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EP22.中間試験VIII-鍾乳洞の主

 西の森テルミナ。その外れにある鍾乳洞。

 危険な魔物が棲みついているという話もあり、普段はその内部に立ち入ることは禁止されている。

 それを警告するための廃れた看板が入り口に設置されていたが無視して進む。

 鍾乳洞の内部を進んで行くと地下に向かって緩やかに下っており、時たま地下水が湧いてできた水溜りが人の進入を拒む。

 人の手が加わった形跡がほとんどなく、採掘場等の洞窟に比べ壁の補修がされていないため、手を触れただけでボロボロと崩れてしまう岩壁もある。

 そのため内部の探索は慎重に行わなければならない。

 内部の探索は三人縦列で固まって行う。

 私が先頭、ロゼッタを真ん中、ミレイユを最後尾にして進む。

 もし危険な魔物と遭遇したとしても三人ならば、対処しやすいのが大きな理由。

 それに加え内部は思った以上に複雑な構造をしており、迷ってしまうと簡単には外に出ることができない。

 道の途中に少しずつ目印を置いて進むことで迷うのを防ぐのだ。

 探索効率だけを重視し、三人でバラバラに探索をしては他の二人が置いた目印を自分の置いた目印と勘違いしてしまう可能性がある。

 そうなっては目印は意味を失い、探索効率も悪くなるからだ。

 もっともこれはクレストール先生の押し売りであり、私たちが考えた探索方法ではない。

 王国軍に在籍していた時に、同じような洞窟の探索任務でもあったのだろうか。

 いや、クレストール先生ならばそんな経験がなくとも、最適解を導いてくれるはずだ。


 二時間ほど探索しただろうか。

 未だ鍾乳洞の最奥は見えてこない。

 しかし、ここまで魔物とは一切遭遇しておらず、順調と言っていい。

 このまま魔晶石を採取して帰れれば……と思った矢先、何かに(つまず)き、転びかけた。


「おっ……! ととっと……。二人とも気をつけて、ここに段差が……」


 私の後ろを付いて歩く二人に注意しようと、手に持った松明で足元を照らす。

 するとそこには異様な光景が広がっていた。


「こ、これって魔物の骨……?」


 照らされたのは、そこら中に散らばる大量の魔物の骨。

 大小様々で形も一定ではないことから、複数の魔物がここで死んだのだとわかる。


「不気味ですわね……」


「この数は尋常じゃないよ……!」


「この先にたぶん……何かがある……」


 異様な光景がこの先に危険な何かが存在していることを予感させると共に、どこか鍾乳洞の最奥が近いことも予感させる。

 ここまで私たちが魔物と遭遇しなかったのは、この先に待つ何かがここに棲む魔物たちをこんな風にしたからかもしれない。

 そう考えるとここから先は、より一層慎重に進まなければならない。


「……フレイア、他の道から探索して魔晶石を探す……という選択肢もありますわ」


 ロゼッタが真剣な面持ちで迂回の提案をしてきた。

 慎重を期するならそちらの選択肢を選んだ方がいいことは、十分に理解している。

 この先を進んでも最奥に続いているとも限らない。

 しかし、また逆も然り。迂回した道が最奥に続いているとも限らず、最悪の場合ここからしか最奥へと繋がっていない可能性だってあるのだ。

 であれば、自分の勘を信じたい。


「ロゼッタの言いたいことはわかる……。けど、今は少しでも急ぎたいの!」


「知ってましたわ。貴女の友人として一応、形式的に聞いただけですわ」


「ここで退いたらフレイアこそ病気かと思っちゃうよ!」


 フレイアって人は随分と信頼されているようですね。……はい、私ですね。

 知ってるって、病気って、そこまで直情的では…………ある気がする。

 ついカッとなって突っ走った結果が今だ。

 入学してからのそれをみんなにはずっと見られてきたのだから、そんなイメージも定着してしまうだろう。

 お母さんがもう少し理知的にと言っていた理由が今になってわかる。

 しかし、刻限のわからない今は時間が優先される。

 この判断は間違っていないはずだ。


「ここから先は身の安全を優先して動く。危険だと思ったらすぐに後退……最悪の場合は鍾乳洞の外まで退避する……わかった?」


「わりとまともな……いえ、それが普通ですわね」


「フレイアどこかで頭打った?」


 この子たち……真面目な顔で言っているのだから恐い。

 今自分たちがどういった状況なのかは十分理解しているつもりだ。

 その上で慎重な判断を迫られているのだから、まともな作戦行動も提案する。

