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EP21.中間試験VII-魔力欠乏症

 窓から差し込む柔らかな日差しに目を覚ます。

 まだ醒めきらぬ頭を起こして、壁にかけられた時計を確認すると10時を過ぎていた。

 続いてベッドに目を移すと、未だに気持ちよさそうに眠っている三人の友人たち。

 ミレイユの頬にキスをするか悩んだがやめて、肩を揺するが起きる気配はない。


 ……………………うん、眠りすぎた。


 今日は七日ある前期中間試験期間の二日目であり、魔物を狩って得点を稼ぎ試験合格を目指さなくてはいけない。

 それなのにもう昼の方が近い時間、完全に出遅れてしまっていた。

 昨日は森の魔物――ブリッツベア二体とエンシェント・エイプを相手に激しい戦いを繰り広げ、ノインの活躍によってブリッツベアを二体倒すことができ、得点として10P獲得できた。

 残り30Pを今日を含め六日で稼ぐためには一日5Pの獲得を目指せばいいが、他の生徒たちも魔物を狩っていることに加え、相手は魔物、時の運が絡んでくる。

 そう考えると余裕を持って得点を獲得していった方がいいのは明らかだ。

 それなのに私たちは昨夜、一部暴力も飛び交い、涙を流すような白熱の口論を繰り広げた。

 その末に私たちは互いの想いを確かめ、信頼を深めることができたのだが、試験期間であることに変わりはない。

 早急にみんなを起こして、魔物狩りの準備を整えなければいけない。


「ミレイユ……起きないとキスするよ?」


 まずは隣でぐっすりと眠っているミレイユの耳元で愛を(ささや)く。

 すると目も開けぬまま上半身を飛び起こした。


「……おはよう……フレイア……」


「目を開けられないぐらいまだ眠いのにどうして飛び起きたの?」


「……キスは……特別な時にしたいよ……」


 まあ、なんておませさん!

 ミレイユがそんなことを思ってくれていたなんて、私嬉しい。

 ここは本人の意思を尊重して、ほっぺを優しくつねるだけにしてあげよう。


あひゃい(いたい)……ひゃに(なに)……?」


「目を覚まして、もう10時なの!」


「……? ……うぇ、10時!?」


 今が何時かを伝えると数瞬ぼーっとしていたが、すぐに状況を理解したのか可愛い目をぱちくりさせて驚愕の声を上げた。


「ノインとロゼッタもちゃっちゃと起きて! ……起きないとベッドから落とすよ!」


 反対側で眠っている二人にも声をかけて、肩を揺する。

 優しく揺するだけでは起きる気配がないのでさらに激しく揺する。


「起・き・な・さ・い!」


 ノインの肩を激しく揺すっているところで、ふと違和感に気付く。

 呼吸が浅く、大量の汗をかいているではないか。

 額に手を当て、体温を測ると熱も出ている。

 昨日の激しい戦闘の疲れが出て、体調を崩したのかもしれない。

 この汗の量では脱水症状も考えられる……早く応急処置をした方がいい!


「ミレイユ、水とタオル急いで! ロゼッタも早く起きろ!」


「そんな大声出してどうしたの?」


「まったくですわ……せっかく人が気持ちよく寝ているというのに……」


 着替え中のミレイユは首を傾げ、やっとのことでロゼッタも目を覚ましたが寝ぼけ(まなこ)で、状況を理解できていない。


「ノインがすごい汗で熱も出してるの! 早くなんとかしてあげないと!」


「ええっ!? わ、わかった……すぐに持って来るね!」


「本当にすごい汗ですわ! 急ぎお医者様に()もらわなければ……!」


 看病するための道具を探しに部屋を飛び出して行ったミレイユ。

 ロゼッタはノインの容体を自分でも確認しているようだ。

 とりあえずミレイユが戻るまではロゼッタと二人でノインの看病に当たろう。


「ロゼッタ、とりあえずノインをベッドの真ん中に移動させて寝返りで落ちないようにしよう。それと汗を拭くために寝間着も(はだ)けさせようか」


「それがいいでしょう。では私はこちら側から……」


 ロゼッタと一緒にゆっくりとノインを持ち上げて移動させる。

 両肩の怪我は完治しておらず、動かせばまだ痛むはずなのに気付かないほどに集中していた。

 次に寝間着を(はだ)けさせるようとしたが、寝間着が汗でぐっしょりと濡れていたので(はだ)けさせるのではなく、別の寝間着に着替えさせることにした。

 寝間着を脱がせ、その身体を優しくタオルで拭っていく。

 汗を拭き取り不快な感じが無くなったからか、寝間着を脱がせたことで楽になったからか、わからないが、ノインの呼吸が少し落ち着いたように思う。

 そこに急ぎ戻ってきたミレイユだが、何故かクレストール先生も一緒だ。


「水とか必要そうな物借りてきた! それと宿のロビーに先生がいたから連れてきた!」


「ミレイユ・カーテイラから事情は聞いて……」


「あーっ! あーっ! 先生はちょっと待って! 今寝間着脱がせててノイン裸だから!」


 とりあえずクレストール先生には部屋の外で待ってもらい、手早くノインの着替えを済ませる。

 濡らしたタオルを額に置き、最後に薄手の毛布を掛けてあげた。


「先生……ノインはどうですか……?」


 見られて困るものは隠したのでクレストール先生にノインの容体を確認してもらった。

 ただの風邪や発熱ならばそこまで心配はないのだが……。


「ふむ……。医者ではないので断定はできないが魔力欠乏の症状だな」


「魔力欠乏……ですか?」


「ああ、昨日の戦いで限界まで魔力を消費したのだろう。消費した分の魔力を求めて身体が活性化する。しかし、通常であればあまり問題はないのだが魔物相手にずっと動き回っていたのだ、疲労しきった身体には負担が大きい……」


