逃していたと言われればそこまでだが、疑問に思ってしまう。


「ふふっ……不思議だよね。私も最初は不思議に思ったもの」


 オリヴィアは口元に手を当て柔らかく笑ったが、彼女の言ったことの意味が分からず、私は困惑した。


「私の耳には微精霊の声が聞こえるんだ」


「微精霊の……声!?」


「正確には声ではないのだけれど……なんて言うんだろうね。聞こえた音の意味が理解できてしまうんだ」


 微精霊の声が聞こえるなんて話は聞いたことがない。

 ノインも驚いている様子なので私が知らないだけではないようだ。


「そ、それってそんな簡単に教えてもいいことなんですか?」


 私は恐る恐る聞いた。

 私自身他人には言えない秘密を抱える身であり、今しがた知り合った相手にその秘密を明かそうとは思わない。

 実はよくある技能の一つで、それを私が知らないだけでそう珍しいことではないのを期待して。


「教えはするけど信じてはもらえない……だから、いつしか話すことはなくなったんだけど。フレイア、君が聞いてきたから教えたんだ」


 オリヴィアは苦笑しながら言った。

 彼女の言う通り「微精霊の声が聞こえます」なんて言われて、素直に信じる者は少ないだろう。

 現にそれを聞かされた私だってまだ信じられないでいる。

 彼女にとってそれは教えていいかどうか、ではなく信じてもらえるかもらえないか、なのだ。


「……し、信じます。オリヴィアさんも私たちのこと信じてくましたから」


「フレイアは面白いね。だけど、そう簡単になんでも信じていたら私のような悪い人に騙されてしまうよ?」


「ええっ!? やっぱり嘘だったんですか!?」


「おや? フレイアは信じてくれたんじゃなかったのかい?」


 私をからかって悪戯(いたずら)っぽく笑うオリヴィア。

 凛々しい表情をしてみたり、子供のように笑ってみたり。掴みどころがないようで、相手の心を掴んで離さない不思議な魅力を持っている。

 そして、オリヴィアは自身の話を曖昧にしたまま話題を切り替えた。


「君たちを疑ってすまなかったね。お詫びと言ってはなんだが……探しているトドンの花の場所まで案内してあげるよ」


「……それ、信じていいんですか?」


 ついさっきいいようにからかわれたばかりなのだから、疑心暗鬼にもなる。

 元々がコミュ障なこともあり、先ほどから口を開かず、ノインもオリヴィアのことをまだ警戒している。


「私はどちらでも構わないよ。先に行くから付いてくるなら見失わない内にね?」


 そう言ってオリヴィアは先に行ってしまった。


「ねえ、ノインはどう思う?」


 一人では決めかねるので、私は先ほどから言葉を口にしていないノインに意見を求めた。


「わ、わからない……わからないのに付いて行ったらダメな気がする……」


「ノイン……?」


 ノインが小さな肩を震わせ、怯えている。

 強大な魔物相手にも臆さず戦ったノインがこんなにも……。


「わ、私が知らない人と話すのが苦手なだけかもしれないけど……オ、オリヴィアはそういうのじゃない……!」


 私ではわからないオリヴィアの「何か」をノインは感じているのだろうか。

 オリヴィアは決して悪い人には思えなかった。

 だからこそ感じる不安もある。

 だったら私は――


「ノインを信じるよ。オリヴィアは最初にノインが決めた目星とは反対の方向に行っちゃったしね」


「フレイア……! うん!」


 オリヴィアが本当に善意で案内しようとしてくれたなら、申し訳ないと思う。

 けれど、躊躇わせるようなことを言ったのもオリヴィアだ。

 自身の秘密を口にして、やっぱり信じてもらえるか不安になってしまい、濁してしまったのかもしれない。奇異の目に晒されることが怖いのはわかるつもりだ。

 どうしていいか、私には判断できなかった。

 だから、意見を求めたノインがダメだというのなら、私はノインを信じよう。

 そして、もし次にオリヴィアと会う機会があるならば、誠心誠意謝ればいい。

 そうして私とノインはオリヴィアとは反対の方向に歩みを進めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ノイン・メイヴィア……。とてもいい感性……それに眼もいい。良い友達だ……フレイア」


 フレイアたちがメリアス丘陵に来て一番最初に立っていた場所、彼女たちが進んで行った方向を眺めながらオリヴィアは一人呟いた。

 フレイアたちと別れてからオリヴィアは真っ直ぐにこの場所まで歩いてきた。

 オリヴィアはフレイアたちをトドンの花が咲く場所まで案内するつもりだった。

 けれど、フレイアたちが来ないことを知っていた(・・・・・)から、わざわざトドンの花が咲く場所に行くことはしなかった。


「今回は邪魔をされて信じてもらえなかったけれど、君はすぐに私を信じるようになるだろう」


 その表情は先ほど見せたどの表情とも違う、氷のように冷たいものだった。


「フレイア、君と一緒に世界が変わるところを早く見たいよ……だから、またすぐに私たちは出逢うだろう」


 フレイアのあずかり知らぬところ、運命の歯車はすでに動き出していた。

 一つの歯車が動き始めれば、かみ合った他の歯車も動き出す。

 それらはさらに他の歯車をも巻き込み、いずれは最後の歯車――フレイアまで到達することだろう。

 オリヴィアはそれも知っている。


「さあ、始めよう。世界の終幕を――――――」


 その言葉を誰かに伝えるよう、冷たく乾いた風が丘陵を吹き抜けていった。

明けましておめでとうございます。

今年も頑張って書いていこうと思います!

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