 もし自分一人であれば闇雲に突っ込んでいるかもしれないと思うと、付いて来てくれた二人には感謝しかない。


「わかったならここからは、声抑えて進むよ」


 二人が頷いたのを確認すると、魔物の骨が散らばる道を進んで行く。

 これだけの魔物の死骸があるのに腐臭がまったくしないので、この魔物たちは随分と昔に死んだのかもしれない。

 楽観的な考えは捨てるべきかもしれないが、危険な存在はすでに去った後かもしれない。

 街の宿で苦しんでいるノインのためにもそうあって欲しいと願う。


 足場の悪い道をしばらく進んでいると地底湖のある大空洞に出た。

 周囲に魔物がいないことを確認し、地底湖を覗いた。

 水はかなりの透明度で泳いでいる魚の様子まで確認できるほどだ。


「この地底湖……底が別の場所と繋がっているみたいだね」


 ミレイユの言う通り地底湖は、大空洞を仕切る岩壁の向こうまで広がっている。

 テルミナの北には川が流れているらしいのだが、もしかしたらここがその源流となっているのかもしれない。

 そう思い水面を覗いていると、視界の端を揺らめく影を見つける。

 その影は少しずつ大きくなり、私たちがいる水面へと近づいてくる。


「あれは魚……? いえ、あれは……何ですの?」


「そんなこと気にしてる場合じゃない、逃げるよ!」


 首を傾げるロゼッタの手を引いて、大空洞の奥へと走る。

 後ろを振り返るとミレイユもちゃんと付いて来ているし、先ほどの影もまだその姿を確認できない。

 しかし、もう少しで大空洞を抜けられるという時、地面が大きく揺れた。

 何か大きなものが鍾乳洞に体当たりをしているのではないかと思うような大きな揺れが断続的に地面を揺らすため、走る足を止めることを強いられる。

 そして、脆い岩壁はその揺れによって崩れ、崩落を引き起こす。


「ミレイユ、ロゼッタ! 離れないように固まって!」


 私の近くに二人が集まったのを確認し、三角盾(カイトシールド)を頭上に掲げた。


「≪祝福≫よ……≪防御(プロテクト)≫!」


 展開されたバリアが天井から降り注ぐ岩盤から私たちを守る。

 そのままの状態で耐えているとすぐに揺れは止み、それに伴い崩落も止まった。

 何が起こったのかと周囲を見渡すと大空洞内は落ちてきた岩盤によって荒れ果て、大空洞の先に続く道は岩に塞がれ完全に通れない状態になっていた。


「これでは先に進めませんわ……」


「ロゼッタ……気を抜くのは早いかも……!」


 ミレイユの注視する先――地底湖に目を移すとぶくぶくと水泡が湧いている。

 それは次第に多くなり、やがて止まった。


「……! 来る!?」


 水面が盛り上がり影の正体がその姿を現す。

 石を切り出して作った柱のような太い前脚に続き、露わになったのは凶悪な牙を剥き出しにした頭。

 きっと私たちは、こいつの棲み処に踏み入ってしまったのだろう。

 せっかく、後退の作戦も事前に立てていたのにこれでは逃げることもできない。


「魚……ではないですわね」


「サメかな……? いや、違うかな」


「強いて言うなら亀に近い……。そう……鎧亀――アーマートータスってとこかな」


 巨大な水棲魔物の仮称をアーマートータスとし、現状では逃げ道がないので戦闘態勢を取る。

 それを見たアーマートータスは威嚇の咆哮を上げる。

 覚悟はしていたがやはり、こうなってしまったか……。


「みんな、やるよ!」


「ええ、今度からはフレイアの選択とは反対の選択を選ぶことにしましょう」


「うん、流石にフレイアの運悪すぎかも……」


 自分でもそう思うがこの場を乗り越えなければ、その今度とやらも来ないのだ。

 大きさはブリッツベアよりも一回り以上も大きく、鍾乳洞への立ち入りが禁止されるほどの魔物。

 その強さはエンシェント・エイプと同じランクAはくだらないだろう。

 しかし、エンシェント・エイプを相手にした時はブリッツベア二体の相手も同時にしなければならなかったため、対象をアーマートータス一体に絞れる今回の方が戦いやすいかもしれない。

 だが、実際の強さは未知数であるため逃げる方法も模索しつつ戦う。

 私たちがここで全滅したら誰もノインを助けることができなくなってしまうからだ。

 緊張の汗で握った剣を握り直すと共に気を引き締めた。

 そして、戦闘の幕が上がった――。

話を小分けにし過ぎて中間試験のナンバリングが結構な長さになってきた……。

そろそろ締めて新しい展開に行かなければ……。

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