EP26.フィエレス's魔法研究報告書
フィエレス's魔法研究報告書No.XX
≪精霊降ろし≫について
記録者
バルメデアラ魔法研究室所属 フィエレス・エテルファルシア
記録日
XXXX/XX/XX
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
まず始めに、この研究は人の道から大きく外れたものであるため一部詳細を秘匿する。
この魔法は王国禁書庫内に保管されいている第一級禁書■■■■■に記されていたものである。
その名にある通り、この魔法は私たち人間には干渉できない別次元の存在――精霊を私たち人間が存在する次元まで呼び出し、事前に用意した依代に定着させるものである。
この魔法を考案した者たちは、精霊との意思疎通を図り、彼らから直接魔法に関する叡智を得ることを目的にしていたようである。
禁書には様々な手段を用いて、魔法を成功させようとした実験記録が残されていたが、最後まで魔法は成功しなかったとあった。
実験記録にある最も成功に近い段階に至った魔法理論を以下にまとめる。
I.別次元に存在する精霊を人間の次元に呼び出す必要がある。
II.呼び出した精霊を定着させる依代が必要である。
III.意思疎通を目的とするため祭器等の物品は依代として除外する。
IV.人間を依代とする。これに際し、依代は精霊との意識混同による拒絶反応を避ける必要があるため、意識を封印する。
V.死体には精霊は定着しない。
以上が彼らが導き出した魔法理論である。
これらに対し、私なりの考察を行っていく。
まずはIIIについて、儀式や占いといった魔法亜種の形でほんの少しだが、精霊と意思疎通が図れたとされる記録は存在するが、あまりに短時間かつ一方的であるため、魔法の目的を鑑みると除外するのは正しいと思われる。
Vについては彼らが既に行った実験の結果であるため最初から除外する。
理由としては実験記録に残されている。
死体を依代にした場合、魔法の発動から極短時間のみ精霊は反応を示したが、その後沈黙したとある。
Iについて、別次元に存在する精霊を呼び出すためには、次元を繋ぐ扉を用意するか、次元の境界を破壊する必要があると思われる。
考案者は前者で試みたと実験記録にあり、後者は却下されている。
これは前者の扉であれば、二点間を対象とし短時間のみ次元を超えることが可能であると考えたからだろう。
後者の次元の境界の破壊は、精霊が次元を行き来できるようにすることは可能だろうが、それ以上に未知の存在が世界に流入する可能性がある。異なる次元間で多くの異物が流れ込めば次元のバランスが崩れ、世界の崩壊に繋がるからだ。
次元のバランスを保つため、破壊した境界の修復も組み込む必要があるため却下されたのだろう。
実験記録は呼び出した精霊の暴走となっている。
ここまでで"精霊を暴走させず、意思疎通を図る"という考えで私の考えを述べる。
精霊とは膨大な量の魔力が一ヶ所に集中し、一つのエネルギー体となり、それに意識が芽生えた存在であるとされている。
であれば、別次元から精霊を呼び出すのではなく、こちらの次元の魔力で精霊を生み出せば暴走しないのではないかと仮説を立てる。
これが正しいのであれば、次元は異なれど同じ精霊同士の意思疎通はできる可能性があり、さらに考案者の考えの元、依代に定着できれば私たちとも意思疎通を図ることが可能だと考えられる。
IIについて、Iの考察途中に精霊についての説明を挟んだが、彼らはエネルギー体である。
別次元ではその存在を保つことができても、私たちの次元では魔力は長い間一ヶ所に留まれず、霧散する。
魔力の集合体である精霊をこの次元に留まらせるためにも、形を持った依代を用意するのは正しいと思われる。
IVについて、人間と精霊は次元を跨いだ存在であるため、思考、感覚、言語、文化等、そもそもの土台の違いで意思疎通を図れない可能性がある。
その精霊に人間の肉体を依代として与えることは、彼らに人間の感覚を与えることでもあり、私たち人間を知ってもらうことで問題点の解消に繋がる可能性があると思われる。