 たしかに昨日の戦い、ノインには一番厳しい役回りを任せっきりにしてしまっていた。

 私たちもかなり魔力を消費したが、さらにノインはブリッツベアに止めを刺すために使用した魔法≪結晶槍(クリスタル・ランス)≫で多量の魔力を消費したのだろう。

 クレストール先生の言う通り、魔力欠乏の条件に十分当てはまる。


「えっと、それで死んだりとかはない……ですよね?」


「身体が弱かったり、何らかの持病などがあれば無いとは言い切れんな。しかし、この衰弱に、目を覚まさないとなれば……」


「い、いやいや先生! こんな状況で冗談は……」


「そんなユーモアが私にもあればよかったのだがな……」


 そのまま黙ってしまったクレストール先生。

 ミレイユもロゼッタも先ほどから黙ったままだ。

 そんな暗い雰囲気、このままではノインが死ぬと言いたいのか?

 流石にそれは冗談だ、そうでしょうノイン?


「……そ、そうだ! 薬とか……ミレイユが持ってきてくれた解熱剤とかは!?」


「無いよりマシだろうが根本からの解決にはならんだろうな。試験で生徒が負傷した時用の薬は手持ちがあるが、魔力をどうこうできるものではない」


「だったら医者の先生に診てもらって魔法薬とか処方してもらえば……!」


「一応、軍に籍を置いていた身だ、ある程度の医療知識は私にもある……。その見立てを違うと言えるほどの優秀な医者が王国郊外の街にいると思うか? そして、医者がいなければ魔法薬も出回っていないだろうな……」


 そんな医者だって、探せばいるかもしれない。

 魔法薬だって必要としてる人がいるなら売っているかもしれない。

 それを探して、見つけて……。

 ……きっとここにいるみんなが同じことを考えている。

 必死に最善を探し出そうとしているのだ。

 だが、それにはどうしても時間が必要で、刻限がいつかもわからない。

 バルメデアラ魔法学院がある王都に運ぼうにも、無理に連れて行こうとすれば闇雲にノインの体力を奪うことになる。

 それをわかっているから、みんな黙っているのだ。


「……教えてください。どうすればノインを助けられるのか……! 私ができること、全部やりますから!」


 私の言葉にクレストール先生は逡巡する。

 私の早くノインを助けたいという思いが、それをとても長く感じさせる。

 そして、ようやくクレストール先生が口を開いた。


「……魔力欠乏症の薬自体は存在している。魔力の吸収を助けることで身体への負担を減らし、疲労回復を促進させる薬だ。疲労回復については食事や栄養剤でなんとかできるはずだ……」


「魔力の吸収を助けるための何か……それを見つけてくればいいんですね!?」


「そういうことだ。それの見当もすでについている」


「だったら……!」


「我々が使っている武器にも使われている魔法触媒……既に武器用に加工されたものは使えないが、人体に取り込んでも問題が無いであろう純度の高い素材を、粉薬にでもして飲ませればあるいは……」


 手元の武器でよかったなら自分の私用(プライベート)装備をすぐにでも解体し、その核となっている魔法触媒を取り出し薬にしたのだが、やはりそう簡単にはいかない。

 クレストール先生の言う純度の高い魔法触媒となりえる素材……最後に言い淀んだということは、それを入手するには何かしらの危険が伴うのだろう。

 それでも、このまま静かに待っているだけは嫌なのだ。


「お願いします、クレストール先生。何もしないで後悔するなんて……嫌なんです!」


「……言って聞くような利口は持ち合わせていないんだったな」


「! はい!」


(けな)しているのに返事をしおって……テルミナの外れに鍾乳洞がある。危険な魔物が出るため立ち入り禁止とされているが、その最奥には地脈から発生する魔力が結晶化した魔晶石がある。それを採ってこい」


 テルミナの外れにある鍾乳洞……そこにノインを助けるための魔晶石がある。

 危険な魔物が出るとわかっていても行かねばならない。


「わかりました。先生はノインを看ていてあげてください。何かあったら先生しか対処できないだろうし……」


「そのつもりだ。だが、貴様も危険だと思ったら一度退くことだ。私に教師失格の烙印を押させるな」


「……一度、先生との約束を破った私です……信じてもらえるかわかりませんが約束します……!」


 あの時破ってしまった約束を今度こそ守る。

 クレストール先生に信じてもらえるほどの信頼が、今の私にはないだろうが、それでも約束をする。


「私も焼きが回ったものだな……貴様なら大丈夫と思い話したのだから」


 クレストール先生……ありがとうございます。

 私は絶対にノインを助けて約束も守る。


「ロゼッタ、ミレイユ……ノインを助けるために二人も力を貸して欲しい……付いて来てくれるかな?」


「ライバルがいなくなるのは歓迎ですが……こんな退場は許せません……!」


「ロゼッタ素直じゃないなー。私はもちろん力になるよ!」


「ありがとう……二人とも。……すぐに準備をして出よう!」


 お互いの顔を見回してしっかりと頷く。

 私たちが魔晶石を採ってくる間、辛いかもしれないが絶対に耐えろ。

 到底他人には言えない気持ちをぶつけ合った次の日だ、そう簡単に逝かせはしない。

 だから、待っててね、ノイン……!

EP01の内容を全体的に見直して改稿しました!

よければそちらも見て頂けると嬉しいです!

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次はEP02を改稿しつつ、続きを書いていきたいと思います!

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