依代となる人間の意識を封印するのは過去の実験記録からだろう。
考案者は聖女と呼ばれる魔力適性の高い女性を依代に選び、特殊な魔法具を用いて対象の意識を封印したと記録にあるが、それでも実験記録には拒絶反応が起きたとある。
ここで再び私の考えを述べる。
膨大な魔力の塊である精霊を制御するためにも魔力適性の高い依代を用意するのは正しいと思われる。
前述にあることを含め、入念な準備をしたとあるが、それでも拒絶反応は起きた。
考えられる理由としては、特殊な魔法具が魔法に干渉した可能性と、それでも依代の意識と精霊の意識が混同または反発してしまったことが挙げられる。
これを解決するには魔法具を用いず、意識が存在しない者を依代として用意する必要がある。
魔法具の代わりに依代を薬品で薬漬けの状態にし精神を破壊しても意識が無いわけではなく、精霊は薬漬けになった肉体の影響を受けるため依代として使えない。
この条件を満たすことは非常に難しい。
であれば、前提条件を見直す。
意識が混同・反発しても精霊側が依代側を捻じ伏せ、上書きすることができればいいのだ。
それができるのは、生まれたばかりの赤子ではないだろうか、と私は思う。
世界に生み落とされたばかりの赤子は意識が薄弱で自我が無い。
自我とは生きていく中で育まれていくもの、世界の全てをありのままに受け入れることができる状態の赤子ならば依代として十分な素質を持つと考えられる。
以上が私の考察である。
ここで本来ならば最初に書き記すべきだった私がこの魔法を研究する理由を記す。
以前より私は、魔導の極地を求めていた。
魔法の全てを識りたいと思うのは、研究者としての純粋な興味からだ。
しかし、本当にそれが叶うのなら世界は一つ先の段階に進めるのではないかとも思う。
私は、その世界を見てみたくなった。
私は魔法だけでなく全てを識りたい、そんな探求心を私は抑えられなかった。
だから、私はこの魔法を元にした新しい魔法を創ることにした。
その新たなる魔法は≪精霊誕生≫。
その魔法理論を以下にまとめる。
I.膨大な量の魔力を一ヶ所に集中するため、周囲の魔力を集める性質を持った魔法陣を用いる。
II.集める魔力は無属性。他の属性の魔力では攻撃的な意識が芽生える可能性があるため。
III.集めた魔力が霧散するのを防ぐため、依代を用意する。
IV.依代は芽生えた精霊の意識が上書きできるよう、魔力適性の高い赤子。
以上が≪精霊誕生≫に必要な魔法理論であり、次に試験記録を残す。
まず最初に上記の魔法理論を踏まえた魔法陣を組んだ。
魔法陣の発動試験実験では、想定通りの動作を確認することができた。
試験段階では依代は用意していないため、集めた無属性魔力はすぐに霧散したが精霊が誕生するために必要と思われる量の魔力は観測できた。
次に依代の用意だが、私自身が依代となる赤子を産むことに決めた。
すでに私のこの身にはその新たな命が宿っている。
自分では特に実感がないのだが、私は優秀な魔法使いらしく、その私であれば魔力適性の高い赤子を産める可能性は高い。
片割れとなる遺伝子情報にはゼグス・ウインズ・バルメデアラのものを使用する。
バルメデアラ魔法学院内部には彼の生体情報が秘密裏に凍結保存されており、私であればそれにアクセスできる。
それに"ヴァン・エグセリオンの賢人"と呼ばれる彼のものであれば、不足などあるはずもない。
この子が産まれるまではしばらくの時間がある。
それまでは≪精霊誕生≫の成就を願い、その時が来るのをゆっくりと待つとする。
我が子の名は■■■■――グラス。
いや、考えはしたが依代となるためだけに産まれる我が子に名前など必要無い。
せいぜい器がいいところだろう。
全てが私の勝手だ。
それで生まれ、消えゆく我が子。
すまないと思っている。
だから私にできるのは、せめてもの祈りを捧げることだけ。
我が子に祝福があらんことを――。
物語の設定を詰め込んだ話を書くと頭の中がこんがらがって時間がかかる……。
EP2改稿バトルパートを書き直せば終わりますのでもう少しお待ちを……。




